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ユウの書 第1話 咆哮の黄炎竜 ― 2 ―

 茶の木小学校の裏門にたどり着いた僕たちの前に、人だかりが出来ていた。

 それは全員大人たちで、中にはこれから会社へ行くだろうスーツの人も居るし、ビデオカメラを持った外国人なんかもいる。


「なんだこれ?」

「この人だかりじゃ通れないの……」

「どうする? 正門に回る?」


 時間的に余裕はあるけれど……、でも校庭で何かが行われているかも気になるなぁ。


「面倒だし、人をかき分けて行こうよ」

「そうね。杏子、ユウとアタシの間に入りなさい。ユウ、先陣は任せるわね」

「任せておけ。杏子ちゃん、離れないようしっかり僕に掴まってなよ」

「うん、頑張ってね! お兄ちゃん」


 杏子ちゃんは僕の腰へとギュッと腕を廻したのを確認すると、息をめいいっぱい吸って吐いてから、大人たちの隙間へ無理やり割り込む。


「どいてくださいっ! 学校へ行かせてくださいっ!」


 おらおらと遠慮なく突き進んでいく。

 大人たちもその様子に気が付いて、少しずつ目の前が開かれていく。


 ようやくその人だかりの中を潜り抜けると、グランドがある裏門にたどり着く。

 門を抜けると学校の生徒がグランドを埋め尽くしていた。


「ふぅー、朝からしんどいの」


 僕の腰に抱きついていた杏子ちゃんが、乱れた服をぱっぱと整える。


「ねぇ、そこのアンタ。これはいったい何の騒ぎ?」


 李奈は隣に居た男の子に話しかけた。知らない顔だけど、李奈の知り合いか?


「え? あぁ、桜咲小学校の連中が、大神へ果たし状を出したらしいぜ」

「隣街の学校じゃない。わざわざ遠いところ、朝から戦いに来たの? しかも果たし状って……」

「桜咲小学校か。前の大会で起った事件が原因だな。大神への復讐をしに来たんだろうな……」

「大神ねぇ……。アタシ、アイツ嫌いよっ!」

「まぁ、僕も好きじゃないけど……。あの桜咲小学校と大神か……。大変な事になりそうだな。僕は見て行くけど皆は見て行くか?」

「アタシも見たいわ。杏子はどうする?」

「それじゃぁ、ワタシも見るの」

「っとなると、この人だかりじゃ戦う中心が見れないな」


 もう生徒がわらわらと居て、その中心が見えない。っていうか、こんなに生徒がうちの学校にいたか? なんか異常に多いような気がするけど……。


「校舎から見ない? ここから見ると2棟の3階廊下の人混みが少ないわ」

「おお、そうだな。それじゃ、行くか」

「えぇ。あっ! アンタ、ありがとね」

「え? あぁ、どういたしまして……」


 僕たちは校舎へ入り、目的の場所へ着いた。

 杏子ちゃんは窓の高さまで背が足りなかった。近くの教室からイスを借りて、その上にちょこんと載った。

 まだ試合は始まってないみたいだな。いつやるんだ?


「んー、ここからだと良く見えるんだけどさ……。この野次馬の騒ぎじゃ、何をしゃべっているのか雑音が多すぎて聞こえないわね」

「そんな時こそ、これを使うの」


 そう言って杏子ちゃんがカバンの中から取りだしたのは、500ミリリットルのアルミ缶に入った市販のミックスジュースだ。


「どんなのになるんだ?」

「ヒューマンタイプのウサギになるの」


 キャップを開けてクピクピと少し飲んだ。


「んぅーーっ!!」


 ボンッ!


