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ミックスジュース! ~姿を変える魔法の飲み物~  作者: 加熱扇風機
第4章 茶の木小学校の出来事
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ユウの書 第1話 いつもの朝が…… ― 1 ―

 今日も晴天。清々しい朝を迎えた。

 家の周りにある林から太陽の木漏れ日のカーテンを受けて、喫茶店『ゆるやか時間(タイム)』は、幻想的な雰囲気を作り出している。

 まるで時がゆっくりと流れている。そんな感じだ。


 僕はいつもの登校前のティータイムの前に、家の前の道路の掃除をしている。

 夜の就寝前に、風の音が強かったのを知っている。その為か家の前の道路に、落ち葉や木の枝が散らばっていていた。

 竹ホウキを持ってせっせとその前の道路を綺麗にしていく。


 別に親からやれと言われている訳ではない。僕自身が自主的にやっている。

 僕はこのお店が好きだし、この木漏れ日の森も好きだ。

 だから綺麗にしておきたいし、来てくれるお客様にも自慢のお店や森を見てほしい。

 僕はこの素敵なお店を見たお客様が、気持ちよく過ごせる時間を過ごして笑顔になるのを想像する。それに自分も嬉しくなって鼻歌を歌いながら清掃していく。


 まだ登校するにも早い時間。道行く人は学生よりも会社へ出勤する大人の人が多い時間。

 お店の常連や顔見知りの人が道行くたびに挨拶を交す。

 偉いねとか頑張ってるねとお褒めの言葉を掛けられるたびに、くすぐったくて嬉しい。

 ホウキを掃く手にも力が湧いてくる。


「ユウくーん」


 そう言って店の中から出て来た母さんが、お皿を持ってこちらへやってくる。


「これ、味見してみて」

「どれどれぇ」


 母さんがお皿の上のパウンドケーキをフォークで刺して、僕の口の中へと入れてくる。

「どう?」

「んー、僕的には丁度いい。でも甘みが欲しい人には、これがパウンドケーキかって、思われるよね。でもこれはこれで美味しいから、好きな人は食べるよ。僕は食べたいし」


 今造っているのは低カロリーパウンドケーキだった。

 なんと100グラムで100キロカロリー以下まで抑えようと言う挑戦をしている。普通で造っても300キロカロリーする物をそこまで抑えようと言うのだ。


「それじゃ、これは期間限定のお試しで出してみようねぇ。人気がアレばメニューに追加よ」


 昨日僕がドリペンで買ってきた材料でさっそくこう言う物が造られている。

 本当に母さんは料理が上手だ。こんな自慢の母さんの息子で僕はなんて幸せだと思うよ。


「おはようございます。木花くん」

「あ、おはようござうぇあっ!? えぇ!? 嘘っ? なんで小田桐さんっ!? ここにっ?」


 声を掛けられたので、ここを通る大人の知り合いかと思って振り返って挨拶をしたら、予想外すぎる人物がそこに居た。

 今まで小田桐さんがこの店に来る事は1度も無かったし。さらに言えばこんな朝早くからここに居る事態があり得ない事だった。登校時間にもまだ1時間もあるし早すぎる。

 小田桐さんは僕の余りの驚きように、クスクスと笑っている。

 昨日の闘技場で偶然会うと言い、神出鬼没(しんしゅつきぼつ)なのかこの人は……。


「あー、えっと。ホントにどうしたのさ? こんな時間にこんなところにさ……」

「はい、今日は木花くんに話がありまして来ました。こちらの方はお母様ですか? はじめまして、小田桐 シンシアと申します。木花くんとは、今年クラスメイトになった友達です」

「これはご丁寧にどうも。祐定のお母さんの木花 結姫です。結姫ママと愛称で呼んでね。ここで立ち話もなんだから、テラスの方にどうぞ。お飲み物は、何がいいかしら? あ、お代は要らないからね。友達が遊びに来た感じだし」

