ユカリの書 第3話 赤毛の侍 ― 3 ―
復讐決行日がやってきた。
桜咲小学校の復讐メンバー全員に作戦内容の一部を説明し、茶の木小学校に集まった。
内容は大神が身動きが取れなくなれば、全員で袋叩きにすると言う内容だけだ。どんな方法で行くかは知らせていない。
何かあって大事な作戦が漏れて、大神に知れ渡ってしまったら意味がないからな。
そして今、私の目の前に敵が居る。
私が尊敬し、敬愛するお姉様をイタズラに傷つけ、そして心に深い傷を負わせたヤツが。
大神 賢寺。
ヤツだけは許さない。
「いやはや全く。この俺は人気者だな。俺の戦い見たさに校内だけじゃなく、外からも注目を浴びているよ」
大神は群れる群衆を一瞥してうすら笑っている。
「もうこれだけ集まればいいんじゃないっすか兄貴? 早くしないと朝礼までに間に合わなくなりますぜ」
大神の隣でヘコヘコしているのは大神グループのトップにいると言われる三宅か。
「ふんっ、勝負など一瞬で片づけられる。そう焦るな。それよりマイクの準備はまだか?」
はぁ、めんどくさい。
さっさと試合を始めればいいのに。あぁ、イライラする……。
「も、もう少しお待ちを。おい、森井。まだなのか?」
三宅がトランシーバーに声を発する。
『放送室使用許可に手間取ったんだな。今やっと放送クラブの連中見つけてこき使って……、んあっ? 準備できたらしいぞ』
「準備出来たらしいですぜ。これをどうぞ」
三宅からマイクを受け取ると大神は咳払いをした。
『しょく――――――ピギィィィィィィィィィンッ!!!!!!』
うるさいっ!
マイクがハウリングを起こして周りの人たちは一斉に耳を塞いでいた。
「ぐあああぁぁぁ、マイク使うなんて聞いてないぞぉぉぉっ!」
「耳が痛いのっ! キーンって痛いのぉーっ!」
「ふざけんじゃないわよ大神っ! だからアイツ嫌いっ!」
「くそぉーっ! 大神のバカ野郎ーっ!」
観客の生徒もその騒音に耳を押さえてギャーギャー叫んでいるな。
「ったく! 放送クラブの連中めっ! 今度クラブ予算を減らしてやるっ!」
再びマイクのスイッチを入れた大神は、マイクをトントンと叩く。
『あー、あー……。んぅっ! 諸君っ! この俺の為に集まってくれてありがとう。今回の戦いは茶の木小学校ナンバー4の森井ではなく、このナンバー1の大神 賢寺が戦う。諸君らはこの俺の戦いを目の前にして見れる事を感謝したまえっ!』
パチパチパチパチ……。
観客の一部分だけから声援の声が聞こえる。学校の大半の生徒は大神の事を良く思ってない人が多い事がわかる。
『ふぅ……。小さいぞオマエラっ! この大神家こそがこの茶の木小学校を有名にさせたのだぞっ! 言わばオマエラの英雄なのだっ! ちゃんと称えんかっ!』
ワーワーヤンヤヤンヤーっ! ブーブーッ!
「誰がアンタみたいな傲慢チキをほめるかってのよぉーっ!」
「そうだそうだっ! 耳が痛いんだよっ! もっと静かにしゃべれっ! 近所迷惑だっ!」
「家に帰れなのーっ!」
校舎からも罵声が送られる。
その声を聞いて大神はヤレヤレと頭を抱える。
『これだから凡人は……。いいだろう。キサマラにこの俺の実力を教える良い機会だ。今年入学してきた新入生にもこの俺の強さを見せ、我が校には素晴らしき力を誇る大神が居る事を見せるデモンストレーションではあったのだが……。君たちに再確認させてあげよう。この俺がナンバー1だとっ! 敬い、慕える、俺が頂点に立つ存在だと言う事を思い出させてやるっ!』
生徒たちは苦虫を噛んだかのような顔をしている。
この学校は大神によって支配されている。そして生徒たちは不幸に見舞われている。
『さて……。今回、この俺へ果たし状を送ってきたキミの紹介をしたまえ。なるべく詳しく、敗者となるその名を、皆の記憶に刻まれるようにな』
そう言って三宅にマイクを手渡すと私の元にやって来てマイクを差し出してきた。
「…………」
あーもうっ!! イライラするっ!!
