ユカリの書 第2話 優しさ ― 1 ―
桜ヶ丘街から外れた山奥に、小野寺家があった。
ここまで来るのに鳥になって飛んで来たが、桜ヶ丘街から本当に離れた場所にあった。
前にアイツに言っていたが、元はこれが本家だった家か。その貫禄がある。
私の家と同じくらいの大きさの古風な日本屋敷が、山の中腹で平らになっているところに建てられていた。まるで城の様に構えていた。
「ここを私が支配するのか……」
便利さで言えば周りに店が多くある実家が良いが、ここはこれで隠れ家や別荘にするには良いところだな。
ここは周りに店どころか民家すらない。
山と森ばかりで、本当に孤立した状態にある。なんでこんなところに家を建てたんだ?
時刻は7時を回ったところ。山の中だから、周りが大分暗くなっている。
取り合えずチャイムを押すか。
立派な長屋門に設置されたボタンを押すとピンポーンと、結構昔の家で使われていた感ある音が家から響いてきた。
そして門の向こうからワイワイとにぎやかな声が近づいてきた。
戸が開くと、そこには4人が立っていた。
「いらっしゃーいっ!」
「違うでしょ」
「あ、そうだった。おかえりなさーいっ!」
『おかえりなさーいっ!』
なんだこの出迎えは……。
「この子がユカリちゃんなのね。小さくて可愛いわねぇ。花音が小さい頃を思い出すわぁ」
「初めまして。花音の父の昭次だ。これからは娘の様に接するが、よろしくな」
そう言って大人の男性が挨拶してくる。
「私は杏里よ。お母さんって呼んで良いからね」
「私の事はこれからお姉ちゃんって呼んでね。よろしくね、ユカリちゃん」
「ぼくは健」
この中で1番小さい健と言う者は、私と身長差が殆ど無いな。
「歳いくつだ?」
そう言って健へ尋ねる。
「4歳」
4歳の子供と大した身長差がないなんて……。
なんで私はこんな身長が低いんだ……。だから人になめられるんだ……。
「私はねー。ユカリちゃんより2歳年上のお姉さんだよ。3人とも2つ違いの生まれなんだね」
私が6歳。つまりはコイツは8歳で3年生だったか。
小学生3年生の女の子に、ヤクザの組1つ潰されるなんて……な。
「まぁ、こんなところで立ち話もなんだから、家へ入ろう」
「早くご飯食べたいー」
「もう少し待ってね。色々としなきゃいけない事があるから」
そう言って杏里は健を宥める。
4歳のガキか。これだから子供は嫌いだ。
私は子供は苦手だ。自分も子供なんだけれど……。
ただ、アイツらは指示の意味を分からないで自分勝手に行動する。ハッキリ言って役立たず。私には必要が無い存在だ。
コイツらを支配するにしても、健と言うガキは邪魔になるな……。
門をくぐると、広い庭とデカイ屋敷が見えた。
「ここに何人住んでいる?」
支配するにも敵の数をまず知らねばな。
これだけ広いと、結構人数が多いだろうな。
「4人暮らしよ。ユカリちゃんが来てくれて嬉しいわ。賑やかになるわねぇ」
「だねぇ。この家は人数に対して広すぎて、寂しい感じなんだもんね」
マジか……。
まぁ、本家が役所に居る親戚に移ったってのもあるからか。
この家の力は、そんな大したものじゃないってことか。
なら、簡単に支配が出来るな。
玄関を上がり、廊下を歩いてく。
長い廊下と日本屋敷特有の木の匂いとひんやりとした空気。
私の家とたいして変わらないな。
ただ、私の家の方は男臭いのとタバコ臭い。アレは余り好きじゃない。
アレと比べると、こっちの清楚感が居心地が良いな。
「ここが皆がいつも集まる居間だよ」
引き戸を開けるとそこは日本屋敷では余り見られない、フローリングになっている部屋だった。テーブルや椅子などの西洋の家具も多く見られる。
畳部屋とコタツと座布団、タンスなどを想像していたけれど、全く違っていた。
「フローリング?」
「前は畳部屋だったけれど、やっぱり時代が時代だからな。結構あっちこっち色んな部屋が改築されているぞ」
「でもこの家は築600年の歴史ある家なのよ。所々にはまだその名残はあるわ。でも大体が戦国時代や暗黒時代で焼かれたり壊されたりして、大分新しく造られた物だけれど」
「日本文化遺産にも登録できるかと思ったんだが、やっぱり新しく造ったり改築してる為に登録外になったからな。惜しいな。結構立派な家なのに」
ふーん……。この家は闘いの戦果にもあっている場所でもあるのか。
まぁ確かに山に囲まれていて、攻めるにも中々に難しい地形の元にある。
「こーらっ! 健っ! つまみ食いしちゃメッ!」
テーブルの上にあったくし揚げへ、手を伸ばそうとしていたのを止める花音。
「もぉー、早く食べよーっ!」
テーブルの上には歓迎会と言っていた通りに、ご馳走が並んでいた。
くし揚げに海鮮物、シーザーサラダにエビが入ったチャーハンなどなど。
私の歓迎に造った物か。支配者への歓迎の宴ってところか。
「食べる前に色々と検査しなきゃいけないから、待っていてね」
そう言って私に近づいてくる杏里。
「それじゃぁユカリちゃん、ボディチェックと荷物の検査するわね」
「え?」
「何か危ない物を持ってきてたら大変だから、そう言う物は取りあげちゃうわね」
なんだとっ!?
