ユウの書 第1話 ソフトクリーム ― 2 ―
「えっと……。後は……、羽澄様と平沢様のようですが、まだ居ないみたいね?」
「そうねぇ。でもまだ待ち合わせまで10分もある……。あっ、アレ、平沢じゃない?」
李奈が指差した方を見ると、平沢が歩いてやってくるのを見つけた。
「平沢が待ち合わせより10分早く来るなんて以外だわね」
「おはよう。平沢。歩いてくるなんてどうした? ここから遠いだろ」
「お、おはよう……」
ん? 平沢の様子がおかしい。
「平沢、なんか顔が赤くないか?」
「え? い、いや。別に平気だが」
いや、明らかに顔が赤い。それに歩いて来た時の様子も、なんかフラフラだった。
「まさか平沢。風邪ひいたんじゃないの?」
その言葉に平沢がギクッと固まる。
「そ、そんな訳ないだろ。俺は元気だ! ほら、この通り! なっ!」
そう言ってピョンピョン飛び跳ねる。
「うっ……!」
しかし途中で頭がくらっと揺れ、そのまま倒れそうになった。僕は慌てて平沢を捕まえて支えた。
高埜さんが平沢のおでこを触る。
「とても熱いです。これでは無理でしょう。無茶をしてはいけませんよ」
「風邪をひかれてしまったのですね」
「う、うぅ……。昨日あんな目に遭わなければ……。くそぉ、行きたいのにぃーっ!」
昨日のあの会話の後に何をしたんだろう。メタモルバトルをしていたって言うから、もしかして妬けを起こして連続で戦ったりしたのかな……。
「平沢、無茶しないで家で寝てなさいよ」
「そうなの。具合が悪いなら電話して来て欲しかったの」
「うぅ……。くそぅ~……」
平沢がガックシとうな垂れる。
「平沢様をお家までお届けしませんと」
「だ、大丈夫です。そこまで迷惑かけるわけには……」
そう言って僕の手から離れる平沢。しかしその足取りはお簿付かず、見ていていつ倒れるか心配になる。
「やっぱり家まで見送って行くよ。平沢」
「いや、みんなにこれ以上迷惑かけるわけには……」
「ねぇ、シア。あの天使の力で治せないの?」
「病気は直すことはできません。怪我や毒の種類が分かれば直すことはできますが……」
「だ、大丈夫です。俺は1人で帰れますから。行きもこれましたし、帰りもきっと大丈夫……」
「帰りまで体力がもつとは思えません。やはり家まで送った方がいいですね」
「おっ、全員そろったかね?」
そう声がしてきた方を見ると、店の中から藤丸お父さんが出て来た。
「アナタが付き添いの方ですか。李奈たちの事、よろしくお願いします」
「はい。お任せ下さい」
「ん? なんか具合悪そうな子がおるね。どうしたんだい?」
「風邪引いたみたいなの」
「そりゃまた。遠足前に誰か1人はこう言うの居るものだの」
「う、うぅっ……」
平沢は悔しそうに歯噛みしていた。
「今動かすのはつらそうだの。家へ上がって一端休みなさい。少し体調がよくなってからで、ワタシが家に連れて行ってやろう」
「それが1番いいでしょうね」
「うぅっ、本当にご迷惑おかけします」
「平沢。物事には行動起こす前に、まずその先どうなるかを考えてから行動しような」
「うぅ、すまない。祐定……。俺ってやつは……俺ってやつはぁ……」
平沢は悔し涙を流し始めた。
「……はぁ、仕方ありませんわね」
シアは自分のカバンをあさると、白い布みたいなものを取りだした。
「ひえひえシートです。おでこ、失礼しますわね」
そう言ってシアは、そのシートをぺたっと平沢のおでこに貼って上げた。
「冷たくて……、気持ちいい……」
「今日1日、しっかり休養なさってくださいね。明日、学校に来れなくなりますわよ」
「……はい。申し訳ありません」
平沢は大人しく藤丸お父さんに誘導されながら店の中へ入って行く。
「それじゃこっちはワタシに任せなさい。事故には気をつけて、いってらっしゃい」
「いってきまーす」
「いってくるの~♪」
「いってきます。平沢の事よろしくお願いします」
「さてと……、ツバメでよろしかったのですわよね?」
「うん、それでいいよ」
長距離を移動する際、渡り鳥系のミックスジュースを使うのが一般的である。
その中でポピュラーな物と言えばツバメで、このミックスジュースは市販で大量に造られていて安い。自分たちで安い材料を集めて造ればさらに安上がりにもなる。
長距離移動の中には乗り物を使う人もいるにはいるけれど、交通費などを考えるとこっちのミックスジュースの方が安く済む。
まぁその分疲れるし、移動に時間も掛かったりするけれど、飛んで行ける距離であればガンバってそこまで自力で飛んで行く。
そして同じ鳥になって行かないと速さがそれぞれ違う為に、一緒に飛ぼうとしても距離が開いてしまう。
なので一緒に移動する際はその人たちが事前に何の鳥にするか決める事が多い。
「まずは子琵パーキング休憩場までガンバろうな」
メタモルフォーゼはどんなミックスジュースでも1時間しか持たない。時間が切れる頃になると、ぐっと疲労感が出てきて徐々に動けなくなる。
飛行してて急に疲れてきたら、無理せず地上に降りて休んだ方がいい。
それで無くても飛んでいたら疲労が溜まるし、1時間経たなくても途中でメタモルフォーゼが解除されてしまう事がある。1時間ずっと飛んでいる事なんて余程のスタミナがある人でないと出来ない。
その為に一定の間隔でパーキングエリアと言う休憩所が設けられている。そこを利用しながら向かう事にしている。
「風の具合もいいし、これなら1時間10分も掛からずに付きそうだなぁ。開園が10時からだから、早めに付いてもアレだし、パーキングエリアの休憩はもっとゆっくりとしてこうか」
「そうね。あっ、吏子ちゃんが来たわよ」
吏子ちゃんは李奈の家とは近所なので、普通に歩いてやってきた。
「おはよう~。今日は良い天気になってよかったね」
「これで全員だね。それじゃさっそく行こうか。先に先導は誰がやる?」
渡り鳥の飛び方にVの字型の列になって飛ぶ雁行と言う方向がある。
この飛び方をする事によって後続を飛ぶ者は、比較的体力を温存して飛行する事ができる。
野生動物が得たすごい技術を、僕たち人間も真似て飛んでいる。
「ユウでいいんじゃない」
「僕かぁ。まぁいいけどね」
スタミナにはかなりの自信がある平沢を一番前にして飛ぶと楽なんだよなぁ。
けど今回は欠席だから、この中で1番スタミナがありそうな僕が担当する事となった。
そして僕たちは飛び立った。平沢の無念の思いを背負って……。
「アレ……? あぁっ! 平沢くんが居ないよっ!? 置いて行っちゃったよみんなっ!」
しばらく飛んでからやっと吏子ちゃんに気が付かれる平沢だった。泣いていいぞ、平沢。




