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ユウの書 第1話 咆哮の黄炎竜 ― 4 ―

 茶の木小学校の保健室に、血相を変えた母さんが飛び込んできた。


「ユウくんっ! あのっ! ユウくんはっ!?」

「あー、こっち。そんな慌てなくて大丈夫だから」


 保健室に響き渡る母さんの声で、ベッドの周りにあるカーテンをめくって顔を出した。


「あぁっ! ユウくんっ! 怪我は大丈夫なのっ? 大火傷を負ったのよね? 病院に行かなくて大丈夫なの?」

「それは大丈夫です。体には至って傷1つもありません。ただ、かなり疲労してしまったので、寝てもらっているだけです」


 保健室の先生が母さんを安心させるように(なだ)めている。


「一体何があったんですか? あんまり詳しく聞かされていないのですけれど……」

「それは俺から説明します」


 そう言って聞こえてきたのは保健室に居た小林先生だ。

 本名は小林 海斗。24歳の教師歴3年生と1ヶ月のまだまだ新米な処がある先生だ。

 小林先生は僕のクラスの担任である。


「あっ、海斗くんっ! じゃなかった、小林先生。ちょっとまっててね。お父さんに連絡入れなきゃ……」


 そう言ってスマートフォンを取り出して操作をする。


「師匠か……。うぅ、顔向けできないぞ……」


 小林先生が父さんの事を師匠と言う。

 小林先生は昔、父さんに才能を見いだされて修行をし、才能を開花させてメタモルチームバトルプロ級世界大会へと父と涼兄ちゃんと共に出場する事ができた。

 今でも付き合いがあり、よく家に来てくれる。


 それに母さんとは幼馴染で、海斗兄ちゃんは昔、母さんの事が好きだったようだ。

 そんな縁もあって小林先生とは僕が生まれた時から知り合いで、僕は小林先生を兄の様に(した)っている。

 今では学校で小林先生とちゃんと呼んでいるが、普段は海斗兄ちゃんと呼んでる。


『結姫、ユウの状態はどうなった?』


 スマートフォンから父さんの声が聞こえてくる。

 母さんはスマートフォンをこちらに向けた。


『ユウっ! 大火傷は大丈夫なのかっ!?』


 カメラ機能で僕の姿を見た父さんは、画面いっぱいに顔を近づけている映像が流れた。


「大丈夫だよ。メタモルフォーゼしてた状態で火を浴びたから」


 そう。僕は杏子ちゃんにもらったウサギのヒューマンタイプにメタモルフォーゼしていた。


 保健室に運ばれた後、すぐに変身解除薬を飲んで、体はすっかり元の状態に戻った。

 だけど、メタモルフォーゼ時に受けたダメージが酷く、元に戻った後に疲労が半端なかったので、ベッドに寝ていた。


『そうか……。それで一体何があったと言うんだ?』

「それは僕から説明します。お久しぶりです。師匠……」


 僕の横に座るように小林先生が父さんの前に出た。


『海斗か。今年はお前が私の息子の担任になったそうだな。世話を掛けるな……』

「いえ、今回僕がもっと早く対処していれば、祐定君もこんな目に合わなかったのですが……。申し訳ありません。祐定君を危険な目に合わせてしまわせて」

『海斗の責任かは、話を聞いてからにしようではないか。それで、一体何があったんだ?』

「はい。事をまず一通り説明したしますと――――になりました」


