エルフの女性
「まず聞きたいけど、あなたは転移魔法がどういうものかわかっている?」
「別々の土地を瞬時にすぐにつなぐもの。一度行った場所には再び行くことができる。ただ、町の中では使えないですよね。町の中は専用の転移魔法があって、それは知るものしか使えない」
「そう。この大陸自体が一つの固まりで、町は転移魔法で行けない特殊な場所。その特殊な場所が花の国周辺にもできていると考えるとわかりやすいんじゃないかしら」
「周辺というのは、花の国だけではなくて、その国土もということですか?」
「実際その範囲はもっと広いようだけど、そういうことね。アリアがルイーズの家を知っていても、彼女の家には直接行けないのとおなじことなの」
そう考えると納得はできる。そもそもかなりの時間歩いたと行っても、あれほどの距離であれば花の国が伝説と言われるようになったとは考えにくい。
「アリアとラウールは、あの場所にはもどれるれると思っていたのに」
「二人も戻れないと言っていたわ。場所もはっきりとわからない、と」
私は肩を落とす。そこまでものごとが単純ではないと気づいたからだ。
神鳥が来るときと帰るときの条件が違うと言っていたのを話すと、セリア様はうなずいていた。
「まあ、そういうことなのよ。ただ、何らかのヒントを感じ取ることはできる。二人の感じ取ったパーツを組み合わせてここだと断定したの。だから、行ったのも無意味ではなかったと思う」
「その大陸には入れないんですか?」
「私たちが今の段階で行けるのは、ここまでよ」
彼女は海の向かい側の陸地を指さした。
「正直なところ、海を越える必要があるのか、否かはわからない。ナベラのように特殊な結界が張られていて何らかの手段を講じることで、入れる可能性もある」
「そこに私も行ってみたい。私に何ができるかはわからないけど」
「わかったわ。きっと入るヒントはどこかにあるはずよ。あなたがヒントを握っている可能性も少なくないと思う。明日以降になるけど、行ってみましょうか」
「今日はダメなんですか?」
「少し気になることがあったのよ」
そうセリア様が口にした直後、セリア様とアリアが窓の外に視線を走らせた。
だが、セリア様の表情から険しさが消える。
「彼女は少なくとも美桜の敵じゃないわ」
「知り合いなの?」
「多分。でも、どうしてこんなところに」
「誰か来たんですか?」
「侵入者よ。美桜が囲まれたみたいに、警備が取り押さえたみたいね」
そうアリアが口にする。
かなり昔のことだが、そういうこともあった。
あのときはどうなることかと思ったけど、セリア様たちが根回ししてくれていなかったら今頃どうなっていたんだろう。
「このままだと牢送りか。私は警備に話をつけてくるわ」
「牢?」
「暴れられたとき対処しやすいように侵入者は一度そこに連れていくのよ」
立ち上がったセリア様を私は目で追う。
「ついてきても大丈夫よ。見た目には人間とほとんど変わらないし、あなたも面識があったほうがいいかもしれない」
私たちはセリア様について、家の外に出る。
そして、町の入口から少し離れた場所に、男のエルフとオーバンさんのように緑の肌をしたコボルトらしき男性もいる。
その奥には緑の髪が覗いている。
彼女は手足を縛られ、地面に座っていたのだ。
「私は別に怪しいものじゃなくて」
彼女は涙目でそう訴えるが、周りの妖精たちは彼女をにらんだままだ。
その彼女の緑の瞳が、私たちに移る。女性の目が煌めいた。
「セリア様、あの、私」
「離してあげて」
「ご友人ですか?」
妖精たちは驚きをあらわに彼女に巻いている縄を解こうとした。
「顔見知りよ」
彼女の縄が解かれる。
「何かあったらすぐに呼んでください」
妖精たちはそういうと、私たちの一歩後に下がった。
「まさかつかまるとは思わなかったので、すみません」
彼女は地面に座り込んだまま、頭を下げた。
