ユカリの書 第4話 狙われた桜咲小学校 ― 2 ―
私は桜咲小学校の指導室にいた。
そこには斎藤と健が私の横に並んでおり、テーブルの向こうには桜咲小学校の校長先生と、生徒指導の先生がいる。
学校へ戻って来るまでに数時間が経っていた。
先生たちが私たちを説教する中で、私はその説教に反省の色を全く見せずに反論を続けていて、全く決着がついてない状況だった。
「これは桜咲小学校の生徒の殆どが思っていた事っ! この行いが正しいか、正しくないかは賛否両論だ!」
「しかしですね。アナタが行った行為には、多くの怪我人を出す危険な行為ですよ。今回は幸いも大事に至らなかった物の」
「危険や怪我を怖がって、結局大神には何もしないってことですか? そして一方的に大神に痛めつけられて、そんな目に合わないように大神に逆らわないで見ないふり。大神ばかりが好き勝手に出来ているこの世の中はおかしいっ! 間違っているのはこのような社会の仕組みになっている事だ! 先生たちもそれに従う様に教え込まれた奴隷に仕立て上げられてるんだ!」
「そう言う理由ではなくてですね」
「私たちが教育する内容に、大神がこの日本を救った英雄だって書かれていて、政治でこの日本の繁栄をもたらした偉大な一家って、飽きる程に1年生から今まで同じように教えてくる。そんな風に全く思えない。私たちにした事、そして今回の戦いで分かった大神の傍若無人の態度。これらを自分たちの目で見て知ってきてもなお、大神が悪くなく、罪の制裁のない社会の仕組みに間違いが無いなんて思えるのっ!」
普段言葉数少ない私が、怒りでここまで口を捲し立てる。
その押しに、先生たちも滅多に口出しができなくなっている。
「世の中に本当の大神を知る人が少ない。その中で私たちは大神の素質を知っている。私たちこそが、皆に本当の大神を知らせるべき義務がある! 今回は失敗したが次は全校を上げて、大神の悪の素質を世界に知らしめる為に動かなくてはいけないっ!」
「君はこの学校を巻きこむつもりかね。そんな事をしてみなさい。全員捕まって」
「逃げるなっ! 戦えっ! 弱虫っ!」
「なっ!? 君っ! 校長先生に向かってなんて暴言を……」
「まぁ、弱いなら弱いで仕方ない。強い者に守られていけばいい。それでどの強い物に守られるか自分で選択すれば? 大神に生徒たちが食い殺されないように、必死に大神に許しをせがむがいい。それとも、生徒の為ではなく、自分の身が1番大事で生徒は二の次か?」
「何たる無礼を吐く生徒だっ! 小野寺さんが説得してから変わって大人しくしていたからと目をつぶっていたが、小野寺さんが居なくなってから、本性を現したか!」
「お姉様は関係ないっ! 大神に反する事をせずに、それに従うオマエらに反吐が出て怒鳴り散らかしているだけだっ! なんでお姉様を助けないっ! 先生だろっ! 自分の生徒がアレだけの酷い事をされて、結局大神に何も言わないで、なかった事にしようとしているオマエらに私はブチキレているんだっ!!」
「くっ……」
「私はどんな事になろうが、大神へ罪の制裁は止めないっ!」
「全く反省していないようでもあり、私たちにまで暴言を言う始末ですね。一時的に停学の処分と思っていましたが、退学と言う処分も考えなくてはいけませんね」
「退学おおいに結構っ! 大神の洗脳を受けて奴隷と化するなら、こんな教育なんていらないっ! 児童福祉施設だって、大神の為に従順に従う為に育て上げる為の教育場だ。そんなところにも行く気もないっ! 国を出て行ってもいいっ!」
「そうか。なら話し合いはもう終わりです。処分は追って家に連絡するから、もう出て行きなさい」
「何が先生だっ! あの小林と言いっ! 大神にヘコヘコとしやがってっ! バカやろう共がっ!!」
私は椅子から立ち上がると、ドアを怒りのまま思いっきり開けはなって、そのまま廊下へと出て行った。
誰もいない授業中の静かな廊下に足音をガツガツ響かせながら歩いて行く。
授業も受ける気がしない。このまま家に帰ろう。
「待って下さい! ユカリさんっ!」
私の後ろから走って斎藤がやってくる。それを無視して私は歩き続ける。
「待って下さいって」
「止めないで。もうこの学校に居たくない」
「それは構いませんが、少し話をしてください」
「何も言わずに先生の反省を受け入れる。アンタなんかもう仲間じゃない」
斎藤は先生が言う事に深く反省するように、色々と謝っていた。
どうして私たちが悪い? 何故私たちだけが反省しなければならない。そうやって続いて行く私たちの悪行のレッテルを貼り付けられていく話。
私はムカついて、あんな形に先生と喧嘩となってしまった。
「それは申し訳ありません。私は生徒会副会長。そして、今回賛同してついてきてくれた生徒たちの代表として皆をかばわなければなりません。皆の罪をなるべく軽くする為に、逆らう事はできませんでした」
「…………」
「私だってユカリさんと同じ気持ちです。今回も先生は大神に対して謝罪の態度を取り続けています。私たちが思う気持ちも知らずに、大神への訴えの言葉は何も発しない。正直、私も先生には情けないと薄情な気持ちになります」
「……ごめん。少し気が立ってた」
「構いませんよ。分かっていただければ。私は皆の為に立たなければなりません。その為には意思に反して動かなければならない時もあります。きっと先生たちだって、大神に対して本当は私たちと同じ気持ちですが、逆らうのに力がないだけなのですよ」
…………悔しい。
