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ユカリの書 第2話 優しさ ― 3 ―

 小野寺家にやってきて2日目の日曜日。

 昨日は色々とケチつけたが、結局何1つも私の意見なんて通りはしなかった。

 ふて腐れて布団の中に居ると、いつの間にか寝ていた。


 そして朝、目覚めた。私の寝起きは良い方だ。

 あっという間に昨日の事、ここがドコなのか、何故ここに居るのかをすぐに理解して、慌てる事はなかった。

 むしろ朝1番にため息をつく縁起の悪い1日の始まりだった。

 夢であればよかったのに……。


 そして意識はすぐにお腹の方に来た。とてつもなくお腹が空いた。

 昨日、夕飯を食べなかったな……。


 どうするか……。朝食はちゃんと食べようか。

 しかし、食べてしまうとこのまま飼いならされてしまいそうな気がする。


 私の自由を得るには、逆らう事が大事だ。

 その効果的なのは、ここで出される物を食べないことだろう。

 餌につられる事こそ、飼いならされた犬と一緒でしかない。

 けれど、食べなきゃやっていけない。


 ……あぁ、そうだ。コンビニに行けばいい。そこで弁当を買って食べよう。

 お金は私の銀行口座に40万はあるから、食べるだけなら全く困らないくらいだし。


 私は布団から身を出すと時計を見た。

 6時3分。

 目覚まし時計がなくても、寝る場所が変わろうとも、いつもの生活習慣は変わる事はないみたい。


 隣の布団を見ると、花音がスヤスヤと熟睡中。いつになれば起きるのか?


 私は花音をまたいで部屋を出た。

 長い廊下。私の家と見た目には変わらない内装と広さ。

 私が熟睡できたのも、家の模様が変わらなかったからか?

 とりあえずトイレに行こう。そして着替えてコンビニに行って朝ごはんを食べよう。




 私の部屋に戻って荷物をごそごそと漁り、返してもらった服を取り出して着る。

 その物音はちょっとうるさいか?

 花音が起きると何か面倒だから寝ておいてほしい。


「うぅ……ん……」


 私は寝ている花音を見たが、少し頭が動いているが起きる気配はないようだ。


 着替えて支度を整えると、部屋を後にして玄関へ向かう。

 ……っと。


「わぁーーーーっ!? ユカリちゃんが居ないよぉーーーーっ!?」


 後ろからそんな大声が響いてきた。起きやがった……。


 ガタンッとふすまを開ける音と、ドタドタと廊下を走って来る足音が近づいてくる。


「はぁ……」

「ユカリちゃーーーー……っあぁっ!? いたーーーーっ!」


 私を見つけてドタドタと、その走るスピードを止めることなく突っ込んでくる花音。


「ユカリちゃーーーーんっ!」

「朝からうるさい」


 飛びつて来る花音をさっと避けた。

 抱きつく標的が目の前からいなくなった花音は、すぃーっと廊下を滑って行く。


 ドカンっ!


