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エトワールの賢者  作者: 沢村茜
第一章 妖精の国
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提案

 そのメモを差し出すが、やはり二人も読めないようだったので、原料を教える。


「イネスにザザは分かるが、エミールとはなんだ?」


「エミールは妖精の国にある大きな木です。実のところ、これを探している時にアルバンとジャコに捕まったんです」


 逆にリリーたちはイネスを知らないと言っていた。彼らがその植物を知っているなら好都合だ。


「妖精の国の妙薬がそのような名前だった気がします。ほとんど人間の国には入ってきませんが、その分高値で取引されるという」


「そういえば、そういう話を聞いたことがあるな。いくらお金を積もうとも決して譲ってくれない妙薬があると。なら、ティエリの治療薬の原料だったとしても納得はできるか」


 何かすごい話になってきた。あの木はそんなにすごいものだったんだ。


 勝手にティエリの治療薬を作れると言っても大丈夫だったんだろうか。


「そこへの行き方は分かるのか?」


「城の外にいる私の友達の妖精が、転移魔法を使えるといっていたので、近くまでは行けると思います」


「二日という条件があるとはいえ、念を入れておいた方がいいか。ニコラ、お前もついて来い」


 ニコラは頷いたが、訝し気に私の頭のてっぺんから足元までを見る。


「それは構いませんが、本当に彼女の言う薬が治療薬なのでしょうか。いくらエミールが妙薬だと噂されるものでも、人間の体に合うかどうか。この難解な文章を彼女が読み間違えている可能性もあります」


 幼いころから見てきた日本語を間違うわけはない。だが、絶対に大丈夫とは言い切れなかった。私もその効果の程は分からない。


「だが、このままだとエリスの体力が持たないだろう。このままだと遅かれ早かれエリスは死ぬことになる。幸い、イネスとザザの水には毒はない。エミールは断言ができないがドワーフや他の国の奴らも欲しがっているのを考えると、そんなに体に悪いものではないと思う。こいつのいう友達はローズ王女の関係者だろうから、エリスを傷付けるとは思えないし、彼女にも悪意があるようには見えない」


「ラウール様がそうおっしゃるのなら、従います」


 少なくともラウールは私を信頼してくれているんだろうか。嬉しいと思うと同時に、ニコラの気持ちも分かる。私が彼らの立場であれば、恐らくニコラの意見を取るだろう。


 少なくとも二人で行くよりは心強い。


 ニコラも剣を持っている。だが、素人目にはアルバンの持っている大剣がどうしても印象が強くなる。彼らはアルバンには負けないと思っているようだが、果たしてそうなのだろうか。


