ユカリの書 第4話 狙われた桜咲小学校 ― 1 ―
ったくよ。正直焦ったぜ。
きっとユカリが復讐を企んでいるとは思ったけど、よもやアレだけの事を考えているとはな。
茶の木小学校にユカリが乗り込んだと情報が送られてきて、オレは慌てて茶の木小学校へ向かった。
大神だろう竜が校舎へ火の玉を吐いたところで、ようやくその場に付いた。
そしてその大神の近くにユカリが居たのを見た時は、やっちまったかとため息が出た。
やっぱオレの妹だ。血は争そえないってところか。
やられたら何もしない訳ないな。
騒ぎを止めに入ろうかと出ようとした時、鳥になった海斗アニキがオレの隣に降り立った。
オレも出ると言ったが、オレが出るとややこしくなると言う事でもめた。
結局オレは止められて、後は海斗アニキが全部上手くまとめてくれた。
出番は何もなく、せっかく駆けつけて来たのに慌て損だったぜ。
任せられた仕事は終わっちまったし、暇になっちまったなぁ……。
せっかく第2の故郷まで来たのだから、少し散歩でもするか。
ユカリのヤツは今頃、学校でこってり絞られてるだろうからな。
その後、オレがこりごりしているところにさらに締め上げてやるぜ。
もう2度とこんな危ない事をしない為にもな。
オレはドコにでもいるようなオジサンへ変装をして、師匠と海斗アニキで修行した木漏れ日の森の前にやってくる。
ユメ母さんにも顔を見せておくか。
ユメ母さんが経営する森の中にある喫茶店『ゆるやか時間』への道を歩く。
やっぱこの森の空気は良いな。都会にいながら、この空気を吸えるのはここぐらいしかないぜ。オレは空気いっぱいにその新鮮な空気を吸う。
「……ん?」
鼻にツンと来る臭い。誰かタバコを吸ってやがる。
タバコは嫌いだ。その臭いを嗅いだだけでも気分が悪くなる。
それはヤクザの家に生まれた事を嫌っている意味も持っている。
前から歩きタバコをして、こちらへ歩いてくるおっさんがいる。
灰皿も無しに、その灰を道へ落としていく。
……っち、タバコを吸うなとは言わないが、マナーの無いヤツだな。
歩きタバコしてその臭いを周りに漂わせ、気分を害する人の気持ちを知らないでよ。
手を下げた状態で持っている時に、子供の目線の高さにある火が目線スレスレを行きかう危ない状況の時もある。それで火傷や目を失明してしまった子供の事件だってある。
それにここは森の中だ。何かあったら火事にもなる。
すぐに止めるように注意しようとした時。
ポイッ。
そのタバコを火も消さずに森の中へ捨てた。
…………いい度胸だなぁおい。
オレはすれ違う時、そのおっさんに一言だけ言った。
「覚えていろよ」
おっさんはオレの事を振りかえって見たが、気にした様子もなくそのまま歩いて行く。
おっさんが捨てたタバコを拾い上げてその火を消して、サイドバックからビニール袋を取り出してその中に入れた。
タブレットパソコンを取り出すと、それを操作した。
画面には地図が出てきて、森を抜ける辺りに赤いマークが移動している。
すれ違う時にヤツの携帯電波をジャックした。
アイツがそのジャックした携帯電話を持って電波が届く距離に居る限り、このレーダーの表示は消えない。
後はアイツが帰宅したら、その家に強盗に押し入って色々ともらっていくかな。
森は何も言えないし、何も出来ねぇ。その分、オレがし返してやる。
って、よく見りゃ、この一帯がタバコのゴミだらけじゃねーか。
タバコの包み紙を見てみると、あのおっさんが吸っている物と一緒か。常習犯ってところか。
捨ててあるタバコを全て拾い上げた。
拾い上げる分、オレに盗られる事もしらないで、よくもまぁこれだけ捨てたもんだな。
さて、目に見える辺りにゴミはもうないな。
このゴミは最後にアイツへのお勘定に渡してやるぜ。
オレは先へ進み、木々が少し開けた場所に家を見つける。
いつ来てもその家を見るたびにほっと胸が熱くなり、顔が綻びる。
その家にオレは3年くらい住んでいたからな。その3年だけだが、人生の中で1番幸せな時間だったぜ……。
そしてオレは店のドアの前に立つ。
「あっ?」
『臨時休業しています。申し訳ありません』
っと言う看板が掛かっていた。
マジかよ……。せっかく飲みにここまで来たっつうのに。
何かあったのか? 木曜日は普通に営業中だよなぁ……。
オレはスマートフォンを取り出して、ユメ母さんへ連絡を入れた。
……って、話し中みたいだな。
はぁ、せっかく来たってのに……。
どこもかしこも空振りばかり。今日は厄日か?
