ユカリの書 第2話 復讐の策謀 ― 5 ―
そしてある日、主要メンバーである人たちを集めた初顔合わせの会議を、兄さんと会話した山の森の中でする事となった。
集まって来た人は、斎藤が居る事にみんな驚いていた。組織長が斎藤であると思っている人も多かった。
別に指揮してもらっても構わなかったのだけれど、斎藤は私の指示を押した。策略にかけては私が上だと斎藤は言う。
なので私が進行する事となった。
そして会議の議題は作戦の手順をお浚いし、問題点を考える事だった。
「大神へ復讐するにも、生身の状態でやったりしたら、それこそ犯罪だぜ。やっぱりメタモルフォーゼの時を狙うのか?」
健が切り株の上で足をぶらぶらさせながら言う。
「生身へはさすがにやり過ぎ。当たり前だけど、メタモルフォーゼ中を狙う。でも、生身の状態の大神を後ろから刺すと言うのも、それはそれでやりたい……。なんてね」
みんながこの冗談に軽く笑いあう。この中で、本気でやりたいと思ってる人はどれだけいるかな。
黒堂組にいる私の舎弟が、大神へ鉄砲玉(捨て身)して来ますと言ってくるヤツもいたな……。
「そうとなれば、相手はメタモルフォーゼをしている状態を狙う事になります。っとなれば、あの竜で来るのは間違いないでしょうね」
「大神に勝つには、相手が思ってない作戦で意表を突くしかない」
「あの大会で大神を空中にバーンって上げた作戦あったじゃん。アレ考えたの誰だったの?」
「アレはユカリさんですよ。相手選手の情報を全てユカリさんが調べ上げてきてくれました。そしてどのように戦えばいいか、アドバイスをくれました」
「へぇー、アレってユカリさんが考えたんですね。てっきり、斎藤さんかと思っていました」
「しかし、アレで大神の怒りを買うだけになった。お姉様たちを傷つけたのは、私の責任でもある」
「っそんなことありませんよ! アレぐらいで狂気になる大神が全て悪いです!」
そうだそうだ! と周りもその意見に強く頷いてくれる。
「っとなれば、やっぱりユカリ姉ちゃんが作戦を考えた方がいいぜ」
「わかった、任せて。まずは、大神の鱗がいくら硬くてもある一部は絶対に柔らかい。そしてそこを攻撃すれば、大神の動きを封じる事ができる。それは大神の目を潰す事。アイツの動きを封じるには、とても有効な手立て」
「目を潰すって……。マジかよ……。いいのかそんな事して」
「ヤツはお姉様を食い殺し、みんなを傷つけた。その代償には目潰しなどまだ安い。だが、その目潰しをどう行っていくかが問題になってくる」
「それはこの私がヤツの目を矢で射ぬきます。それで私の力を求めていたのでしょう」
「そう。けれど、それをドコで射るかが問題。大神や周りに居る人に気が付かれることなく、矢を確実に当てられるのに適した射撃距離である場所を決めなくちゃいけない」
そう言って私は持ってきた紙をテーブルに広げる。
それは茶の木小学校の上空写真を拡大してプリントアウトしたものだった。
「大神をメタモルフォーゼにして戦うとなると、普通に戦いを挑む事はまずできない。ヤツはドコでもバトルとかはしない主義。人が集まる場所や、その戦いの時の目的が大きくなければ、戦わない目立ちたがり屋だ。だから今回、大神には私が挑発し、茶の木小学校で決闘を申し込む。茶の木小学校の新入生の連中らに大神の力を見せつける好機と加えて。これなら話に乗ってくると思う」
「それで茶の木小学校の写真ですね。っとなれば、この校庭で戦うでしょうから……。そうですね……」
斎藤はそのプリントを見て、自分が射れそうな場所を探す。
「この校舎の上から狙撃しましょう」
それは戦う場所から100メートルは離れている。
矢で目と言う小さな的を射るのにはかなりの距離があり、不可能に近かった。
「こんな場所から、小さい目に当てるなんて無理。さらに相手は動いている的。不可能だ。バレるとは思うが、ここ。桜咲小学校の生徒をギャラリーとして置いてそれを隠れ蓑にして……」
「いえ、やってみせましょう。100メートルでも射ぬける証拠をみせます」
斎藤がそれを証明する為に、メタモルフォーゼでタカの頭をした鳥人になっている。
健が的役になると立候補して、メタモルフォーゼで子猿となり、頭にリンゴをくくり付けた。
「健。私がやるって」
「いいからぼくに任せろって。この中じゃ何も役に立てそうにないぼくが唯一やれる役目だぜ。嵐姉ちゃん、本気で逃げ回るからなっ! 当てられるもんなら当ててみろっ!」
そう言うと健は、森の中へ駆け出して行った。
「斎藤。もし外して健の頭を射ぬいたら、承知しない」
「大丈夫。任せてください。私はあの日から、ずっと弓の鍛錬をしてきました。どんなに早く動こうと遠かろうと、絶対に目標に命中するように。全ては大神との再戦時、ヤツの弱点を的確に射ぬく為に……。ただ、和弓で確実に狙うのは難しかったです。なので洋弓を使って練習してきました。弓道の恥ではありますが、致し方ありませんでした」
そう言って斎藤が取りだした武器は、いつもの長弓ではなくアーチェリーだった。
アーチェリーの弓は、的に当てる事を目的に弓に改良を加えて言った技術が詰められている。
「ただし、和弓で培った技術は、洋弓にも確実に活かせていますよ」
健が100メートル先で合図を出して、逃げ回るのを確認すると私は斎藤に開始の合図を出した。斎藤は弓を構え、健の後を追う。
健は木の上に素早く登ると飛んで、木と木の間を飛んで行く。
もっと時間が掛かるかと思っていたが、構えて10秒くらいで矢が放たれた。
あっという間に飛んで行く矢を見て、思わず危ないと叫びたくなるのを堪えた。
ザシュッ!
