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ユカリの書 第3話 赤毛の侍 ― 1 ―

 私は戦いの為の準備をする事にした。

 あの大神に勝つには生半可の力のあるメタモルフォーゼでは勝てない。

 市販で売られているミックスジュースではなく、自分で造ったオリジナルミックスジュースによる強化が必要となってくる。


 ミックスジュースは誰にでも作れる物だ。

 そのミックスジュースの造り方だが、ウィッチポットと言う魔女の鍋に、様々な材料を入れて組み合わせる事によって出来あがる。


 これがまた無限とも言えるくらいに様々な組み合わせの中から、ちゃんとメタモルフォーゼが出来るミックスジュースが見つかる。

 未だに発見されていないミックスジュースも見つかるくらいだ。


 起源はヨーロッパから始まり、4000年前からこの技術は発見されている。

 昔よりも物の流通や情報伝達が発達した現在、世界各地で多くの新たなミックスジュースが生まれている。


 新しく発見されたミックスジュースはミックスジュース管理機関に送ると特許を取得でき、そのミックスジュースを大量生産する会社がそれを販売すると、売上によって印税利益を貰える事ができる。

 私もいくつか新しく見つけた物があり特許を取得しているので、印税で良いお小遣い稼ぎになっている。

 そのお金でまた材料を買っては色々と研究して造っている。


 まぁ、今回作るのは研究ではなく、大神戦に備えて強化したオリジナルミックスジュースを造る事が目的だ。


 カバンの中に入り切れない材料は、小野寺家の倉庫を1つ借りてて、そこに置いてある。


 私は今、必要な材料を持って山奥の荒れ地にいる。

 きゅうり、キャベツ、ニンジン、リンゴ、みかん、砂糖、梅干し、ベニボタンの実などの材料を持ってきた。


 材料からして全く持って法則性の分からない物だな。こんなのを混ぜ合わせて、メタモルフォーゼが出来るミックスジュースが出来上がるのだからな。

 まぁ、1つでも入れる物を間違えたり、量を間違えると失敗する事が多い。

 適当に入れれば必ず出来ると言うものでもない。何も考えずに入れたりすると多くは失敗してしまう。


 失敗すると出来あがり時に黒い煙が鍋から噴き上がり、中に入れた物が黒い粉になって使い物にならなくなる。これは燃やせるゴミとして捨てるしかない。材料費で大損してしまう。

 普通の人が造る際は、発見されているレシピ通りに造るのが1番安全だ。

 しかしその普通に何かひと手間加えたりすると、今までにない能力が付いたりする。

 失敗するリスクを背負ってでも、能力の強いミックスジュースを造るには挑戦するしかない。


 今回私が造るオリジナルミックスジュースもそのひと手間加えた物にする。

 それはジャスリカーと言う薬草を加えて見る事。


 しかしこれには先ほどの説明したリスクに加えて、さらにリスクが増す代物でもある。

 ミックスジュースの材料には、ウィッチポット免許を持っていなければ使ってはいけない材料もある。

 それらの材料を使い、失敗すると造っている最中に大爆発を起こして、それによって大怪我を負う恐れもある危険な物もあるのだ。

 しかしそれを踏まえても成功したミックスジュースは、通常よりもさらに強力な能力に目覚める事ができる。

 免許を取得した人たちは危険は承知の上でこれらの材料を使い、大会などで戦っている。


 普通ならこう言う材料はウィッチポット免許を見せなければ、購入する事も出来ないし、使った事がばれてしまえば罰金(ばっきん)を支払い、ウィッチポットでさえ没収される事になっている。

 私はそれを無視して使う事にする。

 いけない事とは承知だが、復讐の為に手段は選ばない。それに失敗しなければ大体バレはしない。同じ事をしている人は沢山いるだろうと言う行動から、守って無い人なんて多い方だ。


