ユウの書 第2話 アクティブシア ― 4 ―
「あっ、やっと来たーっ! 遅いよ! おなか減ったわよ!」
「お土産期待してるの♪」
「本当に小田桐さんと一緒なんだねぇ……」
お腹をすかせた李奈は不機嫌。
杏子ちゃんは僕が購買へ行ったら、お決まりで買って来てくれる例の物にワクワクさせている。餌を待ち遠しくしていたひな鳥みたいな可愛さがある。
僕たちはそれぞれシートに座って行く。
「あ、狭いっ! さすがに6人は狭いっ!」
座っていくとわかったが、いつも4人で食べる為、最低でも4人は座れるくらいのシートにしてあるのだ。
小田桐さんを入れた5人でも少しキツめである。僕も多少シートからはみ出ながら座ってるくらいだからなぁ。
「あー、俺は地べたでいいぜ。芝生だし、そんな服も汚れないだろ」
そう言って地べたに座ろうとする平沢。
「そうはいきませんわ。すこし小さいですが、こちらの上で座ってください」
そう言ってシアが取りだしたのは桃色の花柄があしらったハンカチだった。
「え? いいですってそんなの! ハンカチが汚れてしまいます!」
「ハンカチは汚れをふき取る物で汚れるものです。遠慮なく座ってください」
そう言ってハンカチを広げて芝生の上に広げてしまった。
「座らないのでしたら、ワタクシがそこに座りますわ」
「いえいえっ! でしたら俺が座ります! すみません! 失礼します!」
平沢はなるべくドスンと座らないように、慎重にそのハンカチの上に座って行く。
そして腰に力が入ってるせいで、あぐらをかいていても背筋がピーンとしていた。後で腰が痛くなるだろうに……。
「あ、そうだそうだ。はい、2人にお土産。チョコドーナツ2つゲットできたよ」
カバンから戦利品であるチョコドーナツを取りだした。
「わーっ♪ お兄ちゃん、ありがとう~♪」
「やるじゃないユウっ! これ好きなのよぉ♪」
チョコドーナツを受け取った李奈と杏子ちゃんは、満面の笑みだった。ゲットできてよかったな。
「後、吏子ちゃんにもね。バナナチョコパンだよ。好きでしょこれ?」
「わぁ、ありがとうユウくん。ごめんね。わざわざ私の分まで……。あ、お金渡さないと」
「いいんだよ。それはおごりで。僕が勝手に買ってきたからねぇ。いつもお弁当のおかず貰ってるお礼もあるからさ。それじゃ、食べるかなぁ」
僕はカバンの中からすぽっとお弁当を取り出してシートに広げて行く。
「では、ワタクシも失礼して」
シアも自分のカバンからお弁当の包みを取り出す。その包んである布を見るだけでも、質が違うわぁーっと感じ取れる。
僕たちのお弁当は、至ってシンプルな物ばかりだ。
ウインナーにハンバーグ、昨日の晩御飯の残りのおかずが入っていたり、プチトマトやレタスなどの野菜もしっかり入っている。
僕たちはシアが開ける弁当に注目した。一体何が入っているのだろう。
「……恥ずかしいですわね」
弁当箱は漆が塗ってあって光沢を放っている。高級品と言わざる得ない箱に、シアは手を掛ける。
パカッ。
「おぉぉぉぉっ!!」
その豪華さに皆が驚く。お弁当の域越えてるんじゃないかこれ?
おかずは黄金色に輝くブリの照り焼き、見事なエビや大葉のてんぷら、お惣菜と色々。
それらが小皿に載っており、そのおかずの色どりに一層高級感をかもし出している。
ごはんの方もツヤもあり、ふっくらとしている。電子ジャーで炊きあがったものじゃないかもしれないぞこれ……。
これって旅館に行った時に出る料理と変わりないんじゃ……。
「いつもこんなお弁当なの?」
「そうですわ。作るのは家に居る専属の料理人です」
「専属……。それじゃ、いつも旅館のあの料理を食べてるみたいなものなのかぁ」
「そうですわね。でも今日はワタクシ、このパンがありますから、よければ皆さん食べてください」
「え? いいのか?」
「えぇ、パンを食べるとこちらを全部食べきれなくなりますので」
「やったっ! それじゃ、頂きます! この卵焼きもらいっ!」
「ワタシも食べるのぉー」
そりゃもう食べてみたいと思ってたか遠慮なく貰うぞーっ!
