ユカリの書 第2話 フランクフルト ― 2 ―
「嵐はまだかなぁ?」
お姉様はチャーシュー丼を今か今かと待ち遠しそうにハシを持って待っていた。
「……あ、嵐がきた」
私が辺りを見回すと嵐を見つけた。
両手をフランクフルトが入った包み紙6本と、また何か違う物が入っているらしい包み紙を持ってやってきている。
「いやー、並びましたね。でもそれだけ価値があるくらいに、美味しそうでした。つい、フランクフルト以外にもベーコンが美味しそうだったので、6つ買って来てしまいましたよ」
そう言って包み紙をテーブルに置いて行く斎藤。
「あ、本当だ。美味しそうだな」
「わるいわね嵐ちゃん。お金出さないと」
「いえいえ、お構いなく。私も遊園地に連れて行ってくれるなどお世話になりますから、少しはおごらせて下さい」
そう言って斎藤はお母様からお金は貰わなかった。
「それじゃっ! 早く食べようよぉーっ!」
お姉様がようやく待ちわびた食事が始まった。
私たちはさっそく斎藤が買ってきたフランクフルトに手をつけた。
「すごく大きい……」
私が知っているフランクフルトの中で、2倍は太くて長いと思う。
「本当ね。こんな大きな物は私も見た事がないわよ」
「持ってくるのに手がいっぱいいっぱいでしたよ本当に」
「いただきまーすっ! あーん……」
お姉様は口を大きく開けて、フランクフルトにかぶりついた。
「むぐぅむぐっ、大きいし、なんか硬いよぉ」
お姉様が口に入れたまましゃべる。
「むぐぅっ!」
力を入れてやっと噛みきれたようで、その時の音はパリッ! と大きく響いた。
「うんっ! すごくおいしいっ! またこの歯ごたえがたまらないね!」
「硬いと思ったら、中はとても柔らかくてジューシーだな」
「肉汁がとても多いですね。あっと! 垂れてしまってる! もったいない!」
斎藤はフランクフルトから垂れる肉汁に唇を這わせて吸っていく。
「吸うと肉汁がいっぱい出てくるよぉ」
お姉様はフランクフルトの先を口付けてちゅーちゅー吸っている。
……2人はまだ性的な意識はないからか、なんとも危なっかしい食べ方するな。
「……ねぇ。2人のその食べ方、ヤバいからやらない方がいい」
「ん? どうしましたか? ってアレ? まだユカリさんは食べてないですね。美味しいですよ。それともお気に召してませんでしたか?」
斎藤は私の手に持っているフランクフルトが、まだ先端部分もかじられてない事を見て、疑問に思った。
「みんなの見てると……、ちょっと大丈夫か心配になった」
「確かに硬かったけど、そんな噛めないって程じゃないぜ。せんべいよりは柔らかいぞ」
健は口の中でもぐもぐさせている間にも、パリッ! パリッ! と音をさせている程だ。
「ユカリちゃんも早く食べなよぉー」
「う、うん……」
みんな食べ方に全然意識してないな。私だけか? 意識しすぎているのかもしれないな。
「あー……」
私は自分のフランクフルトに口を付けた。
「お、おおきっ……ふぐっ……」
私の口は小さい方なので、このサイズになると口いっぱいになってしまう。
少しでもいいからかじりとって食べようとしているが、弾力がありすぎて全然歯が立たない。
「ふぐぅ、か、かたいよ……」
私は必死にフランクフルトにむしゃぶりつく。
さすがに無理と思って、私は一端口を離した。
「大きい上に硬すぎ。口に入りきらないし。無理っ!」
なんなんだこれは……。食えないレベルのフランクフルトなんて初めてだ。
これだけインパクトあると、テレビにも紹介されるなこれ……。
「ユカリちゃんは昔からそうだけどホント、メタモルフォーゼじゃなきゃすっごく非力だよね」
お姉様は大口を開けて、フランクフルトを噛み切っている。
口で噛み切ったフランクフルトを手の上に出して、私にそれを差し出した。
「はい、これくらい大きければ食べれるよね」
「えぇっ!?」
お、お姉様っ!? それはお姉様が一端食べた物なんだけどっ!
確かに噛み切っただけで、奥歯で噛んだぐちゃぐちゃした状態ではないけれど……。
「だ、大丈夫だからっ! それなら私は自分で切って食べるっ!」
そう言ってカバンからナイフを取り出した。刃渡り10センチはある戦闘用のナイフだ。
「そんな戦いに使ってるナイフで切ったら、衛生的に悪いよぉ。ほら、あーん」
お姉様はお構いなしに私の口元まで持ってきた。
有無を言わさずに私の唇に押し付けられる、お姉様が食べたフランクフルトを食べるしかなかった。
「う、うむぐっ……」
別に汚いから嫌だとかそう言うのじゃなかった。
食べ廻しはこの家族になってからよくやっているから平気なのだが、口移しはさすがになかった。直接的ではないにしろ、一端口に入った物を食べるのは……。
私は顔を赤くしながらそれを食べる。
「ね。美味しいでしょ」
「う、うん……。相変わらずすごい歯ごたえだけど」
もう歯ごたえよすぎこれ。
口の中で噛もうとしても、その弾力から押し返される。
でも、噛みきれた時のパリッ! とする食感は、なんか達成感があるせいで、少し面白くもあり、それが美味しさのアクセントになっている感じがある。
ゴムを噛んでいる程に嫌な程度ではない。なんかこう……水風船を投げて割った時の快感と言うのと同じか。上手い具合な硬さに調節したものだなこれは……。
「もっと食べる?」
そう言ってお姉様が再び同じ事をしようとしてくる。
「い、いやっ! いいから。やっぱりナイフで切るっ!」
「だーめっ! 汚いからっ!」
そう言ってお姉様が再び自分の食べた物を出して、私の元に持ってくる。
「なんかツバメがヒナに餌やってるみたいですね」
「いつかオマエラも巣立つ日がくるんだなぁ……」
お父様がなんか考え深くつぶやいていた。
結局その後も私の持ってる分のも、お姉様からの口移しで食べていく私だった。
まぁもう慣れたし……。相変わらずのお姉様のペースに持っていかれる私だな。




