ユウの書 第3話 大神グループとの決闘 ― 3 ―
「待て! 森井っ! 俺のこれを何とかしてから行けっ! 森井ーっ! って、アレ? 体が……なっ? なんだこれっ!?」
森井は三宅なんて眼中なく僕の事を追いかけてくる。
「コロスコロスコロスコロスコローーーーーーースッ!!!!!!」
「そんな言葉しか知らないのか? この単細胞な脳みそヤロウめっ!」
しばらく挑発しながら走り回る事、数分。
今まで追いかけて来た森井が息を大きく切らせながら止まった。
「ハァー、ハァーッ! くそうっ! 逃げてばかりいないで戦いやがれ! ハァーッ! ハァーッ!」
「ふふーん♪ 戦わずとも、自滅に向かって行ってるんだから、戦う必要性なんてないけどね」
「じ、自滅だと?」
「気が付いてないの? 竜タイプはタフで有名だけど。この数分走っただけで、それだけ息を切らせている理由を思い付かないのかな?」
「い、息だとぉ? さっきから苦しいがぁ……。何かしやがったのかぁ?」
「……自分で考えたら?」
ヒント与えてやったのに、考える事をしないで聞くばかり。
僕は呆れて、今度は追いつけない程のスピードで森井の前から逃げた。
「あっ! くそうっ! 待ちやがれぇっ! ハァーッ! ハァーッ! くそうっ! なんて速さだぁ……。ハァーッ! こう言う時、回復系が出来るヤツが居ればぁ……。ハァーッ! 3人目はドラゴンタイプにしないで、回復役にすればよかったのにぃ。ハァー、走り過ぎたせいか、息が苦しいぞぉ……。ハァー、ハァー……」
っと僕は逃げたふりして、実は逃げてはいない。木の陰に隠れて、森井の様子を窺っていた。
あの人……、本当に気が付いてないのかな?
森井を刺した小剣には、毒を塗りこんでいたんだ。使った毒は、体を麻痺させる神経毒だ。
毒にも競技用の指定がある為、一瞬で相手を死に至らしめる程の強力な毒は使えない。
その毒でさえランク付けされている為、僕が使った毒はDランクに入る毒だ。
森井にその毒塗りの小剣を刺したはずなんだけど、平気で動いてきたから弱すぎる毒なのかと思っていた。
けれどあの疲労から見て、効いてはいたんだけど怒りで我を失って、無理やり動いていたんだろうな。
麻痺している体に無理やり動いていたら、そりゃ疲れるっての。
疲労がたまって限界を迎えたら、メタモルフォーゼは自然に溶ける。そうすれば勝ちではあるが……。
そろそろ麻痺も治ってくる頃だろう。
それに三宅がそろそろ動き出せるくらいだろうからな。
森井にはここで退場を願いたい。
僕は弓を取り出すと、神経毒の入った瓶の液を矢じりにたらりと垂らした。
アースドラゴンは体中に鱗を纏い、それはもう頑丈で矢なんか弾き飛ばされる。
矢で刺さるとすれば脚関節の裏。先ほど、小剣を刺した場所だ。今も血がどくどく出ている。
今ここで狙える箇所は、後ろ足の左間接だ。
距離は13メートルくらいか。普段30メートルの的を狙って練習しているから、これくらいの距離、小さい的でも当てられるな。
「ふぅー……」
呼吸を整え、的に集中する。的が動いている分、やはり少し難しいな。
「……――――ガアアアァァァッ!!」
「えっ!?」
僕は森井とは違う方向から聞こえて来た、その声に反応して振り返った。
目の前に火の玉が迫って来ていた。
しまったっ! 前方に集中し過ぎて気が付かなかったっ!
「ヤバッ!」
僕はそれを必死に避けた。
しかし木にぶつかった火の玉が大爆発を起こし、その爆風に僕は巻き込まれて吹っ飛んだ。
「ぐはっ!?」
木へ思いっきり叩きつけられた。
くそっ、痛む体に鞭を打って立ち上がろうとする。
「おっと、立ちあがるんじゃねぇ!」
「ぐあああぁぁぁっ!?」
体の上に三宅がのしかかってきた重さと、その脚爪が体に食い込んだ痛みで悲鳴を上げた。
くそぉ……、予想していたより三宅の復活が早かった……。いや、森井と遊びすぎた僕の計算違いか? ……竜タイプに麻痺薬は効きにくいと言う事はないと思うんだけどな。
「さんざんやってくれたな。オマエ」
「三宅っ!? やったのか?」
「まだだ。だが、これからたっぷり傷めつけてやるぜ」
騒ぎを聞きつけて駆けつけて来た森井が、僕の事を見て大笑いする。
「はーはっはっはっ! 形勢逆転だなぁ。さんざん卑怯なことしやがってぇ。ズタズタに引き裂いてやるぞぉ」
「待て! 俺が先だ!」
「なんだとぉ?」
「俺がコイツを捕まえたんだ。それに、最初の話し合いで俺はコイツ。オマエはあの女をやりたいと言っていただろ。なんでこっちに来たんだ?」
「それはコイツがムカつくからだぁ。いいからおいどんにもコイツをやらせろぉ!」
そう言って森井は僕の頭を踏みつぶしてきた。
「勝手に手を出してんじゃねぇ!」
「うるせぇーっ! さっさとどきやがれぇ!」
「隊長の命令にさららうんじゃ――――っ!」
ブシュッ!