「ありがとうございます。では、紅茶でお願いしますわ」

「ホットとアイス、どちらにする?」

「ホットでお願いします」

「かしこまりました。ちょっと待っててね。ユウくん、案内してあげなさい」

「うん。どうぞこっちへ」


 僕は小田桐さんを誘導する。母さんは店の中へ入って準備しにいった。


「聞いた通りの若くて美人なお母様ですね」

「ありがとう。自慢のお母さんだよ」


 僕は椅子を引いて、小田桐さんを誘導する。


「あら、ありがとう」


 そして僕は小田桐さんの向かい側の席に座る。


「聴いた通りに素敵な場所ですわね。ここを開拓するなどと言う話もありましたけれど、それを止めて正解と思いますわ」

「ありがとう。そう言ってもらえると木花家が頑張って守ってる甲斐(かい)があるよ」


 小田桐さんが鼻から息を静かにたっぷり吸って行く。

 ここは市街地の中でも森が密集しているせいか、空気が美味しいからな。


「お待たせいたしました。ごゆっくりお(くつろ)ぎ下さい」


 トレイに持ってきた物をテーブルに置いて行く。

 あ、この茶菓子。母さん1番自慢の手作りレアチーズとマロンのミルフィーユだ。

 母さんが小田桐さんへ紅茶を注いでいく。


「ありがとうございます。この銘柄はなんでしょうか?」

「ダージリンです。マーガレッツホープ茶園のを淹れたわ」


 え? まさか……。

 僕はティーポットの中の茶葉を見た。


「うわっ、ファインティッピーゴールデンフラワリーオレンジ・ペコーだよね? うし、今回噛まずに言えた」


 たまにフラワリーの部分で噛むので注意している。


「ちゃんと言えるようになってきたわね。そうよ。特別に使ったわぁ」

「ファイン……ゴールデン……オレンジ……。なんですかそれ?」

「茶葉の仕上がりの等級だよ。かなり良い方だよこれは」

「本当なら1番良いSFTGFOPSを使いたかったのだけれど、アレを最高に抽出するには15分以上はお時間が掛かるから、お出しできなかったわぁ」

「でも、そこまでするとは……。まさか、これはセカンドフラッシュ使ってる?」

「もちろん使ってるわよ」

「おぉぉぉ……。ぼ、僕も飲んでいいんだよね?」

「いいわよ。飲み過ぎには注意しなさいね」


 僕は母さんに注がれる紅茶をじっと見る。

 その流れる液体は、まさに黄金の輝きを放っているようにみえた。


 家では基本的に客用で安い物を使っている為に、この高くて品質の良いダージリンを飲める機会なんて、滅多にないからな。


 どうやら小田桐さんのお嬢様な雰囲気を読みとって、良い物をお出ししたようだな。

 お店に来るお客様の中には、たまに自分で決めずに母さんのお勧めで選ぶ人がいる。

 そのお客様に合わせた物を用意する技術もとても必要な物で、バッチリ合った物を選んでいるからこそ、その人たちがこの店を好きになって常連となってくれる。


「よ、よくわからないですが、いい紅茶を出していただいたようで、ありがとうございます。それでしたら、しっかりお金を払わないと悪いですわ」

「いいのよぉ。ユウくんの友達ですから。ただ、私が見栄を張っているだぁけっ♪ お気に召せれば、よければ今後ともお店にお客様としてご来店ください」

「……わかりました。ありがとうございます」


 小田桐さんはティーカップに口を付けて一口飲んだ。


「……っ! これは本当に美味しいですわね! こんな味わいと香りが整った紅茶を飲むのは初めてですわっ!」

「ありがとうございます。では、ごゆっくりお寛ぎ下さい。あ、ユウくん。お掃除ありがとうね」


 母さんはお店の方に戻って行った。


「ほいー。ズズゥ……、はぁー、美味しいこれ……。手間暇かかってるなぁー」

「普段はお茶ばかり飲んでいますが、この紅茶を飲むと止められなくなりそうですわね」

「普段お茶なんだ。まぁ、家からして日本庭園だし、紅茶とかコーヒーとかなさそうだね。でも、小田桐さんって見た目は紅茶飲んでいてもおかしくないのに」


「そうなのです。日本の風習を厳格(げんかく)に守る家柄でしたし。まず小田桐家系に外来の国の血が混じった事自体、当初は大問題でした。特に祖父は純血主義で、母が父との結婚は断固として認めていませんでしわ。でも、ワタクシが生まれてからは少し変わっていったようで、最近はブランデーなどの外国産のお酒も飲むようになりましたわ」


「大変なんだな。小田桐家って。由緒正しき名家ってのは大変だなぁ」

「そういう木花家も、この森を代々守って何百年になる名のある家ではありませんか」

「そんなカッコいい家柄でもないって。ただ、先祖代々から住んでいるこの地を愛していて、そして開拓され続けても、昔からあるこの森だけは絶対に譲らない頑固な一族ってだけだよ」


