ユカリの書 第3話 花音の試練 ― 2 ―
歓声がわき上がっている。
ここは……闘技場の上だった。私は闘技場の上にいる。
「おーおがみっ! おーおがみっ!」
多くの観客席の歓声は声は大神とコールしている。
「全く……。こんなザコとエキビジョンマッチをするだなんて、俺も安売りされたものだ」
私はその声がした方に振り向いた。そこには黄炎翼竜の姿となった大神が居た。
「お、大神っ!?」
「さぁ、俺の灼熱の炎で焼かれて灰になるか? それとも爪で体をバラバラに引き裂くか? それともその肉を食いちぎってやろうか?」
「あっ……あぁっ……」
「ぐふぇへへっ! そうだな。食ってやる事にした。オマエ、旨そうだからな」
大神の手が私へと延びてくる。
「い、いやっ!! やめてっ! もうやめてっ!!」
私はその場から必死に逃げようとした。
しかしなぜか体が動いてくれない。どうして? どうして動いてくれないのっ!?
大神の手に私の体は掴まれた。
「嫌ァーーーっ!! 放してっ! 放してぇーーーーっ!!」
「いいぞぉーっ!」
「そのまま食っちまえーっ!」
観客席の声がヒートアップしている。
大神が口を大きく開けて、私を飲みこもうとしている。
鋭い牙がずらりと並び、光を浴びてきらりと光る。
アレに何度も串刺しにされ、私の体は引きちぎられていくんだ……。
あぁ……、誰か……。助けて……。お願い……。誰か……。誰かっ!!
「いい加減にしろよテメェーーーーーッ!!」
「うごふぁっ!?」
「えっ?」
誰かの雄叫びと共に、大神が吹っ飛ばされた。
大神の手から離されて空中へ放り出された私は、地面へまっさかさまに落ちて行く。
その下に誰かが駆けつけてきて、私を受け止めた。
「ったく、大丈夫か?」
「あ、ありがとうございます……」
私はその助けてくれた人の顔を見上げた。
「えっ? えぇっ!? ユカリちゃんのお兄さんっ!」
「なげぇ名前で呼んでると舌噛むぜ。涼とでも呼び捨てにしろ」
涼さんが私を優しくおろしてくれる。
「くそぉ……。キサマっ! ぶっ殺してやるっ!」
「だーっ! うぜぇってーんだよこのブタ野郎がっ!」
涼さんがC4プラスチック爆弾を大神に向かって投げつけた。
大神に当たるとそれが大爆発を起こしていく。
涼さんはサイドバックから次々と取り出して、まだまだ爆弾を投げ続けていく。
「おらおらおらっ! どうした? それでも竜かっ! なさけねぇっ!」
「ひぃっ! た、たすけてくれっ! もうやめてくれぇっ!」
「うるせぇっ! さっさとその減らず口、止めやがれっ!」
涼さんは刀を2本出して、両手にそれぞれ持つと大神に向かって走って行った。
「そらっ! 切り刻んでやるよっ! オマエは好きなんだろっ! 切り刻むってのがよぉ! あぁっ? そらそらそらそらぁっ!!」
「ギャアアアアアァァァァァァッ!!」
そう言って大神の体をあっという間に次々と切り刻んで行く。
「すごい……」
「お姉様」
「え? ユカリちゃんっ!?」
その光景を見ていた私の隣に、いつのまにかユカリちゃんが立っていた。
「今度はお姉様が、アイツをブッ飛ばすの」
そう言ってユカリちゃんが私にミックスジュースを差し出した。
「私の造った特別なオリジナルミックスジュース。もう大神になんか絶対に負けない、最強のお姉様になれる」
「さぁって、オレはここまでにしておいてやるか。おい、花音っ! 止めを刺しちまえよっ!」
「ぶっ、ぶひぃいいっ!?」
涼さんの声に振り向くと、大神の姿はいつの間にかブタの顔をした人間になっていた。
「お姉様っ! 一発、得意のいっちゃって!」
「やっちまえっ! 花音っ!」
「……うんっ! 私の本気の一発、ドカーンって決めて上げるっ!」
私はユカリちゃんから受け取ったミックスジュースを飲んで、チャイナ姿の格闘家となった。
力がみるみる私に溢れ出てくる。これならあの大神にだって負けたりしないっ!
