ユカリの書 第1話 殺戮ショー ― 2 ―
『3、2、1、メタモルバトルーーーファイトっ!』
その合図とともに両者選手が動き出した。
「シュッ!」
斎藤は先制攻撃と言わんばかりに、手に持っていた和弓を引いて、矢を大神に向けて3本同時に放った。
カンカンカンっ!
しかし矢は鱗に弾かれて、ダメージなんて通った感じが全くしない。
それに続かの様に北島が腕のドリルを廻しながら、大神の前足に向かって突き進んだ。
「うらああああっ!」
ガリガリガリっ!
しかし、火花が飛び散るばかりで、大神に対してダメージを与えている感じがしない。
大神の顔も、余裕の笑みを浮かべている。
「か、硬いっ!?」
「全くつまらない技だ」
大神は攻撃されていた腕を持ち上げると、北島へ攻撃してきた。
「うぉっ!」
それを間一髪で避けて大神から距離を開ける。
「気功爆炎波っ!」
「うあっ!?」
「ん?」
大神が叫び声を上げた方を見ると、お姉様がカマキリ男を吹っ飛ばしていた。
斎藤たちに気を取られている間に、お姉様は他のメンバーを潰していく作戦だ。
カマキリ男は壁際まで吹っ飛ぶと、変身が解けた。
そしてそのまま光輝いて消える。闘技場からワープで出されたようだ。
気絶したり、メタモルフォーゼが解けて審判の判断によって、戦闘不能と判断を下されると強制ワープ装置で闘技場から出されるようになっている。
「うぐっ!?」
お姉様を狙っていたライオン男の背中に矢が3本刺さった。射ぬいたのは斎藤だった。
「く、くそぉーっ!」
しかしそれでも倒れないライオン男。実力はそこそこある意外とタフのようだ。
「せいやっ!」
ライオン男が斎藤に目を取られていると、お姉様の回し蹴りが後頭部に入った。
「うごふっ!」
体をふらつかせながらも、仁王立ちでなんとか耐えた。
「せいっ!」
お姉様は立て続けにライオン男に攻撃を繰り出していく。
ライオン男は、それを必死に受け止めていた。
「全く見てられんな」
大神は竜のしっぽを振りまわすと、猛スピードでお姉様とライオン男に向かって振りかぶった。
「なっ!?」
「うわっとっ!?」
お姉様は飛んでそれを避けたが、ライオン男は諸に竜のしっぽに当たり、吹っ飛ばされてしまった。
「ぐふぅっ!?」
ライオン男が壁に叩きつけられ、そして変身が解けた。
ラッキーではあるが、あの攻撃、味方に対して全く躊躇なく行っているように見えた……。
しかしこれで3対1になった。
作戦通りに、あっという間に2人を片づけられた。
これならいけるかもしれないっ!
「よっしゃ、後はコイツだけだな」
「油断はしちゃダメだよ。何せ大神の息子さんだし」
「普通の矢じゃ、この竜に太刀打ちできないことを確認できました。北島さんの攻撃でも分かる通り、やはり竜の鱗は厄介ですね」
3人は大神を囲むように三角のフォーメンションで対峙する。
「ふっ……、ふふふっ! あーっははははっ!」
大神は笑い声上げる。
「雑魚を倒してくれてありがとう。正直、この俺1人でもよかったのだよ。あの2人が居る事でこの俺が目立たなくなるからな。邪魔者を排除してくれて感謝するよ」
なっ! 自分のチームメイトを邪魔者扱いだとっ! じゃぁ、先ほどの味方への攻撃も……。
「これで俺の強さを知らしめることができるぞ。3人相手で挑んできても、大神の竜の前には敵無しと言う事を証明するのにな」
「減らず口は立派だな。さっきのドリルは挨拶代わりだぜ。今度は出力最大で、その体にドでかい穴を開けてやるぜっ!」
「北島さん。関節の裏を狙ってください。そこがもろいはずだから。嵐はとっておきのを遠慮なく使い続けて」
「学校から武器弾薬の資金は出るって言いますけど、あんまり無駄遣いはしたくありませんね」
「ケチってると痛い目みるよ。全部使う勢いで使っちゃってっ!」
斎藤はマジックリングから矢を入れ替えた。
その矢じりは丸い金属が先端に付けられている。刺さるタイプとは全く見受けられない。
「プランBでいくよ、みんなっ!」
「おうっ!」「わかりました」
北島は大神へと突撃していった。
「ふんっ!」
大神は腕を振りまわすと迫ってくる北島へ向かって攻撃した。
「うおらぁっ!」
大神の攻撃を受け止めると、力押し勝負に挑んだ。
「うぐぐぐっ! なんて力だっ!」
「ふははははっ! どうした? そんな物か」
お姉様は密かに、大神の背中へと登った。
「準備OKっ! 撃ってっ!」
「ん?」
「シュッ!」
斎藤は北島に持ち上げられた腕の隙間へ矢を射る。そしてそれはお腹へと当たる。
ドカーーーーンッ!