「あなたはこの国のものではないから、警戒されてしまうのよ。それにタイミングが悪いわ。今、国の状態が芳しくなくて、不法侵入者は捕まえるように指示をしているの。よりにもよってこんなときに来なくても」
「エスポワールの人間ですね。あの人たちの野蛮さは」
「あなたの主観はおいておくけれど。目的はリリーなの?」
彼女は我に返ったように目を見張る。
「そうです。リリー様に合わせてください」
リリー様という呼び方に違和感があった。
今まで彼女を様づけするものにあったことがなかったからだと思う。
「大きな声で様つけはやめてね。事情を皆が知っているわけじゃない」
「すみません」
「聞いては見るけれど、あの子が嫌といえば会わせることはできない。それがあなたたちの国の王の望みだったのでしょう」
セリア様の言葉にも違和感があった。それは王という言葉だ。
この国、妖精の国は女王で王はいないと思う。
誰のことを言っているのだろう。
そもそも見た目妖精の彼女がなぜ、こうやってつかまるんだろう。
「チボー、お父様にマリオンが来ていると伝えてくれるかしら。彼女は私の家に連れていくわ」
「わかりました」
エルフ姿の男性はお城のほうにいくのか、速足出かけていく。
そこでほかの妖精たちはその場を離れていく。
セリア様は私のところに戻ってきた。
「家に先に戻って、地図を片づけておいてくれるかしら。奥に階段があるから、その辺りに置いておいて」
「わかりました」
私はセリア様に促され、一足早くセリア様の家に戻る。
アリアは机の上であくびをしていて、ちょうど目をあけたときに目が合う。
「なんかマリオンという人が来たみたい」
「マリオン?」
アリアは首をかしげていたが、少しして小さく声を漏らした。
私は地図を折り畳み、階段のところに持っていく。
アリアはそのあとをついてきていた。
「マリオンって知りあい?」
「セリアから名前を聞いたことがあるだけよ。なんか次から次に問題がおこるね」
そのとき、ドアが開く音がした。
アリアはそのまま階段を上のほうに上っていく。
私はどうしたらいいんだろう。
迷ったが、地図を階段の脇に置き、居間に戻ることにした。
彼女は私と目が合うと、深々と頭を下げた。
「初めまして。私はマリオンと言います。リリー様のご友人なんですね」
「美桜と言います」
私もつられて頭を下げた。
「あなたの国はどうなの? 噂では雨が降らなくて、作物があまり育たなかったと聞いたけれど」
その言葉に彼女の目が潤む。すごく喜怒哀楽の出やすい女性だ。
さっきまで笑っていたとは思えないほど、悲しい目でセリア様の手をつかんだ。
「そうなんですよ。国の貯蔵で食いつないでいますが、みんな国王への不満をため込んでいて、このままだと皆の不満が爆発してしまうんじゃないかと」
「だから、リリーを呼び戻そうとしたとしたのね」
その時、ドアがノックされる音がした。セリア様が彼女を出迎えに行く。
マリアンさんは肩を落とし、緑の髪に触れる。
そして、ドアが開き、フェリクス様とリリーが入ってきたのだ。フェリクス様はいつもどおり穏やかな笑みを浮かべていた。
一方のリリーはさっきの畑での出来事が幻ではないかと思うほど、暗い表情を崩さない。
彼女はマリオンさんに視線を送ると、頭を下げた。
「リリー様、大きくなられましたね」
あの女性は立ち上がると、目を輝かせリリーに駆け寄るが、リリーは難しい表情を崩さない。
「私たちは上の部屋にでも行ってましょうか。この場はお父様に任せて」
私はセリア様と一緒にその奥にある階段のところまで行く。
セリア様は地図を回収し、階段を上がっていく。
私はリリーのさっきの表情がどうしても心に引っ掛かる。
振り返り、リリーを見るが、彼女は唇をきゅっと結び、難しい表情を浮かべている。
いつも笑顔の彼女がこんなにずっと難しい顔をしているのは見たことがなかった。




