ユウの書 第1話 9歳かこの子? ― 2 ―
今朝は子供らしい子になろう。
そう思ってみんなが遊んでいるところに入ろうかと思っていた。
けれどお店の休日は月、火曜日なので土曜日もお店はやっている。土、日曜日に休みを取る時は、事前に張り紙を出して休みを取る事はある。
土曜日は出勤や休日の人も入り混じるからか、スーツ姿のOLの人や、私服姿のおしゃべりしに来た女子中、高校生の人、男女のカップルから、近所のおばさんと、色んな顔ぶれがいる。
平日よりもお客様の入りが多いので、母さんとアルバイトを入れても忙しそうだった。
僕もお昼時の忙しい時間にお店の手伝いに出て、オーダーされた品を運んだり、食材を出したりとしている。
母さんは遊びに行っておいでと言うけれど、やっぱりほっとけない。
明日はみんなと遊園地で遊びに行ってくるから、今日は手伝うと言いきってやっている。
まぁ1日くらい、今朝思った事は実行しなくていいよね。
時間をかけて行こう。時間を……。
「6番テーブルから追加注文です。エメラルドマウンテン2つ、ブルーベリーパイ1つ、パイはすぐにお出ししていいそうです」
僕がカウンターで紅茶を入れていると、可愛いフリル付きのエプロンをひらひらとさせながら女性の人が伝票を持ってきた。
この人はここにアルバイトをしに来ている蒼井 海流さん。18歳。
海流お姉ちゃんとは僕が生まれた時からの付き合いだ。
僕と李奈、杏子ちゃんの面倒を昔からよく見てくれるので、僕たちはお姉ちゃんの様に慕っている。
実は海流お姉ちゃんは、海斗兄ちゃんの義理の妹だ。
血の繋がりは無くて、親同士の再婚で義理の兄妹となっている。
海斗兄ちゃんのお父さん、海流お姉ちゃんのお母さんが亡くなって、未亡人同士で再婚した。
「おっ、蒼井ちゃん。今日も可愛いね」
「ありがとうございます♪ あっ、そうだ。明日ユートピア遊園地で私のライブコンサートをやるんです。もしよかったら……チケットがあるので買ってもらえませんか?」
そして海流お姉ちゃんはアイドル事務所に所属している。
高校を卒業した後は進学はせずに、アイドル活動の仕事を選んだ。
まだ安定したアイドル活動のお仕事が入ってないので、こうして高校入学時から続くここでのアルバイトは、海流お姉ちゃんの生計を経てるのには必要な仕事になっている。
母さんに会いにお店に来る人も多いが、海流お姉ちゃんのシフトが入っている日は、海流お姉ちゃん目当てに来る客も最近は多くなったなぁ。
「え? 本当か? あちゃー、明日は予定が……」
「そっかぁ。それじゃぁまた今度よろしくお願いしますね」
今日で何回目だろうか。こうやって断られたのは……。
でもそれでもめげない海流お姉ちゃん。ガンバってほしいな。
「海流お姉ちゃん。9番の出来たら持って行って上げて」
僕はさっき淹れた紅茶を出す。
母さんを見たがカウンター席を切り盛りしていて忙しそうだな。
ならさっきの注文のコーヒーは、僕が淹れるかな。
「9番ね。アレ? コーヒーはユウくんが淹れるの?」
挽いたコーヒーの粉を取り出してるところを見て、海流お姉ちゃんが話しかけてくる。
「ん? そうだよぉ。先日、合格をやっともらってねぇ。僕でも淹れて出せるようになったんだよ」
「紅茶に加えてコーヒーまで……。ユウくんって小学生に見えないよね。普通だったら家でゲームとか、友達と外に遊びに行ったりしてるのに、お店で働いているのってユウくんぐらいだよねぇ」
うぐっ!? ま、また言われてしまった……。
やっぱりもうちょっと僕は、自分の行動を見直した方がいいのかもしれないな……。
「だ、大丈夫だよ。これから少しずつ直していくからさ」
「直す? あっ、ブルーベリーパイ、1つ出しちゃうね」
海流お姉ちゃんが冷蔵庫からブルーベリーパイを出して、お皿に盛りつける。
ちなみに母さんは、カウンター席のお客様とおしゃべりしている。
その間も注文された軽食を作っていたりとしているが、こうして常連のお客様とおしゃべりするのも仕事だ。
なのでテーブル席の方はアルバイトの持ち回りになる。
……ありゃ? さっきの注文で挽いてあるエメラルドマウンテンがもう無いな。新しく造って置かないと。
コーヒー豆をグラインダーに入れて、コーヒー豆を中挽きしていく。
うちのコーヒーはサイフォンでわざわざ1つずつ造る手間暇かけた物だからなぁ……。
サイフォンのてっぺんにあるロートに挽いたコーヒーを粉を入れて、事前に温めてあるポットのお湯をフラスコに注いでいく。
そしてフラスコにアルコールランプの火を掛けて沸騰させていく。
お湯がロートの方に上昇してきて、それが上がり切らないようにべらで粉とお湯を馴染ませるように素早く円を描くようにかくはんしていく。
「うわっ……、小学生がやるような光景に見えない。子供のおもちゃじゃないよそれ」
「あ、あはは……。でもね、これも僕にはおもちゃの様な物だよ。このおもちゃ。本当に感覚1つの違いで、味が何百通りにも変わるもん」
「子供はジュースとかスパゲティとか、単純な味に満足してなさいよ。コーヒーの味に目覚めるユウくんは、本当に変わってるわよ」
……これは本格的に直していかないといけないみたいだな。
火を弱火にしてそのまましばらく置いておいてコーヒーの粉から味を抽出していく。
そして火を止めるとロートに上がっていた味が付いたお湯が、下にあるフラスコへゴボゴボ落ちて行く。
これが理科の実験みたいで面白いんだよなぁ。
それにこれはパフォーマンスにもなるので、僕のを見て楽しんでくれるお客様も結構いる。
「はい、エメラルドマウンテンができたよ。もってって」
後は海流お姉ちゃんでも、カップに注ぐだけなので任せる。
グラインダーに入れたコーヒー豆が挽き終わったので、そちらの作業をしよう。出来たコーヒーの粉の香りを嗅いで、良しとうなずく僕。
これらの一部始終を見た初めてお見えするお客様の目も、なんだか宇宙人でも見たように目を見開いているし……。
やっぱり直さないといけないなぁ。でもこの店の名物として、僕の仕事ぶりも定着してはいるんだよなぁ。
「へっくしょいっ!?」
「わぁっ!! ユウくんっ! 急にビックリさせないでよね。こぼすところだったじゃない」
「ごめん、海流お姉ちゃん。えーっと……、なんだろな。コーヒーの粉でも鼻に入った?」
やっぱり僕が変だから、うわさをされているのかもな。
海流お姉ちゃんは注文されたエメラルドマウンテンをオボンに乗せて持って行った。
それで僕はっと……。お湯が少なくなってきてるから、追加して温めておこう。
あぁー忙しいな。でもこう『自分にしかできない事をやってるぞーっ!』感が好きなんだよなぁ。
……やっぱり、僕って変わってるかな。




