ユウの書 第1話 いつもの朝が…… ― 4 ―
「ん? おい、祐定。そっちは……」
「まぁ、任せてよ」
僕は険悪ムードの中へと向かって行った。
「どうも。大神さん。少しお話に割り込ませて頂きます」
「なんだねキミはっ! 今俺は小田桐さんと大事な話し中だっ! こうして邪魔する事への意味がキミにはわかっているのか?」
「はい。承知です。それでですね。大神さんへの小田桐さんを落とす為のアドバイスをしようかと思い来たのですが?」
「この俺がキミの様な低俗相手からアドバイスだと? フザケタ話しだな。容姿端麗、頭脳明細、完ぺきであるこの俺に足りない物などないっ!」
僕は大神の言う事は無視して話して行こう。
でないと、相手も一方的に自分中心で話してくるから、こっちが話ししまくって流れを持って行かないと。
「そんな素晴らしい大神さんへ、よりカッコよく、そして男としてより高みへと上がる為の必勝法があるのです」
大神はより、や高みと言うキーワードに反応した。これなら行けそうだな。
「まずは、男は黙っていても女を引き寄せる男の方がカッコいいと思いませんか? 女子と言うのは、そう言うハードボイルドな男性へ憧れる人も多いのですよ。大神さんのお父さんも国民からそのハードボイルドさで、カッコいいと評判じゃないですか」
「そうだな……」
「つまり小田桐さんを落とすのであれば、こうしてアタックしていくような尻軽い男としてのイメージではなく、黙って見向きもしないでいた方が、なぜ構ってくれないと言う感じになってきて、自ら大神さんへと近づいて行くようになるんですよ」
「尻軽だと?」
っとヤバい。余りイメージダウンの言葉は使わない方がいいか。
「きっと小田桐さんも恋にはウブすぎて、大神さんの後光に触れる事が出来ない臆病なウサギの様なか弱き女の子なのですよ。こうして余り積極的に責められてしまうと、余りの大神さんの魅力の強さに惚れてしまって死んでしまう程に苦しいのです。だからここは構う事をせず、自らこちらへと誘う形にすればいいのですよ」
「っと言う事は、俺は何もするなと言う事か? それで本当に上手く行くと思うのか?」
「大神さんの魅力であれば、誰もが黙っていても何もせずとも、その光に集まる虫の様に集まってきますよ」
って虫ってイメージ悪いな。ヤバいヤバい。たまに自分で言っていてムカムカしてくるのを抑えないとな。口が滑ると罵倒を巻き散らかしそうになるぞ。
「それに大神さんの魅惑で集まってきた人たちを見ていると、自分もあの中へ急いでいかなきゃと言う焦りも出てきて、きっと小田桐さんも誘われてしまいますよ。そこに小田桐さんの為に場所を用意して置いたと言う寛大な行動で、大神さんのより偉大さを感じて心にノックアウトと言う事間違いなしですよ」
「そうだな。この俺の偉大さが出て良いアイディアじゃないか」
「大神さんへと迫る小田桐さん。小田桐さんへと迫る大神さん。美しくカッコよく見える大神さんは、どちらだと思いますか?」
「それはもちろん前者だろうが」
「でしたら今、こうして迫るよりも、ここは運命の再開を祝した形にして、後は黙って小田桐さんが来るのを待つ方が最適でしょう」
「ふむ、よろしい。ではそうしようか。オマエ、特級組では今まで見かけなかった者だな。成り上がってきた者か。新参者としてはこの俺に対していきなり話しかけると言う無礼な事ではあるが、その度胸と有益なアドバイスにて罪を裁く事は免じよう。この俺の寛大さにありがたく思うのだな」
「はい、ありがとうございます。大神さんの心遣いに感謝でいっぱいです」
僕はその場で丁寧にお辞儀した。内心では、まんまと口車に載りやがってバァーカっ!! と笑っているけれどね。
「中々に礼儀が出来たヤツではないか。新参者のルールだが、オマエは面白いヤツだ。特別にオマエは新参者としてではなく、この特級組への一員として認めてやろうではないか」
「おぉ、これは大神さまの勿体なきお言葉。ありがたく受けたわります」
どーでもいいけどね。
その時、教室に小林先生が入ってきた。
「よぉ、また皆の顔が見れて嬉しいぞ。出席にはまだ早いが、早く会いたくて来てしまったよ」
そして教室を見渡して、僕と大神が対面しているところを見て、海斗兄ちゃんの顔が引きつった。僕はウインクして大丈夫だと答えた。
「先のご無礼をした事をお許しいただき、ありがとうございました。それではこれ以上はお邪魔でしょうから、僕はこれで下がらせて頂きます」
そう言って僕は大神から離れた。
「待て」
そう言って引きとめられてしまった。
ヤバい。上手くいかなかったか?
「新参者の名前なんて、聴く事も覚える価値もないが、オマエの名だけは聴いてやろう。名前はなんて言う?」
あぁ、その事か。
「僕の名前は、木花 祐定と言います。大神さんへと名を知られる名誉なんて、とても幸運であります」
取り合えず持ち上げとかないとなー。
「木花? この竜神街で大神家と敵対する弱小勢力に、木花と言う名の者がいたが……」
「木花って名字の人は多い方です。申し訳ありません。このような名の家庭に生まれてしまい」
「ふぅーん……。まぁいい。それでは小田桐さん。俺はここで失礼するぞ。小田桐さんの席は、いつでも開けておくから、いつでも来るんだぞ」
「申し訳ありませんでした。ふがいないワタクシでは、大神さんの元へ行くのにまだまだ未熟者ですわ。これからも精進して行くので、よろしくお願いしますわね」
そう言って小田桐さんから大神も離れて行ったな。
まっ、これでしばらくは小田桐さんも大神にまとわりつかれなくなるかもな。
僕は自分の席へと座って、一息ついた。
あー、疲れた……。
大神と対面するのはこれが初めてだけれど、コイツマジでムカつくヤツだわ。
「おい、祐定」
後ろの席に居た平沢が僕へ声をかけた。
「オマエ、大神にコビを売るヤツだったのか?」
僕は平沢と小富士さんだけに聞こえる程度に話しをする。
「んな訳ないだろ。めちゃくちゃ嫌いだ。木花家は大神とは敵対してるんだよ。木花家の者が大神家の傘下へ下る事は、一族の大恥だ。あんなのにくっ付いて行くわけ無い」
「じゃぁ、あのアドバイスは……」
「大神が小田桐さんに構う事をしないでいれば、小田桐さんもしばらくは迷惑も無く平和で行けるだろ。ハードボイルドな男の条件に、大神の様なバカ、自己中、腐れ外道なヤツが出来ると思うか? 海に砂糖水コップ1杯入れても甘くならないだろアイツじゃ」
「だましたって事なのね?」
「そう言う事。まぁ、しばらく大神の滑稽な姿を見られると思うよ」
「オマエってヤツは面白いな。大神の言い方と似るのがイヤだけど、俺も祐定の事を気に入ったぜっ! あの大神に対して祐定はすげぇーよっ!」
「ははっ、ありがと。木花家は確かに表上は弱小さ。でも、その弱小が長年生き続けている理由は、大神を上手くはぐらかす事。僕もその様に教育されてきたからね。大神家全員の性格分析は怠ってないよ」
「はぁー……。なんか凄いんですね。木花くんって……」
ま、今年は色々とあるだろうが、言葉巧みに知恵を絞って、大神から逃れて行こう。
けれど……、逃げていられる時間は少ないかもしれないな……。
争いになる覚悟は決めておかないとな。




