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ユカリの書 第2話 復讐の策謀 ― 1 ―

 あの事件から2ヶ月。

 小学校はどこも新学期が始まっていた。

 お姉様は3学期の殆どを学校には通わなかったけれど、6年生へと上がれた。


 そして学校に居ないお姉様だが、生徒会長の座はそのまま維持している。

 実質、その副会長である斎藤がお姉様の変わりを切り盛りしている体制ではある。

 でも未だに生徒会長であるのは、皆がお姉様を慕っていて、復帰を願っているからだった。


 しかし、眠る時に起こる発作は毎日と言って良い程続いている。お姉様の睡眠サイクルが狂い、昼間でも寝ていたりしてめちゃくちゃだった。

 そう言う事もあって、精神的にお姉様はまだ不安定だった。


 どうにかしてお姉様の症状を救う手立てはないのだろうか?

 医者は時間が解決すると言っても、回復している兆しが見えない。ずっと苦しみ続けるお姉様を見るのに絶えない。


 毎日私は、お姉様をどうしたら救えるのか考えている。

 学校で勉強していても、登下校中にも、ずっとずっと考えている。


 その学校からの帰り道。

 私はツバメになって自宅へ向かっている。

 後もう少しで家に付く。


 今日のお姉様は起きているかな? もし寝る直後だったら、添い寝してあげたいな。


 っと。


 クエッ♪ クエッ♪ クエッ♪ クエッ♪


 私の行く方向に大きなワシが飛んでいる。

 あのサイズだと野生ではなく、ミックスジュースを使って飛んでいる人だと分かる。

 この辺りを飛ぶ人なんて、山越えして遠くの村へ行く人くらいしかいない。

 しかしそのワシは、私の家近くを旋回(せんかい)してばかりだった。


 ワシねぇ……。心当たりがある。

 私はそのワシへ近づくように飛んで行く。ワシの方も私が飛んでくるのを気が付いたのか、こちらへ近づいてくる。

 ワシは私に平行して飛ぶと近づいて来て話しかけて来た。


「ユカリだな?」

「やっぱり兄さん。元気みたいで何より」


 声からして、そのワシは私の実の家族の兄さん。黒堂(こくどう) (りょう)だった。歳は私より10歳も離れていて19歳だ。

 両親が離婚した時、兄さんは父の方へ預かり、名字がそのまま黒堂に。

 私は生まれる前だった為に、母の方の櫻井の名字で住民登録されている。

 名が違っているが、両親ともに同じ血で実の兄妹だ。

 お姉様には劣るが、私の自慢の兄である。


 この兄さんはメタモルチームバトルプロ級世界大会に、日本代表選手として出場した事があるのが自慢だ。

 優勝こそ出来なかったが、成績的には準優勝。世界を後少しで狙えた実力者だ。

 血の繋がりのある実の兄妹の私としては、誇りに思う兄さんだ。

 ただ兄さんは、社会的には誇らしくない行為をし続けている。


「話する時間はあるか?」

「ある。そこで降りて話しよう」


 私たちは森の中に隠れるように降り立った。そして2人とも変身をといた。

 そこに居た兄さんは、体のがっしりとした筋肉質で、如何(いか)にも過酷な戦場を渡り歩いてきたかと言うような腕の傷、そしてワイルドな服装をしていた。


「ったくよー。インターポールも日夜問わずシツコイもんだぜ。モテるってのは辛いぜ」

「ここで会っても大丈夫だったの? 私だって見張られている時もあるし」

「そう1年中幼女追いかけまわしてたら、そいつはロリコンで犯罪だっつうの」


 そう言って私の頭を撫でてくる。


 兄さんは世界大会後、木花師匠の元から離れて世界を放浪(ほうろう)する旅人になった。

 そして世界各地で自分が思った事を何でも実行している。

 それは殺人だったり、泥棒だったり、犯罪も含めてだ。

 世界各地で働く為、国際刑事警察機構(こくさいけいじけいさつきこう)、通称インターポールに追いかけられている。


 ただし、兄さんが行っているその犯罪だって、理由がある事を私は知っている。

 それらの行いが許せるものか許せないか、人それぞれの見方によって変わってくる。

 私はそれらの行いは許す方である。

 人間の社会にそむいた行為ばかりをしている兄さんだが、私はそれでも兄さんを家族として大事に思っており、尊敬もしている。


「ウルサイ。私だって成長すればイイ女なれる。絶対に」

「どうだかな。なんでオレやオヤジの様な体格が良い遺伝子もっているのに、こんなちっこく、ひょろひょろとしているか、いつも疑問に思うぜ」


 母の姿は写真で見ているからわかるが、そんな背が低い訳でもなく、背が高くて大和撫子みたいに美人だった。


 私は本当に2人の子かと思って疑問になる事があって、それを兄さんに言ったら態々血液をとって遺伝子調査をしてくれた。

 結果は、全くもっての私の早とちりだった。

 きっと先祖の誰かに小さかった人が居て、私の時だけその遺伝子が強く出たのだ。

 ついてないと愚痴(ぐち)を言うが、ちゃんと血の繋がりがある兄妹だって事は分かって嬉しいし、安心している。


「まっ、ユカリがオレやオヤジの様に筋肉質になったら、可愛げがないからこのままでいいけどな」


 お姉様もこの小さい体は可愛いからと言って気に入ってくれている。

 だから私も兄さんみたいにならなくてよかったと思っている。


「おっと、そうだ。今回の土産だ。フランスのマカロンだ。さっさと渡しておかないとな」


 そう言って腰に下げたサイドバックから取り出したお土産を受け取った。

 前に会った時はお土産を受け取る暇もなく警察が駆けつけてきて、兄さんは慌てて逃げる羽目になった。

 後でお土産が郵送で送られてきた。なんていうか、兄さんは変なところで律義なんだよな。


「マカロンって初めて食べる。ありがとう兄さん」

「おうよ。しかしユカリも4年生になったか。あんな小さい赤ん坊だったのにもうこんなでか……いや小さいな。本当に10年経ってんのか?」

「うっさい。1年前より1センチは大きくなった」

「っとなると、その計算じゃ10年後はこれくらいの高さか」


 そう言って私よりちょっとだけの高さに手を置く。

 からかいやがって……。

 私はその手をバシッと叩くが何度も置いてくる。


 バシバシバシバシバシッ!