 小林先生は桜咲小学校から果たし状が来た事から始まり、小林先生自ら出てこの問題を解決した事をざっと話した。


 小林先生がすぐにあの場に出なかったのは、黒堂組と言うヤクザの組織に捕まっていたからだという。

 その黒堂組はユカリの実家だ。

 復讐の邪魔されないようにユカリが舎弟を集めてやったのだろうな。

 なんとか脱出してやってきた時には、僕が居た校舎を破壊された時だったらしい。


『ざっと説明はされたが、ウィッチフィールドはちゃんと機能していなかったのか?』


 ウィッチフィールドとは、メタモルバトルをする際には絶対に必要な物で、言わば安全に試合が出来る闘技場のことだ。

 地面に描かれた円形の紋章は、中と外を光と音、ウィッチフィールドに関係が深い魔法以外の全ての物を遮断させた別世界となる。

 つまりは紋章の円の外に出ようとしても出れない見えない壁があり、どんな攻撃でも耐える事ができるものすごい防御力を誇る透明な壁が出来上がる。


 ただ、唯一の欠点はそのウィッチフィールドは誰にでも簡単に操作が可能な事だ。

 簡単な呪文『The() Gate(ゲート) of(オブ) different(ディファレント)』と言えば、外からでも中からでも簡単に解除が出来る。

 その為に完全に無敵な防御壁ではない。


 しかし誰でもできるので、メタモルバトルはちょっとした広場や空き地で紋章が描かれ、誰でも気兼ねなく暴れまわっても大丈夫なので、スポーツ感覚としてメタモルバトルは世界的に行われている。


「それは我が校の審判を務めた先生が試合を中止にする為に入った時に解除されて、大神にふっとばされた後、放置状態になっていました」

『今回の事件では、罪人を多く出してしまったな。まだ小さな学生たちであるのに……』

「残念な事です……」


 大神に関しては今回もまた、おとがめなんてないのだろうな……。


「しかしまた大神なのね……。あの一家はどうしてこうも騒ぎを起こすのかしらね」


 母さんがため息をついた。


『全くだな。才能がある血筋ではあっても家系の育成方針で、社交的な部分が欠落している。この私ですら、家庭教師を根を上げる程の傲慢(ごうまん)ぶりで辞めたくらいだからな』


 僕がまだ2歳の頃、父さんはあの大神 賢寺の家庭教師として雇われた事がある。

 しかし4ヶ月くらいで父さんから辞めた。あの一家と絡むと気が狂いそうだったと言って、しばらく仕事も休んで僕と一緒に遊んでくれたなぁ。


「どんなのだったの? 僕が2歳の頃だったよね。その話って」


 僕は父さんに質問をした。


『あぁ。4ヶ月だけだったがな……。メタモルフォーゼの教育係として、依頼されてな。大神家では幼い時から竜タイプだけのミックスジュースを使う事を義務付けられている。竜タイプは、コントロールがとても難しく、そして知能が発達しきってない幼い子では、自制が保てる訳がない。私もさんざん手を焼いて、やっと自我を持ってコントロールするまでにはしたのだがな……』


「師匠がそれだけ手をこまねいたのに、俺が彼を教育できるのでしょうか……」


『難しい問題だな。親やその家系からの性格を見る限り、あの性格は竜タイプを小さい時から使い続けてしまった後遺症だろう。あの性格を直すには竜タイプのミックスジュースは使わせない事が、問題の解決にしかならないだろうな』