「うおぉっ!?」
矢は大爆発を起こして、その巨体を宙へ吹き飛ばす。
「思いっきりやってやるんだからね!」
そして背中に乗り続けていたお姉様は、バランスをしっかりととりながら手を構えた。
「ぶっとべっ! 気功爆炎波マーーークスッ!」
ドガンッ!
「うおおおおっ!?」
ズシーーーーーンッ!
大神は爆破に吹き飛ばされ、7メートルくらいの高さから床へ真っ逆さまに叩きつけられた。
「あわわわわっ!? 嵐っ! 助けてぇーっ!」
自分の爆破の反動も加えてさらに高く飛んでしまったお姉様。40メートルくらいの高さで、手足をばたつかせている。いくら格闘家タイプでも、あの高さから落ちたら酷いダメージだ。
「花音っ!」
斎藤は飛ぶと、お姉様を上空でお姫様キャッチ。そして優雅に着地する。
「ありがとう、嵐」
「狙い通りに決まりましたね」
「くっそーーーっ! 関節の裏狙ってるのに、なんて硬さだよっ! チキショーっ! ドリルの刃先が削れちまってるぞっ!」
北島は落ちて来た大神にすぐに駆け寄り、前足の間接裏への攻撃を加えていた。
「プランAが進まないね。一部の鱗さえ剥がすか貫けば、そこを集中的に狙って攻撃して倒せるのに……」
「予想以上の硬さですね。竜の鱗と言うのは……」
「北島さんっ! お願いっ! ガンバってっ!」
「そう言われてもなぁーっ! どこも硬いっつうの!」
「キサマら……」
大神はゆっくりと起き上がると、その表情は怒りに満ちていた。
「この俺をよくもコケにしてくれたな」
大神は足元にいる北島に向かって体を横に倒した。
「えっ? あっ、やば……っ!」
ズシーンと地響きと共に、巨体に押しつぶされた。
「北島さんっ!?」
大神は起き上がると、つぶれた北島をさらに足で踏みつぶした。
「うあああああぁぁぁぁぁっ!!」
「北島さんっ! くそっ! これでもくらえっ!」
斎藤は再びあの爆発矢を取り出して、大神の顔面へ向けて放った。
「ふんっ!」
大神は飛んで来た矢をしっぽで叩いた。矢はその場で爆破したが、大神へ直撃で無い為、ダメージは通ってそうにない。
「どうした? 仲間がやられているぞ? 先ほど見たいに俺を吹き飛ばしたらどうだ?」
踏みつける足をぐりぐりとえぐり、踏みつける北島へさらなる圧力をかける。
「う、ぐあぅっ! く、くそぉっ! おおおぉっ! ごふっ!」
北島はオイルの様な茶色い液体を口から吹き出した。
「やあああああぁぁぁぁぁっ!」
お姉様は全速力で走り、北島を踏みつける足へと飛び蹴りを入れる。
ガンッ! っと鈍い音がしたが、全く持ってびくともしてなかった。
「くっ! 全然歯が立たない……」
「はっはっはっはっ! 先ほどの攻撃は、この俺でも予想しなかった良い作戦だったが、この竜に対して生半可な攻撃は全く通らん。キサマらに勝ち目などないのだよ!」
グリッ! バキバギバギっ!
