ユカリの書 第1話 殺戮ショー ― 1 ―
私は3年生になり、時期は2月の中頃になっていた。
あの日から私は改心し、人に暴力をふるう事を止めた。
時間こそ掛かったものの、私が支配したクラスの人たちや、暴力を振っていた人たちとも、今では普通に会話してくれるようになった。
これもお姉様が仲立ちしてくれたおかげだ。
今でも私は小野寺家に住んでいる。
父のいる黒堂組にはたまに顔を出しているが、帰る気はなかった。
お正月などの日も、私は小野寺家で過ごしている程、私は小野寺家の一員になるくらいに、馴染んでいた。
3学期が始まった桜咲小学校には、今年も一大イベントが開かれようとしている。
それはメタモルチームバトルジュニア級全国大会。
出場する小、中学校は少なくても5000校は出る。
大会模様はテレビ中継で放送される。
桜咲小学校も毎年この大会には出場している。
けれどいつも地区予選大会止まりで、全国大会にまで進んだ事がない。
目標は地区予選突破と意気込んでいる。
優勝にまで行くくらいな真剣さはない。ちょっとしたお祭り気分な感じで出ているくらいだ。
チームは3人1組で組まれて出場する。
普通なら学校の強い人3人を決める為、校内でトーナメント大会などが行われて決まる事が多いだろう。
けれど、桜咲小学校はそう言う方法で出場が決まるわけではなく、全国大会開催前の1月に全生徒による投票で決められる。
基本的には学校の中で強い人に投票が集まるが、実力がなくても人気者が票を集めて出場する事も珍しくはない。
そして5年生で、今年生徒会長を務めているお姉様は、その代表選手として票を集めて、出場する事となった。
私は当たり前だと思って胸を張っていた。
強さもあり、人気もあるあのお姉様が選ばれなくて、桜咲小学校の顔と言えるだろうかと。
後の2人は、生徒副会長の斎藤 嵐。同じく5年生。
お姉様とは物心ついた時からの幼馴染だそうで、小野寺家に居候している私と、よく会う事がある。
斎藤は、まだ私の事を懸念している。それは仕方が無い。
親友を全生徒の前で裸にしたり、殴り、蹴りを入れた相手をそう簡単に許せるものではない。
しかしお姉様の手前、私を余り邪見には出来ず、とりあえず会話や簡単な付き合いはしてくれる。
後は6年生の北島……名前の方は忘れた。
5年生の時に1回出場していて、去年の雪辱を晴らす為にと意気込んでおり票を集めた。
去年の戦いを見ていたが、実力の方も申し分ない。
まぁ、私には劣るけれど……。クラスを支配する際にボッコボコに倒したからな。
その実力がある私には票が集まっていないのかと言うと全く無い。
色々と私の過去を知る生徒も全校で半分以上はまだいる。
いくら普通に接する事が出来るようになったと言っても、まだまだ私に対しての懸念は拭い去っていない。
でも、そう見られてもしょうがない。私はそれだけの事をしてきた。
罰は受ける。そしてその罪を拭う為に、私は学校では美化係として働いている。
来年は一緒に出れるといいね。そうお姉様は言った。
お姉様も来年が小学校生活最後。もちろん私はお姉様と一緒に出たい。
だから、来年の票集めはガンバっていかないと。
私は今、地区予選の会場の観客席に居る。
桜咲小学校の生徒、数百人も応援に会場に駆け付けている。
私の隣にはお姉様の弟、健と杏里お母様もいる。昭次お父様は仕事で居ない。
まぁ、しょうがない。平日に行われる大会だから、仕事がある人は休暇を取らなければ応援には来れない。
地区予選決勝や全国大会なら、休日を取る理由にはなりそうだけれど、まだ初戦だからしかたないだろう。
会場中央には、お姉様たちと対戦相手がいる。
『桜咲小学校。チーム名『桜咲』、チームリーダー、5年生、小野寺 花音選手』
「はいっ!」
名前を呼ばれて返事をするお姉様。
それと同時に生徒全員が、ガンバれとエールを送り、会場が沸き上がる。
「お姉様ああぁぁぁーーーーっ! ガンバってくださあああぁぁぁいっ!」
普段小声でぶっきらぼうで無愛想な私だが、お姉様の為なら全力で声を出しますっ!
