ユカリの書 第2話 立ち塞がる兄 ― 3 ―
正直ここまで力量差があるなんて……。本気になった兄さんは化け物だ。
いや、大神の竜が強いのか。
アイツはメタモルフォーゼの強さだけを頼りに闘ってるっぽいからな。
本当の戦闘経験を積んできたプロの人に同じメタモルフォーゼを使わせたら、大神が扱うよりももっと強くなる。
ふざけないでほしい。今まで私がガンバってメタモルファイターの修行してきた意味さえ皆無にしてしまう程に、手足がでなかった……。
くやしい……。まだまだなんだな私は……。
「さっさと勇気を振り絞ってオレの前に戻ってこいっ! でないと、あの大神の時の悲劇が繰り返されるぞっ! オマエの様にユカリは傷つくぜっ!」
来ちゃいけない。お願いだから来ないで、お姉様っ!
私なら構わない。私なら大丈夫。これくらいの痛み、耐えられるから……。
「斎藤……、大丈夫?」
私は足元で踏みつけられている斎藤に声を掛けた。
「ま、まだいけますよ。ただ、身動きが完全にとれませんがね……」
翼をもぎ取られた斎藤だったが、まだ元気そうだ。
その時、周りが一瞬光り出す。どうやらウィッチフィールドが解かれた。
つまりは両親が花音を連れて外まで出られたって事か。
よかった。作戦が上手くいった。
「逃げるのかぁーっ! なら、ユカリたちは殺してやるぜっ! あばよっ!」
そう言うと兄さんは私を締め上げる。
「ウッ、ウアゥッ! クゥッ!」
「おい、ユカリ。これはオマエにも責任がある事をよく覚えておけよ」
兄さんは手を緩めると、斎藤をグリグリと踏みつぶし始める。
「いっ、いただだだっ!?」
「オマエは仲間を選んでここにきた。その仲間はこうして傷ついて行く。仲間を選び、戦地に向かわせるその重い責任を軽々しく思うんじゃねーぞ。自分だけじゃなく、仲間を傷つけて、永遠に失う事もあるんだぜ。誤ってすむことじゃねぇ。一生を償っても足りない罪の代償を支払う事になるんだ」
「……」
「もしオマエがこの責任を軽率にしていたら、オレと同じ道に来たら全力で止めてやるからな。花音にはガッカリしたが今日はこの教訓をオマエに教えられただけでも、成果があったと思っておくぜ」
「……兄さん。やり方がいつも強引過ぎ」
「悪いな。こんなヤツでよ……。花音のヤツはもうさらう事はしねぇよ。ただこれからも花音のヤツが治らないのなら、その間は絶対に大人しくしてろよ。危険なところに首を突っ込んだオマエが花音や仲間を守り切るには花音が最大の弱点になる。仲間を守れるだけの力が今のオマエに無い事は、これでわかっただろ」
「……はい」
「まぁ諦めんなよ。この方法は失敗したが、永遠と花音の傷は治せないと決まってるわけじゃない。オマエなりの考えで、しっかり花音の事を守ってやんな。そしてユカリはみんなを守れる様に強くなって行け」
「……兄さん。その姿で説教されると、複雑になる。腹が立つし」
「ぶふっ! た、確かにそうだな。こんなムカつく野郎の姿で説教されたら、オレでも複雑だぜ。ちゃんと説教を受け入れにくいな」
「いっそのこと私をボコボコにして。私はその痛みを身に刻んで反省する」
「そうか? なら、そうするぜ。トドメを刺してやるよ。覚悟は……いいな?」
「はい」
兄さんは私を宙に放りあげた。そして息を吸い込む。きっと火の息で私に止めを刺す。
その熱く焼けただれる痛みを忘れず、この反省を身に刻もう。
私は覚悟を決めて、目をつぶってその時を待った。
「ダメエエエエエェェェェェェッ!!」
「えっ!?」
「ぶふぅぁ――――――っ!」
目を開けると、お姉様が私に飛び付いてきた。
「ごぶほぉっ!? げほぉっ!? ごほっ! がはぁっ!」
兄さんは無理やり火の息を止めたのか、喉を手で掻きむしりながら口から黒い煙を上げて、苦しがっていた。
私はお姉様に抱きつかれながら、空中で体勢を整えて地面に着地した。
「やめてっ! もうやめてぇーっ!」
お姉様は泣きながら、そう必死に叫んでいた。
「げほっ! げほっ! あー、あーーーー……。ふぅ、これはきついな。もし大神が火の息をした時、げほっ! こうやってなんとか止められたら、ダメージを相当与えられるぜ……」
「お姉様……どうしてここに?」
「だめっ! だめなのっ! ユカリちゃんたちが傷つく姿を、見たくないのっ!」
「ふぅ……。ったく。おい、花音。こっちを見ろ」
「……っ!」
お姉様は兄さんを見ない様にしていた。
「こっちを見ろって言ってんだろっ! でないと、2人まとめて焼き尽くすっ!」
「っ!?」
「兄さんっ!」
「ユカリは今は黙ってな。花音、オマエはどうしてここまで来れた? それを思い出して、オレの姿を見ろっ!」
私に抱きついたお姉様がとても震えているのが分かる。とてもじゃない恐怖がお姉様を襲っている。
「オマエにはユカリ達を守りたいと思った勇気があるんだろっ! しっかりしろやっ!」
「……っ!!」
お姉様が私から離れ、バッと振り返って兄さんを見た。
「よし、そこに立て」
お姉様は言う通りに立ちあがろうとする。しかし生まれたての小鹿の様に足が震えて上手く立てない。
「しょうがない。ユカリ、手伝ってやれ」
私はお姉様をしっかり抱いて立たせた。お姉様の手が私の腕をしっかり握っている。
「こ、おっ、これで……、いいですかっ!」
兄さんはお姉様に顔を寄せる。その距離は1メートルもない。
竜の鼻息が、お姉様と私に掛かる。
「兄さん……」
お姉様は必死に恐怖と戦っていた。私の腕を握る手がとても痛いくらいに強い。
それでもお姉様の目は竜の目をにらみ返し続けた。
「オマエは……ユカリを助けたいんだな」
「た、助けたいっ! だからこんな事やめてくださいっ!」
しばらく睨み合いをしていると、兄さんがお姉様から離れた。
「いいだろう。合格だ」
兄さんはマジックリングから口に変身解除薬を放り投げると竜は煙に包まれて、そこには元の姿の兄さんが立っていた。
「それだけ大事な人を守りたい勇気があるのなら、昔の恐怖にも立ち向かって行け」
兄さんはそう言うと、またミックスジュースを飲んだ。
ワシの姿になると何も言わずに、そのまま飛び去って行ってしまった。
「兄さん……。あっ!? あわわっ!」
お姉様が急に力を失い、その場に座り込む。
支えていた私も突然の事で支えきれずに一緒に座り込んでしまった。
「お姉様っ。大丈夫ですかっ?」
「花音っ!」
「姉ちゃんっ!」
私たちの元に、健に斎藤、お父様とお母様も駆け寄ってくる。
「わ、わた……し……」
「あぁ、花音っ!」
お母様が花音を抱きしめた。
「お母さん……。大丈夫だよ。私……。なんともないよ」
お姉様はお母様を抱き返した。
…………終わったか。
私は兄さんが飛び去って行った方を見た。
兄さん、アナタのやり方は強引だ。いつもそうなのだから……。
でもこれをきっかけにして、お姉様が治るのなら……。
私はお姉様の回復を願い、私たちは自宅に戻った。




