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ユカリの書 第3話 赤毛の侍 ― 2 ―

 大神へ復讐決行日が迫ってきた。

 私はその中で新しく造った侍の新しい必殺技がやっと完成した。

 あの技であれば、大神を斬れる……はずっ!

 まぁ、結果はやってみなければわからない。

 もしかしたら大神に効かない特殊すぎる能力があるかもしれないし、実戦で使用して初めて結果が分かるから過信はしない。


 それに私の技がなくても、計画が上手くいけばその技も必要となくなる。

 あくまで保険を増やして行きたいだけだからな。


 学校も終わって、私は(きた)る決戦の日に備えてメタモルフォーゼの修行をしていく。

 場所は桜ヶ丘街にあるドコにでもあるメタモルバトル広場。

 現在10連勝中で、たった今11連勝して終わったところだ。


「ふぅ……」


 私はあの侍の姿から元に戻ってベンチで休む。

 周りの人たちが私を見ていく。憧れや奇異のまなざし。まぁ、こんなことは慣れた。

 私のレベルだと、一般人相手になら楽勝すぎる程に強くなった。


 歯ごたえある相手が欲しいところだが、だからと言ってそう簡単に相手も見つからない。

 まぁ、それでも動かない物を相手に練習するよりはマシなので、一般人相手にも手加減無しで勝負している。その為、余り挑戦してくる人が居なくなってきてるけれど……。

 もうそろそろこの場所も潮時か。新しいメタモルバトル広場に行こうかな。


 っと、私が座っているベンチの隣に腰掛けてくる女性がいた。


「やぁ、さっきの戦いは凄かったな。さすが涼の妹だけあるぜ」


「っ!?」


 誰だこの人は……、涼の妹と名指ししてきたとなれば、兄さん関係のものか。


 その突然声をかけて来た相手の見た目は、20歳は行っている女性だった。

 この人の顔は知らない。初めて会う人だ。

 またどこか兄さんの敵対する組織から、私を誘拐にでもきたか?