「だ、ダメだっ!」
ここを侵略する為に必要なミックスジュースや強力な武器などを沢山持ってきているのだ。
それを取り上げられたら、私は何もできなくなるっ!
「ユカリっ!」
杏里がそう指示を出すと、私の後ろに廻ってガシッと羽交い締めしてきた。
「あっ!? くそっ! はなせぇーっ!」
「ごめんねぇ。だって、本物の銃だとか、手榴弾とか持って自爆してくるところだったんだもん。危ない物は没収だよぉ」
杏里は私からマジックリングとカバンを取り上げると、中身を出して行く。
中から色々なミックスジュース、ピストル、マシンガン、ショットガン、機関銃、手榴弾、リモコン式爆弾、発煙弾、などなど。
後は家の構造の把握や、戦略時に有効な情報を集める為に、しばらく潜伏しなくてはいけないので、ちゃんと持ってきたお泊まりセットが出される。
これだけ大量の物が小さいカバンに入っているのは、魔法で造られたカバンだからだ。
マジックバックと言って、中は魔法でとても広くて沢山の物が入る。
それだけ沢山の物を入れて重くは無いのかと言えば、中身が空っぽなんじゃないかってくらいに軽くて、中の重さが全く関係なくなる。
私のこのカバンは大体半径10メートルくらいの容量を入れる事が出来る。
この異次元魔法でカバン以外にも、像を100頭入れても大丈夫と言うキャッチフレーズの大容量ガレージ倉庫が売られていたりもする。
「これって本物だな。さすがヤクザの娘ってところだな」
そう言って昭次がピストルを手にとって、手慣れた感じで分解していく。
まぁメタモルバトルではモデルガンではあるが、それらを使って闘う人もいる。
本物もモデルガンも構造的には同じなので、使っている人は素人でも簡単にバラせる。
くそっ……。これで部品をバラバラな場所に隠されたら、もう元には戻せない。
「健。ちょっと危ないから別の部屋に行ってなさい」
「えぇー」
しぶしぶながら、健が部屋から出て行く。
「ユカリちゃん、今の私服も持ってきた着替えもそうだけど、もうちょっと可愛いの無いのかしら? 今着ている物も男の子が着るものよそれ」
ボディーチェックをしていく杏里。
ポケットに隠し持っていた折り畳みナイフやミックスジュースを取り上げられた。
「別に……。着られれば何でもいい」
「ダメよ。せっかく可愛いんだから、もっとおしゃれしないと。花音の小さい頃の服がまだ倉庫に置いてあったわね。それを出してくるわ」
そう言って私の着替えと共に出て行ってしまう。
うぅ、服さえも奪われて変えられてしまうのか。くそぉー…………。
だがまだ堪えてやる。
武器なんてまた家から持ってくればいい。
今は色々と情報を掴む為に潜伏が必要だ。だから大人しくしてやる。
まだ耐えろっ! 私っ!
「それじゃ、これは持って行くからな。悪いな。まぁ、ちゃんと返す時には返してやるから」
そう言ってバラバラにした銃や、手榴弾などを持ってドコかへ行ってしまう。
「ユカリちゃん、ものすごい物をいっぱい持ってきてたね。アレが普通? 学校に持ってきているの?」
「普段は持ってない。捕まればヤバいから」
この国の法律では、Cランク以上に登録された武器の所持には、市役所での登録が必要となってくる。
私が持っている殺傷能力が高い本物の銃なんかは、Cランク以上になっている。
普段使っている銃はDランクのモデルガンで、当たっても肉を貫き、一撃で相手を仕留めるほどの威力はない。
だからとCランク以上を所持したい場合は、大変難しく過酷なテストと訓練を積んだ試験に合格しなければならない。
受かる人は1000人に1人と行く確率ぐらいに低くてほぼ無理である。
それに危険人物であれば、絶対に役所に受理されない。
役所に登録外の違法武器を所持して居た事が発覚した場合、捕まって禁固刑か罰金が科せられる。
黒堂組はそんな登録外違法武器の違法販売で成り立っている。
隠し倉庫に行けば大量にそんな物がある。
「もういいだろ。抵抗はしないから放して」
「うん、そうだね」
ずっと大人しくしていたからか、束縛から解放してくれた。
「お待たせ~。はい、これがユカリちゃんの新しい服よ。あ、新しいって言うのはおかしいかしら? 花音のお下がりなのに」
そう言って私に用意した服がスカートだとかワンピースとかだった。
「……スカート系は履きたくない」
「えぇー、どうして? 可愛いのに」
「そんな下がスースーしてると気持ち悪い。動きに制限も掛かるし」
あんなスカートで人を蹴ったりしたら、見られてしまうし。
「んー、ダメよ。ユカリちゃんも女の子らしく変身させなきゃダメだからね」
「絶対に嫌」
「ダメよ。ユカリちゃんが持ってきた物はもうしまっちゃったからね。着る物はこれしかないわよ」
「じゃぁ、今着ている服も取り上げないといけないね」
え?
「それもそうね。それにさっき持って行った中にあった下着が気になるのよ。間違って持ってきちゃった訳よね? 弟さんとかのを……」
「や、やめろっ! 触るなっ!」
「大丈夫だって。きっと似合うよ」
「ほら、抵抗しないで脱ぎ脱ぎしましょうね」
ワキワキと手を動かして迫ってくる2人。
「や、やめてっ! 絶対に着な――アァーーーーーーーッ!?」




