ユウの書 第2話 アクティブシア ― 5 ―
「おい、オマエ!」
「ごめんなさい」
「えっ? い、いきなり謝れても張り合いがないぜ……」
「ん?」
僕は声のした方へ振り向くと、そこには8人ほどの男子が偉そうにふんぞり返っていた。
その中心にいるのは大神グループの中で隊長を務めている3年生の三宅。
そのパシリの中でナンバー2と自称している5年生の森井と言う、学校内では評判悪い有名な人がいる。
後の人たちは知らないな。まぁ、数だけうじゃうじゃいる下っ端かな。
声を掛けて来たのはその三宅のようだ。
「えっと……、なんのよう?」
「そこに居るのは兄貴のガールフレンドの小田桐様だな。なぜ、オマエらみたいなヤツと一緒に弁当を食べてるんだ?」
うわー、なんか面倒な事になりそうだなぁ……。
僕が何と言ってこの場を解決するか考えていると、シアがすくっと立ちあがって大神グループの前に立ちふさがった。
「ワタクシがお昼ご飯をご一緒にと誘ったのです。ワタクシが気まぐれに学友の方々と交友を深める機会を、アナタ方に指図される覚えはありませんわ」
そのシアの物腰に、三宅たちは後ずさる。
「し、しかし小田桐様は兄貴のガールフレンドです。相手が女子でしたら良いのですが、他の男子とこのように一緒に食事すると言うのは、兄貴が」
「ワタクシは大神さんのガールフレンドではありませんわ。いつも勝手に決め付けないでください」
1歩も引かないシアの圧力に、三宅の戦意が喪失していく。
しかしそこに5年生の森井がずいっと出てくる。
「兄貴がこの事を知ったら許しちゃいねえぞぉ。男子が小田桐様と一緒に弁当食べてると知れば、オマエは兄貴から罰をくだされるんだぞぉ」
「そ、そうだ! 今は兄貴は休養中だが、目を覚まされた時にこの事を報告してやる! そしてオマエラは、大神様から罰を下されるのだぁ!」
「黙りなさいっ! 下郎っ!」
シアが今まで聴いた事が無いような怒号で、大神グループを威圧した。
それによって、僕たちまでビクッと固まってしまった。
「今回はワタクシの意思でお昼ご飯を一緒にしたのです。彼らには何も罪はありませんわよ。責任は誘ったワタクシに全てありますわ。一緒にいるくらいで一々もめられていたら、たまったものじゃありませんわよ」
「くっ……」
「み、三宅。ここで引いたら、兄貴に顔向けできないぞぉ」
「わ、わかってるぜ! おい、オマエラ! 今すぐ小田桐様から離れやがれっ! 今すぐ離れないと、痛い目を見るぞっ!」
そう言って三宅がカバンから取りだしたのは、ミックスジュースだった。
「何をする気ですか? もし手を出すようであれば、ワタクシも許しませんよ」
シアも自分のカバンからミックスジュースを取りだした。
法律上、メタモルフォーゼを暴力に使えば犯罪となって、刑罰が下される。
しかしあの大神が絡めばその罪が都合のいいように改ざんされたり、無かった事になってしまう。
昨日の大神が生身の体の先生に危害を加えて怪我をさせた事や、校舎を破壊した事は無かった事になっていて、大神には何も罪が着せられていない。それに僕が大火傷した事も、なかったことになっている。
それにかこつけてか、大神グループはミックスジュースをいいように扱っている。メタモルフォーゼで普通に暴力、脅しに使う事なんて当たり前だ。
そしてこう言う時にはどうすればいいか?
必死に謝って言う事を聞いて大人しくするか、必死に逃げるか、ミックスジュースを使ってこちらも戦うか。その3択だ。
1番手っ取り早くて、後先残らないのは最初の選択肢なんだけどなぁ。
「小田桐さんっ! 勝負するなら、俺も加勢しますぜっ!」
そう言って平沢がミックスジュースを取り出して、大神グループの前に立ちはだかった。
あぁ、こりゃー大変なことになったな。
うーむ……、そうだなぁ。これからの事もあるし……。
そうだっ! ならばこうするかなっ!