「ウガアアアアアアッ!?」
北島が悲鳴をあげる。足のキャタピラはすでにバラバラに砕け散っている。
「き、北島さんっ!」
「北島さんっ! もういいです! 降参してください!」
「あぐぁっ! し、しかし、俺が鱗を貫かなければ……」
「無理です! その体ではもう動けません! 私たち2人だけになりますが、まだ諦めません。なんとか最後までやってみます」
「2人でだと? 無駄な事を」
「く、くそう……。こ、降参だっ! 参ったっ!」
北島がそう叫ぶ。
降参と言えば、審判の判断によって強制的にフィールドからワープで出される。
やられる痛みから早く解放してあげないと。
「おい、審判。こいつらを降参で戻すなよ。そして外に出さないようにしろ」
え?
「ちょっと、何を言ってるの?」
「この俺の初陣に、そんなひょいひょい逃げられたら面白くないからな。この俺の強さを大会出場者全員に知らしめる為に、キサマらには降参と言う敗北はない。この俺の攻撃をくらい、俺の強さをアピールする為にやられていくのだよ」
はぁ? なんだそれ……。
「そんなっ! 審判っ! 北島さんは降参を言いました! 早く撤収してください!」
お姉様が闘技場の外にいる審判にそう叫ぶが、聞く耳を持たなかった。
マジな話なのか? そんなのあり得るのか?
「さてと、随分ともったな。さすが機械タイプと言ったところか。頑丈さとタフさは、メタモルフォーゼ中、上位にいるだけあるな」
大神は北島を頭から持ち上げた。
「う、あぁ……、うぅっ!」
腕も腰も折れ曲がり、ボロボロになった体が宙づりにされてしまっている。
「は、離してくださいっ! もう止めてくださいっ!」
「ご覧に見せよう。全ての物を灰にする、灼熱の地獄の業火、これが竜の炎だっ!」
息を思いっきり吸うと、口から炎を噴き出した。
そして北島を炎で焼き尽くしていく。
「うああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
腕も足も折れて、悶える事も出来ず、ただ炎の勢いに揺さぶられて、燃やされていく。
酷い……。なんて光景だ。
観客席からも悲鳴が上がっている。
数秒焼かれると、その北島の体が一瞬で消えた。
「ふん、メタモルフォーゼが解除されたか。まぁ、仕方ない。生身の人間を攻撃してしまえば、殺してしまうな」
強制ワープされたか……。北島さん……。無事でいて。
「さて、次はどのようにしてやろうか? どちらがやられたい?」
「この私が相手します」
「嵐っ!」
斎藤が一歩前に出た。
「無理よ! 嵐まであんな酷い目にあうよ! そんなの嫌だよ!」
「花音は審判を説得し続けてください。その間、私が大神を引きとめます」
そう言うと斎藤は翼を広げて、大神へと飛んで行った。
「嵐っ!」
「このっ! 北島さんをよくもっ!」
大神の上空を飛んでいく。
そしてマジックリングから取り出したのはポリタンクだった。
その中身の黒い液体を大神の上でかけ始めた。
「ぶはっ! キサマっ! まだこの俺をコケにする気かっ!」
「火を吐く竜に、火なんて効果は無い……。しかし、時間を稼ぐには持ってこいの策ですっ!」
斎藤は弓を構えた。矢の先は火で燃えている。アレは火矢。
それが来れば大神にかけていた液体は、間違いなく発火性のあるオイルだろう。
シュンッ! ボワアァッ!
