ユカリの書 第2話 ユカリたちの戦い ― 2 ―
斎藤が負けたか……。
サイキック系のヤツらは結構厄介な相手だ。
私も手を焼く事がある為、色々と戦う策はもう考えてある。
しかし斎藤は戦う手段を考えてなかった為に、一方的にやられたようだ。
やはり事前の情報収集と対策を取らなければ、戦いと言う物は相性差で随分と差がでるな。
「やったっ! 吏子ちゃんが勝ったーっ!」
モニターで試合を観戦していた女の子が、相手の勝利に喜んでいた。
友達かな……。
ポーンっ♪
私が持っているフロントから受け取った端末機がなった。
対戦相手が決まったのだろうな。
『ランダムセレクトの対戦相手が決まりました。アンジェシカ・ケーニック。女性、年齢16歳。対戦を許可いたしますか?』
え?
この画面に出てきた顔写真は……。
さっきたこ焼きでクレーマーを出して、さらに怪しい宝石店に出入りしていた……。あの外国人の女子だった。
マジか……。そんな人とまさか当たるのか……。
しかしやっと出会えた私と釣り合うレベルの者。これを逃してまた待つ時間がもったいないし、とてつもなく暇だ。
早く戦いたい気持ちはあるが……。相手をすれば確実に何かある。
お姉様たちがいるこの状況で、危ない事には巻き込みたくないし。うーむ……。
しかしこうして情報がないままにしておくのも、いざ何か起きた時に対策が取れなくて一方的に負けてしまう。斎藤の様に……。
少しくらい相手の事を知っておいた方がいいか。
よし……。やるかっ! 私は対戦の許可を押した。
相手がどんなのであれ、私はお姉様たちを守って見せるっ!
私がそんな事をしていると、斎藤が選手控室に戻ってきた。
「どんまい」
「いやぁ……。負けてしまいましたね」
「対戦相手の攻撃は、そんじょそこらの人には出来ない程のサイキック系の使い手だった。さすが斎藤と当たるだけの実力者だな」
「本当に子供ながらすごい使い手でしたよ。さっきここに戻る前にメール交換とかしました。よかったらいつかまた再戦をしたいと申し込んだら、よろしくお願いしますって。とてもいい子でした」
その子もさっき観戦して喜んでいた女の子と、キャッキャとはしゃいで勝利を祝いしていた。
「おぉっ! 李奈ちゃんっ! 今日もここにバトルしに来てたんかっ!」
この声は……。
斎藤もその声に反応して一緒に振り返った。
「アンジェお姉さんっ! そうよ。あ、この子はクラスメイトの友達よ」
「初めまして。羽澄 吏子です」
外国人女子は、あの李奈って女の子と知り合いか。
「おぉっ!? デカッ! なんやそのおっぱいはっ!!」
いきなり注目したところはそこか……。まぁ私もそう思ったけど。
「あ、あはは……」
「吏子ちゃんはグラビアモデルの仕事をやってるのよ」
「へぇー。そんな大層な物もっとったらえぇ仕事ができそうやないか」
セクハラオヤジかあの人は……。
…………アレ?
そう言えば李奈って言われたあの女の子……。
なんか見覚えがあるな……。
「……?」
っとその李奈をじっと見ていると、こちらに気が付いて相手も私をじっと見てきた。
さっき志村と呼ばれた人が言ってた通り、こうして見続ける癖は直した方がよさそうだな。
「あっ!? あぁーっ! 学校で大神にケンカ売った女の子っ!」
「ん? どないしたんや?」
外国人女子も李奈の驚きように、私たちの方を向いた。
「おぉっ! あのユカリちゃんやないのっ!」
「えっ?」
ナゼ私を知っていると疑問に思ったけれど、さっき対戦相手の顔写真を見てるから、私を知っていてもおかしくはないか。
そうして私たちの方へ近づいて来て話しかけてきた。
「あの涼さんの妹にゃ思えんわなぁ。なんてちっちゃいかわいらしゅう子や」
って、兄さんと私の関係を知っているし。
やっぱり宝石店前の出来事は、兄さん関係の事だったんだな。
「アンジェお姉さん。その子と知り合い?」
「知り合いっていうか、知ってるっていうんかな。桜咲小学校の戦い、アタイも見たで。あの大神を倒すなんてすごいなぁジブン」
あの桜咲小学校の戦いの事を知っているか。映像はまだ一般公開はしていないから、こうして見れるってことは、酒呑とも関わりがある人か。
「え? あの大神を倒したって……」
「せや。なんとそれもたった一撃の斬撃でやで。すごいわぁこの子」
「すごーいっ! あの大神を倒しちゃう子なんてぇっ!」
なんか3人で私を囲んできた。
「どうやって倒したの? そのコツを教えてほしいわ」
「わ、私も知りたいっ! お願いしますっ!」
「お願いよ。いつかあの大神と遣り合う日が来るから、その為に大神を倒した方法を教えてほしいわ」
「え、えぇー……」
いきなりなんなんだこの人たちは……。
しかも大神と戦うって……。
この2人も兄さんが言っていた組織のメンバーなのだろうか?