僕もたちあがって、両者の間に入った。
「まぁまぁ、ちょっといいかな?」
「なんだ祐定っ! オマエも戦えよ!」
「なんだ? 大人しく降伏する気になったのか?」
「とりあえず、僕の話しを聞いてよ」
「……いいでしょう。聴きますわよ」
この中で1番の実力者と言えるシアがその指示にしたがったので、みんなも大人しく僕の話を聞く気になってくれた。
「とりあえずこの問題は、メタモルチームバトルで決めるってことにしよう」
「なんだよ祐定。結局戦うんじゃないか。だったら止めなくていいだろ」
「僕はメタモルチームバトルのルールに従って、正々堂々と戦うって提案をしたんだよ。3対3のちゃんとしたチームバトルだよ。乱戦にしないでって事だよ」
「チームバトルか。まて、それだと俺らが不利じゃねえか! そっちは小田桐様が居るのに、こっちの3人が誰が出ても刃がたたねえぞっ!」
「そうだね。僕らの方はシアは出ない。僕と平沢、吏子ちゃんの3人で出るよ。それに、君たちにとってもそれが1番勝つとは思わないか? 乱戦でそっちが全員で掛かって来ても、シアの強さに加えて、僕らとも戦うとなれば、そっちはかなり不利だと思うよ。どう思う?」
僕のその問いに、大神グループがどよめく。
「ワタクシが戦わないって? どういう事ですかユウくん」
僕はシアだけに聞こえるように近づいて言う。
「チームバトルに持って行くにはこれしかないんだよ。あんまり大ごとに交戦したら、大神の耳に届いてしまうかもしれないんだ」
「何か考えがあってのことですか?」
「そうなんだ。ごめん。僕の指示に従ってくれないか?」
「……わかりましたわ。任せますわよ」
そう言ってシアは、引き下がってくれた。
「お待たせ。シアと話が付いたよ。シアはチームバトルには参加しない事になったよ」
「わかった。いいだろう。チームバトルで戦おうじゃないか」
「それじゃぁ、互いに勝った時の条件なんだけど。君らが勝った場合、僕らはもうシアと関わらないよう約束をする」
「なんだと祐定! もし負けたら俺はもう小田桐さんと……っ!」
「そして僕らが勝ったらこの事は無かった事にして、大神が戻ってくるまでの間、僕らの行動は目をつぶっていてほしい。そして大神にはこの事は絶対に秘密にする事が条件だ」
「なんだと? 見過ごせっていうのか?」
「君たちにとってもそれが良いと思うんだけど。僕らに負けてシアと僕らとの関係を野放しにしていたなんて知っていたら、大神は君たちをどうするかな……。役立たずな部下を厳しく処罰する大神だよねぇ」
「うぐっ……!?」
大神グループが青ざめる。
「どうかな? この条件で真剣な戦いをしないか?」
「どうするんだぁ? 三宅?」
「……いいだろう。その条件で戦ってやるぜ!」
「おい祐定! もし負けたら俺たちは……」
「負ける気でいるの? 第一こうでもしないと、これからシアと関わって行く間、同じように絡んでくるのは、避けられない問題だよ」
「うぅ、そ……、そうだけどよ……」
「シアが一緒に戦ってくれるから、あんな強きで戦う姿勢を取ったの? 本当にシアを守りたいと思ったら、1人でも戦う勇気で挑まないとダメだよ」
「祐定……オマエ……」
「もし戦いたくないっていうのなら、代わりに杏子ちゃんか、他の友達に頼むけど」
「ふえぇっ!? ワ、ワタシが戦うのぉ? む、無理だよぉー……」
杏子ちゃんはサポート系に回るのは上手い方なんだが、争いをするメタモルバトルはあんまり好きじゃない。
特にこの戦いは喧嘩と言っていいものになるだろうから、杏子ちゃんにはあんまり戦ってほしくない。
「ね、ねぇ……。私も……無理だよぉ~」
「ねぇ、ユウ。アタシが出ちゃダメなの? 吏子ちゃんより、アタシが適任だと思うけど」
「ちょっと戦う場所が李奈にはキツイんだよ。ごめん。吏子ちゃんの実力は僕がよくしっている。お願いだよ」
「う、うぅー……。わかったよ。でも、怖いなぁ……」
「……わかったぜ。杏子ちゃんを巻きこむわけにはいかないよな。俺が戦う」
「頼んだよ平沢」
「よし、こっちの参加者はきまったぜ。オマエラさっさとしたくしろ」
僕たちの会話中、大神グループ側も出る人が決まったようだな。
「あっ、そっちは決まったの? それじゃぁ、戦う場所と時間だけどさ。放課後にとどろ山のメタモルバトルフィールドでしないか?」
「あっ? なんでそんな遠くて人気のないところなんだよ。今の昼休み中に、この学校のフィールド使えばいいだろうが」
「ここで戦ったら学校のみんなに見られるんだよ。もし君たちが負けた場合、誰かがその事を大神にチクッたら、秘密にすると言う約束もできないでしょ」
「確かにそうだなぁ……」
「さっきから俺たちが負けた場合の事を考えやがって。なめてんじゃねえぞ!」
「ごめんってば。でも、2人には有利な場所でもあると思うよ。三宅は飛行系のイーグルデーモン。森井さんって、イノシシタイプのメタモルフォーゼ使うでしょ。傾斜が激しい山岳のあのフィールドには、地に影響されない飛べるイーグルデーモンは有利、イノシシの脚力で斜面から突進されたらひとたまりもない威力になる。結構そっちが有利な場所だと思うけど」
「なんだとぉ? そうなのかぁ……。おい、三宅。そこにしようぜぇ」
「あぁ? っち、わかった。それじゃ放課後にとどろ山のバトルフィールドに集合だっ! 逃げんじゃないぜ! もし逃げたら臆病者として、学校の掲示板にその事を書いてやるからな!」
そう言うと大神グループは去って行く。




