ユウの書 第3話 ドリームペンシル ― 1 ―
放課後。
李奈たちと約束していた大型ショッピングモール、ドリームペンシルまでやってきた。
あの大怪我をした為、今日は中止にしようかと気遣いされたが、僕の元気な姿を見て2人とも喜んでくれた。
僕たちは今、ドリペンちゃんのグッズコーナーの前に居る。
「ユウも買わないの? 可愛いわよこれ」
そう言って見せてくれるドリペンちゃんのキーホルダー。
「んー、まぁ、可愛いよ。でも、欲しいなって思う感じはしないなぁ」
「そぉ? それじゃ、会計を済ませちゃおう」
僕は李奈の後に付いて行って、会計が終わるまで待った。
「お兄ちゃん、おっきなドリペンちゃんのぬいぐるみ見た? すごく大きかったの」
杏子ちゃんが言った大きなドリペンちゃんは、ショーケースの1番上にあった。
「確かにでかかったなぁ……」
「アレに1度でいいから、ぎゅーっと抱きついてみたいなぁ」
杏子ちゃんのと一緒に会計を済ませた李奈が戻ってくると、1枚のチケットを僕に見せた。
「なんだそれ?」
「1周年記念のくじ引き券みたいよ。1000円以上のお買いもので1枚もらえるみたいよ。ブルーエリアのホールでやっているみたいだから、帰りによっていきましょ」
「へぇ。それって此ところだけか?」
「このモール全体での企画みたいよ。ユウがこれから買いに行くところでも、くじ引き券がもらえるわよ」
これから買い物する物を適当に値段を計算してみた。
「っとなるとぉ……。これだけの量を買うと、最低3枚は貰えそうだな」
「何が当たるのかなぁ?」
「さぁ? それは行ってみないとわからないわよ。杏子、くじ引き好きでしょ。この券でやっていいわよ」
「わーいっ♪ ありがとうお姉ちゃんっ!」
「んじゃ、次は僕の方の買い物だな」
僕に続いて李奈と杏子ちゃんが後に付いてくる。
母さんからのメールだと、家で使う食材と店で使う食材と分けられて書かれている。
家で使う物は値段は安めの方を選んで、店で使う物は鮮度と質を優先して買わないとな。
よく母さんと買い物に行くので、食材の善し悪しの見極め方は知っている。
「ん? むっ!? あ、あれはぁーっ!」
「え? ちょっとユウっ!?」
グリーンエリアの食材コーナーへ向かった僕の目の前に、高級品が並んでいるコーナーが目に入った。
そしてそこに並べられていたのは、ユニコーンの角やライオンの頭の骨など、高級商品が並んでいる。しかも全部が品質が7だ。
品質は7段階で別けられて4が普通の基準となっている。
ちなみに僕が使った消費期限切れた牛乳が、まだ使えるくらいなので2に入るくらいだ。
「はぁー……。なんて言うツヤ。色。そして形の良さ。こんなレアな材料の上品質な物を見れるなんて、すごいモールだなぁ此ところは……」
僕は値段の方をチラッとみた。10万単位の値段から100万単位の物が、ずらっと並んでいた。
僕は一生かかっても、此ところにある材料を使う機会なんてないんだろうなぁ。
「あぁー、アレを使ったら、一体どんなミックスジュースが作れるんだろうなぁ。一欠片でもいい。つ、使ってみたいなぁー」
食い入るようにショーケースの中を見ている僕を、李奈と杏子ちゃんが呆れた顔をしてため息をついている。
「相変わらずね。ユウってば、ミックスジュースの材料になると目の色が変わるんだから」
「ワタシ、あぁ言う材料を見るのは苦手なの。特に頭蓋骨って怖いの……」
あぁ、そうだ! 大人になったらお金稼いで、この中の10万単位の物なら買えるよな。頑張って節約してヘソクリ貯めたりして。
「ユウっ! そんなものより、ユウの買い物いくよっ! 帰りにこのデパートで、メタモルバトルするんでしょっ!」
僕の襟を掴んでぐいっと引っ張られる。
「うわっ! っとと、ご、ごめん! いやぁ、うちのところじゃ見られない程の上物ばかりで、つい見とれちゃって……」
「ホント、一体だれがこんなの買うのよね」
「大神家は絶対に買ってるだろ。ドラゴンタイプに使わなきゃいけない材料もあるし」
「とりあえず、さっさと買いましょ」
「あぁ、まずは缶詰コーナーに行こう」
その後、メールの買い物メモに書かれた物を集めて、レジに通して行く。
「合計4083円になります」
後200円あれば1000円単位になると言う事で、李奈がチョコのお菓子を加えた。その分はちゃんと自腹してくれている。
僕はお金を支払い、買った物をマジックバックへ詰め込んで行く。
このバックは見た目に反して、中がかなり広い異次元になっている。
色んなサイズがあるが、僕のバックは半径10メートル分も入れられる。
それにどんなに詰め込んでも、その重さを感じないと言うすぐれものだ。
1800年代頃に発売されてから、これが一般的に普及し始めた。
周りに居る主婦全員がこのマジックバックと言うくらいだ。普通のバックを使っている人って、今いるのかな?