さて、これからどうすっかな。
「アレ? お客様、どうかされましたか?」
「ん? あぁ、海流か。元気にしてっかよ」
オレの前までやって来た女子は、この声を聞いてパァッと顔を明るくした。
「涼アニキっ!? うわーっ! 元気だった? けど何そのダサい変装。どうせだったらもっと若々しいカッコいいお兄さんになればいいのに」
オレの事を涼アニキと呼んでくるのは、オレの兄弟弟子である小林 海斗アニキの義理の妹、蒼井 海流だからだ。
海斗アニキとは血の繋がりの無い義理兄妹でもあり、オレが海斗アニキをアニキと呼ぶから、オレも海流に涼アニキと呼ばれる事になった。
別に2人の両親が離婚しての再婚ではなく、互いの父母が亡くなっての再婚だ。
親を亡くした経験した者同士だから仲良くしようって事で、海流がオレたちをまとめ上げていった。
そのお陰で、3人仲良くやっていける切っ掛けを作ってくれた。
「まぁ、ドコにでもいるようなオジサンでいる方が、動きやすいんだよ」
「アイドルみたいな感じにも変装もしてみてよぉ。あっ、それより店の前で何やってんの?」
海流はこの店でアルバイトしていたな。出勤に来たんだな。
「えー? なんで臨時休業になってるの? 結姫ママは何してるの?」
「んなこと知らねぇよ。オレも今来たばかりだ」
「裏口に回ってみようか」
オレも海流に付いて行って、裏口に回る。
その間、窓から中を見て行ったが人がいる気配が無いな。
「アレぇ? 居ない感じだね。今日は定休日じゃないけどなぁ」
海流がポーチからスマートフォンを取りだした。
「オレも連絡を入れたけど、話し中だったぜ」
「いつぐらいに連絡した?」
「海流が来るちょっと前だ」
「ふーん……」
それでも海流は連絡を入れる。
まぁ、アルバイトもしなきゃいけないのに、店が開いてないとなると、そりゃ焦るな。
「……っあ。結姫ママ? どうしちゃったの? お店が臨時休業って」
どうやら出たみたいだな。話し中も終わったのか。
「ふーん、へー……、えっ? えぇっ!? ユウくんが大火傷をっ!?」
何? ユウが大火傷を?
ユウは師匠の一人息子で木花 祐定と言う名前だ。愛称でみんなからユウと呼ばれている。
「大丈夫なのっ! うん、うんっ! あー、よかった。メタモルフォーゼしてたんだ。だったら、傷とか残らないね。びっくりしたよもぉー」
メタモルフォーゼしていたのか。
ならメタモルバトルでもしていて、火を使う者に焼かれでもしたか?
いや、それだったら態々母親まで駆けつけてまでの騒ぎにはならないはずだぜ。
火と言えば……。
オレが茶の木小学校に駆け付けた時に、大神が校舎に向かって火の玉を打った時だな。
「おい、海流。火って、大神の火をくらったか聞いてくれ」
「え? うん。あ、結姫ママ。その火傷って、大神の火をくらったの? ……うん、そうなんだ。その通りだってよ」
やはりあの時、あの場所に居たのはユウだったのか。
クッソ……。ユカリだけでなく、ユウまでも巻き込みやがって。あの大神めっ!
「アレ? もしもし? どうしたの? おーい!」
通話が切れたか? 何かあったのか?