 大神家。

 この日本の政治は、大神家がほぼ一帯を掌握(しょうあく)している。

 なぜあのような大神が日本の政治に関わっているかと言うと、大昔にこんな事があったと述べられている。


 1855年1月15日。

 ミックスジュースの力を悪に使い、世界を征服しようとする組織、岩の(ストーン)悪魔団(デビルズ)が海外からやってきた。

 彼らは最初の支配地を日本と決め、街や村を襲い、恐怖と暴力にて支配していき、平和な日本を壊滅させた歴史がある。


 岩の(ストーン)悪魔団(デビルズ)はその名も通り、岩石の巨人兵を使うミックスジュースを扱う集団だ。

 大勢の人がそれを止めようと立ち向かうも、余りの強さと数に力及ばず皆やられていった。


 岩の(ストーン)悪魔団(デビルズ)はついに日本の全てを支配し、人々は奴隷の様に彼らの欲望のままに扱われていった。


 しかし、そこに1人の竜のメタモルフォーゼ使いが何百人という岩石の巨人兵を砕き、人々を岩の(ストーン)悪魔団(デビルズ)から守ったのだ。

 それが大神 十条蒔(じゅうじょうじ)と言う(わず)か17歳と言う若さの男性だった。

 群がる岩石の巨人兵を退け、岩の悪魔団のボスを倒した大神のお陰で、日本は平和を取り戻した。


 そして人々は大神を称え、大神と言う英雄を中心として日本の平和へ復興が行われた。

 その時、1番最初に再建されたのが、僕が住むこの竜神街でもある。


 大神家はその後、政治に関与していき、大神に従う権力者が集まって行った。

 やがて大神が政治の殆どを支配している状況になる。


 そして大神は、自分たちの都合のいい様になる国造りをし始めた。

 情報番組やネットは、政府の管理下に置かれており、事実は国民に伏せられて放送されたり、ネットの観覧に規制が掛かっていたりと、情報分野を制圧して国民をコントロールし始めた。

 毎日のように大神家が善意を働いていると放送され、民衆の中にはそれを信じて大神家を敬う者も多くなっていった。


 しかし大神の真実を知る者は僕たちのように居るにはいる。

 けれど大神家の影響力が強い為、殆どの人は頭を上げられない。

 大神家に逆らったり、恨みを買えば、刑務所で暮らすか、日本にでさえ住む事が出来なくなるかもしれない。


 今、大神家に逆らえる人間は殆どいない。多くの者は諦めてしまっている。

 大神家が起こす問題は、まだこの程度で良かったと言うくらい、これが常識なんだ。っと、自分の身に降りかからない様に大人しくしている人ばかりだ。


 真実を知る者は騙されている人たちより数少ない。

 それによって正しいのは大神で、間違いは僕たちの様な真実を知る者。

 もし大神を信仰している者に大神タブーな発言を聴かれると、バカ呼ばわりされる。


 本当に……、これが社会の常識なのだろうか?