それとバック以外にもポーチやカバンだとか、種類も豊富になってきたな。
今朝、背負っていたランドセルもマジックバックになっているので、教科書や体操服とか全部詰め込んでも重くないので便利だ。
「くじ引き券は4枚か。1枚上げるよ」
「えっ? でもそっちのお金で買ったものだし……」
買ったお菓子のチョコスティックをさっそく食べている李奈へ、くじ引き券を1枚渡した。
「別にそのお菓子を買わなきゃ、その1枚なかったんだし。お菓子はそっちでお金出したからね。それにみんなでやってみようよ。誰が1番運が良いか勝負しようよ」
「えへへ~、負けないのっ! 今年良い子にしてた分の力を、このくじ引きの運に使うのっ!」
「アタシってくじ運ないのよねぇ。まっ、杏子に期待しているわよ」
「賞品なんだろうな。行こうか」
そうして、僕たちはブルーエリアのホールまで行き、くじ引き会場へ辿り着いた。
「えーっと、1等は……。車かぁ」
「車ねぇ……。持ってても使う機会ないだろうし、置いてあって邪魔になるだけよね。でも、持ってる人は持ってるわよねぇ」
母さんたちは当たると喜ぶんだろうか?
「あ? あぁーっ!? ドリペンちゃんのぬいぐるみがあるのーっ!」
杏子ちゃんが、興奮気味に大声を上げてはしゃいでいる。
何事かと2人でびっくりしたが、杏子ちゃんが指を指した方を見ると、景品の5等があの大きなドリペンちゃんのぬいぐるみだった。
「あらっ! アレは当てなきゃねっ! 杏子っ! がんばって!」
「うんっ! 当たりますようにっ! 絶対に当たりますようにっ!」
杏子ちゃんは持っているくじ引き券に真剣にお願いをしだした。
こうなると、5等当てなきゃな。
他の景品を見て見ると、温泉旅行ペアチケット、高級お肉、なんか有名な人が作ったみたいな金の鎧、そしてミックスジュースに使うユニコーンの角がある。
僕はユニコーンの角が欲しいな。アレを当てたいな……。
でも、2人が欲しがっているドリペンちゃんも当てたいな。
僕が3枚、李奈と杏子ちゃんで1枚ずつの合計5枚。
「さて、誰から行くか?」
「アタシはくじ運がないから最後でいいわよ」
「いっぱい持ってるお兄ちゃんから行くのっ!」
っと言う事で、僕が先陣を切る事にする。
最初の1枚を渡して、ガラガラと廻すくじ引きを廻し始める。
なーにが当たるかなぁ。
5等のドリペンちゃんのぬいぐるみ当たればいいなぁ。李奈も杏子ちゃんも喜んでくれるし。
でも、出来ればユニコーンの角を……。
コロッ。
っと出てきた球を見て、アレ? っと思った。
なんか銀色しているけど、こう言う色って大当たりっぽいんですけど……。
「おっ? おぉっ! おめでとうございますっ! 大当たりですーーーっ!」
カランカランカランカランッ!
