ユカリの書 第2話 立ち塞がる兄 ― 1 ―
私は赤毛の侍となり、斎藤はタカの鳥人となった。
健には私が造って渡したエンジェルキッズを飲んでもらった。
健が兄さんに戦いに挑んだところで、傷一つ追わせられるかわからない。なので後ろから私たちの回復役のサポートをしてもらう。
私は2人に指示を出す。
「健は攻撃に回らなくていい。もし兄さんに攻撃されたら必死に逃げ続けて。私たちはダメージを受けたら健の元に行って回復してもらうから。大丈夫そうなら私たちのところにきて回復をしに来て」
「わかったよ……」
「斎藤は遠距離で兄さんを攻撃し続けて、兄さんとの戦いにサポートしてほしい」
「えぇ、任せてください」
「まさか大神の竜だなんて予想外な展開になったけれど、基本方針は変わらないでいくから」
ここに来る前に指示しておいた作戦もある。
兄さんを倒す事なんて運が無ければ私たちが勝つなんて無理だ。兄さんだって、そんな事を分かり切った事だ。
だったら兄さんに勝つより、お姉様を直接救出する選択に出る。
私が兄さんの目を引きつけている間に、隙を狙って2人はお姉様を助け出す。
けど、兄さんだってそんな事はお見通しなはずだ。なんたって私の兄さんだし。
だったらその先の先を読んで考えた作戦が上手くいけば、お姉様を助けられるはず。
「さてと、『The Gate of different』っ!」
兄さんがそう呪文を唱えると、この一帯が光り出した。
「ここら一帯はウィッチフィールドを引いてるからな。全力で暴れても問題はないぜ。ただここに居る花音に被害が出ない様に気をつけて戦えよ。オマエも小屋からは離れるなよ。ここから離れたオマエがそこに居たと気が付かずに流れ弾が飛んでったりするからな。保険は掛けてあるが痛いぜ」
兄さんは首をゴキゴキと音を立ててから、こちらを睨みつけた。
「さぁ、ユカリ。オマエがどれだけ成長したかオレに見せな。本気でこいっ!」
「…………ハァッ!」
私は内に溜めていた気合と共に、弾丸の如く駆け出した。
兄さんとの距離をあっという間に詰めると刀を抜刀。神速の居合を兄さんの右わき腹へと向かって放った。
「あめぇんだよっ!」
兄さんはその攻撃を右手で受け止め、そのまま私を突き飛ばそうとした。
その攻撃を私は体全体で受け止め、なるべく衝撃を和らげるように体勢をひねる。
しかしその衝撃は凄まじく、体中の肉体へとビキビキと痛みが響き渡るのがわかる。
私は吹っ飛ばされて、地面を滑りながら着地する。
「前に教えた通りに、弱点を狙いに来るとはわかってんだよっ! もっと知恵を絞ってかかってきやがれっ!」
「あっそ……」
私は手に持っていたスイッチを兄さんに見せた。
「……ちっ!?」
そのスイッチを押した。
ドカァーーーーンッ!!