その時、三宅の翼膜に矢が飛んできて刺さった。
「イッテエエエエェェェェッ!? なんだいきなりっ!」
そして間髪入れて矢が次々と飛んでくる。
三宅は最初の3本をその翼膜に次々受けたが、飛んでくる方向がわかったところで、飛んでくる矢を打ち払った。
そして矢が飛んで来た先を見て驚いた。
「なっ!? オマエはっ!?」
そこに居たのは僕だった。
「ウソだっ!? だってオマエはっ!」
そう言って2人は三宅の足元を見た。
「あっ!?」
「なっ!? ま、丸太っ!?」
「忍法、変わり身の術。忍者マスターの必殺技だよ。有名な技なんだけど、知らなかったの? 油断しすぎ……呆れる程に……」
2人がさんざん揉めている間に、僕は偽物とすり替わっていた。
すり替わるのに時間が掛かる技なんだけど、それだけ余裕のある時間を口喧嘩してくれたので楽々できたなぁ……。
「このヤロウっ! よくも俺の翼をぉーっ!」
翼は両方に傷を付ける事が出来た。
飛ぼうにも痛みが走って、そう上手くは飛びまわれないだろう。
だから木々の間を上手くすりぬけながらと言う高度な飛び方は、完全にできなくなっただろうな。
「じゃあね。バイバイ、オバカさんたち」
僕は煙玉を取り出して、地面へ投げつけた。
そして煙が晴れる頃にはその場から消えていた。
「くそうっ! 出てこい! 卑怯者めがっ!」
「ドコにいやがるぅーっ! 姿を現せっ!」
そんな事言われて出てくるかっての。
相手を騙し、地の利を知り、それを活かしてこその忍びだし。
次なる手は何にするかな。
森井はそろそろ限界だろうから、始末しておきたいところだけどな。
竜を2体同時に相手はさすがに手負いでも分が悪い。
まずは2人を引き離して……。
「祐定」
「うわおぅっ!?」
トツゼン横から声を掛けられた拍子で悲鳴を上げてしまった。
「むっ! そこだなっ! くらえぇっ!」
やっばっ! 居場所がバレたっ! 火の玉が迫って来ているっ!
「やばっ! って、あわわっ!?」
僕は地面に引きずり込まれた。っと思ったら、地面からポンっと飛び出て来た。
なんだと思ったら、目の前には平沢が居た。
そして先ほど居た場所とは全く違う場所に僕は居た。
「平沢の影渡りかよぉー……。びっくりさせないでよ」
影渡りは相手を掴んで引きづり込んで、違う影に放り出す事もできる。
「すまん。それより、錦戸のヤツはやったぞ」
「おぉ、やったのか! 吏子ちゃんは?」
「まだ大丈夫だ。かなりダメージは残っているが、十分に動き回れる」
そう言う平沢も、かなりボロボロだな。
「よし、こっちの2人はまだ生き残っているが、痛手を負っている。それじゃぁ3人で森井を仕留めるよ。あと少しで倒せるくらいに疲労しているから、一瞬で決着をつけられる。吏子ちゃんを連れて来てくれないか?」
「わかった。待っててくれ」
そう言って平沢は影の中へ潜って行った。
「あわわわっ!?」
吏子ちゃんが影からポンっと出てきて、お尻から地面へパタンと落ちた。
「か、影渡りって初めて入ったけど、なんか変な感じだよぉ……」
立ち上がって手でお尻をさする吏子ちゃん。前屈みで揺れる胸が凄い状態で見えた。その凄さに慌てて目を反らしてしまう。
「……? どうしたのユウくん」
「いや……そのさ……」
影から平沢がスゥーっと出てくる。
「えっと……。吏子ちゃん、平沢。御苦労さま。大変だったろ」
「すごく強かったよぉー。それよりもユウくんがガンバったんじゃない。相手は2人だし、よく竜タイプ2人と戦えるよぉ……」
「まともな戦い方はしてないけどね。それより次の作戦なんだけどね……」
僕は考えた作戦を吏子ちゃんと平沢に伝える。
「それじゃ、最後の総仕上げだ! いくぞみんなっ!」
「うん、ガンバろうっ!」
「やってやるぜ!」
そう言った平沢は、影の中へ潜り込んで行った。
まっ、今回の作戦は至って単純だ。
「おうあぁっ!?」
平沢が入った影からポンっと出て来たのは、森井だった。
「かかれーっ!!」
「そぉーれーっ!!」
「う、うわあああああーーーーーっ!?」
そう。突然影渡りで引きづり込んで、出て来た森井を3人で奇襲して袋叩きだ。
反撃をする事もままならずにボロカスに叩きのめされ、あっという間に気を失って変身が解けた。下手に暴れる前に倒せると思ったが、上手くいったな。
「う、ウソだ……。おいどんが負けるだなんて……」
「さて、残るは1人だぜ」
「それじゃぁ、片づけに行きますかね」
僕らは平沢の影渡りで、三宅が居る近くまで移動した。
三宅を発見すると、3人で囲むように散らばった。
「オ、オマエラっ!? 森井はドコに行ったんだっ!? アレは影渡りだなっ! オマエの仕業だなっ!」
「そうだぜ。そして3人でボッコボコにしてやったよ」
「残るは三宅、オマエ1人だけだよ」
「な、なんだとっ!?」
「さぁ、今までさんざん悪事を働いた分、痛い目に合わせてあげるよ。覚悟しろっ!!」
「ひ、ひぃっ!?」
飛べなくなったフライドラゴンは、そりゃもう恰好の餌食だった。
どってどってと走って逃げる三宅の前に、ゴーストらしく平沢が突然現れて脅かしたり、吏子ちゃんは鉄球を上空から振り下ろして叩きつけたり、僕は毒を再び注入してやったり。
とにかく今までの鬱憤を解消する為にやりたい放題だった。
降参を申し込んできても聞こえなかったと言う感じで戦い続け、今までみんなが受けた辛さをその身を持って味わっていただいた。
三宅の体力が無くなって変身が解けるまで傷めつけた。
そして大神グループの惨敗と言う形で戦いは終わった。