くじ引き係の人が、大声を上げて手に持ったベルを盛大に鳴らし始める。
「ユウっ!?」「お、お兄ちゃんっ!?」
ちょ、ちょっとまて! こんだけ大げさだから、本当に大当たりだなこりゃ。
な、何等だっ?
え、えっとー、銀色のはー……。
「2等のアンジェシカ・ケーニックの力作、宝石金装飾品のルビーと黄金の鎧が当たりましたーっ!」
2等っ!? お、大当たりじゃないかっ!
って、なんだその、えーっと……。ケーニックなんたやらの作ったルビーの金鎧って……。
「なんですか? そのルビーの黄金と鎧って?」
「えっ? えーっとですね。アンジェシカ・ケーニックはケーニック宝石店の社長の娘で、16歳という若さでありながら、天才的なデザイナーとして有名な方です。その方が今回、日本1号店のあるこのドリームペンシルの1周年を記念して作られたのが、このルビーと黄金の鎧です。値段はなんと6500万もする高級な鎧です。余りの高額な物で、実物が此ところにはありませんが、こちらの写真がその鎧です」
そう言って賞品紹介の壁に貼ってあった写真には、ルビーが施された黄金の派手な鎧が映っていた。
「6500万円って……。ま、マジですかっ!?」
当てたの? そんな高いもの当てたの? 僕が? は、はー……。マジで?
「り、李奈、杏子ちゃん、こ、これは夢か?」
「知らないわよっ! 6500万って……」
「2等がそれだけすると1等の車はいくらするの?」
「アレは高級車で1億2000万円ですよ」
「倍もあるのかあれっ!?」
ディスプレイに彩られた車を見て、愕然とした。
確かに看板に1億2000万と書かれてるや。アレが当たったら、母さんたち本気で大喜びしてるかもなぁ……。
で、でもそれでも6500万の鎧が当たってるんだから、これはこれで喜ぶよなぁ。
「……って、どう使えばいいんだその鎧って……。鑑賞用にするしかないだろうけど、家に置いておいたら怖いんだけど。店に飾ってあったら、絶対に強盗がくる」
「あ、この鎧は特殊マジックリングで収納しております。その特殊マジックリングは契約者以外の物に使えないように設定することが出来ます。もし、契約者以外の物が使用した場合、鎧は手元から消えて、警察盗難所へ移動され保管されます。契約者が役所で解約の手続きをしない限りは、誰にも手にする事ができず、盗まれる事は絶対にありませんよ」
そうかぁ。
そう言えば、こう言った高級防具って、そう言う仕組みがされているんだったな。
昔の物は結構盗難が多発していたが、今はこの管理方法で盗む人はいなくなったな。
そうは言っても、持ってると怖いな。
それとマジックリングとは、殆どの人が持っているマジックバックと同じ様に色々と収納できる頑丈な腕輪の事だ。
マジックリングは思った物を自分の周辺に転送したり、収納してくれたりできるとても便利なアイテム。
しかし、バックよりも入れられる容量がかなり限られるので、大体みんなの使い方は着替えたりメタモルバトルで使う時に使用している。
身につけている服やバックをマジックリングにしまって、武器や防具をその場で装着したり、アイテムを取り出して使ったりする。
大量のアイテムはバックにしまっておき、バトルに使う物はマジックリングに入れて使うと言う分け方を大体している。
また、変身解除薬なんかも手が翼や蹄になっていて持てない状態だったりする事も多い為、マジックリングに入れてある。
それを口元に転送して食べると言う方法で変身解除をしている。
「賞品は余りにも高額である為、此ところにはありません。このデパートにあるケーニック宝石店へ向かいください。すでにアナタがこの賞品を当てた朗報は伝達されています。いつでも引き取りができますよ」
「どうするの? ユウ?」
「んっ? んー……。と、とりあえず、残りのくじ引きやってから行くか……」