放った火矢は大神に当たると、あっという間に燃え広がって、大神を炎に包みこんだ。
「うぉっ!? なるほど。火あぶりできたか。だが、この程度の熱では、この俺に熱さは感じないのだよ」
大神は燃えたまま、息を吸い込んだ。火を吐くつもりだろう。
飛んでいる相手には、飛び道具か遠距離技を使うか、自分も飛ぶしか攻撃が出来ない。
大神の竜には翼が付いていない。
竜の中には背中に翼を持つのもいる。さらに両手が翼になっていて飛ぶ事に長けた竜。4つ足がしっかりして、陸上の早さやパワーに適した竜など、色んなタイプがいる。
大神の竜は、その陸上でのパワーに特化したタイプで翼は無い。
なので遠距離技である火の玉の手段で来るはず。それの対策で考えた策がこれだ。
「ぐふっ! げほぅ! ごほっ!」
息を吸った大神は、咳をしていた。
「そ、そうか。キサマの狙いは息を吸う事か」
自分から燃え上がる炎の煙にむせているようだ。
斎藤は矢をまた変えると、爆発矢を取りだした。それを上空から放った。
「ふんっ!」
しっぽでその矢をはたいて行く。やはり大神に直接当たらない為に、ダメージが通らない。
「くっ、直接当たらなければ、この矢は殆ど意味などない……。3本や2本同時に撃ちたいが、これは矢先が重くて、そんな事すればバラけやすく、標的に向けて飛ばす事すら難しいし……」
「ふぅ、そろそろ息苦しさがなくなってきたな」
大神に掛けられた火の勢いもだいぶおさまって来た。
「もうオイルもない……。こうなったら費用がかさみますが、ユカリさんが考えたあの方法を使ってみますか」
私が考えた方法? 色々とこの大会の為に、みんなへアドバイスなどをしたけれど……。
斎藤はマジックリングから爆発矢を取りだした。そしてまた取り出した。また取り出した。
あ、わかった。
腕に爆発矢を抱えるだけ抱えていた。40本はあるだろうか。
「な、何をする気だアイツ……」
大神もその斎藤の行動に何があるのか気になるらしい。
「ほら、全部くれてやりますよっ!」
そう言うと腕に抱えていた爆発矢を大神の上にばら撒いて行く。
「ふん、こんなもの払い落して……」
しかしそこまで考えると、ようやくその意図がわかったようだ。
40本もある矢が全て爆発すれば、その威力は1本の時よりも倍増して、大火力になる。
例えしっぽで1本や2本を叩き落としたところで、それを着火剤にして他の周りに落ちてきた爆発矢が連鎖していき、自分の周りで大爆発し始める。
「クソガっ!」
大神は慌ててその場から離れようと歩き出した。
「アナタが爆発させずとも、私が爆発させますよ」
斎藤は、火矢を手にしていた。
大神の周りに爆発矢が散らばるのを確認すると、火矢を爆発矢に向けて放った。
カツンっと当たると、その1本から次々と爆発を起こして連鎖していく。
大神がそれに巻き込まれていく。
「ウガアアアアァァァァァァッ!?」
大爆発する中でうめき声をあげている。これは相当のダメージを与えられただろう。
普通ならこれで勝ってもおかしくはないはずだ。普通なら……。
爆煙がはれると、その中にはぐったりとした大神の姿があった。
まだメタモルフォーゼが解けてないところを見ると、まだ大神は戦えるのだろう。
「き、キサマ……。今のはさすがに危なかったぞ……。よくも……、よくも俺に傷を負わせたなクソガキがあああああぁぁぁぁぁっ!」
大神は息を思いっきり吸うと、吐き出すと共に炎の玉を斎藤に向けて放射した。
「くっ!」
それをギリギリで避けた。
「すぅーっ、ブワッ! ブワァッ!」
大神は何度もその炎の玉を斎藤に向けて放つ。
斎藤も必死に避けているが、あのままじゃいずれ当たる。
矢で反撃したいところだろうが、そんな事する暇すら与えてもくれない。
「このっ! いつまでも逃げやがって! とっとと当たれっ!」
すぅーっと息を吸う大神。そして炎の玉を再び連続で吐きだそうとする。
だが……。




