ユカリの書 第4話 狙われた桜咲小学校 ― 5 ―
「ほら、かかってこいよ。まず先制はオマエにやるぜ」
「雑魚がっ! シネエエエエエェェェェェッ!」
大神は息を吸うと、火の玉を放った。
見え見えな攻撃に兄さんは、軽いステップで横に避けて行く。
大神はその後2発、火の玉を兄さんに向けて放つが軽く避けられていく。
息が切れて、次の攻撃に息を再び吸い始める。
兄さんはその瞬間に、両腕に持っていた機関銃2丁を大神の顔面に向かって打ち始めた。
ズドドドドドドドドドドドドドドッ!!
「うぐあっ!?」
大神は手で顔面を覆って、その弾幕から目を守った。
兄さんは機関銃を打ちっぱなしにしながら大神へ駆け寄った。
『そぉらっよっ!』
3つの顔の掛け声と共に、大神の腹にメイスの一撃をくらわした。
「ぐほあっ!?」
あの巨体が軽々と吹っ飛ばされた。
兄さんの阿修羅はパワータイプ。全ての腕を使えば、大神くらいの巨体も軽々とお手玉できるくらいに力強い。
地面へ叩きつけられて転がる大神に、間髪を容れずに近づいた兄さんは背中に回った。
「いいか。翼が背中にある竜の柔らかい場所は、このよく動く翼の付け根だぜ。よく動かす場所だから、鱗も柔らかいぜ。こうして体の内側に突き刺すようにすれば、簡単に肺にまで突き入れられるぜ」
そう言った兄さんは、両翼の付け根に刀をそれぞれ突き刺した。
「グアアアアアアァァァァァァァッ!?」
大神が絶叫の叫び声をあげた。
「ただし、肺を覆う胸骨にぶつかる可能性もあるからな。刺し入れる角度は、それぞれの生物の骨格を理解しておかなきゃならねぇぞ」
兄さんは刀を抜くと、そのまま刀を振りおろしてバッサリと両翼を切り落とした。
「グエェッ!?」
「ま、これくらいの武器になると、硬い骨ごとスッパリ切り落とせるけどな」
大神は背中に手を伸ばしてもがき苦しんでいた。
「ちっ、期待していたより弱ぇ……。ほら、どうした? 攻撃してこいよ。その武器は飾りか? 坊っちゃんが持つにはもったいないオモチャだなおいっ」
「ウルセエエエエェェェェェッ!」
兄さんの挑発に、目を血走らせた大神がバルムンクを振りおろした。
ガシンッ!
盾でその攻撃を受け止める。
『うらぁっ!』
ガキンッ!
その後のメイスの攻撃で、バルムンクが弾き飛ばされてしまった。
「あぁっ!?」
大神は手から離れたバルムンクを掴もうと腕を伸ばすが、空を切るだけで剣は高く飛ばされてしまった。
「そして、腹と胸の間のみぞおち、これまた竜は柔らかいぜ。切る事ができない硬さなら、打撃系で内臓へ衝撃を送るようにすればいいっ!」
そう言ってメイスを大神のみぞおちに叩きこんだ。
「ゴフォッ!?」
大神はその場で腹を抱えて転がった。
兄さんの横に、先ほど吹っ飛ばされたバルムンクが地面へ突き刺さった。
「どれ、せっかくだから使ってみるか」
武器を全部しまうと、そのバルムンクを地面から抜き取った。
「おっ?」
そうするとバルムンクが一瞬光り出して、兄さんの腕にマジックリングが1つ追加された。
アレは特殊な武器や防具にある契約のマジックリングだ。
「ははっ、こう言う武器は人を選ぶと言うが、どうやらオレを選んだようだぜ。普通は使用者が死ぬまで純情に尽くすものだけど。オマエが使ってやらないで、ずっとほったらから、嫌われちまったようだぜ」
「な、なんだとっ……!」
大神は腹を押さえながら起き上がり、その光景に目を丸くしていた。
「まぁ、オレが扱うにはでかくて重すぎるぜ。コイツを使うに相応しいヤツに、このバルムンクをやるかな。オレは片手で扱いやすい武器が、この阿修羅にとって1番いいんでね。すまないな。オマエはオレがちゃんと見定めたヤツに渡してやるからよ」
あ、いいなぁ。私も欲しいけれど……。
ただ、私も使う武器は兄さんと同じで、片手でも振りまわせる物がいい。あの大剣が大きすぎる。
兄さんはバルムンクを両手で掴み、その場で振りまわしていく。
「……よしっ。とりあえずオマエにさんざんな扱いをされたバルムンクが、仕返しを願っているそうだぜ。覚悟しろよ」
「ひっ!?」
大神にはすでに戦う気力は残ってなかった。
自分と相手の強さの差が余りにも開き過ぎているのをようやく悟ったのだろう。
兄さんは高くジャンプして、大神に迫った。
『そらぁっ!』
「や、やめろぉーっ!?」
頭に向かってバルムンクを振りおろした。大神はそれを両腕を出して制止に入った。
ザシュッ!