「え、えっと……。新技で倒した。まだ名前を付けてないけれど……。侍のメタモルフォーゼを使った。刀でかまいたちする方法で大量の錬気を一気に放つ。貫通する斬撃で中の柔らかい肉体を斬った。でもそれが使えるミックスジュースじゃなきゃ、この技は出せないから」
「新技っ! いいわねぇ。アタシも虎娘のオリジナルミックスジュース造れる様になったら、色んな技を造っていきたいわぁ」
「私もぉ。次の斎藤さんとの戦いでも、もう対策されてるだろうから、新しい技を増やして行かないと」
「そうですね。次はきっと対策をして参りますよ」
戦いによって友達が増えると言うが、斎藤とその女の子とは相性が良いのだろうか。もう随分と打ち解けあってる気がする。
「おっと! そうや、自己紹介忘れておったわ」
「別にアナタは知っている。アンジェシカ・ケーニック。私の対戦相手だし」
「あ、せやったな。そうそう、涼さんには色々と聴いてると思うけど、アタイもそこの物やで。こっちに来る事になったら、アタイにお世話になる事も多くなるでぇ。よろしゅうな」
「そうか。ならその時はよろしく」
「何の話しよ?」
「李奈ちゃんたちにゃ、教えられん話しやわ。すまんな」
この子たちは関係ないのか。まぁ子供がこんな事に関係があったら危ないな。
私は生まれた時から色々と裏社会の関係が深いから別に問題はないが、一般人の子供なんて巻きこんだら大変だ。
『試合待ち番号22番の方。櫻井 縁様。アンジェシカ・ケーニック様。準備控室へお越しください』
っとアナウンスで呼ばれた。
「お、もうか? 今回早いな」
「私が先に登録してかなり待ったせいもある」
「ガンバってアンジェお姉さんっ!」
「ガンバってくださーいっ!」
「ユカリさんもガンバってくださいねっ!」
私たちはみんなに見送られながら準備室へ入った。
「さてと……。ユカリちゃんはあの侍を使うんか?」
「別にどれでも使うけれど……」
「オールマイティーなタイプかぁ。でもよかったら、あの赤毛の侍と戦ってみたいわ」
あの侍か……。しかしそうすると私の戦い方はバレている。
「イヤだ。私の戦い方を知っているから、対策をとられてるハンデなんて付けたくない」
「えー、そうかぁ……。まぁそないやったらしゃーないわ」
しかしあの侍を使おうと思っていたのに、違うミックスジュースにしなければならなくなったな。全く……。
何でいくか……。
造り置きしてカバンに入っているミックスジュースの中から使ってもいいが……。
そうだ。まだ実戦で試してなかったあのミックスジュースを造って戦ってみるか。
私はカバンからウィッチポットを取り出すと、ミックスジュース製作の準備に取り掛かった。
「え? 今から造るんか?」
「だって急な話だったし。他のミックスジュースは一応持っているけれど、質レベル的に並みばかりで造った。そこらの低レベル相手用に造った遊び感覚のしかないし」
赤カブ、レンコン、オレンジ、ライム、アセロラ、ウナギの血、鶏の羽、蛇の抜け殻などなどを適量に計って、ウィッチポットへ次々に入れて行く。
「手際がえぇなぁ」
「造りなれているから」
私たちの試合の方も後少しで始まりそうだ。急がないと。
しかし焦らずドラムを鳴らし始めた。
曲名は『beginning』で明るくテンポが良い普通レベルの曲だ。
時間的に長すぎる難しい曲をやってる暇もなさそうなので、短めの曲を選択した。
ドドドっ♪ ドン♪ ドドンドンドドドンドンっ♪ ドンドン♪
ボフッ!
っと完成したミックスジュース。奏でた曲の難易度はアレだが、出来は上々だろう。
「ホンマ上手いなぁ造るの」
私は天才と言われたミックスジュース研究者の血を受け継いでいるみたいだからな。
あんな母親の血がな……。
「で、どんなの造ったん? 材料だけじゃ判断できんかったわぁ……」
「教えない」
この人は情報収集をするタイプの人か。
まぁ私もそうなのだけれど……。
私は相手の身なりや性格、口調からして、かなりランクの高い武器や防具を使ってくると予想している。並大抵の武器で挑んでも通用はしないな。
アンジェシカに見えないように個室へ入って行き、マジックリングの中身を入れ替えて行く。
侍として戦う用だった武器や防具を変えた。
これで準備よし。
戻ると前の人たちの戦いも終わって、私たちの出番がやってきた。