マイクを雑に受け取るとそのまま大神に向かって思いっきり投げつけた。
「っ!? いたっ!」
大神の顔面に向かって投げたマイクは、驚いた顔をしていた大神にぶちあたる。
「ご託はいい。さっさと戦え……」
私はミックスジュースを手にとって蓋を開けた。
「このっ! 無礼なヤツめ……。良いだろう。キサマの事は後で桜咲小学校へ聞きだして、この無礼も含めた俺への恥を、地域新聞社へ掲載させてやろう。教えてやろう。その校門前にいるのは、その記者たちだぞ。この俺の勇士を語らせるべく手配させたのだ!」
「飲まないのならこっちから始める」
適量サイズのミックスジュースを入れた小瓶を一気に飲み干し、三宅に向かって投げつける。
「いてっ! 何しやがるっ!」
「片づけておけ……。はぁ……っ!」
白い煙に包まれ、私の姿が変化していく。
漆黒の羽織を身にまとい灰色の袴を履いていた。頭には白色の鉢巻き。
そして黒髪だった髪が血を浴びたように真っ赤に染まりあがり、長い髪の毛を後ろ束にしてまとめ上げる。
この防具は酒呑に会った後に送られてきた物だった。
きっと役に立つと手紙に書かれていた。
確かにこの防具は侍と相性が良くて、気がとても充実していく。そう言う魔力が込められているのだろうな。
「誰もが扱いやすい低レベルなミックスジュースだな。俺に挑戦してくるからもっと期待したものを想像していたのだがな。少しは派手に見せ場を作れる舞台にしてくれよ」
「知るか」
左足に取り付けたマジックリングから刀を取り出して腰に刺した。いつでも抜刀出来る準備をする。
ヤツがメタモルフォーゼして、油断している時に狙いに行くからな。
「では、俺もお見せしよう。本当のプロが扱う地上最強にして無敵の生物、竜の姿をっ! この俺のメタモルフォーゼ、黄炎竜をっ!」
大神は隣に居た人物が持っているアタッシュケースを開けると、、ミックスジュースを取り出した。それをグイっと飲んで瓶を投げ捨てた。
「フハハハハッ! 恐れよっ! そしてひれ伏せっ! 最強たる竜の前にっ!」
大神が煙に包まれるとそれがもくもくと大きくなっていく。
10メートルくらいの大きさまで膨らむと煙が晴れ、その隙間から黄色の鱗が見えた。
「グルアアアァァァァァァッ!!」
その咆哮と共に煙が周りへ吹っ飛び、形全体が露わとなった。
「フハハハハハッ! 見たかっ! この俺の姿をっ! 黄金に輝く鱗。強靭な肉体。大地を響き渡らせる巨大さ。これが強き者の姿と言うものなのだよ」
「ハァーッ!!」
その怒号と共に大神へ駆け寄り、刀を鞘から抜いた。
「むっ!?」
私の突きが竜の頬へと当たった。だがその鱗は固く、傷1つ負うことなく、簡単にはじかれてしまう。
惜しい、そこが狙いではない。
油断していたとはいえ、もう少し間合いを詰めておけばよかったか。
マイクがうるさいのと、大神がキモ過ぎて近寄りたくなかったのが失敗の原因だったな。
「キサマっ! 試合の合図も無しにフライングとは……」
最初の作戦は失敗か。次は斎藤の番だ。
「正式な勝負をしに来た訳じゃない。私たちはお姉様の敵を取りに来た。例え卑怯な事をしてでもオマエを倒す。そう決めてここにやってきた」
「卑怯者めが……っ!」
「鬼畜な事をしたオマエに言われる筋合いはないっ!」
「し、試合中止っ! 君っ! 一端離れなさいっ!」
審判である先生が私の前に出てくる。闘技場に入って来たのか。なら、次の作戦も動き出す。
「止められない。私たちの怒りは……」
「私たち?」
ビュンッ! ザクッ!
「ぐ、グガアアアアアアァァァァァァっ!?」
大神が苦痛の声を上げた。
「あ、兄貴っ!? 目、目に矢がっ!」
「目だとっ! そ、それはルール違反だぞっ! それに今の矢は一体どこから……」
すごいっ! さすが斎藤だ。1発で仕留めるなんて、お見事としか言いようがない。
私でもあの距離から狙って当てるなんて、何十本撃って奇跡的に当てなきゃ無理だ。
斎藤の今までの努力と大神への復讐の本気がわかる一撃だったな。
「キサマァ……。許……さん……。許さんぞっ! その肉をズタズタに引き裂き、骨まで全てをへし折ってやるっ!」
「や、止めるんだっ! この試合は中止にっ!」
「どけぇっ!」
「うわっ!?」
大神を制止しようと前に出た先生が、大神の腕に簡単に吹き飛ばされた。
これは幸運だ。
メタモルフォーゼ中、メタモルバトル以外で人や器物に攻撃を加えた場合は、大きな罰則がある。今のは確実に映像にとらえただろう。
先生にはお気の毒に思うけれど、もっと被害を出させて大神の評判を下げてやる。
「うわーっ!」
「に、逃げろーっ!」
周りに居た観客の生徒も事の危険に気がついたのか、右往左往に逃げ出した。
その中に逃げずに様子を窺うのは、桜咲小学校の生徒たち。
まだだ。後もう片方の目をやってからじゃないと危険だ。
焦らずに私の合図を待っていてほしい。
「矢を打ったヤツはドコだっ!」
「あ、兄貴っ! あの校舎の上のヤツだっ!」
見つかったっ!? バレずにいけると思ったのに1発しかできなかった……。三宅め……。
斎藤も自分が見つけられた事に気が付いたらしいが、弓の構えを解かずに矢を放った。
「ふんっ!」
その飛んで来た矢を鼻息で軽く吹き飛ばした。そして息を思いっきり吸い始める。
「あっ? 斎藤っ! 避けてっ!」
「ブハアアアアアァァァァァッ!!」
大神は口から巨大な火の玉を校舎へと飛ばした。
ドガーーーンッ!
嘘っ……。信じられない……。
3階部分の校舎を破壊した……だと……。器物損害すぎる……。怪我人が出ていなければいいが……。
ここまで被害を出すつもりはなかったのだが……。大神の考えなさがまさかここまでとは予想外だった。
しかし、証拠となる映像は撮れただろう。これなら確実に大神を陥れる事ができる。
やり過ぎたのか複雑な気持ちになってくるが……。
「ちっ、片目だからか、狙いがズレた」
大神が再び息を吸い始めた。あんな事しておいてまだやると言うのか?
止めに入らないと周りの生徒が危ない目にあってしまうっ!




