ユカリの書 第3話 坂浜港町の出来事 ― 2 ―
「ひっひっひっ! そのチャイナ服をビリビリに破いてやる。ガキと言えども良い体してやがるぜ」
「うわっ! 悪い大人だっ! ずっと動いていなかった分、思いっきり暴れちゃうからね。手加減なしでぶん殴るよっ!」
お姉様が精神集中をして、闘気を体中に巡らせていく。
ここずっと家に引きこもりっぱなしだったが、アレくらいの闘気を出す事ができるなら十分に戦えそうだな。
不良10人がそれぞれのミックスジュースを飲んだ。
えーっと……、ウミヘビにタコに海賊にと、水を得意とする系統の物で纏まっているな。
「ぼ、ぼくだって負けないからなっ!」
そう言って私の隣にやってきたのは、メタモルフォーゼを終えた健だった。
姿は孫悟空になっている。私が造ってやったオリジナルミックスジュースだった。
今朝のトレーニングに付き合わせた時に渡したヤツだ。
健になら相性がいいだろうと思ったから、それでトレーニングしようと思い付いた。
「健も戦うの?」
「ぼくだってやる時はやってやるぜ!」
「余り無理はしないで。健は1人相手してくれればいいから」
「嵐もやるよね?」
「えぇ、もちろんですよ。これなら1対3相手でいきましょうかね。ボスはさっき戦ったばかりですから、戦えないでしょうからね」
「ちきしょーっ! おいっ! 俺もやってやるよっ! もう一度勝負してやるからかかってこいよっ!」
「君、大丈夫なのかい?」
「あぁ、大丈夫だぜ。ここまでされて引き下がれるかよ。ボスは俺がやるっ!」
「いいぜ。こいよクソガキがっ!」
男の子は再びカオスゴーストとなって、シャークマンとなった男性と戦いを始めた。あの2人は休憩も無しに連戦して大丈夫だろうか。
お姉様たちも群がってくる中から3人を誘いこんで戦いに挑み始めた。
健は上手く1人だけを戦いを始めたな。
「私の相手は誰?」
「オレらだぜ」
「けっ、こんなラッコ相手に張り合いがねーぞ」
「もっふもふにしてやるぜ」
私の相手は人間サイズのウミヘビに、タコの下半身に上半身が人間のタコ男、そしてカッパだった。
「覚悟して戦え」
私はマジックリングから刀を取り出すと、両手に持った。
「え? マジでそれで戦うのかよ」
3人の表情が呆気に取られている。
そりゃそうだ。ラッコなんて誰が戦いに使うものか。
ラッコなんて戦闘能力なんて全くないメタモルフォーゼだからな。
でも今使っているのは私が造ったオリジナルミックスジュースで、戦闘向きに格闘能力が付いている新発見の物だ。
これで特許を取得していて、印税で稼いでいる。
知らないヤツはこれが戦闘用なんて誰が思うだろうか。
私はその場に残像を残すと、目にもとまらない速さでタコ男の背後に回った。
「さようなら」
「へ?」
私は刀を振ってタコ男の首を切り落とした。
「は?」「なっ!?」
突然の事で他の2人は未だに状況が理解出来てない。でもカッパの方が反応はいいな。
「遅いっ!」
しかしそれでも1歩遅かったな。私に気付いて間もなくカッパも胴体から真っ二つにされた。
「ぎゃぁっ!?」
「マジかよっ!」
「弱すぎ……」
「うわああああーーーーっ!?」
最後のウミヘビも必死に海の中へ逃げようとしていた。自分の得意なところへ行こうとしているのか。
「逃がさないっ!」
私はラッコのワキにあるポケットから貝を取り出すと、それをウミヘビに投げつける。
貝がパカッと開くと中から無数の昆布が沸き上がって来て、ウミヘビに絡みついて身動きを封じた。
「な、なんだこれはっ!?」
このラッコの特殊能力でシェルコンブと名付けた。
未だに発見されていない新しい技だ。今のところ、私しか使い手はいないかもしれない。
身動きが取れないウミヘビにあっという間に追いついて、私は頭を切断した。
「ぐえっ!?」
そうしてあっという間に私が受け持った3人を倒してしまった。
「はぁ……。あっけない……」
レベル的に普通な相手にもう少し手加減して上げた方がよかったか?
