ユカリの書 第2話 優しさ ― 2 ―
「や、やめろっ! 触るなっ!」
「大丈夫だって。きっと似合うよ」
「ほら、抵抗しないで脱ぎ脱ぎしましょうね」
ワキワキと手を動かして迫ってくる2人。
「や、やめてっ! 絶対に着な――アァーーーーーーーッ!?」
抵抗むなしく全部脱ぎ取られ行く。
「え? 何これ?」
「あぁ、本当だったのね……」
下着姿にまでなった私に、2人が驚いていた。
「なんでトランクスなんて履いてるの?」
「ユカリちゃんって……。男の子だったの?」
「私は女だ」
「ホントに?」
「やめろっ! さすがにこれまで取ったらブチ切れてやるっ!」
そう言ってトランクスまで脱がそうとしてくる花音。
「じゃぁ、触るだけでも」
「……わかった」
花音に確認を取ってもらうと、納得してくれた。
「なんでまたトランクスなんて着てるの?」
「履いてたら悪いのか?」
「んー、でも最近通気性が良いから着ている人もいるけど……」
「普通に変よね。普通はパンツよね」
「ブリーフなんてダサい。それにそんな物履いていたら笑い者だ」
男の子たちの会話の中で、このブリーフ野郎ダサいとか言って、イジメているのを見ているからな。
「え?」
「ブリーフもおかしいわよ」
「え?」
「えって……。なんか勘違いしてないかしら。ユカリちゃんって……」
「普通女の子ならショーツだよ。パンティーだよ」
「……普通の女の子の下着ってどんなもの?」
「こんなのだよ」
そう言って花音が見せてくれたものは、昨日裸にさせた時に履いていたのと同じだ。
「これ、ブリーフとは違う……。前に開く部分が無い」
「そりゃ無いよ。ユカリちゃんって、今まで男物の下着しか見た事ないの?」
「……」
こう言う風に実際に女性が着ている下着を間近で観察する事はなかった。
「いつも服とか下着とかって、誰かに買ってきてもらっているの?」
「私の舎弟に買わせにいかせている」
「……」
2人がため息をついた。
「舎弟って……、男性よね?」
「そうだ」
「そりゃ無理ね。大人の男性が女の子の下着なんて買えないわ」
「?」
「明日一緒にユカリちゃんの下着と服を買いに行きましょう。これはマズイわね」
「うん、ユカリちゃんの女の子としての危機がここまでだったなんて、私も思ってもみなかったよ。早く助けられてよかったよぉー」
「今日は仕方ないわね。さすがに下着は残って無いし、変わりの物がないからそれを履いてなさい。それで……。このスカート物を履かせたらマズイわね」
「見えちゃったら何だって感じだよね」
「服の方もしょうがないわね。明日新しいの買うまでは今日持ってきた物にしましょう」
「もしかして……。脱がされ損?」
「この危うい状況がわかっただけでも良い方よ」
ちっ、なんなんだよ全く。
私は脱がされた服をまた着直した。ったくっ……。
「あっ、そうだ。ユカリちゃんが寝泊まりする部屋を紹介したいんだけど」
「そうね。そこに残った荷物も置かないといけないし、行きましょうか」
はぁ……。疲れるなこの家族は……。
私は歯ブラシや教科書をカバンへしまって行き、そして2人に連れられて行った。
ちょっと奥へ行くと、その目的地にたどり着いた。
「ここが今後、ユカリちゃんと一緒に暮らす部屋だよぉ」
「一緒?」
そう言ってふすまを開けると、その先には生活感あふれた家具などが既に設置されていた。
「これは……?」
「私の部屋だよぉ。これからユカリちゃんは、私と一緒の部屋なんだよ。よろしくね」
マジか……。
「嫌だ」
「えー、どうしてぇ?」
「なんで他人なんかと一緒に寝なきゃならない。ここに来る間に他にも部屋があった。そのどれか使わせて」
ここまでに来る間に、幾つも部屋があるのは知っている。
これだけ広い屋敷で家族が4人だけと言う事は、使われていない部屋なんかあってもおかしくない。
来客用の部屋だって完備されているはずだ。
「ダーメェっ! ユカリちゃんと一緒の部屋で暮らすんだもーん」
「イヤっ! 私は1人部屋にして」
「もぉー、一緒に寝ようよぉ~。ねぇ?」
くそっ! なんでこうも好き勝手にされる。
「私は断固として1人部屋を要求する」
「もぉ……。ねぇ、お母さんも一緒の部屋にした方がいいよね」
「えぇ、そうね。ユカリちゃん。花音と一緒の部屋にしなさいね。私はちょっと残った夕飯の支度してくるから、後は花音に任せるわね」
そう言って杏里は去って行く。
「くっ……、このっ……っ!」
我慢の限界に達した。
私はその花音の部屋に入ると、ふすまをしめた。
バシンッ!
