ユカリの書 第2話 ユカリたちの戦い ― 3 ―
私たちは闘技場へと上がって行った。
「ユカリちゃーーーーんっ!」
お姉様を真っ先に見つけた。っていうか、あの声は目立つな本当に……。
「よっしゃ。アタイの本気見せたるでぇっ! 覚悟しておきやっ!」
「こっちだって。容赦はしない……」
そして互いにミックスジュースを飲んだ。
私が造ったミックスジュースは、デッドシャウトミュージシャンと言うヒューマンタイプだ。
音楽による攻撃などができる他、自分や仲間への補助効果のある曲を流したり出来る特殊能力を持っている。
衣装はもちろんハードロック系の皮ジャン衣装。髪型も色もそれ見合う柄に染まっている。
そして武器は奇抜なデコレーションされたエレキギターを手に持った。
「熱いビートを聴きたいかオマエラーーーーっ!!」
私はその場で叫んだ。
なーんかこのメタモルフォーゼって自分の性格も少し変わるのか、かなりノリノリになれるので楽しい気分になる。羞恥心も消し飛ぶ。
『イエェーーーーイッ!!』
会場の観客も私の声に反応して声援が送られる。
周りが盛り上がれば盛り上がる程、自分にも気力がわいてくる変な特徴もある。
「おぉっ! そないなもんも使えるんかい。ユカリちゃんって……」
そして対戦相手のアンジェシカは、人間だが蜂の姿をしていた。
お尻は蜂の毒針があるプリッとしたおしりが付いていて、ピコピコした触角、ブンブン音をたてる透き通った羽も付いている。
しかしそれだけではなかった。
「なんだその防具?」
装備していた防具は黄金だと言わんばかりの輝きを放ち、エメラルドの宝石がいたるところに飾り付けられている。
「アタイは宝石店の社長の娘やねん。そしてここのモールにあるケーニック宝石店の店長代理もやっておるんやでぇ。アタイの防具はそん所そこらの防具とちごうて、ごっつう強いでぇ。生半可な攻撃なんて全部跳ね返したるっ!」
なんというハデで恥ずかしい防具だ……。
あんな防具を使う人はバカで普通は戦闘に使う物じゃないと思っていが、こうして目の前にいるもんなのだな……。
「ぶわっくしょいっ!!」
「うわぁっ!? もうー、またなの?」
「うぅ……、ごめん」
「ユウくん、花粉症にでもなったんじゃないの?」
「えぇー……。イヤだなぁそれ……」
「しかしアレやな。そちらがボイス系で来るとなると、アタイのこの防御力ってあんま意味なくなってしもうたな……」
そうだな。相性がかなり出たな。
見た目はアレだけれど言う程の防御力があるなら、並大抵の武器では通用しなかっただろう。
このメタモルフォーゼは主に聴覚への精神的攻撃を行う。
なので物理的防御力が高くても攻撃がとても通りやすい。
こういう場合は特殊系防御力を上げるために、紋章や魔力が込められた物が付属された防具を着てなきゃならない。
あの反則的に硬い鱗を持つ大神戦にも効果があるだろうと思って、これを造って戦う練習も色々としていた。使う機会が結局無かったけれど。
『両者、準備はよろしいでしょうか?』
「おぉっ! いいでぇっ! ボイス系やって、アタイの攻撃に耐えきれるか見せてもらおうやないかっ!」
「やってやるぜっ! イエァアーーーーーーッ!!」
私はテンションを最大限に上げた。
『それでは、メタモルバトルっ! ファイトっ!』
その合図と共に手に持っていたギターを弾き始めた。
上手く奏でる程に相手に与えるダメージの強さが変わってくる。
ジャンジャンジャンジャンーッ♪
なのでギターの練習は結構したのだけれど、まだまだプロとは言えない並みな腕前なのでそれほど強くはない。
アンジェシカも余りダメージは受けていなようだった。
だったらもっと強くしていく。
『抱きしめてきたアナタの心が 私の全てを包み込む 耐えがたい苦痛 闇の中にいる孤独 アナタは助けたいと腕を伸ばす……』
私は歌い出した。曲と歌を同時にすると、効果は倍増していくからだ。
ちなみにこの曲は自作でもある。
私がお姉様と出会い、改心させられた頃の気持ちと感情を歌っている。
「うぉぉっ!? なんて強さやっ!」
気持ちを込める程に強くなるので、その強さが相手に相当なダメージを与えている。
「イェーイッ! ユカリちゃんサイコーッ!」
お姉様もノッテくれている。
私の調子もドンドン上がって来て、曲が盛り上がって行く。
「くっ! やられてばかりでいられるかいなっ!」
耳に手を当てて耐えていたアンジェシカが、攻撃に転じた。
取り出したのはガトリング砲だった。
ヤバッ!
「ハチの巣に慣れやぁーっ!」
ズダダダダダダダダダッ!
私は歌うのを途中で止めて、その攻撃を避けた。
なんとか最初は避け切れたが、後から何発か体に当たってしまう。
さすがにあの弾数は避け切れないか。
マジックリングから体を覆う程の盾を取り出して、その射線から隠れた。
ズガガガガガッ!