 私はまずはレシピ通りに材料を適切な分量へ計っていき、ウィッチポッドの中に入れて行く。

 言い忘れていたが、このそれぞれの材料を入れた割合でも強さは変わっていく。余りにも比率が違わない限りは失敗はない。

 入れれば入れた分良くなるとかは無く、悪くなる事もある。これもまた何通りもあるので、基本の比率を変えて強くする際には運試しでしかない。

 新しく自分でオリジナルミックスジュースを造るとなれば、もう運でしかないと言う事だな。


 まぁ、そんな運でもなくても能力をアップさせる方法はある。

 それは材料の質になる。

 取れたて新鮮なきゅうりと収穫から20日後のきゅうりを使ったら、新鮮な方が良い物が作れるところは変わらない。

 まぁ、中にはそう言った劣化品の中から新しく生まれるミックスジュースもあるにはあるのだが、それはまた失敗するリスクの方がとても高い。


 さてと、基本の材料は全て入れ終わった。

 後はジャスリカーを使ってみるかだが……。

 この免許が必要な材料の失敗例は分量を間違える事と、組み合わせてはいけない材料同士を混ぜ合わせた時に失敗する。

 ジャスリカーと相性が悪い材料はこの中に無いのは確かだ。問題は分量にある。


 レシピ通り造ればそれは問題なく成功と言えるだろう。

 しかし今回造っているミックスジュースには、ジャスリカーを入れた例の無い製造法だった。

 これの分量を間違えれば確実に爆発間違いなし。しかもその分量が分からない初めて作るミックスジュースなのだ。

 もしかしたらどんな分量を入れてでも、成功する事なんてない組み合わせかもしれない。

 これは運でしかない。それも成功確率の分からない。極めて危険な賭けだ。


 こんな賭けをせずに普通のレシピで造って強くなれば良いと思うだろう。

 けれども、あの大神の竜は普通とは全く違う。

 きっとこう言った材料を使用しているからだろうから、それに対抗するには同じようにするしかない。

 アイツに勝つにはやるしかないっ!


 私はジャスリカーの葉っぱを3枚ほどウィッチポットに入れた。

 まぁ、さんざん爆発する危険な物だと言ってきたけれど、実は保険がかけられる。

 それは自分がメタモルフォーゼした状態でいれば良い事だ。

 爆発で頭が吹っ飛んでも、元の姿に戻れば何ともない。

 被害は爆発で周りにあった物が吹っ飛ぶのと、自分の愛用していた鍋が壊れるのと、高い材料が木端微塵になる事だ。


 幸いここは人が居ない山奥だ。そして何もない外の荒れ地で造るので、物の被害はなるべく最小限に抑えられるだろう。失敗してもバレはしない。

 ウィッチポット免許を無視して造るバカの中には、そう言った無知の者が事前準備をしないでやるヤツがいて危険なので、免許取得が義務付けられているのだ。

 免許持たなくても基本的な事を知っていれば免許持ちじゃなくても、上手く造る人は大勢いる。まぁ、違反であるには変わらないのだけれど。

 でもそれで死人だって出ているのだから、こう言う事はちゃんとして置いた方がいい。

 しかし私は、ごめんなさいと反省しつつもやってしまおう。


 さて、後はこれを混ぜるだけなのだが、鍋と言っても火にかけて混ぜる訳ではない。

 ウィッチポットが普通の鍋とは違うところは、鍋の側面にドラムが付いている事だった。

 このドラム部分をリズムよく叩いて行く事によって、中に入れた材料が混ざって行く。

 上手いリズムを奏でればその分とても良い物が出来るので、音楽の技術も必要になってくる。

 ドラムのリズムには沢山の種類があって、曲の難易度によっても出来るミックスジュースの質が変わって行く。


 材料の質に分量、入れる材料の種類にドラムのリズムの種類に音感の才能。

 最高のミックスジュースを造るには知識も技術も運も必要になってくる、とても奥深い技術。


 このミックスジュースの研究は(いく)万人(まんにん)にも登る人たちが4000年もの間、数多くのミックスジュースを造り続けて居ても、その頂きは見えてこない果てしない可能性を秘めた技術。

 その無限の可能性の中に、私にあの大神を倒せるだけの力のミックスジュースを、私が引き当てる事はできるか?

 でも、私は感じている。確実に成功に近づいて来ていると言う勘が働いているからっ!


「…………やるっ!」


 私はドラムのリズムを刻み始めた。


 ドドドッ! ドドドッ! ドッドッ!


 私が大神を倒したいと言う気持ちを込めて、情熱的にリズムを刻むのは難易度が難しい『復讐の后来(ほうらい)』と言うリズム。荒々しく、悲しげなこの曲を奏でて行く。


 ウィッチポッドに入っていた材料がハリケーンに飲まれたかのようにぐるぐると中で周って行く。


 ボフゥーッ!


 リズムを刻み終わるとウィッチポッドから白い煙が噴き上がる。

 あっ……、完成した。


 ウィッチポッドに入っている液体状になったミックスジュースを煮沸殺菌させた瓶へ入れて行く。

 ふむ、520ミリリットルとれた。5回分の変身が出来るな。造ったレシピも残してあるし、なくなったらまた造る事もできる。


 実は前にこれで2度失敗していたけれど、3度目で上手くいくとは運がいい方だ。

 さて、これにはどんな能力が秘められているかな。


 私は今のスピードランナーのメタモルフォーゼを変身解除薬で解いた。

 このメタモルフォーゼはものすごい速さで走る事が出来るミックスジュースで、今のところヒューマンタイプの中で1番格安なミックスジュースだ。

 なので、こう言う実験する際に1番人気なミックスジュースでもあるので、沢山市販で売られている。普段でも結構役立つし利用者が多い。


 私は少し休憩してから、造ったミックスジュースを使う事にする。

 岩に腰をかけて、空をぼーっと眺める。


 ミックスジュースか……。

 私は出来あがったばかりのミックスジュースを眺める。


 これが無かったら、世界はどんな風になってたのだろう。

 メタモルフォーゼによる戦争。材料を大量生産する為の植民地化。材料を取る為に動物の乱獲による絶滅種の増加。

 人間の欲望によってミックスジュースは酷い事に使われてきた歴史が多い。その中で、ミックスジュースで助けられた事もあるだろう。

 でも、もしこれがなかったら平和な世界になっていたのだろうか?