 この木漏れ日の森は、木花家がここ一帯が竜神街として名が付く前から住んでいて、この土地を守り続けていた地主だった。

 何度も街開発の為に、森林伐採や焼き討ちにも遭い、開拓された。

 昔はもっと広い土地を所有していたのだが、なんやかんだあって、今は84ヘクタールの土地しかない。

 この残された土地を今でも必死に木花家は守ろうと頑張っている。


 今でもこれだけ残っているのは、木花家の親戚一同総出の力や、森を守ろうと協力してくれる自然愛好家団体のお陰で手厚く守られ続けている。

 住民の憩いの場やレジャーに使ったりと、地域住民の保守的意識の高まりもあって、大きな支援を受けている。


 この森を守る中心的なリーダー格は遠い親戚にあたる木花家本家、木花 秀勝(ひでかつ)の家だ。

 秀勝おじさんの木花本家はこの森の中にあって、いつでも会おうと思えば会える。

 僕は秀勝おじさんにはいつもお世話になっているし、お店にもよく来てくれている。


「あっ、そういえば。小田桐さんは、どうしてここへ? それもこんな時間から」

「そ、それはですね……」


 小田桐さんの目が少し泳いだ。紅茶を一杯飲んで落ち着かせると話し出した。


「よければですが……。その……。一緒に学校へ……ですね。登校したいと思いましたの……」


 ボソボソっとした話し声ではあったが、ちゃんと聞き取れた。


「一緒に登校? なんでまた……」

「と、友達と歩いて一緒に登校してみたいのです! ワタクシはいつもあの車で送り迎えしてもらっていて、一緒に誰かと歩いて学校へ登校するなんて、なかったのです」


 あー、そうだった。登校時は小田桐さんがいつも早いのか見たことないけど、帰りは校門前にリムジンが停まっているんだよな。

 それで小田桐さんが載っていくところを入学時から何度も見ている。

 っとなるといつも車の送り迎えじゃ、誰かと一緒に登校する事なんて出来ないだろう。

 出来るとしたら一緒にリムジンに載ってくれる人を探すくらいだな。

 でもアレに載って学校で降りるなんて事、恥ずかしくて普通出来ないし。


「ワタクシ、最近自由に行動する事が出来るようになりましたから、あぁ言うリムジンでの送り迎えと言うのを卒業したいのです。自分自身で歩き、友達と一緒に歩き、雑談する。そう言う事をしていきたいのです」


 そっかー。そうだよな。そんな束縛された環境じゃ、僕ら見たいな日常にも憧れるよなぁ。


「それで……。木花くんが良ければなのですが、ワタクシと一緒に登校していただいてもよろしいでしょうか?」


 小田桐さんがモジモジと顔をうずめながら、僕にお願いしてきた。


 んー、大神の事が気になるけれど……。

 でもこれはちょっと木花家としてもチャンスではあるんだよな。


「僕は別に構わないよ。一緒に登校しても」

「ほ、本当ですかっ!?」


 小田桐さんの顔がパァッと明るくなって喜んでいた。


「うん。あ、登校するのは僕だけじゃなく、李奈と杏子ちゃんも一緒だけどいい?」

「昨日お会いした門川さんとその妹さんですね。構いませんよ」


 小田桐さんは実にワクワクしたように笑っていた。


「しかしまぁ、登校するにも今日みたいだと、結構待ち合わせには早いよ。明日からはもう少し遅めにきてもいいよ」

「わかりましたわ。そう致します」

「んじゃまぁ、李奈たちが来るまでノンビリしてようか」


 僕はお茶菓子のレアチーズとマロンのミルフィーユを食べる。小田桐さんも続いて、それを一口食べた。


「これも美味しいです。食べた事ない味ですね」

「ケーキは食べた事ないの?」

「ケーキはありますけれど。これはレアチーズケーキとマロンですよね? 一緒にしているのは初めてです」

「そうなんだよね。うちの母さん、色々と創作料理するから、色々と珍しい食べ物があるよ」

「これって持ち帰りもできます?」

「種類によっては出来るよ。家族にお土産に買って行ってよ」


 お気に召したようでよかった。


 穏やかな風が吹き、木々が奏でる音楽に耳を傾け、ゆったりとした時間が流れる。

 美味しい紅茶、美味しいお菓子、贅沢な空間。

『ゆるやか時間(タイム)』自慢の穏やかなまったりな時を過ごしてもらった。

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