まったく……。これを持ってなければ危なかったな。
盾が大きすぎる為にマジックリングの収納量を圧迫するのだが、何かとやっぱり役立つな。
父のメタモルフォーゼ、戦闘型ロボット『ビルドゲル』もガトリング砲を3つ備えたヤツだからな。さんざんやられてきた為に、どうしてもこの盾が手放しにくい物になっている。
そして父との戦いの経験から、このような戦い方には慣れている。
ガトリング砲が長く打ち続けてられてないのを知っている。
余りの連射の火力に重心がオーバーヒートしすぎて使い物にならないよう、一端射撃を止めて冷却する為にしばらく打てない時に大きな隙ができる。
ズガガガガガ…………。
その被弾の音が切れたのをチャンスに、私は盾から身を出してすぐさま反撃を開始する。
『デストローーーーーーイッ!!』
ギュイィーーーーーーンッ!!
ものすごい大きな声とギターの音で衝撃波を飛ばした。
「うわぁーっ!?」
その衝撃にアンジェシカは吹っ飛んで行く。
『ファイヤーーーーーーッ!!』
ギュィンギュィンギュィンッ!!
立て続けに私は衝撃波を飛ばして行く。
「くっ! んにゃろおぉーっ!」
その衝撃波を飛んで避けられた。
再びガトリング砲がの銃口が廻り始めるのが見えた。
あんまり盾ばかりに頼っていてもアレだな……。競技用なので、耐久力が低めであるのだ。
『いつかこの思いを伝えたい 君が戻る時 その日を待ち続ける』
補助系となるバラード系を演奏をして、私の周りに防御結界を造った。
ガンガンガンガンガンッ!!
その防御結界に弾が被弾していく。かなり強力なのでガトリング砲でもそうそう滅多に壊れないだろう。
しかし歌い続けている間、こちらの攻撃が一切出来ない。
盾越しから反撃に転ずるのに対して、こちらは完全に防御に周るしかできない。
もう少し相手に弾を使わせる為に、しばらくはこちらの防御を使うか。
「むぅっ! 強いなその結界は……」
アンジェシカはガトリング砲をしまうと手に取ったのは、様々な文字が刻まれ、宝石が散りばめられた大剣だった。
「普段は接近戦なんてせぇへんけど。こうなったらしゃーないっ!」
上空から勢いよく降下し、突撃してきた。
そして私の防御結界にその大剣を突き入れると、バリーンッ! と1発で壊れた。
「くっ!? その剣は特殊なタイプか……」
見た目からして、魔法剣だろうな。
私の魔法結界を打ち消す能力でも持っているのだろうな。
『ダァーーーーッ!!』
気合を込めて衝撃波を放った。
「なんのおぉーーーーっ!!」
アンジェシカは気合と大剣でその衝撃を受け止め耐えた。
「くらえやっ!」
そして剣をこちらに振りまわしてくる。
ガキンッ!
その攻撃をギターで受け止めた。
「こんにゃろぉーっ!」
そのギターを真っ二つにしようと、大剣を押しこんでくる。
「アマいっ……」
武器が交差した状態のままに私はギターから手を放して捨てた。
すぐさまアンジェシカの顔面へ向けて殴りにかかった。
「なんやっ!? ゲファッ!」
殴られた痛みに後ろにのけぞった。
その隙を逃さずにマジックリングからサブマシンガンを取り出す。
「はぁっ!? マテやっ!」
ズガガガガガガッ!
鎧の隙間を狙って撃っていく。
「いつっ、くぅっ!」
アンジェシカは慌てて盾を取り出して、攻撃を防いだ。
『闇の底から私を拾い上げてくれてくれた 温かな気持ちが全てを塗り替える 閉ざされた心に明かりを灯す……』
空いている左手にマイクを持って、再び歌い出す。
歌は盾なんて貫通して、ここまで接近した状態であればかなりのダメージになる。
「くぁーーーっ!! やってもうたぁーっ!」
サブマシンガンで撃ち続け、歌う2つの攻撃を同時に行う。
しかしサブマシンガンもそろそろ弾が切れて、リロードしなくては行けなくなりそうだな。
その前にこれで止めを刺すっ!
マジックリングから手榴弾を私の目の前に出した。もちろん競技用に爆破力は抑えられた正式な武器だ。
その手榴弾をアンジェシカ目がけて蹴り飛ばした。
「ひ、ひどいわこんなっ!」
アンジェシカは必死にその場から離れようと飛ぼうとした。
そうはさせるかっ!
お姉様……。これは私の気持ちですっ!
『ありがとおぉぉぉぉぉーーーーーーっ!!』
ズドンッ!
「アウチッ!?」
今までにない気合で衝撃波を飛ばしてアンジェシカに当てた。
バランスを失い、飛ぶ事に失敗して床に倒れた。
致命的となる距離まで届いた手榴弾を、サブマシンガンで撃ち抜いた。
ドーーーンッ!!
「あぁーーーーーーっ!?」
やったか?
爆風がおさまったそこに居たアンジェシカを見ると、元の姿に戻っていた。
『勝負ありっ! 勝者、櫻井 縁選手っ!』
『ワァーーーーッ!!』
『オーケェーッ! みんな、ありがとうーっ!』
ギュイイイイイィィィィィィーーーーーーンッ!!
観客の盛り上がりに、ピックスクラッチでエレキギターを奏でた。
普通はそんなアピールとかしないけのだけれど。やっぱりこのメタモルフォーゼ、なんか性格が変わるな……。
「あー、やられてもうたわぁ。ユカリちゃん、攻撃方法が多彩やね。あの場面で殴りにかかってくるなんて普通はしないわぁ」
「利用できる物はなんでも利用して、あらゆる物を駆使して戦わなきゃ」
「やっぱ兄妹やな。いやー、まいったわぁ。良い勝負やったで。ありがとうっ!」
手を出しだしてきたので私はそれに答えて、握手をし返した。
観客席のエールの中で、私たちは闘技場から降りたのだった。




