ユカリの書 第3話 坂浜港町の出来事 ― 1 ―
ドリームペンシルショッピングモールからの帰り道。
長い間飛ぶのには疲れる為、一端休憩する為に立ち寄った坂浜港町。
ここは昭次お父様が、貿易コンテナ管理会社で働いている町だ。
住宅地よりも工場が多いところで、町中で子供の姿とかは余り見かけない。
なのでなるべく子供が集まっている場所に私たちはいる。
坂浜港町にあるメタモルバトル闘技場の近くになら、メタモルバトル目当ての子供も多い。
ここの闘技場は水上の上にあり、水中を得意とするメタモルフォーゼには、絶好の闘技場と言える。
そして公式試合が出来る場所なので、かなり気合が入った熱い戦いが見れる事もあるので、観客も多い人気の会場でもある。。
「うーん、眠いぃぃぃ……羊がとぼとぼ……ふかふかの毛の中に飛び込みたいよぉ」
お姉様が目をショボショボとさせている。
やはり病み上がりで運動不足もあって、疲れが来るのが早いか。
「これは長めに休憩した方がいいですね」
「少し寝た方がいい」
「今寝たら夜にまた寝られなくなるよぉ。そうなったら明日がぁ……」
時刻は午後3時ちょいすぎだな。確かに寝ると夜眠れなくなるかもしれない。
「何か眠気を飛ばす事しないとぉ。海にでも飛びこむ?」
「身投げかっ!」
「迫力ある試合を見ればいいんじゃね?」
「そうですね。休憩しながら試合でも観戦しましょう」
「そうしよぉ。ふあぁ~……」
私たちは試合がよく見える位置へと向かった。
っと、そこには沢山の人だかりが出来ていた。そしておぉーっと盛り上がっている。
闘技場ではゴースト系のメタモルフォーゼをする人と、サメの頭をした人間が闘っていた。
このゴーストはカオスゴーストだな。サメはシャークマンだ。
試合を見る限り、確かにおぉーっと歓声がわき上がるすごい攻防が続いている。
「わぁ、すごい盛り上がりだね。ねねっ、何が起きてるの?」
お姉様は近くに居たメガネを掛けた小学生の女の子に声を掛けた。
「今9連勝中の平沢くんと言う男子と、ここのチャンピオンと戦っています」
「どっちがどっちなの?」
「カオスゴーストになってる人が平沢くん。シャークマンの人がここのチャンピオンです」
ふむ……、地元チャンピオンはこのフィールドに有利な戦いをする人か。
それに対して9連勝中の人はゴースト系。自分が最も得意とする物で挑んで行く人か。
地の利はチャンピオンだ。
しかし9連勝をしてきた人だって、ここのフィールドでの水中対策を取って来ているハズ。でなければそんなに勝ってるはずはない。
どんな面白い戦いが見れるか楽しみだ。
「この野郎っ! ウザいんだよ! さっきからぁっ! いい加減にやられろテメェーッ!」
シャークマンは海中から飛び出て、アサルトライフルをカオスゴーストへと向けて撃った。
「俺はもう強くなる事しか小田桐さんに認めてもらえないんだよっ! 勝ち続けるしかないんだっ! 俺にはもう……。俺はっ! 俺はぁーーーーーーっ!!」
カオスゴーストは体を透明にすると、その銃弾が体を透き通って貫通していく。
ゴースト系の必殺技でゴーストディサッペアーと言う、物理体勢を無くす事が出来る。
無敵な技だけれどかなりの疲労度が増す為に、長時間や何回もやっていられない程に辛い。
9連勝もしているとあれば、今までの連戦で相当疲労しているだろうに。
それでもあの技を上手く使えるとなると、かなりタフな人だな。
「誰だよっ! しらねーよそんなヤツっ!」
「俺はさっき失敗しちまったんだっ! そしてもうフラレタも当然だっ! いや、1回フラレテいるけどさっ! それでもガンバって認めてもらおうと思った矢先に、あの失敗だっ! 絶対に見離されたに決まってるっ! もう俺が小田桐さんに好かれる為には、メタモルバトルで強くなっていくしかないんだーーーーっ!」
何か色々私情が窺われる会話が繰り広げられているな。
シャークマンが再び海中に潜っていく。
カオスゴーストはその場で棒立ち状態だった。
海中の中で戦うとなればシャークマンに有利すぎる戦いだな。陸戦に持っていきたいところだ。しかし相手も海上へ出てきても、すぐに海中に潜る戦いをしてくる。
シャークマンが海上から出るとアサルトライフルで再び狙い撃つが、カオスゴーストはゴーストディサッペアーの繰り返し。でもそんな回数は出来ない。このままではじり貧だ。
さぁこの状況で、どうやって戦っていく?
ザバァッ!
「とっとと死ねっ!」
海中から上がって飛び跳ねたシャークマンは、アサルトライフルを構えた。
「この時を待ってたぜっ!」
カオスゴーストは黒いマントをめいいっぱいに空へと伸ばした。すると床にはいい感じに濃い影が出来上がる。
「くらえっ!」
そして影が出来た床に向かって、手に持っている大鎌をめいいっぱい振り下ろした。
するとシャークマンの背後から突然現れたカマが、シャークマンへ襲いかかってきた。
ザクッ!