「あ、もしもし、聞こえる? え? カイっちがそこに居るの。そうなんだ。あっ、こっちにもアニキがいるんだよねぇ。分かる?」
おっと。その話はしてほしくないな。
「海流、オレの名とすぐ側にいる内容は言うなよ。盗聴されているかわからねぇからな」
「あっ、ごめんね。あっ、そっちに言ったんじゃなくてね。うん、そうだね。結姫ママもゆっくり戻ってきなよ。こっちはこっちでやっとくから」
「ユウの容体は大丈夫なんだな?」
「それは大丈夫だって。あっ、結姫ママ、……はい。んじゃ。支度もしておきますね。それでは、また店で」
「待て、海流」
「ん? どうしたの?」
「海斗アニキに伝えてくれ。ユカリの事をすまないと」
「わかったよ。カイっちに伝えてほしい事があるの。ユカりんのことすまないって」
海流はうんうんと頷くと、オレにスマートフォンを取れと合図を出すので受け取った。
『義理の弟に妹がいるなら、俺の義理の妹でもある。ユカリちゃんの問題も、俺も加わって解決していくからな』
全く。木花家に関わる人間は、どうしてこうもお人よしばかりなんだか……。
オレは携帯を海流に返した。
「もしもし、カイっち? 今日はカレーにするから早く帰って来てよね。うん、じゃーね」
海流は通話を切ると、スマートフォンをポーチにしまった。
「それじゃ中に入ろ。涼アニキも何か飲みたいでしょ」
「あぁ、そうだな」
海流はポーチから家の鍵を取り出して中に入って行く。
家族でもないのに自分の家の鍵を渡すって、よっぽど信用してなきゃそんな事しないぜ。
そんなオレにもこの家の鍵は渡されたまんまでいるんだけどな。
夜中に寝床がどうしても見つからない時に、ここのソファーを使わさせてもらっている。
冷蔵庫の食料も勝手に漁って食べても良いと言われてもいるが、まぁまだそこまではしてない。食料の備蓄には気をつけているからな。
この家族はとても優しい。
こんな悪なオレなんかを家族の様に受け入れてるなんてホント感謝している。
木花家にはいつも救われているな。
だからこそ木花家に起っている問題は、オレも加わって助けに入る。
今は大神家とのイザコザが起こっているからな。
その大神家を潰す為に、オレは色んな組織と手を組んでいる。
木花家が平和に暮らせるように、オレはオレのやり方で木花家を守って行くぜ。
「たーだいまー♪」「ただいま」
この家に入る時の掛け声はおじゃましますではなく、ただいまだ。
オレは一応入る時に、盗聴器のチェックをしていく。
自宅の居間を抜けて、オレたちは店の中へ入る。
「ホントだ。全部途中だよぉ」
店のキッチンには造りかけのケーキだったりとか、そのまま放置されている。
慌てて出て行ったのがわかる。
「なんか飲む?」
「いつもの」
オレがそう言うと、海流はコーヒーを作り始める。
カフェインレス・コーヒー。砂糖2杯。ミルク多めのが、オレのいつもの。
オレが師匠の元に来て、ユメ母さんに入れてもらった初めて飲んだこの味は、いつまでも変わらず、オレの心を安らげてくれる。
まぁ、今回は海流が作っているから、少し味も香りも違うけれどな。
オレはカウンター席に座り、海流はキッチンでユメ母さんがやり残した作業を変わりにやっている。
「最近アイドル活動はどうなんだ?」
海流は高校3年生の後期に突然アイドルになると言って、アイドル事務所へ行ってそこの所属となった。
アレから5ヶ月。高校を卒業した海流は進学などはせずに一人暮らしを始めて、アイドル事務所の社員として、アイドル活動をガンバっている。
しかしまだまだ知名度が上がらず、アイドル事務所での収入だけでは暮らしてはいけないので、高校入学時から通っているここのバイトのかけもちは欠かせない。
オレ的には不安定要素のあるアイドルなんかよりは、ユメ母さんの店でアルバイトではなく、正社員となって働いてもらった方が、安定があっていいのだが……。
ユメ母さんも働き口が無くなったらいつでも正社員にしてあげると言ってくれているし……。