そして兄さんの右手が大爆発を起こした。
私は密着した瞬間、C4プラスチック爆弾を張り付けていた。
「健、回復をお願いっ!」
「わかったよ!」
健が私に近寄って来て、両腕をかざしてその手が光り出す。その光が私を包み込み、先ほど受けた痛みが和らいでくる。
あの取って置きの技を出してもいいが、兄さんもあの映像は見ただろう。
ここぞと言う時に使わなければ、兄さんに簡単に避けられるからすぐには出さない。
それにあの技を出さなくても、今回は武器の強化があるからイケるかもしれない。
「まさかこんなものを使うなんて、思ってもみませんでしたよ」
斎藤は兄さんの背後に回り込むように飛んでいた。
そして取りだした武器はロケットランチャー。
私たちはここに来る前にこのとどろ山にある兄さんの隠し武器庫から、ランクC以上の物をごっそり持ってきた。
それを斎藤と健にも分け与えて、私たちの戦力を大幅にアップさせていた。
斎藤が打ったロケットランチャーは、兄さんの背後で大爆発を起こす。
「くぅっ!?」
私は刀を鞘に戻して、マジックリングから両手にサブマシンガンを手に持った。
それを兄さんの頭に向かって打ち続けながら、兄さんへ近寄って行く。
「ははっ! やるなぁっ! オラァッ!」
竜の巨体がくるりと体を廻すと、しっぽが勢いよく私へ迫ってくるのがわかった。
私は屈んでなんとかそのしっぽを避けた。
「ブハァッ!」
兄さんは斎藤へ火の玉を吐きだした。
次のロケットランチャーの弾の装填をしようとしてた斎藤が、ギリギリのところでその攻撃を避けた。
「斎藤っ、前っ!!」
「え? なっ!?」
斎藤は目の前に迫って来ていた兄さんに気が付いて驚いた。
あっという間に斎藤との距離を縮めると、そのまま兄さんは頭から斎藤へ突っ込んだ。
「ぐはっ!?」
斎藤は吹っ飛ばされて、森の中へ墜落していった。
「斎藤っ! 健、行って上げて!」
「わ、わかったっ!」
健は斎藤が落ちて行った森の方へ小さい翼を羽ばたかせて飛んで行く。
「コイツは凄いな。この巨体の竜で、ここまで素早く動けるなんてな。大神め……、いったいミックスジュースに何を使ってやがるんだ?」
私はサブマシンガンをしまって、マジックリングからカバンを取り出した。
迫撃砲を引っ張りだして、飛んでいる兄さんに直接ぶち当ててやるっ!
標準を合わせて弾を筒に入れて私は耳を塞ぐ。
爆発音と共に、ものすごい速さで爆発する弾が兄さんへ飛んで行く。
「ブファハァアアアアアッ!!」
兄さんは火の息を吐きだして、迫撃砲が当たる前に爆発させた。
……爆発系は当たる前に破壊されるか。
迫撃砲をカバンにしまい、対戦車ライフルを目の前に出した。
かなり重くて空に向けて標準を向けてるのはなかなか苦労する。しかしそれでも、必死に兄さんに標準を合わせる私。
「そんなのんびりしてると、次の攻撃が来ちまうぜ」
兄さんは息を吸って吐きだすと火の玉をこちらに飛ばしてきた。
さすがに時間を掛け過ぎたか。
重いライフルをその場で投げ捨てて、素早くその場を離れた。
私が居た場所は大爆発し、あのライフルは壊されてもう使いようがないだろう。
兄さんは立て続けに私に火の玉を吐きだしてくる。
私は木々を利用しながら走り避けて行く。
何度も私へと攻撃が行われ、どんどん山の森深くへと入って行く。
「おらおらっ! 逃げてばかりかぁっ? 反撃してこいよっ!」
別にこのまま攻撃され続けても構わない。私がこうして囮となって斎藤たちがお姉様たちを助けに行けるなら。
しかしこちらが何もしないと兄さんの私への興味がなくなるだろうな。
少しは反撃するか。
その場で逃げるのをやめた。
サブマシンガンを再び取り出して両手にそれぞれ持ち、兄さんに向けて撃った。
カンカンカンカンッ!
「そんな弱い弾じゃ、この鱗を貫く事ができないぜっ! 痛みも全くないなっ! スゥー、ブハァーッ!」
兄さんの反撃の火の玉にバックステップで避けながら、兄さんに向けて撃ち続ける。
競技用と違ってこれは本物なんだぞ……。
あの鱗の硬さは間違いなくイカサマと言いたい。
遠距離からの攻撃で兄さんにダメージを与えるには、ピンポイントに急所を狙うしかない。
あの硬度な鱗によってダメージは防がれてしまう。
斎藤が復活してくれていれば、得意のアーチェリーで兄さんの目を攻撃するなりしてくるはず。そろそろ復活してきてもおかしくはない。
私に注目している間に、早く攻撃してきて!
「くっそっ……。えっ、きゃあっ!?」
「隙ありだっ! くらえっ!」
バックステップした先で足を溝にはめてバランスを崩してしまった。
くっそっ! なんでこんなところに突然、溝があるんだっ!
迫ってくる火の玉に避ける暇がない!