「うひゃぁっ!?」
健もこんなに早く飛んでくるとは思わなかったのだろう。頭の上の衝撃を感じて、慌ててしゃがみこんでいた。
矢は見事にリンゴを貫き、刺さっていた。
「信じられない。あの距離で動く小さい的を的確に射るなんて……」
「タカの眼の力を最大限に活かしています。かなりの練習を積みましたよ」
タカの眼か……。確かに人間の頭の状態であれば、タカ本来の眼の能力を最大限に発揮する事はできない。これは斎藤がこの姿に拘るからこそ出来る技術か。
「これで納得していただけましたか? なんだったら百発百中射ぬき、信じるまで何本も当てましょう」
「もう大丈夫。そんなにしたら、健の心労の負担になる」
「凄いです斎藤さんっ!」
「キャアァーッ! 斎藤様カッコいいーっ!」
斎藤ファンの人が、斎藤の勇士に黄色い悲鳴を上げている。
戻って来た健に私はねぎらいの言葉を掛ける。
「御苦労さま。どこも怪我はない?」
「大丈夫だぜ。それよりスゲーな。ぼくもあんな風にカッコよく矢を打ちたいぜ」
「……健。アナタにも重要な役目を与える」
「え? ぼくに? なになに? 重要ってどんな凄い事するんだ?」
「あの健の子猿の身のこなしを見て、イケると思った。健はその子猿の身体能力を活かして竜の体を登り上がり、頭までたどり着いたら、トウガラシの粉を撒いて欲しい」
「え? えぇっ!? ぼくがあの竜に登るのかよっ! む、無理だぜ絶対にっ!」
「斎藤には両方の目を潰してもらいたい。けれど、最初の1発で相手は警戒状態になる。2発目以降の目潰しはさらに難易度が高くなる。そこで狙撃を用いない方法に、相手に接近した状態の目潰しを考えた。さらに目以外にもそのトウガラシの粉を吸い込めば、喉へのダメージを与え、火の玉などを防げる。誰か身体能力の長けた者をそのグループにしようとしている。健、アナタならまさにその適役になれる」
「う、うーん……。ぼくがそんな事出来るかな……」
「無理にとは言わない。他にも夜全、東山がこのトウガラシ作戦に加わってもらう。自分が出来るタイミングを見定めて突っ込んで行く。無理ならあきらめて他の2人に任せても構わないから。それに目潰しの方法は他にもある。私も隙を窺い、ヤツの目を潰す。試合合図の前にヤツが油断してるとみたらフライングしてまず目に向けて一撃を入れる」
「3段構えですか。さすがユカリさん。用意周到ですね」
「まだある。軍が使う閃光手榴弾を持ってくる。しかし、これは私たちへのダメージもあるから、使いどころが難しい。危険になった時には、これを使って離脱用にするか、これを使って大神がひるんだ時に、斎藤に目を潰してもらうかと、状況次第で使い方が変わる」
「どこからそんなの手にいれられるのよ……。それって普通は手に入らないわよね?」
「拾った」
実家にある物を持ってきたなんて言ったらひかれるだろうからな。
まぁ大体の人は真実は知っているだろうけど。
Cランク以上の武器を無許可で使用、または登録外の物を使用したら捕まる。
けれど閃光手榴弾はギリギリなラインな代物だ。使えば色々と問いただされるだろうが、誤魔化しがきく理由がある。
言い訳は裏通りを歩いていたら落ちていたとでも言えばいい。現に落ちていたなんて事例はよくあるのだ。
ヤクザや不良グループ同士の交戦時に不発した物とか、落ちている事なんてよくあるからだ。
「大神の視力を全て奪ったら、ここに居る私たちが大神の手足を拘束する。その後は全員で大神の鱗を剥ぎ落とし、ズタズタに引き裂く」
「あの鱗……。剥ぎ取れますかね?」
北島が自慢のドリルで何度もあの鱗に穴を開けようとして、失敗した光景を思い出す。
「わからない。アレは私の予想以上の硬度だった。アレは普通の人たちが作るミックスジュースの竜とは何かが違う。たぶん、大神家だけに伝わる秘術で作られているミックスジュース」
私だって大神とは違う、竜タイプのミックスジュースを使う相手と戦った事がある。その時の防御力がある鱗にはやはり苦戦したけれど、鱗を貫通して刀を突き刺せたくらいだ。
あの鱗の硬さは、何か普通とは全く違っている。
大神が使う黄炎竜と付けられたミックスジュース。
製法は明らかにされておらず、一般人が普通に造る事はまず不可能。大神家だけが、色々な竜を生み出しては、自分たちがその製法を独占している。
一般的に広まっている竜のミックスジュース製造法は、大神以外の人たちが特許申請して世界各地に製法が紹介された物ばかり。
それらと比べると大神が作っている竜は、とても異質だった。
やはり何か作り方が違うのか。それとも使っている材料に秘密があるのだろうか。
その後の会議はスムーズに決まって行き、決戦の日を決めて私たちは解散した。
いよいよ始まる。
桜咲小学校の歴史に刻む、我らの悲願を大神のその身に刻みこんでやるっ!