「はっはっはっ! もっとガンバらねぇーと背が伸びないぞ。ほらっ!」


 相変わらずな付き合いだけど、文通以外に滅多に話し合えないので、こう言うやり取りでも嬉しい。

 電話などで話すと、すぐに兄さんの場所が逆探知されてしまうようで、長い事会話ができないからな。


「そういや気になっていたが、ユカリが慕うそのお姉様の容体はどうなってる? 相変わらず酷いのか?」


 お姉様の容体はどうすれば治るかを、兄さんにも文通で相談している。

 兄さんから帰ってくる答えは医者じゃないオレに分かるわけないが、側にはずっといてやれと返って来た。


「相変わらず変わってない。時間が解決するって医者はいうけど、どれくらい掛かるのだろう」

「そうか……。大変だな……」


 兄さんは腕を組んで悩んでいた。


「もし、兄さんの慕う人が同じようになったら、兄さんは何をしている? 前の手紙に書いてあった側に居て上げるって事をする?」

「そうだな。もしユカリがそんな風になっちまったらって思ってみるか。そりゃ、側に居てやりたいぜ。けど、オレはこの身だから側にいてやれないな。残念だけどよ……」


 それもそうか。


「だったらせめて、そういう風にやったヤツをオレはボコボコにする。ユカリが気が済んだと言うまで、オレが変わりにそいつを八つ裂きにし続けてやるぜ」


 その言葉を聞いて、私は大神への復讐心を思い出した。

 お姉様の体調を良くしたいと考えてばかりで忘れていたが、私は大神へ絶対に復讐する事を今でも強く思っている。


「やったヤツは大神だよな。ったく……。アイツらマジで一家全員抹殺してやりてぇ……」


 その表情から本気だとわかる。兄さんも大神との因縁が色々とあるのだろう。


「手を出しにくい相手だよな。ユカリ、アイツには絶対に関わるなよ。今回は不幸にも関わる事になっちまったけど、アイツらに関わったら人生ロクな事にならねぇ。アイツらに復讐したい気持ちはあるだろうが、抑えておけよ。オレが変わりにやっておいてやるからよ」


 わかっている。前の手紙にも大神には絶対に手は出すなと忠告は受けている。

 けれど私は……、それでも大神に復讐すると決めている。兄さん、ごめんなさい。


「おっ、そうだな。後は余り家の中ばかりじゃなくて、外に連れ出す」


 兄さんからそこまで言うと真剣な表情になって、スマートフォンをとりだして操作する。

 バイブレーションでも動いたのだろう。

 兄さんが溜息をついた。どうやら、兄さんと付き合える時間はここまでの様だ。


「せっかく話しようと色々と工作したっていうのに、違うヤツラに見つかるとかな……。原因はユカリ。盗聴器や発信機を付けられているぜ」

「えっ? いつの間に……」

「奴らの手口も本格的にヤバくなってきたな。インターポール以外のヤツラにも、もっと慎重に動かないとな。ユカリや仲間に会いにくくなるぜ……」


 年々、こうやって兄さんと会える時間が減って行っているように思える。

 いつか、兄さんと2度と会えない日が来る。

 それは兄さんが殺される日。

 そんな日が来ないでほしいと願っているが、不安でしょうがない。

 だから、少しでも兄さんと側に居ておきたい。


「兄さん……」


 私は兄さんの胸に飛び込んだ。そんな私を優しく包み込んでくれる。




 ほんの10秒くらいだけだった。

 兄さんは私を離すと、ミックスジュースを取り出すとそれを飲みだした。

 そしてシカの姿になった。

 空を飛んでいるとここに駆け付けた者に目立って見つかりやすい。徒歩で山の中をしばらく行くつもりだ。


「愛しているぞ。ユカリ。またな」

「私も。兄さん。無事でいて」


 その言葉を最後に、兄さんは森の中を駆け出して行った。

 私は兄さんの姿が見えなくなるまで、見送り続けた。


 さて……。盗聴器か……。


「盗聴器の向こうの人。聞こえている? この変態。私の会話ずっと聴いてたの? そして何をしていたか知っている。この変態めっ!」


 そうやって罵声をその場で浴びせる。

 どこに盗聴器が仕掛けられているか分からないけれど、後で全部調べてところ分しないと。


 ~~~♪ ~~♪


 私の持っているスマートフォンが音楽を鳴らす。

 メールのようで、それを見ると宛先が不明だった。

 内容を見てみるとと兄さんの仲間と書いてあり、盗聴器や発信機は靴の中や持っているスマートフォンの中にある可能性があるとか、本当に細かいところまで調べるようにと注意書きされていた。

 そう言うのを見つける為の道具を発送すると書いてあった。お代は兄さん持ちとも。


 兄さんに機械に強い仲間が出来たみたいだ。昔は一匹狼でいなかったのに……。


 私はそのアドレスに『兄さんを守ってください』と書いて送った。

 すぐに返事が来た。


『わかった。任せておけ。それとアドレスはすぐ使えなくなるので、もう返信はできない』


 そうか……。

 私はスマートフォンをしまうと、そう家まで遠くないので歩いて家に帰る事にした。

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