ユカリの書 第2話 立ち塞がる兄 ― 2 ―
ユカリのヤツも戦い方が上手くなってきやがったじゃないか。
銃の扱いなんて2回程度しか教えてないのに、もう十分の手足の様に扱ってきやがる。
まぁあの対戦車ライフルの扱いは下手だったな。普段でも使ってないものだろうな。
アイツは重火器よりかは小回りのきくヤツの方が相性がよさそうだな。
小さいしな……。
「おっと!」
オレの頭スレスレを矢が横切る。
斎藤と言ったか。こいつも油断にならない。
少し目を放せばオレの目を狙ってきやがる。それもかなり正確な射撃だ。アイツの腕前は並大抵じゃないのがわかる。
斎藤と言うヤツの情報を後で集めて見るか。何もんなんだアイツは……。
健と言う花音の弟も子供とは思えない程に闘い慣れしている。
攻撃は滅多にしてこないが、油断すると狙われる。
こっちからの攻撃は反射神経がいいのか、軽く避けられる身体能力の持ち主。
子供だと侮っていると完璧な連携を取られたら負けるぜ。
ユカリも良い友達をもったようでよかったな。
……あっ、すっかり戦いに夢中になっちまって花音の事を忘れていた。
アイツは今頃どうしてるか。まだ竜にビビっちまってて動けなくなってるか?
そんなんじゃオレが思っていた計画なんてできねぇーんだけどな。
「ブファハァアアアアッ!」
「くぅっ!?」
接近してくるユカリに火の息を吹きかける。
ユカリは盾を持っていてそれで攻撃を受け止める。あの盾ももうそろそろ限界だな。
オレはユカリの動きを止めつつ飛びあがり、斎藤の攻撃を無視して飛び去った。
1度花音の状態を確認しておきたくて、小屋の前まで飛んで行く事にした。
「おぉっ?」
小屋の前に降り立つと、花音の姿がドコにもなかった。
屋根を壊して中を見たが、小屋にも居なかった。
アイツ逃げ出したか? 自由に動けるようにしてはいたがよ。
まぁ竜を見てビクビクして縮こまっているよりは、元気に逃げてくれていた方がマシだ。
動けるようになったんなら、オレも次の行動に移していいかもしれないな。
「兄さんっ!」
ユカリたちがオレを追いかけてやってきた。
「おぉ、ユカリ。花音のヤツ。どっか逃げちまったぜ」
「……そうみたい」
ユカリの口元がニヤけていた。
「……? おい、なんかやったか?」
「……ごめんなさい。兄さん」
どうやらユカリの企みで花音は助けられたようだな。
オレはマジックリングからサイドバックを取り出して、竜のでかい手を慎重に動かして、そこからウィッチミラーを取りだした。
「え? いくつもってのそれ……」
「5つは持ってるけどな」
竜の手だと持ちにくいし下手に力入れたら壊れそうだが、なんとか手に持って鏡に映された映像を見る。
そして花音が男女2人に連れられて行くのがわかった。
「ユカリ、オレはオマエと2人だけ連れて来いって書いてあったよな」
「こんな状況で約束を守ると思う?」
「約束を破った事によって人質の身に何かあったらどうする気だ?」
「兄さんなら悪人以外の人質には、何もしないってわかってるから」
「……ったく、策略の一歩先をいかれちまったか。ははっ! 嬉しいぜ。オマエがそこまで悪知恵が働く頭がキレるヤツになってよぉ!」
オレは鏡をその場に投げ捨てると、腕を廻した。
「だが、約束を破った罰は受けてもらうぜ。その身を持ってズタボロにされる覚悟はできての事だろうな? あぁ?」
「私だけでいい。2人には手を出さないで」
「そんな約束はできねぇな! んな甘い考えは本当の悪人には通用しないって事を教えておくぜ。連帯責任を取って、全員ボコすっ! 徹底的になっ!」
「いてっ!?」
私を背負っていたお父さんが何かにぶつかった。
「おぉっ! ついに端まで付いたか!」
「そうみたいね。早く出ましょう。ザ……」
「グルアアアアアァァァァァァァッ!!」
「ひぃっ!?」
「うわっ!?」
お母さんがウィッチフィールドを開けようとした瞬間、耳を貫く竜の咆哮が山の中を響き渡った。
「凄い声だったな……。近くに居たらあの声だけでやられてしまいそうだ」
「ユカリちゃんたち、大丈夫かしら?」
そう言ってお母さんは手に持っていたウィッチミラーを覗きこんだ。
「え? えぇっ!? そ、そんなっ!」
「どうしたんだ?」
お父さんはお母さんが持つウィッチミラーを覗きこんだ。それは私の目にも映った。
ユカリちゃんが竜の両手で握りしめられて苦しんでいた。
斎藤は翼をもぎ取られて踏みつぶされている。
健は元の姿に戻っていて、小屋の近くで怯えていた。
「ひ、酷いっ……」
「母さんっ! 花音を外に出したら後は頼むっ! 私はみんなを助けに行ってくる! もう警察にも連絡して助けを呼んでくれっ!」
「カーーーノーーーンーーーーッ!! 聞こえているだろうーーーーっ!! そして今の状況をウィッチミラーで確認してみろぉーーーーっ!!」
また耳を貫く声が響いて来て、耳を塞ぐが嫌でも聞こえてくる。
その叫び声がなくなると、ウィッチミラーから出る音に私は耳を傾けた。
「オマエが逃げたせいでこいつらはこんな目にあってるんだぜっ! なさけねぇーよなぁっ! 助けに来た仲間を見捨てて自分だけ逃げてよぉっ!」
「花音っ! 聞いちゃダメよっ!」
お母さんがウィッチミラーを投げ捨てて私の耳を塞いでくる。
しかしその声はしっかりと聞こえてくる。
「失望したぜ。オマエがこんな臆病者だなんてなぁ! オレはオマエにユカリを盗られた時になぁっ! オマエをブッ飛ばして取り返そうとオマエの家に来てたんだぜ! そして道場に居たオマエラを見てオレは驚いたぜ。オマエは何度もユカリに殴られていても、優しく接してあのユカリがオマエに誤った。その後はユカリがオマエの事を認めてよ。だからオレはオマエの事を認めて、ユカリを預ける事にしたんだぜ。それが今はどうだ? こんな苦しんでいるユカリを見捨てて逃げる腰ぬけになっちまってよぉーっ!」
ギリギリギリッ!
「ウッ、ウアアアアアアァァァァァァッ!!」
鏡からギリギリと握りしめられるユカリちゃんの悲鳴が聞こえてくる。
「あの時のオマエはドコに行っちまったんだ? あぁ? 人の為に自分の身が傷ついても立ち向かった花音はどうしたんだぁ? さっさと勇気を振り絞ってオレの前に戻ってこいっ! でないと、あの大神の時の悲劇が繰り返されるぞっ! オマエの様にユカリは傷つくぜっ!」
「くっ! 母さん! ユカリを頼んだぞ! 私は行ってくる!」
お父さんは私を地面に下ろすと、ユカリちゃんたちの元に駆け出して行った。
「お父さんっ! あぁ……。ユカリ、早く外に出るわよ。『The Gate of different』っ!」
お母さんがそう呪文を唱えると、周りが一瞬光り出した。
先ほどまで透明の壁があったところをお母さんは手を伸ばした。何もないと確かめると、お母さんは私を持ち上げようとした。
「逃げるのかぁーっ! なら、ユカリたちは殺してやるぜっ! あばよっ!」
「……だ……め。……だめぇっ!」
「あっ!? か、花音っ!」
私は自分の足で立ち上がって駆け出していた。