 ……イヤ。ミックスジュースがなくても、核ミサイルとか造ってる時点で、平和も何もないか。結局人間はなんでも利用してしまおうとする。

 

 日本も核ミサイルを所有していて、周りの敵対国へ牽制(けんせい)をしかけて自国を守ってるからな。

 まだ日本は平和だと言われているけれど……。いつ大神がその力を横暴に使うかわからない。

 やはりあの大神による国の体制は納得がいかない。

 大神と戦わなきゃいけない。理想の為に立ちあがらなければいけない。


 ミックスジュース。その為にオマエを使って行くが、許してほしい。

 何のために生み出された技術なのだろうか。このように戦う為なのか、人の夢を叶える為に造られた物なのか、または偶然出来た物なのか。

 ミックスジュースが造られた最初の歴史は多くの研究者が探しているが、最有力な結論は未だに出ていない。

 人々は夢を叶える為に造られたと綺麗な選択をしたがる。私もその1人だ。

 そうであればいいな。私たちが使っているミックスジュースの本当に造られた理由が……な。


 さて、そろそろ使ってみるか。

 今回造ったのは基本が侍のメタモルフォーゼをするミックスジュースだ。

 格闘家と侍の違いは、格闘家は気功爆炎波とかの技が使えるが、侍になるとそう言った技が使えなくなる。しかし侍には、侍にしかできない技もある。

 改良したオリジナルミックスジュースには、一体どんな能力が備わったかな。


 私はミックスジュースを飲んだ。

 そしてメタモルフォーゼした私の姿は殆ど変わりがなかった。

 まぁ、ヒューマンタイプだから見た目に変わりが出ないし。

 衣装となる防具は、別に戦闘でもないので着せ替える必要もないから、さっきから着ている私服のままだ。

 まぁ、一応髪の毛がちょんまげに近いポニーテール状にはなっているから、侍にはなったと言うのがわかる。どうしてこうなるか分からないけれど、髪が結ってあるんだよなこれ。


「……ん?」


 その前髪を見ると元の黒色と違って、真っ赤になっている。

 ミックスジュースには、基本的に髪の色が変わらない物が多いが、こうたまに変わってしまうのもあるにはある。

 まぁこんな見た目はどうでもいい。必要なのはどう強くなったかだ。


 マジックリングから刀を取り出して腰に下げる。

 使える技も新発見のミックスジュースだと、何があるのか確かめて行かないと分からないからなぁ。


 まずは基本の技が使えるかの確認だ。

 抜刀術、居合斬りをする。


 シャンッ!


 ……ふむ。今まで使ってきた侍のミックスジュースより、速さが格段に増している。威力もアップしているな。


 次は十文字斬り。

 横一線に刀を振り、縦に斬り落とす技。これも格段にスピードが増している為、他の技と複合、また隙を与えず次の技にも持っていきやすくなった。

 スピードや威力が増したのはわかったな。


 後は特殊な技で何が出来るかだ。

 私はその場に残像を残して4メートル先に現れる。しっかり残像も残っているし、この技は使える。


 刀を鞘から抜いて構え、気を刀に集中させて溜めて行く。


「ヤァッ!」


 気合と共に振りかざし、風圧による斬撃を放った。

 風圧に当たった岩に、刀で斬りつけられた跡がザックリ入った。

 遠距離技であるかまいたち斬りも出来る。


 その後も色々と試し、前に使っていた侍で使える技は、基本的に全部使えるみたいだった。

 なら、新しく使えるようになったのもあるか? それとも基本能力が上がっただけか?


 新しく技が使えるようになったのなら、これの開発をするのは大変だ。

 何をすればその技が出来るかなんて、その人の感性か運でしか発見ができない。


 それが得意なのが木花師匠であった。

 木花師匠は瞬く間に新しい技を生み出して行って、その技のレパートリーは何百種類もある。

 だが木花師匠が私を修行させてくれないとなれば、自分自身で見つけて行くしかない。

 私は今までも幾つも新しい技を見つけて来た。だから今回も見つけて見せる。


 大神との決戦の日まで、その技の開発の練習をし続けた。

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