ユウの書 第2話 アクティブシア ― 6 ―
「なんだとぉ? そうなのかぁ……。おい、三宅。そこにしようぜぇ」
「あぁ? っち、わかった。それじゃ放課後にとどろ山のバトルフィールドに集合だっ! 逃げんじゃないぜ! もし逃げたら臆病者として、学校の掲示板にその事を書いてやるからな!」
そう言うと大神グループは去って行く。
「おい祐定。何相手の有利なフィールドを進めてるんだよ! こっちが不利じゃないか!」
「なぁ、平沢。とどろ山のフィールドに行った事ないのか? あそこは木々も生い茂り、岩などの障害物も多い。イノシシのように突進するタイプには、そういう障害物が邪魔をして逆にパワーダウンするんだよ。それに三宅が使うイーグルデーモンは、木々によって飛行が妨害されやすく、上手く飛びまわれない」
「マジかそれ? さっき有利って言ったのは……」
「障害物を除いては有利だってことだよ。僕は嘘をついてない」
「酷いヤツ……」
「それに吏子ちゃんにとっては障害物がある方が有利でもある。使うのってサイキックボールマスターだよね?」
「うん、いつもそれを使ってるよ」
「相手を障害物越しからボールで攻撃できれば、とても有利になる。岩とか木々があるから、それを利用して戦ってほしい」
「わかったよ。そうするね」
「僕自身もあの場所で何度も海斗兄ちゃんと戦っているから、身を隠しながら弓で打つのに有利な場所とか、そう言うのを熟知している」
「つまり自分たちにとって有利なフィールドに誘い込んだって訳か」
「もちろん。平沢は確かドローンって言うミイラ男みたいな黒いヤツで、影を操る能力を持ったメタモルフォーゼを使うよね」
「あぁ、そうだけど」
「障害物や木々によって、陰が多い場所だよ。平沢にも有利に戦える場所になるよ」
「そうなのか? なんだよぉ。今回とっておきのカオスゴーストってのを使おうとしてたのにさ。そんな有利に働ける場所なら、余裕で勝てそうだな」
「マジでそれ持ってるの? 強くて結構高いヤツじゃん。しかし平沢ってゴーストタイプ好きだよねぇ。もし使うんだったら、それ使ってもらっても構わないよ。カオスゴーストも影渡りが出来る能力あるよね」
「あぁ、でもそれだけ有利に戦えるなら、そんな本気出さなくても勝てるだろ」
「油断は禁物だって。三宅、森井のメタモルフォーゼはよく見てるからわかるけど、3人目が何かはわからない。もしフィールドに有利なメタモルフォーゼをしてきたら、一筋縄ではいかない事もある」
「そうか。祐定はなんで行くんだ?」
「んー、僕はその場で最終的に決める。色んなの使っていくからね。僕は」
基本的にみんなは得意な物を極めて行くけれど、僕の場合はオールマイティーに状況にあったメタモルフォーゼを使って行く。
まぁその分、それぞれのメタモルフォーゼの訓練しなきゃいけない事が多くなって大変なのだけれど。
「そうか。よっしゃ、絶対に負けないぜ! ガンバろうぜ2人ともっ!」
「久しぶりに大変なバトルになりそう……。ガンバらなくっちゃ」
気合を入れる僕らに、シアがおずおずと入ってくる。
「申し訳ありません。ワタクシのせいで、皆さんに多大な迷惑をおかけしてしまい」
シアは深々と頭を下げて謝ってきた。
「そ、そんな! 別に気にしていません! むしろ、いつもアイツラにいいようにしている分、こっちがボッコボコにしてやるチャンスです! いい気になってるアイツラに正義の鉄槌をくらわしてやりますよ!」
「今からそんな気合入れてたら、放課後には疲れるよ。リラックスリラックス」
僕は肩に力が入ってる平沢の肩をもんでやる。
「ホント、気にしなくていいよ。シアと関わる以上は、必然とこう言う事があると予測はしていたし。……僕だって、いつまでも我慢してないで、たまにはアイツラに憂さ晴らししたいと思っていたところだったしねっ!」
「ちょっ、祐定! い、いたいっ! 肩がっ! 力入れすぎっ!」
「おっとごめん。今までの嫌な事されてきた記憶がよぎって、つい力が……」
「なんつう馬鹿力だよ祐定……。オマエって怒らすと怖いタイプなのかもな」
「あははー、そんなことないって」
「あの時のユウは……」「キレると凄いの……」
「ん?」
李奈たちと目が合うとさっと目を反らした。
あの時ね……。李奈のトラウマ事件の事だろうな。
「でもあれだよね。始まったって感じだよ。大神との因縁の戦いが……」
「そうですわねぇ……」
「きっとこの先も色々とあるんだろうけどさ。せっかくシアと友達になったばかりなんだから、もっとゆっくりしたいところなんだけどねぇ」
「そうなの。遊園地に行く約束もしてるのに、色々と外野に邪魔されたくないの」
「え? えぇっ!? 遊園地にって……小田桐さんとかっ!?」
あ、バレた。っていっても、2人も誘おうと思ってたんだけどね。
