ユウの書 第1話 畳がえし ― 6 ―
僕たちは畳かえしを降りて、高埜さんが待っていた場所に集まっていた。
「面白かったですわぁーっ! あんなにすごい物でしたのね! かいっかんでしたわっ!」
「しっかぁーりと、撮っておいたわよ♪ アンジェさん、すごい表情をしていたわ」
「あ、ありゃアカンで……。予想以上や……」
「あら、ギブアップですの? だらしがありませんわね」
「普通のジェットコースターはえぇけど。あんな上からも下からも横からも訳分からなくなるようになるのは、ジェットコースターとちゃうんやないかと思うわ。ありゃ別次元や」
「新感覚で面白かったなー」
「そうね。でも吏子ちゃんは次は乗れるかしら?」
吏子ちゃんはトイレを探しに行っている。外れたブラをつけ直しに……。
「いやー、眼福眼福。撮影隊もお疲れ様」
酒呑の前には見知らぬ男性4人がビデオカメラを持って、撮った映像の確認などして、おぉーっと声を上げていた。
本当になんなんだこの人らって……。
「もう1回乗るの? ワタシはもう1回乗ってもいいのっ!」
杏子ちゃんもこれが気に入ったようだな。
「んー、でもさ。この列を見るとちょっと引ける」
普通列の待ち時間が1時間待ちなんて言うところに来ている。
あの人たちの努力をむげにして、何度もすぐに優先列に並ぶ気持ちにはなれないな。
「せっかくの全アトラクションフリーパスだからな。こればかりじゃなくて、他のアトラクションも楽しもうぜ」
僕と一緒で優先列に背徳感があった酒呑も、僕と同じ意見を言ってくれる。
「そうしましょう。ワタクシたちは次に行くのはオバケやし……」
「ストレートボンバーにでもいかんかっ!」
アンジェお姉さんがすかさず提案を入れてきた。
ストレートボンバーか。これも世界記録を塗り替えた瞬間最高速度415キロと言う快挙を叩きだしたモンスターマシンだ。
アレは結構年齢制限厳しいんだよなー。
10歳以上で身長130センチメートル以上でいけるけれど、年齢制限で僕ら全員引っ掛かっている。一応今年で10歳にはなるのだけど、まだ誰も誕生日迎えてないからな。
このマシーンは制限が掛かるから無理だねと、ここへやってくる間に話しあって諦めていたものだ。
「アタシたちが制限に引っ掛かって乗れないわよ」
「え? マジかぁ……。それなら」
「お~い、木花くぅ~んっ!」
ん? なんか聞き覚えある声が……。僕の名前を呼んだ方へ振りかえった。
「あぁっ!? 直美先生っ!?」
「海斗お兄さんもいるじゃないっ!」
海斗兄ちゃんと直美先生が並んでこちらにやってきた。
「どうしてユウくんらが居るんだと考えたが、きっと海流のコンサートの応援に来たんだろう」
「まぁそうなんだけどね。海斗兄ちゃんもそうなんだろうけど……。なんで直美先生まで居るのさ?」
「小林先生にぃ、デ・ェ・ト、に誘われちゃってねぇ~♪ あはっ」
そう言ってチケットを出して見せて来た。アレは普通の前売りチケットだな。
「デ、デートっ!?」
「なんだよ海斗兄ちゃん。大神で手いっぱいとか言っておいてちゃんと付き合ってるじゃん」
そして予定が入ってると言っていたが、直美先生とデートに誘っている約束だったのか。
「い、いやっ、違うっ! そう言う関係じゃなくて……」
「蒼井さんがコンサートするってぇ小林先生が言うから~、わたしも応援したくてきたんだぁ」
あー、なんだ。意味的には付き合ってる感じじゃないっぽいなこりゃ。
よくお店に来る直美先生と海流お姉ちゃんは仲が良い。
「でも~、2人っきりの男女で遊園地だなんてぇ、カップルに見られちゃうね~」
「そ、そうですかね? アハハ、ハハッ……」
ん? なんだこりゃ? 脈あるんじゃないかこれ?
「っと、それより俺が気になっていた事なんだけど……。なんで酒呑さんたちが一緒にいるんだ? 知り合い同士だったのか?」
そう言ってアンジェお姉さんと酒呑さんを指差して言う。
「え? 海斗兄ちゃん。この人たちと知り合いだったの?」
「まぁな。オレたちとは色々と繋がりがあるぜ。まぁ木花 茂の縁繋がりってもんだな」
あー、そう言えばアンジェお姉さんは、ルビーと黄金の鎧の契約書を書く時に、父さんと知り合いだった事がわかったし。
「ユウくんらと酒呑たちがここに居る理由は海流だと解る。だけどそれがどうして一緒になっているかが俺にはわからないんだ。そこに並んでいる時に、まさか君たちが仲良く降りてるのを見た時は、なんの冗談かと思ってワザワザ抜けてきてしまったぞ」
海斗兄ちゃんがそう言うので、事の発端をくじ引きでの縁から簡単ではあるが話した。
その間にも吏子ちゃんも戻って来て、担任の直美先生が居る事に驚いていた。
「なんだそりゃ? 出来すぎだろこれ……」
海斗兄ちゃんが苦笑している。
僕だってそうだ。なんでこんな偶然が合わさっているのかが、僕も不思議でしょうがない。
「これは木花家のすごい能力ではありませんか?」
話しを聴いていたシアがそう言う。
僕もそう思いたい。なんじゃこりゃって……。
「まぁ師匠はものすごい人脈を築いている人だけどさ……。だからってユウくんもそれに便乗しなくてもいいだろ。しかもよりによってコイツラなんかと組むなよな……」
「コイツラとはなんやぁ?」
「また濃すぎるヤツラと関わり合いになってしまって、ユウくんらが大丈夫かってことだ。オマエらもユウくんたちの為に自嘲しろよな。危ない目に遭わせるなよ」
「んなもん、わかっとるって。でもアタイは祐定くんが好きやから離れんで」
「ははっ、全く大変な関係になったなこりゃ……」
海斗兄ちゃんとアンジェお姉さんたちのやり取りを見ていると、結構慣れ親しんだ感じがあるな。
「あのぉ~……」
その時、おずおずとではあるが高埜さんが話に割って入ってきた。
「お話もいいですが、お時間が無くなりますよ」
「あ、それもそうか」
「いっぱい遊んで置かなきゃ、このチケットが勿体無いのっ!」
「じゃぁ次は、オバケ屋敷に行きましょうよ」
「えぇ、そうしましょうっ! すごく楽しみにしていましたのっ!」
「っと、逃がさねーぜアンジェっ!」
「なっ!? は、はなせやっ! 酒呑っ!」
襟首掴まれて、必死に引き離そうとジタバタしている。
「どうしたのよ?」
「コイツはオバケが苦手なヤツでねぇ」
「あんなところで40分間もつぶすよか、他のアトラクションに行っとった方が3回もアトラクションを楽しめるでっ! なっ! 違うところに行こうやないか!」
必死に誤魔化そうとするアンジェお姉さん。これはもうシアにとって絶好の機会だよな……。
ガシッ!
「なっ!? シアっ! なんやその顔はっ! アタイの腕を放せやっ!」
「さぁ、行きましょうか。世界一怖いオバケ屋敷へ」
ズリズリズリッ……。
「こんにゃろーぅ! やめんかぁーっ! は、はなせぇーっ!」
「ほーっほほほほほほっ!」
シアってあんな笑い方するんだなー。
僕たちも苦笑しながら、その後をついて行く事にした。