その太い両腕が、いとも簡単に切り落とされた。
「イデエエエエェェェェェッ!!」
兄さんは着地すると、そのバルムンクをマジマジと見た。
「こりゃすごい。オレも斬った時に何が起こったのか信じられなかったぜ。あの鱗を意図も簡単に切り落とすなんてな……」
私もまさかあんなスッパリと切り落とされるとは思わなかった。
それだけのキレ味に、最初に盾で受け止めた時に傷1つ付かなかったのは、その盾が本当に強かったのか。それとも、扱いなれてない大神の実力不足か。
どっちにしろ、SSランクの武器の威力の凄さを初めて知った。
アレは扱う者を選ぶと言うのが分かる。
「コイツはちゃんとしたヤツに渡さないと危ない武器だな」
兄さんはバルムンクを振りかぶって、大神の片足へ向けて放った。
まるでだるま落としの如く足がスパッと切り落とされて、バランスを失って倒れた。
「ぐふぁっ! も、もう止めてくれ……。こう……降参だ……」
「前の大会での戦いに、降参のルールはなかったよな?」
兄さんは倒れた大神の背中に乗り、背中にバルムンクを突き刺した。
「ぐえっ!」
そしてそのまま走りだし、しっぽまでズバッと切り開いていく。
大神は痛みからガクガクと震えている。
「ここまで来れば、もう大神も何もできなくなるぜ。どうする、オマエら? コイツを自分たちでボコボコにしたいか?」
そう言ってこの現状を見ていた桜咲小学校の生徒たちを見まわした。
しかし余りの恐怖に誰1人として口を開こうとせず、ただ茫然とその光景を見ているだけだった。
「兄さん、代わりにボコボコにしてくれて構わない。とても苦痛となる方法で」
「そうか? なら、そうするぜ」
兄さんはバルムンクをしまうとサイドバックを取り出して、中からC4プラスチック爆弾を手に取った。
それを持って大神の体の至る所に張り付けて行く。
「な、何をする気だ……」
身動きがとれない大神の顔が青ざめる。
「なぁーに。オマエももう瀕死だからな。最後はオーバーキルで止めを刺してやろうかってね」
「や、止めてくれ! 頼むぅ! 変身解除薬をくれ!」
「オマエに食わせてやるのはこれだ」
そう言って兄さんはサイドバックから何か取り出して、大神の口の中に放り込んだ。
すると煙がもくもくと口から出てくる。発煙筒か。
「ごふっ!? ごぉふっ! がふっ! げふっ!」
「とりあえずその耳障りな減らず口をふさいでおいてっと……」
兄さんはしっぽの先まで爆弾を付け終わると、大神の側から離れた。
「さぁ、大神への死へのカウントダウンを10から始めてやろうぜ。桜咲小学校のオマエらもそれに続け。大神への恨みを込めて、その怒りを大神へ叫び散らせっ! いくぞっ!」
兄さんがそう言うと生徒たちがざわめきだす。
「10! 9! 8! 7! 6――っ!」
ゆっくりと兄さんがカウントダウンを大声で叫んで行く。
『5っ! 4っ!』
それに続くかのように、生徒の中からカウントダウンを叫ぶ者が現れた。
「ぐふぁっ! や、やめてくれぇー……」
「私たち全員の恨み。罪への裁きだ。苦痛にもがいて死んで」
『2っ! 1っ!!』
兄さんはカウントダウン0で、その起爆スイッチを押した。
「グルアアアアアアァァァァァァァァッ!!!?」
ドオオオォォォォォォォーーーーーンッ!!