「く、くそぉっ! 覚えていろよっ!」
しっぽを巻いて逃げて行く大神に、高速移動で大神の前に回り込む。
「ひぃっ!?」
「全力全開フルパワーだよっ! もう空の彼方までふっとんじゃってよねっ! 気功爆炎波マァァァックスっ!! 大神のぉおおおおお、大バカぁあああああーーーーーーーーッ!!」
ドガァーーーーーーーーンッ!!!!!!
「ぎゃぁーーーーーっ!!」
大神は会場の壁を突き抜けて、空の彼方まで飛んで行ってしまった。
『勝負ありっ! 優勝はっ! 桜咲小学校っ!』
ワァーーーーッ!!
大声援と拍手喝さいの中に桜咲小学校の生徒たちを見つけて、私たちを祝福してくれていた。
私はその声に答えるように手を大きく振って答えた。
「花音、もう逃げるんじゃねーぞ。オマエには人を守れる大きな勇気と力がるんだぜ」
「涼さんっ!」
「じゃあなっ! ユカリの事を頼んだぜ」
涼さんが手をこちらに振りながら、会場を後にしていく。
その後ろ姿に……私は……ドキッとした!
「ユカリちゃーーーーーーーんっ!!」
「ぶっ!?」
その大声が家中に響いた。久しぶりに家中に響いたなこの声。
夕食を居間で取っていた私たちのところに、お姉様がドタドタと足音を立てて迫ってくるのがわかった。
バタンッ!
「おはようっ!」
「お、おはよう……」
お姉様がおかしい。えーっと、なんだこの状況は……。
「ねぇーっ! ねぇーっ! 聴いてよーっ! 私ねっ! 大神をぶった押したのっ!」
「……え?」
「涼さんが大神をねっ! 爆弾でドーンバーンッてやった後、刀で大神をバラバラにしたのっ! そしたら大神がブタさんになって、その大神を私が気功爆炎波でドカーンッ! って空の彼方まで飛ばしたのっ! そして大会に優勝しちゃったんだよっ!」
一気に説明を捲し立ててくるお姉様。
半分以上が理解できなかったが、分かった事は大神をぶっ倒した。
「おめでとう。お姉様」
「うんっ! ありがとうっ! 夢でも嬉しいよっ!」
まぁそりゃ夢だろう。それが夢じゃなかったらこの数時間の間にお姉様は、大神を倒しに外に出た事になる。
ずっと寝ていたのを確認して居るのでまずあり得ない。
「花音。体調はどうなの?」
「もう元気いっぱいだよっ! なんだか体が軽いんだよっ! 今なら100メートルも10秒で走れるくらいだよっ!」
「なぁ、母さん。なんか変な薬飲ませたか? 新しい薬でも医者から貰ったのか?」
お父様が尋ねる。
私も同じ質問をしたかったところだ。
「い、いえ。今日は花音から薬はいならないって言って、飲まなかったけれど……」
「えへへっ、ユカリちゃんっ!」
「あわっ!?」
椅子に座っていた私に、背中から抱きついてくる。
「ありがとう、ユカリちゃん。それとね。涼さんにも、ありがとう」
「もう……、少しは落ち着いて」
「えへへっ、ごめーん」
「お姉ちゃん、マジ元気だな……。その涼さんに何かされちまったのか?」
「涼さんには勇気をもらったんだよ。あぁ……、涼さんに会ってお礼がしたい。あっ、で、でも……、私、涼さんの顔を見れるかな……」
「顔を見る? また会いたいって事なら、ちょうどいいのが兄さんから届いてる」
「え? な、何?」
私はテーブルに置いてあった手紙を手に取った。
夕方に兄さんの仲間で頼まれたと言って家にやってきた人に、私へ直接渡された手紙だ。
「手紙の内容を読む。今日はみんなに迷惑かけたな。すまないと思っている。この経験がユカリや花音にとっていい方向に動いてくれる事を祈っている。花音がより症状が悪化したと聞いたら、すぐにユカリのところに行って、気が済むまで半殺しにされる覚悟をしている」