 私は不安を一つでも消したくなり、彼に問いかけた。


「同行してくれるのは感謝します。でも、本当に彼だけで大丈夫なのでしょうか。彼らは自分の腕に自信があるように見えました」


「心配には及ばない。ニコラとアルバンでは格が違う。ジャコが厄介なのは相手の呪文を封じることだ。だが、魔力を持たない人間には無意味だからな」


 ラウールはそう断言する。


 リリーもアルバンだけなら問題ないと言っていたのだ。


 要は相性の問題だろうか。


「まあ、俺も行くから安全面は保障されるだろう」


 とりあえずニコラさんが強いというのは分かったが、ラウールが行くことに特別な意味があるのだろうか。


 ラウールという男はニコラよりも線が細く、お世辞でも強そうだとは思えない。


 それ以前に私は彼らが何者かも知らないのだ。


「あなた達を連れていくかは私に判断はできません。友達の話を聞いてからで良いですか?」


「分かった」


 だが、私は本当に彼らを信用しても良いのだろうか。全てがスムーズに事が運び、出来すぎていると思えなくもない。


「あなた達はアルバンとジャコの仲間ではないですよね」


 私は確認の意志を込めて尋ねる。


 その言葉にニコラは私を睨み、ラウールは笑い出す。


「俺が回し者だったら、何の目的でこうしているんだ」


 ラウールの問いかけの返事に迷う。


「リリーを捕まえるため?」

「リリー?」


 その言葉にラウールは眉根を寄せた。

 まずい。今まであえてリリーの名前は伏せていたのだが、つい漏らしてしまった。


「少なくとも城の外にいる妖精を捕まえたいなら、お前をここにおいて捕まえに行くよ」


 私はその言葉にムッとする。


「彼女はそんなに弱くないと思いますよ。あなたなんかに捕まりません」


 不思議な魔法も使えるし、何より勇敢だ。

 だが、彼は私の言葉に怒る様子もない。要はそれだけ自分に自信があるのだ。

 ニコラは訝し気に私を睨んでいるけれど。


「どちらが強いかなんて興味がない。今はティエリの治療薬のほうが先決だ。その薬を作るにはどれくらいの時間がかかりそうだ?」


 ラウールに促され、作業工程をざっと確認する。


「丸一日です」


 そう断定したのは丸一日寝かせる作業があるためだ。


「二日ということは急いだ方がいいな。もう夜も更けるが仕方ないか。まずはその服だな」


「服?」


 私は自分の服を見る。


 妖精の国でもらった服をそのまま着ているが、何らおかしいことはない。町の中でもこうしたワンピースのようなものを着ている人もいた。


「俺がなぜおまえが妖精の国の人間だと分かったか教えてやろう。その素材はこの国ではほとんど使われない。そんな服を着て歩いていたら、妖精の国の関係者だと宣伝しているようなものだ」


「そうなの?」


 私は自分の服を見て、ラウールの服を見る。はっきりいって違いが良く分からない。


 ラウールは部屋を出て行き、さっきの女の子を連れて戻ってきた。


 彼女は私の姿を上から下まで見つめる。


「何でも良いの?」

「動きやすければ何でも言いよ。ただ、羽織るもののほうが都合が良いだろうな」


 彼女は部屋を出て行く。しばらく経って服を手に戻ってきた。彼女はその服を私に渡す。


「それを上から着ろ」


 その服を広げてみると、薄手のコートのコートのような仕様だ。着てみても素材のせいなのか暑さは感じない。腰に縛る部分があるので、今着ている服を隠すには良さそうだ。


「でも、お金を持っていません」


 あるにはあるが、さすがに服を買うためにつかったとは報告しにくい。


「知り合いのために作ったのだけど、サイズが合わなかったの。だから、あげるよ」


 その少女は明るい笑みを浮かべる。


「悪いな。今度何か礼をするよ。今日は帰る」

「気をつけてね。私とあなたの仲じゃない。お礼なんていらないわ」


 ラウールは頷くと、顎でしゃくる。ついてこいと言いたいのだろう。彼に続きニコラが出て行く。私は現状が呑み込めないながらも、少女に挨拶をして裏口から外に出る。もうすっかり日は落ちかけ、辺りは夕焼けに包まれていた。


 細い裏道を抜けると、大通りを何度か横切る。道行く人がこちらをちらちらと見ていたため、私は思わず身をひそめていた。


 そして、林の前でラウールは足を止める。


「私が先に行きます」


 ニコラが率先して中に入り、ラウールもその後に続く。

 私は戸惑いながらも彼らの後を追いかける。

 林の中には夕焼けが十分届かず、かなり暗い。


 その時、木の根に足を引っかけ転びそうになる。近くの木に手をつき、左足で踏ん張りなんとか転ばずに済んだ。


「大丈夫か?」

「大丈夫です」


 私は足元を見ながら、転ばないようにして歩く。


 目の前の二人は余程用心深く歩いているのか、足を引っ掻けることもなかった。


 やっとの思いで林を抜けると、もう辺りは闇に包まれている。だが、暗闇に浮き上がる土づくりの高い塀が視野に入る。


 外から見た街を覆う壁だ。


 ラウールはニコラに断ると、壁に近寄る。そして、扉の前で足を止めた。彼は鍵を取り出すと、錠を開ける。鈍い音が辺りに響いた後、その先には闇に包まれた空が広がっていた。どうやら、門を通らずに町の外に出られるらしい。


「門から出たほうが良くないですか?」

「門番にどこに行くのか問われたら面倒だからだ」


 私には彼の言葉がぴんと来ない。


 外に出ると王都の周りの城壁を沿うように歩き、町の入口まで歩く。都の中は人で溢れているが、この周辺は驚くほどひっそりとしている。


 リリーと待ち合わせをしたのは、そこからほど近い茂みの近くだ。だが、その辺りについてもリリーの姿はどこにもない。


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