マジックリングから急いで盾を出して、体全体を覆った。
ドカァーーーーンッ!!
凄まじい衝撃が盾から体に伝わってくる。
盾自体もミシミシと鈍い音を立てて、何回も受け止めてられないぞと訴えてきている。
早く体勢を立て直して逃げなければ。
そう思っていたら兄さんが私への攻撃を止め、斎藤が飛んで行った方を向いて飛んで行った。
「さっきから静かにしやがって。ほっとくと思ってやがったかぁ! ブハァーッ!」
吐き出された火の玉は、木の上で狙いを定めていた斎藤へ向かって飛んで行った。
斎藤が迫ってくる火の玉を飛んで避けようとしたが、ギリギリのところで足に当たった。
火の玉は爆発せずにそのまま通り過ぎたが、斎藤の足が焼けただれていた。
「くぅっ! 後少しで射れたのにっ!」
「嵐姉ちゃんっ! かっ、回復しなきゃっ!」
「今は距離を取りますよっ! 健も逃げてくださいっ!」
迫ってくる兄さんを斎藤が引きつけ、健は兄さんから離れるように飛びまわり、隙を窺って回復しようとしている。
私は現在地を確認した。
お姉様が入る小屋からはここから遠いな。
私が囮となり、斎藤と健にお姉様を助けさせる。
しかしその逆のパターンもあり、斎藤と健がやられている間に、私がお姉様を助けに行くと言う事もある。
そのパターンも兄さんは読んでいて、私をお姉様から距離を取らせるために、アレだけしつこく攻撃してきたんだろうな。
見透かされていると言う事か。
でもね兄さん。血の繋がりのある兄妹。私もそんな甘い手ばかり使う妹じゃないよ。
竜……、大神の竜……っ! あの鋭い爪が私の肉を切り裂き、骨を体を折り曲げて行くっ!!
とがった牙が幾つも並らんだそこに放り込まれて、何度も噛み砕かれてっ!!
食い込む牙っ!! 痛いっ! 苦しいっ! やめてよっ!!
「い……いやぁ……、い、痛いよぉ……っ! やめてっ! やめてぇーっ!!」
「花音っ!!」
「ひぃっ!?」
突然肩を掴まれて何が起きたのかわからなかった。
「花音っ! 大丈夫っ? しっかりして花音っ!」
「花音、落ち着きなさい。助けにきたぞ」
「あっ、あぅっ!? お、お父さん……っ! お母さんっ!」
私の目の前には両親が居た。
「よし、まずはここから離れるぞ。んっ? 花音の側に落ちているのは……」
私の隣に落ちていたウィッチミラーを覗きこんでいる。
「これはいい。アイツの動きを見ながらこちらも行動ができそうだ。これは持って行こう。母さんが持っていてくれ」
「わかったわ」
「花音、しっかり掴まっているんだぞ」
お父さんはそう言うと、私を背負った。
この筋肉質な体は……。お父さんは格闘家にメタモルフォーゼしているみたい。
そしてお母さんをよく見てみると、足が薄くぼやけていて宙に浮かんでいる。
小屋の裏に周って影のある場所に行くと、お母さんが私たちを抱き寄せて、影の中に入って行く。
影の中に吸い込まれると、あっという間に違う景色の場所に出てきた。
これはゴーストタイプにある『影渡り』と言う、影から影へ移動できる技。
「よし、見つからない様にウィッチフィールドの端までいくぞ」
「ここはドコまで広いのかしら?」
「わからないな。取り合えず壁にぶつかるまで行こう」
お母さんは再び私たちを抱きしめて影の中に入る。
再び影の中から出ると、お母さんはぐったり疲れていた。
「後何回できそうだ?」
「そうね……。後2回くらいね。簡単そうに見えて疲れるのねこれって……慣れていないとキツイわ」
「2回か。距離的にはどのくらい進んだ?」
「300メートルくらいかしらね?」
「それくらいしか進んでないのか? ユカリが言ってた通りにここぞと言う時にして、余り多用はしないで徒歩でいくしかないか」
「そうするしかないわね……」
なるべく木々が生い茂っていて、空から見えないところを選んで歩きだした。




