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ユウの書 第1話 咆哮の黄炎竜 ― 5 ―

 竜神街の中心にそびえ立つ60階建のビルがある。その名も大神ビル。

 このビル全体はミックスジュース開発研究所であり、国の財政でも(おぎな)われている程、国に取って重要なビルだ。

 これは大神家が所有する会社であり、最上階は大神家の家がある。


 大神 賢寺は、父親に帰宅するよう命令を受けて、あの後すぐに戻っていた。


「只今戻りました」


 賢寺は震えた声で、社長室へ入った。

 そこには賢寺の父親である賢史郎(けんしろう)の姿があった。

 大神 賢史郎は、大神家一族の中では権力が最も高い位置に居る。

 他の大神の血を引く親戚を率い、この会社で共に働いている。

 そしての賢史郎の父、賢寺にとっては祖父の賢仂(けんどう)は政治会のトップの実権を持つ、首相の位に居る。


 賢史郎は窓の外を見て、葉巻を吸っている。

 賢寺が入って来たのにも関わらず微塵(みじん)も振り向きもせず、再び葉巻を吸うだけだった。

 その威圧感に、賢寺は背筋を伸ばし姿勢を正してお辞儀した。


「も、申し訳ありませんでした!」


 賢史郎はようやく賢寺に振り向き、そして傍までやってくる。

 そして賢寺の髪を毛を掴み、そのまま持ち上げた。


「い、痛いっ!」

「賢一族の人間が情けない態度をとるんじゃないっ!」


 賢史郎はそう怒鳴り、持ち上げた頭を離す。

 賢寺は頭を少しさすったが、すぐに姿勢を正した。


「ふぅー……。話は聞いたぞ。桜咲小学校の生徒と戦ったそうだな」

「は、はいっ! 戦いを受けました!」

「ワタシは、大神家に挑むものはどんなヤツでさえ、全力を持って容赦なく、完膚なきまでに敗北させ、民衆に大神家の強さを知らしめよと教えて来たな」


 その言葉にビクッと賢寺の体が震えた。


「でっ……、そうですがっ! 相手は卑怯な戦略で挑んでき――――っ!」

「言い訳などいるかっ!」


 その言葉で賢寺は凍りついたかのように動かなくなる。


「例えどんな戦い方をされようとも、大神家には負けは許されん。相手がそのように挑んでくるならば、我ら大神の竜はその圧倒的力でねじ伏せる。それが大神家だ。逆らう者は容赦なく切り刻めっ! 燃やして灰にしろっ! そう教えたな」

「は、は――いっ!」


 言葉を詰らせながら返事する賢寺。


「だが、オマエは負けた」


 賢寺の顔が青ざめる。


「オマエは賢一族に泥を塗った。そして天津さえ恥晒しな事をしまくったな。オマエのいつもの考えなしの行動の後始末は大変だといつも言っているだろうが」

「うっ……」

「そして大神家の血の者は、このワタシや賢仂様の実権をいつ如何なる時も狙っているのだぞ。この失態で格下共が、時期社長の座は賢一族に任せてられないと宣言していたのだぞ」

「も、もうしわけありゃ、ありら、ありっ! ありませんでしたっ!」


 賢史郎は、吸っていた葉巻をテーブルに合った灰皿へグシグシ押しつけて火を消した。

 肺に溜まった煙をため息の様に吐き出すと、賢史郎はその灰皿の隣にあったアタッシュケースをとった。

 そのアタッシュケースを賢寺の前に突き出す。


「こ、これは?」

「もっと早くから渡しておけばよかったとワタシも後悔しているぞ。今回の失態にはワタシの計算外もあった。責任はワタシにもある。今度からそれを使え」


 賢寺はアタッシュケースを受け取ると、中身を開けた。

 そこには10本ものミックスジュースが入った瓶が、丁寧に並べられていた。


「オマエが使う黄炎竜(こうえんりゅう)のミックスジュースの強化版が出来上がったっていたんだ。強さも格段に増しており、さらに今まで翼がなかったが、背翼(はいよく)が加わるようになったぞ。これで上空に居るヤツらへの攻撃手段が増える。オマエは火の玉(ファイヤーボール)しかなかったからな」

「ほ、本当ですかっ!? や、やったーっ!」


 賢寺は喜んだ。


「だが賢寺よ。強化した分、今までより制御が難しくなるぞ。今のオマエではコントロールに不安な部分もあるから渡さなかったが……」

「大丈夫ですよお父上っ! これで桜咲の連中に目に物見せてやれるっ!」

「復讐は後だ。まずはその力をコントロールできるように訓練をしろ。今日、1日学校がないのなら、今からそれを使って練習してこい」

「わかりましたっ! ありがとうございますお父上っ!」

「もう下がっていいぞ」

「はっ! では、失礼しますっ!」


 賢寺は礼儀正しく、社長室を出て行った。

 賢史郎は出て行ったのを確認すると、再び窓に近づいて下界を眺める。


 このビルより高い建物はない。辺りに自分より高い物が無い優越感がそこにはある。


「……竜神の血め」


 そうポツリとつぶやいた。


「いつになれば、その完全な力を我が者と出来るようになると言うのだ……」


 賢史郎が最上階から眺めるそのそびえ立つビルには、異様な雰囲気を漂わせていた。

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