やっぱその職人の腕の良さは、卵焼きで全て分かると言っても過言じゃないからな。卵焼きは譲れない。僕は卵焼きを食べた。
「……うまっ! 時間が経ってるのにこのふんわり感。味も実にしみわたる! っていうか、温かいんだけどっ!」
「保温性のお弁当箱ですから、お弁当自体を温かく保ちながら持ってこれますわ」
「へぇー、いいなそれ。いくらぐらいするのよ?」
「すみません。ワタクシも存じ上げません。帰ったら聴いて、メールを送りしますわ」
「ありがとう。アタシはエビのてんぷらもらっていい?」
「わ、私も頂いていいですか?」
「どうぞ。お食べください」
「いただきまーす。んっ……。んーっ!? サクッていったわよ。サクサクしてるわっ! 美味しいーっ!」
「レンコンの歯ごたえがしゃきしゃきしていて美味しいです♪」
「平沢くんもどうぞ」
「ご、ごちそうになります……。手ですみません」
ハシが無いので手でつかんだ平沢も、エビのてんぷらを食べた。
「う、うまいっ! なにこれ!? ころもってついてるだけつけば美味しいと思ったけど、こんな少なくても美味しいんだ。それより、薄い方がさっくりしててうまいじゃないか」
「平沢。いつもどんな衣でぶっといてんぷらのを食べてんだ?」
「ふふっ、遠慮なくどうぞお食べくださいな」
「あー、ありがとうございます。けど、お箸がないので、他に手を付けるにも手が汚れて……」
「マイ箸の予備あるよ。貸してあげる」
「おぉっ! サンキュ祐定っ! それじゃ、頂きます!」
平沢は僕からハシを手に入れ、手で食べれなかったブリの照り焼きなども食べ始めた。
「うぉー、マジで美味しいです! お弁当っていいなぁー。やっぱりお弁当はいいなぁ」
「平沢さんはいつも、あの購買で買って食べているのですか?」
「そうです。両親が共働きで忙しいですから、弁当は作ってる暇ないです。週1でお昼代もらって買いに行ってます。安く済めばその余った分はこずかいにもできるので、出来るだけ安くてボリュームもある購買は、俺にとって無くてはならない存在です」
「苦労しているよな。今日、久しぶりにあの中に入ってもみくちゃにされ、お弁当のありがたみをまたしみじみ感じたよ。母さんにいつもありがとうって、今日帰ったら言おうかな」
「そう言のって改めて言う時、恥ずかしいわよね」
「でも、たまには言わないとダメなの。今日、お姉ちゃんも一緒に言おうよ」
「えぇっ? んー……、わかったわよ。言うわよ」
「私もいつも朝早くから用意してくれてるから、いつも御苦労さまって言わないと」
「ワタクシもそうしましょう」
「え? えっとー。俺もいつもお仕事御苦労さまって言うか」
「平沢は晩御飯とか作って上げたら、両親喜ぶんじゃないか?」
「えぇっ? 俺が料理をっ!? いや、料理したのなんて家庭科でしかないぜ」
「それがまたいいの。料理できないけどガンバって作った感が、また喜ばれるの」
「でも、食べられる程度にはしないといけないわよね。平沢でも簡単に作れる料理。定番だけど、カレーかしらね」
「そうだな。ルーは市販の買って、適量の水に入れて煮込む。具も切って入れるだけの簡単に出来る料理だからな。まぁ、それじゃ味気ないから、隠し味って必要になるよな」
「作り方はネットに載ってるの。書いてある通りにすれば絶対に出来るの」
「そうか……。んー、そうだな……。作ってやろうかな……」
「……手作り料理ですか」
僕たちの会話を聴いて、シアが考え深気にお弁当を見ている。
「シアも作ってみて上げたら? そういうのって、結構喜ばれるんだよ」
「……えぇ、ガンバってみますわ。有益な情報をくださってありがとうございます」
「ガンバれよシアっ!」
「もし料理で分からない事があったらアタシに聴きなさい。ママの料理を手伝ってるから、隠し包丁なんかのテクだって知ってるわよ」
「隠し包丁? 暗殺の仕方ですか?」
「そういうのじゃないよ。隠し包丁ってのは……。うん、これだ。このシアのお弁当に入ってる大根の煮物見たいなものだね。ほら、角が切られているの分かる? 六角形になってるのを」
「……そうですわね。これが隠し包丁?」
「そう。こうやって角を無くすようにして、大根をゆでると煮崩れしないんだよ。そう言うのを入れる事を隠し包丁って言うんだよ」
「なるほど……。そういう理由でこうなっているのですね」
「あ、平沢。カレー作るならじゃかいもやニンジンもゆでる時、こう言う風にすると煮崩れしないよ。角を無くすように切るんだよ」
「え? あぁ、やってみるぜ。包丁をそこまで細かく扱えればだけどな……」
「指切るなよ。無理だったら普通に大きめにして入れれば良いし。煮崩れした分はカレーに溶け込んでカレーに味の深みも入れてもくれるから大丈夫だし。あっ、ただ大きくした分、煮込む時間は長くしないと、芯の方がナマ煮えになるから時間多めに煮込んでよ」
「そっか。っていうか、祐定って料理も詳しいんだな」
「母さんの手伝いしているからねぇ」
「ユウくんって、なんでも出来てしまうのではないですか?」
「んー……。んー? 僕って出来ない事ってなんだろ?」
そんな事言われて出来ない事を探してみたが、なんかとくに思い付くものが見つからない。
「改めて気が付く、お兄ちゃんのスペックの高さなの」
「ユウくんは絵が……」
「あっ! 絵ですか……。ユウくんの絵って……」
「あぁ……、アレはなんていうか……。独創的だぜ」
「1人も見たのね。ユウの絵」
「えぇ、もう1ヶ月近くになりますもの。美術の時間で描いたみんなの作品が並べられた中に、ひと際目立つ独創的な絵がありましたわ」
「祐定の見える世界って、あんなふうに映ってるのかと思うと、怖いぜ……」
「いやぁー、なんていうか。色々と絵を描いているうちに、あぁ言う風に描いてみたらどうなるだろうとか、こうしたら面白い見え方するかもって思ってるうちに、めちゃっくちゃな色と形になっちゃうんだよねぇ」
「普通に描いてみようとは思いませんの?」
「んー、そうしてるうちに飽きちゃって、結局ふざけちゃうよ」
「お兄ちゃんは好奇心旺盛なの。特に好きなのがミックスジュースで、本当に色々と作っては失敗してと、飽きずに毎日実験をやっているの」
「あははは……」
「そのうち免許取ったら大爆発させまくって大怪我しないかと心配よ。呆れるくらい造っては失敗するんだから」
「すみません……」
2人のお叱りに、ぐぅの根も出せず謝る。
「おい、オマエ!」
「ごめんなさい」
「えっ? い、いきなり謝れても張り合いがないぜ……」
「ん?」
僕は声のした方へ振り向くと、そこには8人ほどの男子が偉そうにふんぞり返っていた。




