ユウの書 第1話 ソフトクリーム ― 4 ―
「あっ、みんなぁーあそこが開いてるのーっ!」
「お? それじゃそこにしっ、まえ見てっ!」
「う? きゃっ!?」
ドンっ。
「うあっとっ!?」
杏子ちゃんが僕たちに向かって振り返り、空いていたテーブル席を教えた。
そのテーブルに向かおうとして歩こうと振り向いた矢先に、杏子ちゃんの前を通り過ぎようとした女の子とぶつかってしまった。
女の子は肘にもろに当たってしまったらしく、片手に持っていた紙袋に包まれたフランクフルト4本の内、1本がぽーんと跳ねていた。
慌てて取ろうとして手を伸ばすが、手がふさがり過ぎていて上手くキャッチができない。2回チャンスがあったのだが、手から滑り落ちて行く。
僕は両手がソフトクリームで埋まってるせいで、急に動いて取りにいけないしっ!
すぐに異常に気が付いたから、すぐその場に向かって行ってキャッチできてる余裕があったのにっ!
スローモーションのようにゆっくりと落ちて行くフランクフルトを、あー落ちて行くわーと残念に思いながら眺める光景って、どうしてこうも心むなしくなるやら。
「えいっ!」
しかしその地面スレスレのフランクフルトをすんでのところでキャッチした人がいた。
「おぉっ!? ナイスっ! 吏子ちゃんっ!」
「危なかったぁー……」
「ご、ごめんなさいっ!」
杏子ちゃんはぶつかった人に頭を下げて謝った。
「いえ、こちらこそ。周りに注意せずによそ見しながら歩いていたもので、もっと距離を取るべきでした。それにフランクフルトも無事なようですし、気にしなくてもいいですよ」
そのぶつかった人は、杏子ちゃんに優しい笑顔を見せた。
「すみません! うちの妹が……。あっ……、あぁーっ!?」
「斎藤さんっ!」
「おや? 羽澄さんじゃないですか。それにあの時一緒に居た……。えっと……、すみません。李奈さんとは分かるのですが、名字を忘れてしまいました」
「門川です。自己紹介はしてなかったですし、李奈で構いませんから」
なんだ? 李奈と吏子ちゃんは、この女の子と知り合いなのか。
「そうですか? でしたら李奈さん、よろしくお願いします。私は嵐って言われるよりは、斎藤と言われている方が慣れているので、そちらで読んで頂けるとありがたいのですが……」
「そうなんですか? それだったら斎藤さんでよろしくお願いします。あの、私も吏子って下の方で呼んでもいいですよ」
「そうですか? それでしたら吏子さんでよろしくお願いします。しかし偶然ですね。まさかこんなところで出会うなんて……」
「ですねぇ……。今日は私たち、ユートピア遊園地へ友達と一緒に遊びに行こうとしてるんですよ」
「え? ユートピア遊園地ですか? それでしたら私も友達と一緒に今から行きますよ」
「えぇっ!? それもまた偶然じゃないっ!」
「本当にぃー。すごーい!」
3人でビックリしている。
しかしなんだな。なんかどっかで僕も会った事あるような気がするな。この人に……。
「それだったらまた遊園地で会うかもしれないわね」
「そうですね。私もそちらと一緒に行ってもいいのですが、こちらも大人数ですし初対面もあるでしょうから一緒には行けそうにありませんね」
「そうですねぇ。せっかく会った上に一緒の場所に行けるけれど、残念です」
「しょうがないですよ。また次の機会にしましょう」
「そうね。それと早く持って行かないとそれ、冷めちゃうわよ」
「あ、そうだね。はい、落ちなくてよかったです」
吏子ちゃんからフランクフルトを受け取った。
「ありがとうございます。それにしても良い反射神経でしたね。やはりあの戦いで私が負けるだけの事はあります。しっかり矢を防がれていましたからね」
「ありがとうございます」
「それでは私はこれで。また会いましょう」
「さようならぁ」
「次はアタシとも勝負してくださいね! さようなら!」
そう言って女の子は人混みへ紛れて見えなくなった。
「杏子。ちゃんと前を向いて歩きなさいよね。まったく……」
「ごめんなさい。今度はちゃんと気を付けます」
「吏子ちゃんすごいですね。よくあの状況で取れましたわ」
「あ、あはは。たまたまだよ、たまたま。バレーボールの癖でつい手が出ちゃって。ボールが落ちた後でも、諦めないで追いかけるまでの精神で居たから、ギリギリでも間に合ったよ」
「取り合えず席に座りませんか? せっかく見つけた席が無くなりますわよ」
シアの指摘に気が付いて、僕たちは何とかまだ空いていたテーブル席へと座って行く。
いつも通りな感じで僕の両隣が李奈と杏子ちゃんだった。杏子ちゃんの隣に高埜さん、次にシアがいて、李奈の隣に吏子ちゃんと言う形で座っていた。
「これ、どうしよ?」
僕は2刀流になっているソフトクリームをみんなに見せる。
「そうねぇ。誰か食べたい人が食べるか。分けて食べるかね」
「私は太っちゃうからいらないよ」
「あ、そうだ。李奈さ。最初にチョコとバニラを頼んだだろ。アレが混ざったんじゃない?」
「店員さんには悪い事をしたわね。今度から別々にするように気をつけて言うわよ」
「それよりもう溶けてるのっ! いただきますっ♪」
杏子ちゃんは慌てて食べ始めた。確かに早く食べないともう大分溶けるし。
「いただきま~す」
杏子ちゃんに続いてみんなも先端を一口パクッと食べた。
おぉ! あずき味、とても美味しいんだけど。口の中で溶け広がるバニラあずきの甘味の中で、もぐもぐと柔らかい豆の食感がまたなんとも絶妙なハーモニーを生み出している。
「やっぱりこう言うのってデパートとかで食べたりするより、なぜか美味しいな」
「そうね。やっぱこう解放感があるからじゃない?」
「それかなやっぱり……。それでシア。どう? さっきから何も言わなくなってるけど」
「えっ? あっ、すみませんでした。昔を思い出してしまって、少しぼぉーっとしていました。確かにこんな味でしたわ。美味しいですわね。こんな美味しかった物でしたかしらと疑うくらいに、美味しいのです」
「ソフトクリームのバニラと言っても、場所によって味も変わるわね」
「そうだね。地方ごとに、そこの牧場で取れる牛乳をソフトクリームに使ってるからね。街だと牛乳って色んなところのが混ざって出荷されるから、そこの牧場の味ってのが、無くなっちゃうんだよね」
「そうなのですね。ワタクシが初めて食べたソフトクリームは、ドコのでしたかしら……」
「あの時は~…………、三神パーキングでしたね」
「ドコだろ? ここよりもっと先じゃないかな?」
「そうです。これから行く遊園地よりも、先にありますよ」
「もっと遠くまで行く機会ができたら、三神パーキングによろうな」
「そうですわねぇ。昔の懐かしの地へ赴くのも、また良いですわねぇ」
「私たちそんな昔を懐かしむほど、歳とってないよ……」
「ねぇユウ、そろそろそれ食べさせてよ」
「ん? はい。どうぞ」
李奈がおねだりするのでバニラあずきを向けて上げた。
「んっ……ペロッ」