「いたいっ!?」


 廊下の曲がり角に思いっきりぶつかった花音。


「ふぇーん。ユカリちゃん避けるの酷いよぉ」

「知らない」


 私はそれを無視して玄関へ向かって歩いて行く。


「アレ? ユカリちゃん、昨日と違う服だね」


 後ろからトテトテと付いてくる花音。

 玄関までたどり着くと私は靴を履く。


「どっか行くの? 朝のランニングしに出かけるの? すっごーい。健康的なんだねユカリちゃんって」


 ……まぁ、ランニングではないけれど、朝のトレーニングはする。

 いつもは食べる前にトレーニングをするのだけど、このお腹の空き様では集中できないし、途中でへばりそう。

 先にコンビニに行って食べてからだな。


「私もいこっかな」

「来ないで」


 なんでここまで一緒に居たがるんだこの女。やっぱり頭がおかしい。


「えー、私も今から着替えてくるから。待っててよぉ」


 そう言うと花音は、私の部屋へと駆け足で戻って行く。


 別に待つ筋合いはない。私は無視して外に出た。

 外は清々しい程に晴れている。こう言う天気は私は嫌いだ。曇っていて欲しい。


 私はスマートフォンを出すと、ナビを起動して近くのコンビニを検索した。


「…………ぅ」


 1番近くのコンビニまでの距離が2キロメートル先の場所にあった。

 確かにこの小野寺家は街から離れた山の中にある。

 少し予想はしていたけれど、本当に近くにないんだ……。

 そこまで行くのに、鳥にメタモルフォーゼして飛ぶのは、この腹の空き様では()える。


 私の家から歩いて1分も無い近くのコンビニがあるが、これほど便利だったのだと思い知らされた。

 今度あのコンビニ使う時は少しはありがたみを持って買いに行こう。


 しかし食わなきゃやっていけないので、しぶしぶ私はカバンからミックスジュースを取り出そうと中を漁る。


 ……待てよ。

 別に飛んで行かなくても、ここで食べればいいではないか。

 ただし、出された物を食べる訳じゃない。

 食べ物を(うば)って食べれば良い。


 もともとこの家をめちゃくちゃにしてしまおうと考えていたんだった。だったら大人しくしてないで、好き勝手にやってしまおう。


 そう思って私は回れ右。家の中へ入った。

 そして台所のある部屋へ入る。

 この家は居間と台所は別々に隔離(かくり)されていて部屋同士で繋がってない構造だった。


「ん? あら、おはよう」


 台所で包丁を片手にニンジンを切っていた杏里が、割烹着(かっぽうぎ)姿で立っていた。


 挨拶されたが、それを無視して横を通りすぎる。


「こら。ちゃんとおはようと挨拶しなきゃダメでしょ」


 そう言われるが無視し続ける。


「し・な・きゃ・ダ・メ・よ」


 ギラリッと包丁がこちらに向けられて光り輝く。


 …………。


「ふ、ふんっ!」


 怖気付くものか。どうせ刺せはしない。そうしたら犯罪だ。


「やぁーっ!」


 そう言って包丁をこちらに向けて振りまわしてきた。


「おォあぶなっ!?」


 今のは危なかった!

 顔横をスレスレで包丁が横切った。髪の毛とか切れてないかこれ?


 なんなんだ花音と言いこの母親と言い。似た物親子だ。変人だっ!


「あ、当たったら犯罪だっ! 何をするっ!」

「怪我させてもしっかり傷を治せば、ちゃんと証拠は隠滅(いんめつ)よぉ。私は傷を治すの得意だから」


 …………目がマジだった。

「おはようございます」

「うん、おはよう。昨日からちゃんとこうすればよかったわね」


 そう言って先ほどと変わりなく、包丁で今度は玉ねぎを切り始める杏里。


 ……怖いよ。何この家族。


「ユカリちゃーーーーんっ! どこにいったのぉーーーーっ!?」


 その花音の声が家中に響き渡ってきた。


「ユカリちゃんならここよーっ!」


 そう言って杏里が叫んで答えた。


 あぁ、面倒なのに見つかる。

 コンビニの方へ行っておけばよかった。バカな私だ。

 私が悲観していると、台所に花音が入ってくる。


「ここにいたんだぁ。外にもう出て行っちゃったと思ったよ。ちゃんと待っててくれてありがとうね」

「別に待ってなんかいない……」

「あら? 2人ともどこか行くの?」

「うん、朝のらんいんぐへ行ってくるんだよ」


 なんか噛んでるけど、ツッコンだら負けの様な気がする。


「違う、ランニングじゃない」

「え? ランニングじゃないの? じゃぁ、何するの? ヨガでもするの?」


 なんで考えがヨガにたどり着いたんだろう。


「あっ、今流行りの森林浴でしょ! 山の中だからいっぱい森の空気吸えるから、外に出たくなっちゃったんだねぇ」

「違う。メタモルフォーゼの鍛錬(たんれん)だ」


 教えなきゃいつまでもボケられそうだから、答える事にした。


「あぁ、そっかー。やっぱりそれだよね!」


 はぁ……。疲れる。


 ぐぐぐぅ~……。


「あっ……」

「すごい音~」


 どっと出た疲労感からか、私のお腹からありったけの唸り声を上げてしまった。


「昨日は何も食べてないもんね。こっそり布団の中でお菓子でも食べてるかと思ってたけど、このすごい音は、本当に何も食べてないね」

「すごい音とか言うな」

「んー、朝食は後30分はしないとできないわよ」


 30分……。そんな待ってられな――い、いや、別に作った朝食を食べようと思ってないし。

 ここへ来た目的、冷蔵庫の中の食料を奪って食べるんだ。

 ……は、止めておこう。台所に杏里が居ない時にしか盗み食いはできそうにない。


 なら、当初の目的であるコンビニに行くしかないか。しんどいけど、それしかない。


「昨日ユカリちゃんが食べずに残ったごはんがあるわよ。冷蔵庫に入っているわ。おかずもあるわ」

「なら、少しだけチンして先に食べようよぉ」


 えぇー……。


「い、いらない。私はコンビニに行って食べる」

「コンビニ? ここからだと遠いよ」

「飛べばすぐに付く」


 そう言って私は花音の横を通り過ぎようとした時、目の前を杏里に塞がれた。

「昨日の残りと今造ってる朝ごはん、ちゃんと食べなさいね。残したりしたら許さないんだから……ね♪」


 ニッコリ笑ってるけど、その後ろ手に持つ包丁がチラチラと見え隠れています。


「1分温めればいいかなぁ?」


 そう言う花音は、すでに冷蔵庫からおかずを出して温め始めているしっ!


「…………あぁ」


 私はその場に膝をついてうなだれた。


「わぁ、そんなにお腹空いたのぉっ! 早く暖めなきゃっ! レンジ、ファイトっ! 早くっ! 後もう少しだからねっ! 早く早くぅ~っ!」


 うぅ、泣きたい。どうして私はこんな事になっているのだろう。


 早く助けにきて……兄さん……。

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