大神は絶叫を上げると、大爆発と共に大神は砕け散った。
そして散らばった肉片は光り輝き、1ヵ所に集まって行く。1つの集合体になって大神は元の姿へと戻った。
「くっ、くそうっ……」
大神は地面へ跪いて息を切らしている。
「お、覚えていろよっ! こんな事、大神家は許しちゃいないぞっ! 黒堂は死刑となりっ! この学校も閉鎖にしてくれるっ!」
「とりあえず、これを飲んでもらおうか」
そう言って兄さんが大神へ近づいて、頭をつかんでミックスジュースを飲ませた。
「ぐふぁう、げふぉ、ごばっ!」
大神は必死に吐きだそうとするが、兄さんに無理やり飲まされていく。
だいぶ飲んだのを確認すると大神を放してやる。
「な、何を飲ませたっ!?」
「ブタのミックスジュースだぜ」
「なっ!?」
そう兄さんが言うと大神は煙に包まれた。
煙が晴れると、そこには元の顔の原形を留めながらのブタ顔となった人間が居た。
これは屈辱的なミックスジュースとして、よくイジメに使われる物だ。
「滑稽だぜオマエっ!」
「ぶひゃひゃひゃはっ!」
「ダッセぇーっ!」
兄さんの3つの顔がそれぞれ大笑いしている。
「くっ!? み、見るなっ!」
大神は自分の腕で顔を覆い隠す。その手も蹄になっている。
「竜使いの大神がブタの姿とはね。これからはブタ使いの大神ってか。いや、大神なんて大層な名前より、大豚って名前に改正しろよ」
「く、くそうっ!」
「ほら、これを手に持ってろ」
兄さんは大神に何か投げよこした。
それを手に取ると大神は固まった。
「な、何故、爆弾を?」
「そりゃ、オマエを木端微塵にする為だ」
「ひ、ひぃっ!?」
慌てて大神が投げ捨てる前に起爆スイッチを押した。
ボンッ!!
「ゲバァっ!?」
大神は木端微塵に吹き飛んだ。
そしてまた元の姿に戻った。
大神はかなりの疲労を受けているようで、地面に横たわっていた。
もう虫の息だな。
「そんじゃ、もういっちょ行くか」
「……え? がぼっ!? ごばぁっ!?」
兄さんは大神にまたさっきのミックスジュースを無理やり飲ましていく。
大神はまたブタの姿となった。
「や、止めてくれ! もう止めてくれよ!」
「オマエを殺して、殺して、殺すって言ったよな。これが3回目だ」
兄さんは今度はロケットランチャーを構えていた。
「ひぃっ!? へぶっ!?」
地面を這いつくばって逃げる大神に向けて撃ち、再び木端微塵となった。
3回目の変身が解けると、大神は動かなくなっていた。
どうやら限界を超えて気絶したようだ。
「これでしばらくは大神は動けなくなるだろうな……。さーてっと。ユカリ、これだけやったが、満足したか?」
私は兄さんに頷いた。凄く精々した。
けれど大神を許さない気持ちはまだ残っている。
色々とやっても、大神は一生許すことない存在になっているのだろうな。
やりすぎと思われるだろうが自業自得だ。哀れみ私は感じてない。
兄さんは変身解除薬を飲むと、ワシのミックスジュースを飲んだ。
「あー、こうも間髪容れずに3回目のメタモルフォーゼだと、さすがにキッツイぜ」
「兄さん、ありがとう」
「あぁ。これから大神政府が色々と関わってくるだろう。オレが何とかしてやるが、十分に気をつけておけよ。それと今度、機械仕掛けの柱時計を紹介してやる」
「機械仕掛けの柱時計?」
「この日本の政権は大神が支配している。それを許さない者たちが集まって国家反逆の機会を窺う勢力が密かに動いている。オレもそのメンバーの1人だ」