「すごい反省の仕方だね」
「私たちの反省は体罰と言うのが身に付いているから」
「そんな酷い事されてたの?」
「ヤクザじゃ辺り前。反省に小指を切り落とす事だってあるし」
「うわぁ……。ユカリちゃん、涼さんにそんな事しないであげてね」
「しないって。それより続きを読む。花音の病気を治すには、家に引きこもってばっかりいないで、外に連れ出した方がオレは良いと思っている。オレは無理にでも連れ出すけど、それはそっちの考え方に任せる。それでせっかく外に出るなら、楽しい場所がいいだろう。丁度良い処に義理の妹の海流が、今週の日曜日に遊園地でライブコンサートすると言っている。それで遊園地入場券前売りチケットを貰って来た。それにこれはアトラクションは全て乗り放題に、並ばずに乗れる優先チケット付きだ。それをこの手紙と一緒に入れておく。6枚あるから、今日迷惑をかけた全員で行って来い。行くか行かないかは自由だけどな」
「えっ、海流お姉ちゃんがライブコンサートするんだ。わぁっ! 見に行きたいなぁ!」
「お姉様は、ミルミ……海流とは知り合いだったの?」
「そうだよぉ。木花師匠のところで修行してた時、海斗お兄さんの義理の妹の海流お姉ちゃんとも、よく会って一緒に遊んでたんだよ。今でもお店に行くとアルバイトしててよく会うよ」
「そうだったんだ……」
まさかお姉様と海流が知り合いとは……。
人の和とはドコで繋がっているか、わからないものだ。
「それはそうと言いたい話が進まないから続ける。別の手紙でこう書かれている。そのライブコンサートをオレも見に行く。そこで変装したオレは赤いカウボーイハットをかぶってる。声をかけたかったらかけてきても構わないからな。この手紙はちゃんと燃やしておけよ」
「そっか。そこで涼さんと出会えるんだ」
「そう。お姉様……行ける?」
「もちろん行くよっ! あぁ、涼さんにまた出会えるぅ」
なんか、お姉様の様子がおかしい。
まさか……、兄さんに惚れてないよね……?
「……お姉様の体調を窺いつつ、行けそうなら日曜日に遊園地に行こう」
「わぁっ! それならしっかり体調管理しないと。えぇっと……、それじゃ、しっかりご飯を食べなきゃだよ。お母さん、私の分もある?」
「あるわよ。今、出してくるわね」
「手伝うよぉ」
「え? 大丈夫よ。花音は座っていなさい」
「大丈夫なの! ほら、台所に行こうよ」
そう言ってお母様の背中を押していくお姉様。
「……」
その場に残された3人が目を合わせて、お姉様の様子に疑問を浮かべる。
「治った?」
「治ったにしては、さっきと今でどんだけ変わるんだよ」
「変な薬を飲んでなければいいがな……」
お姉様のその急激な回復ぶりに家族一同疑問に思ったが、久しぶりに見るお姉様の明るい笑顔と元気な動きを見て、私たちにも笑顔が絶えなかった。
夕食を食べ終わった夜、みんなが就寝を迎える時にお姉様は「昼に寝過ぎて寝れないっ!」と言って睡眠時間サイクルの狂いをとても嘆いていた。
少しだけ私と健で夜更かしをしてテレビゲームなどして遊んだりした。
しかし……あの映像を見せたおかげなのか。兄さんがやった行為がよかったのか。
なんでアレだけ急に明るいお姉様に戻ったのかわからなかった。
たまに体に痛みが襲ってくるが、それでもお姉様が泣く事はなく、むしろ気分を紛らわそうと元気に走り回る様になったのは驚きだった。
昔のお姉様の元気な姿になっていた。
本当によかった。本当に……、本当に……。