「そうね。次、誰が行くの?」
「お兄ちゃんが全部、運を使いきっちゃってるよね」
「は、はは……」
「なら、アタシが行くわ。くじ運がないから、アタシで幸運のリセットできればいいけど」
そう言って李奈がくじ引き券を渡して、ガラガラを廻す。
ぽろっと出たのは、白い玉だった。
「残念でした。ハズレになります。またご利用ください。ありがとうございました」
係員からもらったのは、このデパートで使える食品100円割引券だった。
「ざっとこんなものよ。アタシってこう言うの当たった試しないのよねぇ」
李奈は遠い目をしていた。
「お姉ちゃんの敵はワタシが取るの!」
「あっ、杏子ちゃん。僕の余った2枚とも使って良いよ。たぶん、廻してももう良いの出ないと思うから」
「わかったの! 頑張ってくるの!」
そう意気込んで今度は杏子ちゃんがガラガラを廻す。
1回目は李奈と同じハズレ、そして2回目もハズレだった。
「うぅ、運がないの。お兄ちゃんにワタシの分も持ってかれてるんだよきっと……」
「ご、ごめんね。なんていったらいいやら……」
「だったら! 今、運が良いお兄ちゃんが廻すのっ! 元はお兄ちゃんが廻すハズのくじ引き券だったから、ワタシが廻しちゃダメなんだよきっと」
「えぇー……」
そう言って僕の腕を引っ張ってガラガラの前に立たせた。
「頑張ってくださいね」
係員が僕たちのやり取りを見ていて、半笑いしながら応援してくれた。
「しょうがないな……。これでハズレても文句言わないでよ」
手をぶらぶらと振って、僕はガラガラの取っ手を掴んだ。
5等の大きなドリペンちゃんが当たりますようにと願って、さっき当てたように普通に廻すにしていく。
カランっ。
そう出てきた色は、黄色の玉だった。この色は確か……。
「おめでとうございますっ! 4等の温泉旅行ペアチケットですっ! 当たりを2回引くとは運がいいですねお客さんっ!」
4等かぁー。5等のドリペンちゃんより上だから、運が良いんだろうか、それとも悪かったんだろうか。
僕は2人を見ると、微妙な顔をして拍手を送ってくれている。
「ご、ごめん」
「しょうがないよ。運だもの」
「そうなの。欲に負けちゃダメなんだよきっと」
しかしそうは言うものの、名残惜しそうに2人はドリペンちゃんのぬいぐるみを見ていた。
ほ、本当にごめん……。
「あ、あのー。この4等を5等に変えられませんか?」
「申し訳ありません。規則や他のお客様への公平を守る為に、そう言うお取引はできません」
「ですよねー……」
僕は係員から温泉旅行ペアチケットを貰った。
場所は、温泉地として有名な大恩町か。こっからかなり遠い場所で、メタモルフォーゼして飛んで行くにも1日かかっちゃうな。リニアモーターカーを使わなきゃいけないところだな。
山に囲まれた温泉町で、あらゆるところに温泉が湧き出ている。それがどこの温泉も入り放題と書かれている。
3泊4日の旅館泊まりで、朝晩の食事付き。こりゃ豪華だなぁ。
母さんたちが喜んでくれそうだ。
「いやー、ごめん。当てられなくて」
「いいのよ。元はユウのお金で貰ったくじ引き券なのだから」
「ドリペンちゃんは、クリスマスのサンタさんに頼むの。最初はそうお姉ちゃんとそんな話をしていたから大丈夫なの」
「それよりすごいわね。当たりを2回。そのうち1つは、6500万もする大当たりよ」
「明日、学校のみんなに言って自慢しちゃうの」
「や、やめてくれ。恥ずかしい」
僕たちは、2等のルビーと黄金の鎧を受け取りに、ケーニック宝石店へ向かった。
僕は誰かに付けられてはいないかと、少し歩くたびに後ろを振り返ってしまっていた。
でも、なんか付けられている気配を感じてるんだよなぁ。これは、慣れない事が起こっているから錯覚しているのか?