そうなのか。一匹狼な兄さんに最近仲間が増えたと思ったら、そんな組織に入っていたのか。
「どうせオレが止めてたりほっといても、いずれそこへ首を突っ込んできそうだからな。もうオレから紹介しておいてやるぜ。それで大神からユカリとその周りの連中を守るように言っておいてやる」
兄さんはそこまで言うと飛び立った。
それまで駆けつけていたのに傍観していた警察が、ハヤブサとなって兄さんを追いかける。
しかしその様子は逃げ腰で、必死に追っている感じはない。
自分たちもあんな目に会いたくないと思ってるからだろう。
兄さんもそんな臆病なヤツラに付き纏われるのがウザいだろう。閃光手榴弾を投げたであろう光が遠くの空でパッパッと光っている。
無事に逃げきってね。兄さん……。
大神は駆けつけて来た救急隊にその場で救急処置され、そして救急車で運ばれていった。
ようやく終わったのか……。
「ユカリさん……」
「斎藤……」
斎藤はもう変身を解除していた。
私は……。まぁ、自然に効果切れの1時間が立つまでほっとくか。解除薬がもったいないし。
「私たちは、間違いを起こしてしまったのでしょうか?」
「そう思うかは人それぞれ。私は日本を理想の平和に変える為に動き出したと思ってる。それがどんな犠牲を払ってでも、やらなければならない事だったと思っている」
「日本をですか?」
「そう。大神による支配から、日本は変わろうと動き出そうとしている。そう遠くない未来で、戦争が起こる。その手始めがこれなんだ」
「戦争が起こる……。本当ですかそれは?」
「私たちが何をしようとしなくても、何れ戦いは起こる。その前兆を先に知った私たちは、今後の戦いに備える準備が出来る時間をもらえた。それは幸運な事だ」
「どうすればいいでしょうかね……。これから……」
「戦争に備えて安全対策を強化。そして守る為に強くなる事。これから起こる事への事前の予行練習をしておけばいい。斎藤は、この学校の生徒を守ってあげて」
「ユカリさんはどうするのですか?」
「私は大神と直接対決する為の前線に出れるように、自分自身を鍛える」
「また、1人で行くのですか?」
「1人じゃない。これから出会う仲間と共に私は戦う。斎藤は、この学校を守るのが使命。互いの使命に、全力で取り組もう」
私は斎藤に手を刺し伸ばした。
「ユカリさん……。わかりました。私に出来る事があれば言ってくださいよ。この力を存分に使ってください」
斎藤と握手を交わした。
茶の木小学校での大神の戦い。その後すぐに桜咲小学校の戦い。
今日は1日がとても長く感じる。まだ午後を回ってないって言うのに……。
その後は災害マニュアルに従って生徒全員が途中下校となった。
校舎は補修と安全点検を行うと言う事で明日も休みになり、金、土、日の3日間の休日になると言う。場合によっては次の週も全て休日になるかもしれないとの事だ。
私は健と共に小野寺家に帰宅していった。
今まで健は何をしていたかと言うと、他の生徒と一緒に逃げていた。
まぁ、それが普通だろう。
健は8歳の子供だ。
私みたいな恐れずに向かう勇気を持つには、まだまだ経験不足だし力も無い。
けど、いざという時に見せる健の強さは知っている。
誰よりも先に大神に果敢に向かって行き、トウガラシの粉を撒いたあの健は凄かった。
健もしっかりと鍛えれば、皆を守る為にとても大きな力となってくれるだろう。
今後は私の朝の鍛錬に、健を付き合わせてやろうかな。
いつか起る戦争で、自分の身を守るくらいの力を付けてもらわなければいけないからな。




