ユウの書 第1話 畳がえし ― 3 ―
「なぁ、それより並んで置こうぜ。そろそろ入場だぞ」
「え? あ、もうそないな時間か? まぁ席取りは酒呑のお陰でいいポジションが予約済みで見れんやし、慌てなくてもえぇんやけど……」
「2人は前売り券を?」
「せやで。蒼井 海流ファンクラブで売ってたもんを買ったんよ」
「え? そんなの売られていたのか? って言うか、アンジェお姉さんもファンクラブの会員だったんだ」
「当たり前やっ! アタイは蒼井 海流ファンクラブの名誉会員100番やっ! そしてこちらにおるのがっ!」
「会員番号1番だぜ」
「1番っ!? それ、本当?」
「本当だぜ。だったら証拠を見てみるか? ちゃんと会員カードを持ってきてるぜ」
そう言って酒呑さんがカードフォルダーをカバンから取り出すと、そのプラチナに光っている蒼井 海流ファンクラブの会員カードを出して見せた。
そのついでにアンジェお姉さんも自分の会員カードを取り出して見せてくれた。これはゴールドになってるのかぁ。101番以上の番号でキリ番以外は普通の青色なんだよなぁ。
「まさか会員番号1番の人と会えるなんて……」
「それもアンジェお姉ちゃんが100番なの。すごいの!」
そう言って杏子ちゃんが自分のカバンからゴールドのカードを出して見せた。
「ワタシは7番なのっ!」
「おぉっ!? マジかいなっ! ラッキー番号やないのっ!」
「えっへんなのっ!」
杏子ちゃんも負けじとえばる。
僕たちも実はファンクラブに入っているのだ。
海流お姉ちゃんがファンクラブが設立される情報を教えてくれたので、すぐに会員になった。
その時、偶然にも僕と李奈の間に杏子ちゃんが7番に入ったのだ。
「なら、門川 杏子って子だな。1桁ナンバーには、海流の身近な人たちが入っているからな。ご両親に義理の兄の海斗、それに6番はその子の妹で門川 李奈って子だったな。顔はわかってないんだけど……。この中にいるよな?」
「アタシです。番号も名前がわかるって……」
「君か。オレはファンクラブの設立者で管理をしているからな。全会員の情報を持っているんだぜ。ちゃんと個人情報は機密にして管理しているから安心してくれよ」
「そうなのですね。安心しました。なんか個人情報流出しちゃってるのかと思ったわ」
「まぁ、コイツならすぐに……」
「それよりもだ。オレたちも入らないか? もうとっくに入場が始まっちまってるぜ」
そう言えば開園が始まったようだ。入場口前の列が動いている。
どうやら僕たちは入場前にチケットを手に入れる事はできなかったようだ。
「えぇやないの。アタイらが使うのは優先チケットやし、慌てなくてもすぐに乗り物には乗れるんやし」
「そうなんだけどよ。なんか一生懸命並んでるところを金に物を言わせて先に乗るのって、オレ的には気に入らないんだ。出来る事ならそんな並んでいないところから並びたいぜ」
「金に物を言わせる……。ワタシも気に食わないのっ!」
「あっ、そいやぁここに並んで待ってるって事は、前売り券もってなかったん?」
「そうだよ。海流お姉ちゃんにこっそり会って驚かそうと思って、前売り券貰ってなかったから……」
「ファンクラブのサイトに前売り券販売の情報もあったんやけどね」
「まぁ僕らって1桁ナンバーだけど、サイトを良く見たりしてるような熱心なファンまでじゃなくって……」
「1桁ナンバーに嫉妬する熱いファンからしたら激怒されそうな事を言うな。けどまぁ身内な人だからこその特権でもあるからな。なら、これを使って入ったらどうだ?」
そう言って酒呑が出したチケットを見た。
「え? えーっと……。前売り券じゃないですかっ!」
「わぁ! これ全アトラクションを優先して乗れる優先券チケット付きだよぉ。すごーいっ!」
「お金に物を言わせるのーっ!」
「今回は急なコンサートの予定だった為に、ファンクラブに入ってる連中にも予定が入っていたりとしてさ。だから前売り券を事前に買って置いたんだけど、かなり余っちまったんだぜ」
「ありがとうございますっ! なぁ、杏子ちゃん。金に物を言わせると言うけれど、これだと沢山遊べるよ。無下にするのは勿体ないと思うけれど」
「うっ……。こ、今回は特別なご厚意に感謝するのっ!」
杏子ちゃんもこのチケットの価値に心折れた様だ。
「ホントラッキーッ! アタシもお金の力バンザーイっ!」
「あの……おいくらですか?」
「あっ、そ、そっか。普通は買わなきゃダメだよな。タダでもらえたなんて思った僕らは浅はかだった……」
「やっぱりお金持ちに屈するワタシたちなの……」
「でしたらワタクシが……」
「別に金取る気はなかったんだけどな」
「え? 本当ですか?」
「でもやっぱ悪いわよ。これって入場料に全アトラクション乗り放題に優先チケットでしょ。いくらするのよこれ?」
「1万円ぽっきりやで」
「たかっ!? それを6人分貰うなんて……。やはり遠慮して置いた方がいいと思うんだけど」
「でしたらワタ……」
「それじゃオレの条件を満たしてくれよ」
そう言って酒呑はカバンからサイン色紙とカメラを出した。
「あの羽澄 吏子のサインと握手と生写真を撮らせて下さいっ! それだけの価値があるからさっ!」
「あ、私をご存知ですか?」
「そりゃグラビアモデルでは有名だからな。9歳にしてFカップのプロポーションを持つ女の子。オレもよく写真集買ってるぜ。よかったらサインとオレと一緒に写った写真を撮らせて欲しいんだが……」
「いいですよ。お名前とか入れますか?」
「酒呑へってお願いします」
吏子ちゃんは慣れた手つきで握手して、サイン色紙へ文字を書いていく。
そしてカメラをアンジェお姉さんに渡して、写真を一緒に取ってもらう。
「いやー、まさかのお宝ゲットだぜっ! そのチケット代はこれでチャラになるくらいだから、気にしないで入園しちまおうぜ」
酒呑さんはご機嫌なステップを踏みながら歩いて行く。僕たちもそれに続く。
「ありがとう吏子ちゃん。吏子ちゃんのお陰でものすごい物を手に入れる事ができたよ」
「えへへっ、私が役立ててよかったよ。いつもユウくんたちには、私が助けられているから」
「そんな事気にしなくていいわよ。ありがとう吏子ちゃん」
「……フンッ」
「ん? どうしたのシア?」
「何でもないですわ!」




