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ユカリの書 第1話 ヤクザの娘 ― 5 ―

「失礼しますっ!」


 考え事をしていると、下っ端が問題の小野寺を連れて来た。


「あ、ユカリちゃん。そっちの人がユカリちゃんのお父さん? 全然似てないね」


 そう言って私と父を交互に指差す。

 確かに似てないとは自分でも思ってるけど、いきなり失礼なヤツだな。


「まずそちらの要件を聴く前にこちらから問いたい。オマエは桜ヶ丘街で有名な、小野寺家の者だな?」

「そうです。まぁ、本家じゃないんだけど、昔は本家だった家に住んでます」

「本家じゃない?」

「えっとー……。なんか今でもこの街の役所で働いている方の親戚の人たちが、本家って事みたい。私の家族は街から外れた山の中にある家に住んでるんだよ」

「そうか。それでそんな小野寺家が、しかも子供なオマエが黒堂組に単身で乗り込んできたのは、なんの意図があるんだ?」

「それはユカリちゃんを助けたかったから来たんです」

「だからなんなんだそれは?」


 私も何度も聴かされるその訳が分からない意味に、イライラして怒り気味に質問した。


「こんな悪い人たちの中で生活するユカリちゃんが可愛そうだよ。だから私の家でユカリちゃんは預かって、一緒に生活しようって考えたんだ」

「なんでこんな私なんかを助けようとするっ!」

「ユカリ、黙っていろ。それはオマエが勝手に考えた事か? 親はこの事とその理由を知っているのか?」

「うん、お母さんもお父さんも賛成してくれているよ。後は私がここに行って説得してきなさいって言われて来たんだ」

「子供をたった1人でヤクザへ……。何を考えているんだ。その親もオマエも……」


 頭を抱えて唸っている。私と同じ状態なんだろう。


「お願いしますっ! ユカリちゃんをくださいっ!」


 小野寺はそう言ってお辞儀する。


「はぁ……。こんなフザケタ事態に、さらにユカリまで盗られたとなれば、黒堂組の歴史始まって以来の大恥だ。キサマも小野寺家も俺が許すと思っているのか?」


 父はミックスジュースを取り出して飲んだ。そして私と闘った時と同じロボットとなった。

「キサマを倒して人質にして、小野寺家へ乗り込むっ! こんなことしておいて、無事で済むと思うなよっ!」

「わかったっ! じゃぁ、アナタを倒したらユカリちゃんを貰って行くからねっ!」

「ちょっ!? ヤ、ヤベェっ!」

「オマエはこの部屋から出て行け。流れ弾が当たって死んでも文句は言えない」


 私はこの場に残る。この結果を見届けたい。


 例え流れ弾が当たったとしても、今は格闘家のメタモルフォーゼ中だ。

 怪我を負っても元に戻ればいい。


 父は小野寺に向けて3丁のバルカンを向けると一斉射撃を開始する。


 ズダダダダダダダダダダダダダダダダッ!!

「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃっ!!」


 それを全てブロッキングで受け止めて、弾が全て足元へ落ちて行く。

 ちょっと待て! あり得るのかその超反応はっ!


「なんだとっ!? ありえんっ!?」


 父もその凄さに驚いている。


 30秒程頑張って撃ち続けていたが、銃身が過熱しすぎてオーバーヒート寸前にまでなってしまっている。

 黒かった先端がとても真っ赤になっている。しばらく冷却が必要で打つ事はできないだろう。


 約5400発の弾を全て受け止めた小野寺は、得意気な顔をしている。

 父は撃つのを止めて接近戦の為に大剣をマジックリングから取り出した。


「んじゃ、次は私のターンだよっ!」


 父へ接近していく。

 振り下ろされた大剣が小野寺の頭を狙う。


 ガンッ!


「くそっ!」

「せいやぁっ!」


 小野寺の腕に装着された鉄手甲(てつてこう)で大剣を受け留め、弾き返されてしまった。


 そして懐に入られてしまう。


「ハァアアアッ!!」


 気合と共に、父の足へパンチを入れた。


 バギィッ!


 あの鉄の装甲をもろともせずに貫く怪力で、父の片足が崩れる。


「ウオォッ!?」


 バランスを崩し倒れて行く父。

 私も狙ったところだが、あぁ言うタイプのロボットの足は、片方が崩れると大分身動きが取れなくなる。

 この小野寺もその事を分かって最初に狙ったな。


 倒れて行く父の片腕を掴み、持ち上げてブンッ! と振りまわして投げた。


「うわぁっ!?」


 壁に思いっきり叩きつけられた。

 あの巨体を軽く投げるとは……。原田も思いっきり吹っ飛んで来たものな。


 なんとか立ち上がろうと父も頑張るが、ギギギッと金属がひしめく音がして、なかなか立ち上がれない。


 小野寺は父に向かって走り、そして天井に向かってジャンプした。

 天井に一端貼り付くと蹴りを入れて加速を増し、父へ向けてもの凄い勢いで飛んで行った。


彗星(すいせい)一文字キィイイイイイックゥッ!!」


 ズガンッ!!