「昼を食べながら聴こうかと思ってたんだけどさ。吏子ちゃんも平沢も一緒に来るか? 今週の日曜日なんだけど」
「2日後かっ! いくいくっ! 是非お願いします!」
「わぁ、遊園地なんて久しぶりかも。私も行けるよ」
「シアも構わないよね? 2人が入っても」
「えぇ、構いませんわよ。よろしくお願いします」
「うおおおおぉぉぉぉっ! お、小田桐さんと遊園地だなんて……。ゆ、夢みたいだっ! っていうか、今の時点でも夢みたいなんだよっ! なぁ、これは現実なのか? 急に目が覚めて夢だなんて言われた、俺は登校拒否しそうになるぞ!」
「大丈夫だって。現実だから」
「でも、それを現実にするには放課後の戦いには勝っていただかないと。ワタクシとは関わりがもてなくなりますわよ。ガンバってくださいね」
「はいっ! この身が例え大神のドラゴンの炎にあぶられたとしても、俺は何度だって立ちあがってみせますっ!」
平沢がうっしゃーっ! と気合を入れている。
その平沢の様子を見て、シアが僕にしか聞こえないようにこそっと話しかけて来た。
「面白い方でしたのね。平沢くんって」
「僕もあんなキャラだとは思わなかったけどね」
「全く、とんだ邪魔が入ったわね。お弁当を食べましょ。お腹空いたわぁ」
「そうするのぉー。シアお姉ちゃんのお弁当が冷めちゃうのぉーっ!」
2人はささっと元の位置に戻ってシアのお弁当を食べ始める。自分たちを食べなよと思うのだが、あの美味しさを口にしたら止められないよな。僕たちもそれに続いて食事を再開した。
「あの、今さらなのですが……。今朝もお会いしましたが、ちゃんとした挨拶をしていませんでしたわ」
そう言ってシアが吏子ちゃんと向き合った。
「小田桐 シンシアと言います。シアと呼んで貰って構いませんので、お友達になって頂けますか?」
「え? あっ、はいっ! よろしくお願いしますっ!」
そぉーいやぁーそうだった。まだちゃんと話した事無かったな2人は。
「そんな硬くならなくていいですわよ。吏子ちゃんって呼んでも構いませんか?」
「はいっ! よろしくお願いしますっ!」
「吏子ちゃん、硬いよー」
「あっ、ご、ごめん。なんかつい緊張しちゃって……。あの小田桐さんだもの。それがこうして一緒に居る事が、凄くって……」
「周りが大層に見ていますが、ワタクシも普通の学生の1人ですわよ。気になさらずに話して下さいな。ワタクシはこれ以外の話し方は知らないので、治せませんので申し訳ありません」
「い、いえ……、じゃないよね。大丈夫だよ。それでかままぅわいからっ」
「かんでるのー」
「アタシとしゃべってる時と同じに思えばいいのよ」
「そ、そうだね。え、えっと……。シアちゃん、よろしくね」
「よろしくお願いしますわ。吏子ちゃん」
おー、これでめでたく2人は友達だな。
「そ、そのぉー。俺も小田桐さんの事を、名前で呼んでも構わないですか?」
そこに平沢がオズオズと入ってくる。
「え? そうですわねぇ……。平沢くんは今までのままの方が、しっくりきませんか?」
「えぇっ!?」
「平沢は平沢のままの方が良いって事だな」
「そうね。平沢は平沢よね」
「うん、そうなのぉー」
「平沢くんらしくていいと思うよ」
みんながうんうんと頷き合う。
「な、なんで皆してそうなるんだよっ! 俺って何? そう言えば皆、俺の事いつも名字で呼ぶよな。俺は名前で呼んでるのに、なんで皆、俺には名字なんだよっ!」
「え? それは……。平沢だからな」
「そうね。平沢なのよ」
「平沢くんですわね」
「平沢お兄ちゃんがしっくりくるのぉー」
「平沢くんの名前って……えっ、思い出せない! ご、ごめんなさいっ!」
吏子ちゃんが必死に平沢に誤り始めた。
「マジか吏子ちゃんっ! みんなは忘れてないよな?」
「もちろんだよ平沢」
「ワタクシもちゃんと知っていますわ。平沢くん」
「……アレ? ごめん。アタシど忘れしてる」
「ワタシもなのー」
平沢が声も無く泣いている。
「ま、平沢は平沢が1番しっくりくるってことだよ」
「ここまで平沢と言う名前がしっくり定着できている人物もそうそういませんわよ」
「そうなのよね。平沢って平沢って言いやすいのよね」
「平沢って聞くと、いつも平沢の事を思い出せるくらいに記憶に浸透してるんだよなぁ」
「平沢平沢って、どういう意味なんだよっ! 全国の平沢が泣くぞっ!」
「名字と言えば、木花なんて名字は珍しいですわね。何か意味がありますの?」
「あぁ、その由来はちゃんと先祖代々から聴いているよ。それはね」
「俺の話題オワリーーーーっ!? ちきしょーっ! いつか俺だって主人公みたいな中心的な活躍をする人物になってやるからなぁーっ! モブ見たいな位置にずっといるかってんだっ! 覚えてろよーっ!」
ガンバれ平沢。いつかその努力が報われる日はきっと……来る?
「三点リーダ付きの疑問形はいらねぇーーーーっ!!」