もっと私たちに力があれば……。
「私はユカリさんの味方です。先ほど校長先生がおっしゃった退学と言うのも、後で私が話し合って取り消してもらえるように交渉します。……ほら、ハンカチです」
そう言って斎藤が私にハンカチを差し出した。
私は気が付かないうちに涙を流していたようだ。
斎藤からハンカチを受け取って、涙を拭いた。
……昔の私なら、袖で吹いていたな。お姉様が本当に私を変えてくれたな。
あの時、お姉様が私に渡そうとしたハンカチ。
今は私が貰って大事な宝物として金庫に閉まってある。
「……結局、私たちは何が出来たのでしょう。大神には屈辱を与えられたと思いますが、私たちにとって利益になった部分は、そんな無いような気がします。映像班が撮った記録は警察が全て没収してしまいましたし」
「それなら、1つ良い事を教えてあげる」
「良い事とは?」
私はハンカチを斎藤に返した。
「外に記者の人たちが居た。あの中には別勢力の仲間が居たの。それもプロのパパラッチを雇ってね。そして大神のあの暴虐なところを撮ってもらった」
「なんと……」
「映像を回収される前に上手く逃げ切っていれば、あの時の映像は全てネットに出回るはず」
「しかしネットに掲載しても、すぐに消されてしまうのでは? あの大会の時の様に……」
「国内であったらそうなる。けれど、海外のサーバーまでは大神は手出しができない。その仲間は海外で行動している人だ。きっと手は出せないはず」
「海外サイトで掲載ですか。国内で見るには規制が掛かってしまい、真実を知る人は少ないでしょうね」
「それでも、海外の人たちが大神に対しての懸念をもってくれる。大神への批判が高まれば、国内へ止めようとしていた不利な情報も溢れかえり過ぎて、全てを止める事は不可能となる」
「そうですか……。全く、相変わらずユカリさんは考える事がすごい。本当に私より2つ下ですか? 年齢を偽って入学していませんよね?」
「兄さんが色々あるから、こう言う風に悪知恵が働くようになっただけ」
「ユカリさんの兄さんに色々と?」
あっ、兄さんに関しての情報は、斎藤には言ってなかった。
数々の犯罪で国際指名手配されている兄の実の妹なんて事、普通の生徒が知ったらどう思われるやら。
小野寺家の全員は私の兄さんの事を知っている。余りいいようには見てくれてはいないけれど……。
「そんな事より今後、私が大神へ何かする際、そう言う組織のバックアップがある。大神の素性を明らかにして、全国に大神の批判を高めて行く。それが私の狙い」
「いいですね。そうしていきましょう。ですが、まずは今回の事故処理を済ませないと、次の行動も起こせませんからね」
「私はこの学校以外でも、大神へ逆らう者たちを集めて行こうと思ってる。停学か退学かどっちかわからないけれど、その期間中は私は外での行動に移るのは確かだ」
「……一緒に学校に居られないのですね」
「この事は最初から覚悟していた。だから、外で行動起こす準備もすでに進めてある。私が大神に勝つか負けるかなんてわからない。それでもとにかく戦いを始めなければ、何も変わらない。私はとにかく突き進んで行く。誰が止めようと私はやらなきゃいけないから」
「……水臭いですよ。そう言う事、私に相談してからにしてください。自分だけ、そんな辛い事を抱え込まないでください」
そう言うと斎藤は私に抱きついてきた。
斎藤が抱きしめてくる。こんな事初めてだ。
「さ、斎藤?」
「アナタはあの時からいつもそうだ。1人で居ようとする」
「…………」
「私に出来る事があれば、頼ってください。花音のようには上手く出来ないと思いますが、私だってユカリさんの事、大事な友達と思っているのですから……」
友達って……。
あの時の私を見る目が、今と全く違っていた。
優しさに満ちている。
「……斎藤は、……昔の私を……許してくれるの」
「えぇ、もう何も怨んでいませんよ。ユカリさんが昔の罪を償おうと、学校の美化に誰よりもガンバって務めたり、いじめっ子をまとめ上げて説教するなどの活動をしているのを見てきました。本当に変わりました。アナタは昔のユカリさんではありません。だから私は、ユカリさんの事を花音と同じ、大事な友達と思っていますよ」
「……さい……とう……っ。ごめん……あの時は……ごめんなさい……っ!」
私は斎藤の胸の中で泣きだした。
顔を上げられない。こんなくしゃくしゃの顔になる私なんて、お姉様以外の前で見せた事が無い。弱い部分の私を斎藤に見せるのが恥ずかしい。
斎藤は何も言わずに、私の頭を撫でてあやしてくる。
それはお姉様と同じように、とても優しくて心が落ち着いてくる。
斎藤もお姉様と同じように人気があるのがわかる。
人の上に立つ者としての責任をしっかりと理解している。
そして皆の為に尽力しようと努力する人だ。
そんな魅力に引かれて、みんなは支援しているのだろう。
今回これだけの規模で動けたのも、その斎藤の仁徳のお陰だ。
斎藤が来てくれなかったら、私も半ば強引に行って、大神に酷い目にあわされて終わったかもしれない。
「ありがとう……。斎藤……」
私は聞こえるか聞こえないかぐらいの、か細い声で言った。
聞こえたかはわからないが、斎藤は頭をポンポンと叩いた。
誰もいない廊下。
授業が行われていて静かな空間で、私の嗚咽だけが響く。
…………ズシィーーーーーンッ!!
その空気を壊す荒々しい音と振動が校舎を響かせた。
「な、何だっ!?」
「アッ!? アッ……、アレは……っ!?」