 父の楕円刑の頭部を思いっきりヘコませる程の威力で蹴られた。


 再び壁に叩きつけられた父の体からは火花が飛び散り、ガクガクとしている。


「さっすがに機械タイプは頑丈でタフだよぉー」

「くそぉっ! こんな子供に……俺がやられてたまるかぁっ!」


 父はオーバーヒートするにも関わらず、小野寺に向けて両腕のバルカン砲を打ち始めた。


「うりうりうりうりうりうりうりうりうりっ!」


 しかしそれもむなしく、完璧にブロッキングされてしまう。


 バギァッ! ガガガガガガガッ! バァーーーーンッ!


 両方の銃身が急に爆発し、そしてそこから腕にかけて爆発していく。

 やはり無理をしすぎたな。

 普通でも1回2秒以内で撃ち続けるのが一番最適と言われるくらいの火力だ。

 父もその事で誤る扱いをする人ではないが、1番の攻撃手段であるバルカン砲が効かないとなると、やはり焦ったのだろう。


「壊れちゃったね。それじゃ、止めを刺しちゃうからっ!」


 小野寺が父に近づいて行く。接近戦でのあのロボットタイプは闘う手段が少ない。

 その距離2メートルまで近づいた時、父の頭のバルカンが回転しだした。

 油断して来たところを狙う作戦だったのだろう。

 あの距離からブロッキングは、さすがに無理だ。


「くらえっ!」

「遅いっ!」


 バルカン砲を発射するまでに、その回転数を上げる為の初動作に1秒はかかる。

 その1秒であっという間に距離を詰めた小野寺。読まれていたなアレは。


 射程範囲から外れると父の頭の上に載り、そして外壁を引きはがして行く。

 そして中のコードをブチブチと引きちぎって行く。


「ウゴゴッ! ガッ! アアッ! ザーーーーーーーーーッ!」


 父の動きがピタッと止まり、動作音が止まった。


 やら……れた? あの父が……?


「ふぅー。勝ったよいっ!」


 そう言って私にピースサインを送る小野寺。


 嘘だ……。ウソだ……。こんなのっ! こんなのは認めないっ!


「……オヤジ。己の勤めはっ!!」

「え?」

「己の勤めはっ!! オヤジっ!! まだ聞こえるだろっ!」

「まさかっ!?」


 小野寺は父の上から慌てて降りようとした。

 その父の体が一瞬だけ動いた。


「己の勤めはーーーーっ!!」

『命燃やしつくすまでやり遂げろーーーーーーっ!!』


 そして目の前が眩しく光り出した。

 部屋全体を吹っ飛ばすほどの大爆発。

 そこにいた私も巻き添えとなり、吹っ飛んだ。






「もぉー……。なんなのこの自爆ばっかなヤクザさんたちは……」


 さすがの小野寺もあの爆発は全てブロッキングでは防ぎれない。

 小野寺も衝撃に耐えられずにやられて、姿が元に戻っていた。


 部屋の方も、ウィッチフィールドを元に戻した為に、すっかり元の状態に戻っている。


 結果は引き分けと言う勝敗だろうが、自爆までさせられた私たちにとっては、敗北と同じだ。

 それも小学生の女の子相手と組の全員が相手の闘いで、父以外全員敗北。

 どう見たって恥ずべき敗北はこちらだ。


「それじゃぁ、この事は私たちだけの秘密にして、私の望みを聴いてくれるんですね?」


 今、父と私、小野寺の3人で対面して交渉し合っている。


 小野寺が出した条件。

 それは小学生の女の子に組を潰された事の黙秘(もくひ)の変わりに、私を小野寺家で預かる事。


「あぁ、そうしてくれ……」


 父は小野寺に向けて頭を下げた。


 ふっ……。ふははっ……! はは……。なんだこれ?


「やったぁーっ! ユカリちゃんっ! よかったねっ!」


 何が……。何が良い? こんなの悪夢だ。いっそ夢であってくれ……。


「こんな事……、嫌だ……」

「すまん。ユカリ……。この組の為だ……。本当にすまない」


 私が……、私が売られた? 組の為に、私は売られたんだ……。


「それじゃぁ、こっちもそっちも色々と準備もあるから。明日の休み、夕方くらいに家に来てね。歓迎会の用意して待ってるからね」


 そしてその後はすぐに『お邪魔しました』と言って去って行った小野寺。

 嵐の様な女だ。

 その去って行った後の静けさに、組の者全員がこの普通ならあり得ない事実に困惑していた。


「……ユカリ」

「許さない……。この私を売るなんて……」

「すまない。本当にすまないっ!」


 そう言ってあの父が初めて私に頭を下げた。


「お嬢っ! 本当に行ってしまうのですかっ!?」

「うぅっ! 俺たちのせいだっ! 俺たちがふがいないばかりに……っ!」


 くそっ! なんでこんな事にっ!

 アイツ……。急に現れて私の人生をめちゃくちゃにしやがってっ!


 めちゃくちゃに……。


「……行ってやる」

「ユカリ……?」


 そうだ。アイツの家をめちゃくちゃにしてやろう。

 小野寺家をめちゃくちゃにして、支配して、私の下僕にしてやるっ! そしてあの女を奴隷にしてやるっ!

 そうだっ! そうしてやろうっ!


「ははっ! ははははははっ!!」


 私はその場で狂ったように笑いだした。


 心配そうに見ている周りの者を無視して、私は自分の部屋へと戻って明日の準備をする事にした。


 待っていろよ小野寺家っ!

 私の人生をめちゃくちゃにした分、思いっきり暴れてやるからなっ!

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