ユウの書 第1話 ソフトクリーム ― 1 ―
待ちに待った遊園地へ行く日。空はこれでもかってくらい、雲1つもない快晴。天気予報では一日晴れ。いやー、よかったよかった。
シアの白いお嬢様肌が日焼けしないか心配だな。一応日焼け止めを持ってきてはいるけど。
「おはようございますっ!」
僕は李奈の家にたどり着くとお店『クローバー骨董品屋』のチャイムを鳴らして挨拶をする。
お店の前にはまだ誰も付いていなかった。
待ち合わせ時間が8時半なんだが、8時15分に到着している。しかも森を抜けたらすぐ近所だと言うのに僕は早めに付く。
社会人になったら15分前到着が当たり前と言われているから、そうしてるだけなんだけど。
……今のうちにそういうの守ってるの僕くらいかな。
だからこう言うところを子供に治さなきゃいけないんじゃないのか。
僕はその場で失敗した事に頭を抱えて唸っていると、お店のドアを開けて出てきたのは杏子ちゃんだった。李奈の家の出入り口はお店の中を通るしかないからなぁ。
「おはようございます、お兄ちゃん。早いね」
「う、うん……、まぁね。あっ、これどうぞ、おすそ分けだよ。今朝のとりたてだよ」
そう言って僕は手持ちのビニール袋から、春野菜の入ったビニール袋を広げる。
今朝収穫したばかりの新鮮な野菜たちだ。
「わぁ、美味しいそうっ! いつもありがとうなのっ! お兄ちゃんの野菜はいつも美味しくて好きなのっ!」
杏子ちゃんのその嬉しそうな顔を見ると、造ってよかったと僕は心が弾んでいく。
「ママ~っ! お兄ちゃんから野菜もらったの~♪」
そう言ってお店の奥へ声を上げると、鈴音お母さんが出てくる。
「いつもありがとうね。それに今日は杏子たちを遊園地に連れて行ってくれるって。ユウくんのような良い子が、うちの娘たちと仲良くしてくれて本当に嬉しいわよ。それに育てた野菜まで頂いちゃって。いつもありがとうね」
「いいんですよ。それに持ってくる野菜も店に出すには形が悪い無級品ですし。本当にこんなのでよければと恐縮です」
「それでいいのよ。ユウくんが作った野菜は味がとてもいいんだから。ユウくんは本当にしっかりしているわよね。将来はうちの娘のどっちか嫁にもらっていってほしいくらいよ」
「えへへ~♪ お兄ちゃんならいつでも嫁いであげるの」
「ははっ、ありがとう杏子ちゃん」
僕はそんな杏子ちゃんの頭を撫でると、顔を赤くしてニッコリ笑ってくれる。
可愛いんだからもう……。
「冗談じゃなくて、本当にもらっていっていいのよ。ユウくんだったら、お父さんも絶対に賛成してくれるからね」
「は、はははっ……」
僕らまだ小学生なんですけど……。先の早い話だなぁ……。
鈴音お母さんに野菜を渡すと、2人の事をよろしくねと言って奥へ戻って行った。
「ワタシも支度してくるの」
そう言って杏子ちゃんも家の中へと戻って行った。
っと、その入れ替わりに李奈がこちらへとやってきた。
「おはよう。また野菜くれたのね。ありがとう。ユウの野菜は本当に美味しくて、いつも出来るのを楽しみにしてるのよ」
「ありがとう。今年も出来が良くてよかったよ」
「ねぇ、ユウ。さっき家の方まで聞こえたけど、ママがアタシたちをもらってほしいって言ってたわね。ごめんね。またママが変な事言って」
「え? あ、あぁ。いやー、全く。僕らまだ小学生なのに、気が早いよなぁ。はははっ」
「そ、そうよね。全く気が早いわよね」
うんうんと頷く李奈。
「そうそう、早いよな…………」
「早いわよねぇー…………」
……なんか会話が止まってしまった。な、何を話そう。
「今日は晴れてよかったなぁー」
「そうね。春なのにちょっと日差しが強すぎて、夏じゃないかってくらいよ」
「日焼け止めとか、ちゃんと持っていかないとね」
「そうね。アタシはちゃんと入れておいたわ」
「僕もだよ。まぁ僕は使わないんだけど。使いたいと言う人用に持ってきたよ」
「シアなんかは使いそうね。でもちゃんと持ってきてそうだけど」
「お待たせなの~」
杏子ちゃんはカバンを持って店から出て来た。
「ん? あっ、見てっ! 何か飛んでくるのっ!?」
「何っ!? アレは……。鳥だっ!」
「いや、飛行機なのっ!?」
「違うわっ! アレは……天使よっ! なんで飛行機に見えたのよ」
「お決まりの台詞だったの」
天使からしてシアだろうな。その横を飛んでいるのは僕が言った鳥だった。付き添いで来てくれた人だろう。
まだまだ待ち合わせには時間があるのに早く来る辺り、僕のこの行為は普通かな。
シアたちが僕たちの前に着陸する。
「おはようございます。本日は絶好の晴天に恵まれて、とても良い1日になりそうですね」
「おはようございます。シアお嬢様のご友人方。今日はよろしくお願いし致します」
丁寧な口調のカワセミの人だ。マジックリングから変身解除薬を取り出すと、それをパクッと食べた。
変身が解けるとそこには、左目にモノクロを掛けた着物姿の女性が居た。
とても色っぽい人だな。大人の色気がある人だ。
シアも元の姿に戻っていた。普段の私服はロングスカートが多いのだが、絶叫系に乗ると言う事もあって、長ズボンを履いて来ている。
「高埜 小百合と申します。シアお嬢様の側女をしております」
「あ、はい。よろしくお願いします、態々僕たちの付き添いの為にありがとうございます」
「門川 李奈です。よろしくお願いします」
「あっ、シアお嬢様からお名前はお伺いしております。アナタが木花 祐定様。そして門川 杏子様ですね」
「ワタシは杏子でいいの。杏子ちゃんって呼んでほしいの」
「わかりました。杏子ちゃん」
「ならアタシは李奈でいいです。様付けとかいりませんから」
「えっと……、呼び捨ては少し……。李奈さんでよろしいでしょうか?」
「はい、よろしくお願いします。高埜さん」
「僕も様ってよりは、さんでお願いします。ユウと愛称で呼んでください」
「わかりました。ユウさん」
「小百合お姉ちゃん。この方たちの前ではそんないつもの様な堅苦しさはいらないわよ」
「そうですか?」
「えぇ。いつもの方たちみたいな付き合いはいらないわよ」
「わかったわ。そうするわね」
あ、なんか口調が崩れた。
「えっと……。後は……、羽澄様と平沢様のようですが、まだ居ないみたいね?」
「そうねぇ。でもまだ待ち合わせまで10分もある……。あっ、アレ、平沢じゃない?」
李奈が指差した方を見ると、平沢が歩いてやってくるのを見つけた。