周りに居た生徒も、私の張り切りようにヤレヤレと呆れて笑っている。
お姉様は私の声に、両手を振って答えてくれた。
『6年生、北島 慶介選手』
「はいっ」
あ、慶介だったか。
『5年生、斎藤 嵐』
「はい」
「斎藤っ! ガンバってっ!」
お姉様程ではないが、声を大きくして斎藤の応援をした。
斎藤は、ははっと苦笑して私の方へ頷いた。
許してもらうのはそれは難しい。けれど、だからと言ってそのまま互いに離れた関係のままではなく、少しでも近付き、分かりあえる努力をする事。
そうお姉様に教えられている。
私自身もまだ斎藤の見る目に苦手意識があるけれど、こう言う時こそ応援してあげて、身近になるチャンスとお姉様は言っていた。
だから、私は斎藤を応援する。
『以上、桜咲小学校代表選手。続きまして、茶の木小学校。チーム名『大神チーム』、チームリーダー、3年生、大神 賢寺選手』
「俺が大神だ」
アイツが大神か……。色々と情報を集めたが、初戦でまさかこんな厄介な相手に当たるなんて、ついてない。
「え? 大神って……。あの、大神家の子じゃないわよね」
杏里お母様が、顔を引きつかせている。
「大神家って?」
健が杏里お母様の言った言葉に質問する。
「大神家ってのは、竜神街ではかなり評判悪い一家でね。お友達の結姫さんも、自分たちの住んでいる森を取られそうになるなどで、長年因果関係を持っていて、自己中心的で迷惑な家族だと聞いてるわ」
酷い言われよう。
「うちの花音もその結姫さん旦那さんの茂さんに、メタモルフォーゼの先生をしてもらったのだけれど、その後にあった仕事で大神家の息子さんを鍛えたって言っていたわ。その子がまたどうしようもない傍若無人な子で、改心させようと試みたけれど手の施しようが無くて、初めて教育を諦めるくらい、大変な悪ガキと言っていたわ」
本当に酷い言われようだな。
そんなヤツとお姉様が戦うのか……。何か、嫌な予感がする。
しかしそんな強敵の大神に対して、何も策を用意してない事はない。きっと上手くいけば、そんな大神にも勝てる。
『それでは両者、ミックスジュースを飲んでください』
色々話を聞いているうちに、勝負は始まる一歩手前まで来ていた。
みんなが自分が選んだミックスジュースを飲んでいく。
お姉様は昔から変わらない、チャイナ服を着た格闘家スタイル。
斎藤はタカの頭をしているが体はヒューマン型、背中には大きな翼のはえている鳥人だ。
男子ならともかく、女子ならそんな頭がまんま動物で人間の体になるのは好きではないだろうが、斎藤の場合はカッコいいからとこっちをよく使っている。
少しボーイッシュなところがあるので、女子からも人気を集めている。
北島は、最近発見された機械タイプになるミックスジュースを使ったようで、キャタピラが付いた戦車タイプになっていた。
しかし上半身は人型で、腕はドリルを装着している。
最近では作業現場の掘削機として、このミックスジュースを使って働く人を見かけるようになったな。
相手の方は……。
ん? 大神が変身していない。
他の2人はライオンの頭をしたヒューマン型と、カマキリの様な両腕をと羽を持った昆虫タイプを使う人だ。
肝心の大神は何故メタモルフォーゼをしない?
もしかして姿は変わってないが格闘タイプなのか?
大神が使うミックスジュースは決まってるものなのだが……。
『申し訳ありません。ミックスジュースの服用をお願いします』
審判が大神に注意し、飲むように促している辺り、やはり飲んでいないのか。何やってんだ?
「くっくっ、そう慌てるな。この俺の素晴らしい姿をついに大会でお披露目すると言うのに、全員が同時にだなんてつまらんだろ」
そんな事を言っている。
声の方はスタッフが集音マイクで拾ってくれているので、余りにも小さい声でなければ声は拾えるので、私たち観客席に聞こえる音量にしてくれる。
「君たち凡人は、テレビの中ぐらいしか見た事が無い大神家の姿を、生で見れる事に感謝したまえっ! メタモルチームバトルプロ級世界大会に日本代表で出場する、あの大神一族の息子である俺が、あの竜になるのだ!」
そして大神はようやく自分のミックスジュースの蓋を開けるとそれを飲んだ。
「見よっ! これが地上で最強の幻獣、大神の竜の姿だっ!」
大神は煙に包まれると、その煙はもくもくと大きく膨れ上がった。
煙が晴れ、その中から現れたのは全長10メートルはあるかと言う、4つ足の黄色い鱗を纏った竜だった。
「グルアアアアアアァァァァァッ!!」
大神は咆哮を挙げた。その声の威圧感だけでもすさまじい物があり、近くにいたチームメイトが耳を塞いで困っていた。
「ガアアアァァァァッ! 見よっ! これが竜の姿だっ! 僅かこの歳で竜を操る天才、大神 賢寺の勇ましさをとくと見よっ!」
口はアレだが、確かに感じる強さは本物だ。
大丈夫だろうか?
私たちが考えた作戦が上手く行ってくれる事が、あの大神を倒す唯一の希望。
お姉様、どうかご無事でいてください。
『両者、準備が整いました。バトル開始までカウントダウン開始10秒前、9、8……』
カウントダウンが始まり、選手はそれぞれ決めたフォーメンションの位置に付く。
「おいおい、もう少し俺の演説と言うもを民衆に聞かせろよ……」
大神の言い分は無視されて、カウントダウンは止まらない。
会場中に緊迫した空気が流れて行く。
『3、2、1、メタモルバトルーーーファイトっ!』
その合図とともに両者選手が動き出した。