 そんな音と共に杏子ちゃんは白い煙に包まれた。

 そして現れたその姿が、先ほどと変わっていた。

 頭にはウサギの耳が生えており、お尻にはウサギのしっぽが洋服の上から生えている。手足にも肉球とふわふわな毛の動物の手足がある。

 それ以外は人間のまんまだ。まるでウサギのコスプレをした格好になった。


「これでよく聞こえるの」


 そう言ってウサギ耳をピコピコと動かす。

 これはミックスジュースと言われる魔法で作られた飲み物だ。

 100ミリリットル飲めば誰でも変身することが出来る。

 この変身の事をみんなは。メタモルフォーゼと呼んでいる。


 ミックスジュースには様々な種類があり、このように人間の姿を維持したまま動物の能力を持ったり、そのまま動物の姿になったりできるのもある。

 植物、創造物、ジャンルを問わずあらゆる物のに変身できる。

 最近の研究では、機械系にも変身出来るレシピも開発された。


「杏子は最近それ好きよね」

「だってカワイイんだもの」

「そうだね。杏子ちゃん可愛いよ」


 僕は杏子ちゃんの頭を撫でる。ついでに耳をモフモフと触る。


「にっ、にぃ~っ……♪」


 杏子ちゃんは顔を真っ赤にしてくすぐったそうにしている。やっぱり可愛いなぁ。


「杏子をおもちゃにしてないで、ユウも早く飲みなさいよ」


 李奈は杏子ちゃんからミックスジュースを受け取ると飲んだ。


「はいっ」


 ミックスジュースを僕に押しつけると、李奈もボンッ! っとウサギ耳の女の子にメタモルフォーゼする。


 なんか李奈のウサギ耳が杏子ちゃんと違って、強気にピーンと立ってるな。やっぱり耳が付くものだと、性格で癖が出るな。


 僕もミックスジュースを一口飲んだ。

 まぁ、これって間接キスって言うものなんだろうけど、一緒に旅行に行くと大抵の物は廻し食いしたりするので、慣れてしまって恥ずかしい気持にはならない。

 2人も気にした様子もなく、僕の変身後の姿を待っている。


 一瞬目の前が眩しく輝き、真っ白になる。

 そしていつもの体と違う、身軽さ、体中をめぐる神経の感覚が変わる。

 聞こえてくる音の量が、普通と違って小さい物もハッキリと大きく聞こえてくる。


「おー、良く聞こえる。けど、やっぱ慣れないな。色んなものが聞こえすぎる」


 メタモルフォーゼは、いつもの自分の体の五感が全て変わる。

 なのでメタモルフォーゼ後の体に慣れていないと、上手く使う事ができない。

 例えば4足歩行する動物になった時、人はハイハイをする時と同じ感覚で歩こうとしたらそうは上手く行かない。

 関節の曲がり方が違う為に歩く時に違和感が出てきて足をもつれさせる。

 6足歩行する昆虫型になるとさらに難しくて、いつもと違う2本の足がどう動いて歩いていいか分からずに蹴躓(けつまず)いてしまう。


 それと視覚も変わると脳が混乱し、気分が悪くなる人もいる。

 草食動物で言う馬や羊など顔面の左右に目が付いていると、目の焦点が変わる。

 また色が変わったり、視力が変わったりするのも多い。


 内臓器官も変わる為、慣れていない感覚が混じると気分を悪くする事もある。


 なのでメタモルフォーゼには訓練が必要なので、授業には体育とは違うメタモル体育があるくらいだ。

 メタモルフォーゼするものによっては、工事現場の作業に使ったり、移動手段に使う事もあるので、僕たちにはミックスジュースを使う事は一般的な行動だ。

 それ故に学校の授業にはミックスジュースとメタモルフォーゼの勉強科目が普通にある。


 そして今、目の前で行われようとしているのは、そのメタモルフォーゼで戦い合うメタモルバトルと言うものだ。

 このさまざまな姿に変身できる能力で競い合うこのスポーツは、世界各国で行われていて、人気の高いスポーツだ。


 父さんの仕事も、このメタモルフォーゼの格闘技の育成なのだ。父さんが育成した弟子には、『メタモルシングルバトル』のプロ級世界大会に優勝した人もいる。


 まぁ、シングルバトルよりはチームバトルの方が最近では人気である。

 3人それぞれのメタモルフォーゼが、その能力の違いから発生する様々な戦いのシナリオが生まれるのが人気なところだ。

 でも今回のは見る限りじゃ、シングルバトルみたいだな。


「んー、やっと音が絞れてきた」


 ウサギ耳をクイクイと動かし、余分に聞き取った音を頭の中で(はぶ)いて消していく。

 するとやっと中央で話をする大神たちの声が分かるようになってきた。


「ん? アレって……。まさか……。ユカリっ!」

「何? ユウの知り合いなの?」


 その闘技場にいる女の子に見覚えがあった。


「あぁ、昔に何度か会った事ある子だよ。涼兄ちゃんの妹だ。昔とあんまり変わってないなぁ。その小柄さが……。アレでも、僕たちと同じ4年生だよ」

「うそっ! 杏子と同じくらいかと思ってたわ」

「ワタシもそう思ってたの……。よく大神なんかに果たし状なんて送る度胸があると思ってたの……」

「それに涼お兄さんに妹が居るとは聞いていたけど、まさかあの子だなんて……」


 懐かしい友達に出会えたなぁ。

 涼兄ちゃんが居なくなってから、こっちの方に来る切っ掛けもなくなったから、会わなくなっちゃったな。


 あっ、でも会話はしていないけれど、前に大会の会場でユカリを見かけたな。

 会話しようかとしたけれど、無視されたなぁ……。


 初めて出会った時のあの事は、今でも覚えている。とても衝撃的で不可思議な体験だった。

 けれどそれが奇妙な出来事すぎて、アレ以来会う事をしなくなったんだ。

 僕は別にいいんだけど、アッチが嫌がるから仕方ない。

 その奇妙な体験とは……。


『しょく――――――ピギィィィィィィィィィンッ!!!!!!』

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