「うぎゃぁっ!?」
シャークマンの頭へ大鎌の先端がぶっ刺さった。アレは致命傷だな。
するとシャークマンの姿がパンク系の男性へ戻った。
影渡りの技を使ったか。それはある程度の濃さの影になら中に入って、違う影へと一瞬で移動ができる技だ。
お姉様救出の際に杏里お母様に教えた技だ。
この技の応用で相手の影から攻撃をすると言う恐ろしい攻撃方法が使えたりできる。
カオスゴーストの勝利か。盛り上がると思ったが、私的にはなんか呆気ない戦いだったな。チャンピオンと言うのだからもう少し期待していたのに……。
「くそっ、どうしてオレが出てくる場所がわかった……」
「わかったって言うか、ずっとその場所に現れる事を願っていただけだぜ。そこだけ影になってるだろ」
「な、なんだとっ? あっ……」
シャークマンが現れてやられた場所は、丁度陸上と海上に段差があるところだ。
「海にも影は出来る。日が傾き始めたこの時間帯には、そこにいい影が出来てたんだぜ」
「すげぇーっ! チャンピオンを倒したっ!」
「10連勝よっ! すごいわーっ!」
観客からの声援を受けて手を振るカオスゴースト。
カオスゴーストも変身解除薬を飲むと、その姿を戻した。
その男の子は、私たちと同じ小学生だった。
「あの子の歳いくつか分かる?」
先ほど質問したメガネの女の子にまた話しかけるお姉様。話しやすそうなのか?
「9歳です。私と同じ4年生でクラスメイトです」
私と同じか。普通なら大人の方が強いと言うのが辺り前なメタモルバトルだが、時折才能のある子供が居るにはいる。
お姉様や斎藤、私なんかもそれに含まれるな。健にも見所がある。
……面白そうだ。
「私もアイツと戦ってみたい」
「おぉー。ユカリちゃん、ガンバってーっ! 新チャンピオンになっちゃおーっ!」
「え? あのぉー……。もうたぶん戦わないと思います」
メガネの女の子にそう言われてしまった。
「まぁさすがに10連勝していれば疲れるか……チャンピオンも倒してキリがいいし」
残念だ。小学生でそれだけの実力がある人なんてそうそういないのにな……。
「ふぅー……、明日の事もあるし、今日のところはここで帰るか。10連勝したのと坂浜港町のチャンピオンを倒したって朗報があれば、失敗した分をカバーができそうだぜ」
「オマエ……」
「え? なんだ?」
「もう1度勝負しやがれっ!」
「え? いや……、もうさすがにバトルし疲れて、止めて帰りたいところなんだけど」
「オマエみたいなガキが、チャンピオンなんて許せねーぞっ!」
すると闘技場に強面の男性たちが10人も上がっていく。
「我らシャーマンフィッシュの縄張りでいいように暴れてくれたなぁあ!」
「ボスまで倒しやがって、オレたちの威厳を台無しにしやがってっ!」
これは悪い空気だな。
男の子も自分の置かれた立場に気づいて、顔を青ざめながら周りの状況を見ている。
「海に突き落としてやれっ!」
「ちょっ、や、止めてくださいっ!?」
「ひ、平沢くんっ!?」
マズイっ!
私はミックスジュースを取り出して助けに行こうとした。私の他にもお姉様と斎藤も同じように準備し始めていた。
お姉様も行くか……。止めようとしても絶対に行くだろうな。
斎藤もそう思ったのだろうか、お姉様を止めようとはしなかった。
「うわあああああーーーーっ!?」
ざぱーーーんっ!
しかし私がたちがメタモルフォーゼするより早く、その男の子は不良たちに持ち上げられて海に放り投げられてしまった。
「私が彼を救出しますっ!」
「お願いっ! 私たちは暴走を止めに入るよっ!」
観客席を見ると、ざわついているだけで誰も止めに入ろうとしていない。
ったく、助けに入れよ。まぁ所詮そんなところか。私たちがおせっかいすぎるだけだな。
私が選んだミックスジュースは水中戦でも戦えるようにと思い、ラッコになるミックスジュースを使った。
私の姿は全身が毛に覆われたラッコの姿となる。これのヒューマンタイプってないんだよな。
まぁラッコの手は器用だから、武器を持てるのでまだ助かっている。
お姉様はいつもの格闘家となり、斎藤はワニの頭をしたヒューマンタイプだった。
斎藤もまた好きだなそう言うの……。ワニのしっぽもちゃんと生えている。
斎藤は海中へ飛び込んで行った。
「どうだ? もう一勝負する気になったか? するなら助けてやるぜ」
「ごばっ!? ぶはっ!?」
男の子は必死に浮上しようとしている。泳げないのか……。
「まてぇーっ! この悪党どもーっ!」
お姉様が腕を組んで、堂々とした立ち姿で不良たちの前に立ちはだかった。
「なんだテメェーは?」
「子供をいじめるとは何たる大人だよっ! 悪い子は説教っ! 悪い大人はぶっとばすっ! 謝らないと私が許さないよっ!」
「ガキがしゃしゃり出てくるんじゃねぇよ」
「それともアイツの仲間かオマエは?」
「その子は知らないけれど、こんな酷い事を見過ごせてはおけないよっ!」
「ぶはぁっ!」
闘技場に上がって来た斎藤の腕には、おぼれていた男の子が抱えられていた。
「あっ!? いつの間にっ!」
「さぁ謝りなさいっ! ちゃんと謝ればそれだけで今は済ませて上げるからっ!」
「ちっ……、調子ぶっこいてんじゃねぇーぞガキっ! やっちまえオマエラ! 女のガキだからって手加減するなオマエラっ!」
「ひっひっひっ! そのチャイナ服をビリビリに破いてやる。ガキと言えども良い体してやがるぜ」
「うわっ! 悪い大人だっ! ずっと動いていなかった分、思いっきり暴れちゃうからね。手加減なしでぶん殴るよっ!」
お姉様が精神集中をして、闘気を体中に巡らせていく。
ここずっと家に引きこもりっぱなしだったが、アレくらいの闘気を出す事ができるなら十分に戦えそうだな。