でもまぁ、海流が思っている事にケチなんてつけられねぇ。オレもオレで好き勝手やってきてるし。
それに海流も本気でガンバって行ってるからな。応援してやらねぇっとな。
「今度の日曜日にね。大きなステージでコンサートライブの依頼が来たんだよ。初コンサート以来の久しぶりに大観衆の前で歌うから、今からでも、もうドキドキしてるんだよぉ」
「マジか? ドコで歌うんだよ」
「ユートピア遊園地で歌う事になったんだよ。客席数は700人は入れるステージだよ」
「なんだ……。大観衆って言うからてっきり3000人は入れる場所かと思ったぜ」
「初コンサートでも500人くらいの収容席数なんだから、多い方だって。普段だって100人以下のステージばかりで歌ってるし。でもまだ歌も踊りも習ったばかりで、もっと練習しないと、テレビに出てくるようなアイドルにはまだまだ程遠いよ」
「アイドルがどんな歴史をたどって、アレだけ有名になるのか知らないけど、ガンバれよ」
「ガンバるよ。涼アニキは、今回のコンサートは来てくれる?」
「そうだなぁ……。保証はできねぇ。とりあえず変装していく時には、赤いカウボーイハットかぶっていってやるよ。それで見つけてくれ」
「ありがとう。チケットはいらないよね? どうせ勝手に入ってくるでしょ」
「あぁ? オマエの売り上げの為だ。ちゃんと買って入るぞ。売り切れとかそんなのないよな?」
「まぁ、大丈夫だと思うよ。コンサートチケットはなくて、遊園地の入場券だけで入れるから」
ブルブルブルブルブルブルブルブルッ!
オレのポケットに入れてあるスマートフォンがバイブレーションをしている。
しかも、この動き方は緊急時使用に動くパターンじゃねーかよっ!
さっき盗聴器は調べて大丈夫だったんだが見逃したか?
それともさっきの海流とユメ母さんとのやり取りを盗聴されていたか?
オレは急いでスマートフォンを取り出すと、通話なので電話にでた。
名前は非通知と書かれて誰だかわらかねぇ。
「誰だ?」
『涼か? 盗聴は安心していいぜ』
声から察するにエンジニアに詳しいある組織の仲間、近藤 芹華だな。コードネームは酒呑。
ユカリに問題が起きた時に真っ先に情報をくれたヤツだ。
「何があった?」
『大神の息子の様子がおかしいんだ』
「はぁ? 何があった?」
『アイツが竜の姿となって飛んでいるのを目撃した仲間がいてさ。ドコへ飛んで行くか後を付けたら、どうやら桜ヶ丘街へ向かってるそうだ。これ、ヤバくね?』
マジかよ……。だから大神には軽々しく手を出すなって言ったのによ。
『状況的に妹さん達がヤバい目にあいそうだから、また連絡したぜ。後は涼の判断に任せる』
「サンキュ、恩にきるぜ」
『それとついでに言っておくけど。ユカリちゃん、可愛いな。あんな兄思いの妹、オレにも欲しいぜ。ファンになっちまったよ』
「テメェー。ユカリに手を出したら殺すぞ」
『おぉ、怖い怖い。お兄様に気に入られるよう、善処していかないとな』
「殺すっ!」
笑い声がすると通話がブチッと切れた。
ったく、頭が電子頭脳な奴は、どこかおかしい奴らばかりだ。
それにアイツは女なのに男言葉だしよ。
まぁ、アイツ自身が性同一性障害者と言ってる。あんまり邪見には出来ないな。
けど見た目は女性の格好をちゃんとしているし……。訳が分からねぇアイツは……。
「ユカりんに何かあったの?」
「あぁ、大神に桜咲小学校で絡まれる。行って止めてくるぜ」
「ユカりんが大神に? うわー、最悪だね……」
海流が嫌そうな顔をしている。
「海流も何かあったら遠慮なくオレに連絡してこいよ。まだ緊急連絡用番号は変わっちゃいねーからよ。ストーカーとかボコボコにしてやるからな。じゃーな」
「うん、頼りにしてるよ。涼アニキ。いってらっしゃい」
オレは店を出て、家の近くに設置された高台を駆け登って行く。
周りの木よりも高い登場に辿り着くと、ワシのミックスジュースを飲んで、大空へと羽ばたいていった。