 それにしては相手に敵意がないので、警戒は低めにして相手の事を知るのが先だな。


「誰?」


酒呑(しゅどん)だぜ。直接会うのは初めまして」


「はぁっ!?」


 私の知り合いだった。

 その人はネット上でしかやり取りをしてない人で、一度も会った事が無かったから顔が分からない訳だ。

 それに私は酒呑の事はずっと男性だと思っていた。

 連絡手段はメールのみで、声とか聴いた事も本名を知る事も無かったから……。


 酒呑とは兄さんとこの前に会った時に、私へ盗聴器の隠し場所の忠告メールを送ってきたハッカーが得意な人だ。盗聴器や発信機を探す為の機材を発送してくれた。

 その送られてきた物の中にスマートフォンも入っていて、それを使えば盗聴には困らないで連絡が取れると書かれていた。

 その後、酒呑とは連絡のやり取りをする関係になった。

 兄さんは今どうしているか? 様子はどうか? 元気にしているか? 色々何をやってきたのか聴いたりしてきた。

 まぁ、聴いた内容はどれも予想通りだったし、兄さんから直接聴いた話もあって、大した物でもなかったのだが……。


「どうしてここにいるとわかった?」

「それはユカリちゃんが持ってるオレが送ったスマフォだからさ。オレになら追跡が出来るぜ」


 あぁ、そう言う事か……。

 それじゃ、私の今までの行動も全部知られているってことか。


「これ、返却する」


 そう言ってカバンから例のスマフォを出した。


「クーリングオフは受け付けてませーん。まぁ、心配すんなよ。これは涼も心配して追跡してるんだぜ。ユカリちゃんが何かあった時に追跡したいんだとよ」

「兄さんが原因か……」

「ま、今回はオレがちょっと利用させてもらったけど、普段の行動はちゃんとプライバシーに乗っ取って見てないから、安心してくれよ」


 この人、話し方が男っぽいが、見た目は女性なんだよな……。変な人だな。


「で、なんでここに来た? いつもメールで顔も本当の名前も知らない、正体不明の酒呑が目の前に現れた経緯(いきさつ)はなんだ?」

「おぉ、そうそう。ユカリちゃん。大神に喧嘩売るんだってな」

「……その事。ドコで知った?」


 極秘に進めているのにバレている。

 兄さんに知られているなら、それを止めに来るな絶対に……。


「桜咲小学校のパソコンにアクセス出来れば簡単さ。いやー、復讐メンバーが全生徒の半分以上とは、さすがに驚いたぜ」


 学校内だけしかアクセスできないローカル使用だったが……。まぁ、天才ハッカーにかかればネットが繋がっていればドコにでもアクセス出来てしまう物か。


「それで、私を止めに来た訳?」

「いやいや、それは違うぞ。オレはユカリちゃんに協力したくてここに来たんだぜ」

「私に協力?」


 意外な回答だった。

 何故、私にこんな天才ハッカーが協力してくれるんだ?


「オレたちにとっても利益になる事だから協力したいってことさ。無利益で動くわけないだろ」

「それもそうだけど……。目的は何?」

「大神の醜態(しゅうたい)の映像を取って、風評を下げる事だ」

「……なるほど。良い案。けど、私たちもそれをやるつもりで、映像班は造っている」

「素人が上手くいくかな? きっと戦いの後にその場に居た全員の持ち物を検査されて、映像証拠は末梢(まっしょう)されるぜ」


 ……確かにその覚悟はしていた。

 なので、映像班にはなるべく早く逃げ出すように指示はしている。


「そっちはそっちでやって置いていいけど。こっちはこっちのプロが参加するぜ。外国からプロのパパラッチを用意して来たぜ。ソイツなら良い映像が撮れそうだ」

「確かにそれがいい。私もそれで構わない。私たちは私たちでやるけれど、そっちはそっちで任せる」

「お、いいね。話を分かってくれて」

「共通の敵が居るなら協力に損はない。一緒にぶったたく」

「いいねぇ。さすが涼の妹さんだぜ。オレ、ユカリちゃんのファンになっちまうよ。あぁ、それとさ。小林(こばやし) 海斗(かいと)の対策はとってあるのか?」


 あぁ、小林先生か。

 小林 海斗と言うのは、兄さんの兄弟子の事だ。

 木花師匠の右腕と言ってもいい実力者で、兄さんと共にメタモルチームバトルプロ級世界大会へ出場した人物だ。

 その人物が母校である茶の木小学校の先生となっている。


 それだけの実力者である彼が、騒ぎを止めに入らないとは思えない。

 もちろん対策済みでもある。


「私の黒堂組が小林先生を拉致(らち)する手はずになっている」

「なんだ。対策されていたのかよ。せっかくオレたちの組織も手伝って止めようと思ってたのによ。ユカリちゃん、かなりの策士だな。すごいぜ」

「そうか? これくらい思い付きそうだが……。しかしこれは兄さんには知られているの?」

「いや、秘密にしている。知ったら止めに入るだろうからな」

「……後で知っていたのに黙っていたなんてわかったら、兄さんに殺されるよ」

「そうだな。まぁ、具合を見て涼には連絡はいれるぜ。取り合えずその日は、他の仕事を依頼しておいて近くには居させておくからよ」


「あの兄さんがいいように扱われるか。信じられない」

「情報分野と言うのは、それだけ強いんだぜ。だからオレはこの分野に力を入れていった」

「恐ろしい」

「オレはユカリちゃんの為になら、色々と協力してやるぜ。何かやって欲しい事があったら、そのスマフォで連絡しれてくれよ」

「えぇ、アナタに利用されるのはしゃくだけど、その代わり利用できる事があったら遠慮なく利用させてもらう」

「いいぜぇ、いいぜぇっ! そのツンとしたところがまた最高だぜっ!」


 変な人だな本当に。


「それじゃ、ケガの無いように気をつけろよぉー」


 そう言うとあっさりとその場から居なくなってしまった。

 ……全く。突然現れて言うだけ言って消えてと、本当に変な人だ。


 しかし協力な助っ人が出来たな。運が廻って来たと言うところか。

 決戦の日はこのまま運が続いてくれて、成功に終わる事を願いたいものだな。

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