 噂には聞いたが、大神家の政府にクーデターを起こそうとする集団が、密かに動いているらしい。

 その者たちが良い人たちなら、僕もその味方に付きたいところだなぁ。


『それはそれとしてだ。ユウ、無事でよかった。すぐにでも飛行機に乗って帰ろうかと、予約キャンセルの空きがないか、航空に問い合わせていたぞ』

「もうー。大丈夫だって。それよりもちゃんと仕事してね。僕は父さんがこの仕事を頑張ってるところが好きだからね」

「ワタシもよ。お仕事がんばってね。頑張ってきたら、一緒に貸切温泉に行く約束だからね。ア・ナ・タ♪」

『ありがとうユウ、結姫。そう言ってもらえると父さんは、元気フルパワーだっ! 今なら海を走って日本にでも帰れるくらいだぞっ!』


 父さんのその冗談に僕と母が笑い和む。小林先生は苦笑していたが……。


「相変わらず仲が良いですよね。羨ましいです」

『海斗も早く結婚したまえ。家族ってのは良い物だぞ。働く意欲、生きる気力を与えてくれる。この前言ってた直美先生だったか? もうお付き合いはしたのか?』

「い、いえっ! まだ、その……。友達……っと言うか、職場の同僚っていうか……」

「あら? まだ告白もしてなかったの? そう言う奥手な部分もお父さんに指導しておいた方がよかったわね」

「だ、大丈夫ですって! それにほら。大神の事で今、手一杯な状況でもありますし」

『そんなのんびりしていたら、他の奴に盗られるぞ。今日にでも告白して、その近況を明日、報告しなさい』

「無理ですって! っていうか、そんな話はここでするものじゃないでしょ! それに結姫さんやユウくんの前で」


 今、普通に僕の事を普段の呼び方で呼んだな。海斗兄ちゃんも相変わらずだよ。僕たちは昔と変わらない仲がいい家族みたいなものだ。


『えっ? あぁ、×☆▼○・ジΕふじこ×□〒……』


 父さんが今居るメキシコで使われている言葉で誰かと話している。何を言ってるのかわからなかった。


『さて。ユウ、本当に無事でよかった。飛行機のキャンセル待ちが取れたと言っていたが、断ったよ。今すぐにでも会いに行きたいが……、すまないな』

「うぅん、仕事を頑張ってよ。父さんも事故には気をつけてね」

『あぁ、気をつけるよ。結姫』


 そう呼ばれて画面を自分に向き直す。


「…………まぁ♪ ふふっ、アナタったら♪」


 何をしたのかわからないけれど、たぶん父さんが文字を打って送ったのだろう。

 母さんの顔が赤くなって、もじもじとしている。前にも何回かあるんだけど、何を書いて送ってるんだろうなぁ。


「頑張ってね♪ それじゃね」


 母さんは投げキッスを送ると通話を切った。


「ふふっ♪ っと、それでこれからユウくんはどうするの? 大事を取って帰宅するの?」

「そうですね。何せあの大神の火の玉(ファイヤーボール)を受けたのですから、相当なダメージを負っています。余りの疲労で授業もまともに……」

「え? 先生。僕はそんなに疲れてはいないので大丈夫ですよ。ここで少し休んだからか、体調も今良いですよ?」

「えっ? いや、無理はしなくていいよ。勉強も頑張るのも大事だけど、体が一番大事だから」

「だから大丈夫ですって。なんならグランド1周してきてもいいくらいだし」

「そ、そうか…………。本当に大丈夫なんだね?」

「うん。心配してくれて、ありがとうね。海斗兄ちゃん」

「こぉら。この学校にいる時は、ちゃんと先生だろ」


 僕の頭をぐしぐしと手で掻きたててくる。へへっ、くすぐったいや。


「まぁ、大事を取って2時限目は休みなさい。今から出ても20分もないからな」

「分かりました。母さんも、お店を開けさせてごめん。来てくれてありがとう」

「そんな事、気にする事ないのよ。でもねユウくん。ユウくんが無理をしていたら、お母さんは怒るからね」

「うん、大丈夫だよ。本当に」

「わかったわ。それじゃ、お母さんはお店に戻るわね。海斗くん、ユウくんの事をよろしくね」

「わかりました。今後、気をつけます」

「さて……。って、あら? 誰かから電話が来てたわね。あー、でも非通知ねぇ。涼ちゃんからだったかしら……」


 非通知の連絡かぁ。涼兄ちゃんならありえるな……。

 母さんは保健室から出て行く前に、僕の方を見てにっこり微笑んで手を振った。僕もそれに手を振って答えた。


「さて、俺も次の授業の準備をしなくちゃ……。祐定くん。本当に大丈夫なんだよね?」

「しつこいくらいに聞いてくるなぁ。本当に、ほんとーーーーに大丈夫だってっ!」

「ご、ごめんって。なんせ大神の火の玉(ファイヤーボール)だからな。俺も受けた事あるが相当な威力だったからな……」

「僕は直接当たった訳じゃないからじゃないですか? 1度、壁に当たった後の爆風の炎に当たったから……」

「そうか……。その可能性があるか。でもなぁ……」

「もうっ! 海斗兄ちゃんも早くちゃんと仕事するっ! もしかして僕を堕しにしてさぼり中なのっ? 怒るよっ!」

「わかったってば! 行くからっ! 授業中調子が悪くなったら無理はするなよな!」


 そう言って海斗兄ちゃんは、保健室から逃げるように出ていく。


「っうわ!? 姉さんっ! まだそこにいたのかよ!」


 保健室を飛び出るように出た小林先生の目の前にまだ母さんの姿が居た。誰かと話し中みたいだな。

 保健室のドアが閉められて何を話しているのかはわからなくなった。


 全く。僕ら家族って心配症が多いな……。

 そう言う僕もそうなのだろうけど。

 でも、本当にありがとう。僕は幸せに思ってるよ。

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