「ほえ? どうしたのユカリちゃん?」
「この部屋は私の部屋にしたっ! 誰も入ってくるなっ!」
そう言ってふすまをしっかり押さえつける私。
アッチから開けようと力が加えられたのを感じる。
「えぇーっ! そこ私とユカリちゃんの部屋だよぉー」
「私だけの部屋だっ!」
「もぉー、ユカリちゃんってばぁ……」
とてとてと去って行く足跡が聞こえる。
その先で何をしているのかと考えていると、物置きと思っていたふすまがサーッと開いて花音が入ってきた。
……はぁ。この部屋は廊下以外からも繋がっているのか……。
「ねぇ、ユカリちゃんはどっち側で寝たい?」
そう言って床を刺す花音。
「ベッドじゃないのか?」
「せんべい布団だよぉ。私はいつもこっち側で寝てるよ。あっ、北はアッチだからね」
部屋の中を見ると、すでに私のであろう布団が折りたたまれて置かれている。
私はそれを引っ張って持って行き、床に引いて行く。
「あ、そっちで寝るの?」
そして引いた布団の中に頭まで潜って寝た。
「どぉ? 寝心地は? 朝から昼にかけていっぱい干しておいたから、ふかふかで気持ちいいでしょ」
ウルサイな……。
「あっ、そだ。見て見てこの写真。私の友達のユウくんと李奈ちゃんって言うんだけど、実はユカリちゃんと同じ歳なんだよ。きっとユカリちゃんの……」
『うるさいっ! 出て行けっ!』
私は布団の中からそう花音に叫んだ。多少、声がこもってるだろうが意味はわかるだろう。
「うるさかった? んじゃ、この写真の子たちとユカリちゃん、仲良く……」
だからと言って私に近づいて小声で話し始める花音。
『だから出て行けと言ってるっ! もうほっといてっ!』
もう嫌だこんなの……。
なんだってこんな目に私が合わなきゃいけないんだ……。
「どうしたの? もしかしてもう眠くなっちゃった? 布団の中は気持ちいいからねぇ」
『出て言ってよっ!』
「寝たらダメだよ。これからご飯も食べるし歓迎会もするんだからぁ。ほーら、布団から出てきてよぉ」
花音は私の上に乗っかって来て、ゆっさゆっさと体を揺らす。
『もうほっといてっ! もう誰にも会いたくないっ!』
私は踏ん張ってそれを耐える。
布団をはがそうとする花音に対抗して、必死に布団を掴んで中から出ないようにする。
「ユーカーリーちゃん♪ でーでーおーいーでー♪」
『もう構わないでっ!』
「美味しいご飯が待ってるよ? ピザなんかも焼くんだよぉ」
『食べないっ! もう寝るっ!』
「そんなんじゃお腹空いちゃうよ?」
『うるさいっ! 出て行けっ!』
「意固地になっちゃってぇ。出てこーいっ!」
バンバンバンと布団を叩かれるが、耐えて見せる!
しばらく叩かれた後、花音がため息をついて諦めた。
「んもぉぅ、それじゃぁ、お腹空いたら来るんだよ」
そう言って足音を聴いていると、部屋から出たのがわかった。
顔を少し覗かせて部屋の中を見ると、花音の姿はいない。
私をだまして隠れている事もなく、本当に行ってくれたようだ。
「……はぁ」
布団の中の息苦しさもあって、深呼吸の後に深いため息をついた。
何なんだここは……。ムカつく……。あぁムカつくし……っ!
帰りたい……。
しかし夜も遅く、ここは山の中だ。
明かりの無い中を鳥になって飛ぶのは結構危ない。
空中で何かにぶつかり、落下したダメージはとてもじゃないが痛い。傷なんかは元に戻れば全く何ともないのだけれど、あの痛みを知った後だと2度と過ちはおかしたくない。
帰るにも帰れない。
山の中だから家から出て行っても、行く場所もなくて暗闇の中の山の森の中は危ない。
野生の危険動物に遭遇したら、ミックスジュースの無い私には獲物でしかない。
八方ふさがりな末にとった行動は、布団の中に籠る事だった。
私が取る行動では、本当に幼稚だ。もうふて腐れてるとしか言いようがない。
「どうしてこうなったんだろうな……」
元々はあの花音がいきなり教室へ飛び込んできた時から始まった。
アイツは私を助けたいと言って来た。
それからヤクザの家にまで押し掛けて、父や部下を全員倒した。
そして今、こうして私はこの家に監禁されている。
元凶は全てあの花音にある。
ムカつく……。本当にムカついてくる。
なんなんだあの女は…………。
私の人生……計画では…………こんな事は……な――――た。
「アレ? ユカリちゃん寝ちゃってる?」
「あら、本当ね。もしかしたら、気疲れちゃっていたのかもね」
「んー、それじゃぁ、起こすのはかわいそうだね」
「夕ご飯は冷蔵庫に入れておきましょう。いつ起きてお腹空いたって言っても食べられるようにね」
「そうだねぇ。ユカリちゃん、可愛い寝顔してるね」
「そうねぇ。こんな可愛い子がまさかヤクザの娘だなんて……。本当に可愛そうね」
「うん。だから――――うね」
うるさいな……。
「ふぁ~……。せっかく歓迎会の用意してたんだけどなぁ。まぁ、しょうがないね」
ガサゴソガサガゴソ……。
「それじゃ、おやすみなさ~い。ユカリちゃん、これからよろしくね」
こんな生活……いつか……。