最近は大神だとか兄さんとか、レベル的にプロ級の者ばかり戦っていたせいで、普通の人たちとの戦いに物足りなさを感じる。
二足歩行のラッコが刀を持って殺戮する。
なんだこのミスマッチな光景はと思った。
でも水中戦用に造っておいたラッコのミックスジュースの効果に満足できた。
けど水中戦を予期しておいて、結局水の中に潜る事もなかったか。水中での戦闘能力も試しておきたかったな。今度また使ってみよう。
さて、お姉様たちの戦いはどうだろう。
「咲雷気功円弾っ!」
「ぎゃああーーーーっ!?」
お姉様は海中から飛び出してくる相手に、遠距離攻撃技である円形の気功弾を蹴りと共に放ち、的確に相手に当てていく。
当たった気功弾は電気をバリバリ放ちながら炸裂していく。水中を得意とするタイプになら、電気系はかなり効くだろう。
ブランクがあるとは言え、レベルの低いヤツ3人相手に遅れは取らないな。お姉様は大丈夫そうだな。
斎藤は海の中で戦っているな。
ウィッチミラーから映しだされた映像を投影しているモニターに、斎藤の戦いが映し出されている。
斎藤はいつもの弓ではなく、水の中で使う専用の武器、銛を発射する水中銃を使用している。
相手はサメの姿のノーマルタイプが2人、長い角が伸びたカジキマグロの1人か。
これは泳ぎが得意な相手に対して、水中戦で挑んでいるとなれば大変そうだ。
空中戦に慣れた斎藤は海中ではどのように活躍するだろうか?
斎藤は向かってくるサメに向けて水中銃の銛を放った。
しかしその銛は簡単に避けられてしまい、鋭い牙が揃った大口を開けて迫って来た。
斎藤も負けじと自分の口を開けて、接近された瞬間にサメの鼻へと噛みついた。
サメの急所である鼻に思いっきり噛みつかれて、サメは悶え苦しんでいる。
斎藤は相手に噛みついたまま周りを囲む2人へ、同時攻撃されないように水中銃を撃って攻撃のタイミングをずらしながら戦っていく。
攻撃されていないカジキマグロが、斎藤に向かってもう突進してきた。
斎藤はおしりを向けて、その硬いしっぽでカジキマグロの鼻先をはたき落とす。
たまらずひるんで逃げたところに水中銃で銛を撃った。その銛がサメのエラ部分へヒットさせた。
カジキマグロはもがき苦しみ、水中にまで上がって行くと変身が解かれた。
斎藤に噛まれ続けられたサメの体から突然泡が噴き上がり、全てが泡となって消えた。その泡が水面まで集まると人間の姿となった。限界を迎えて変身が解けたのだろうな。
最後の1人となったサメはその強さに怖気付いたのか、全くの逃げ腰だった。
遠くを回遊するサメを深い追いをしないで、慎重にサメを狙い撃ちしていく。
斎藤の動きは素人と違い、完璧に戦い慣れしている事が分かる。
あの大会以来、確実に実力を付けているな。あの悔しさをバネにして実力が伸びている。
さて……、問題は健か。
1対1で戦ってるが、相手は年齢差のある大人相手だ。健はイケるか?
相手は海賊のメタモルフォーゼか。水中戦で無い事が幸いな対戦であったな。
海賊はリボルバー式のハンドガンを使いながら戦う為、距離を取られながら戦っている。
健は持っている棒で弾を何発かは弾いてはいるが全てを防ぎれていない。体に当たる弾にひるんでしまい、接近戦を挑もうとしていても前に出る事が難しい。
しかしあの目は好機を探ってるな。
カチッ! カチッ!
「ちっ、弾切れしたかっ!」
海賊のリボルバーが弾切れしたようだ。
相手は弾を込め始める為に動きが止まった。今なら絶好の好機だな。
「伸びろっ!」
健は手に持っていた棒を相手に向けると、その棒が勢いよく伸びていった。
孫悟空の能力の技の1つで棒系統の武器を伸縮自在に伸ばす事が出来る技だ。
「うごっ!?」
その伸びた棒の先が相手のノドに直撃した。首を抑えて苦しそうにその場に膝をついた。
健は棒の元の長さに戻すと私が教えた技に入った。
棒で地面を突き、体をひねって上空へ跳躍する。その時、棒も伸ばしてバネにした為にその高さは10メートル以上も跳ねあがっていた。
「てやぁっ! 天舞螺旋瀑布っ!」
落下する自分の体重と共に振り廻した武器の一撃が、相手の脳天に叩きつけられる。
「ぐほあっ!?」
その衝撃は凄まじく、頭の形を大きく変形させる程の威力だった。
そして海賊が元の姿に戻った。
健の勝利か。少し苦戦した1対1ではあるが、健もやるようになったな。
もう少し鍛え上げればかなりの実力者になりそうだ。
木花師匠が健の様な才能ある子を育てようとしないのなら、私が育て上げてやる。
さて、残りはあの男の子とボスか。
…………って、アレ?




