ユカリの書 第1話 ヤクザの娘 ― 1 ―
桜咲小学校の校庭に激しい闘いの音が轟々と繰り返している。
「おらぁーっ!!」
大きなトロールが、手に持っている巨大な木槌を私へと振りまわしてくる。
ジャンプしてさっと避けると、その木槌の上に乗っかった。
「なにっ!?」
その上を駆けて渡り、焦り驚くトロールの顔に目がけて飛び蹴りをくらわした。
「ぐはぁっ!」
後ろのめりで倒れていくトロール。
私は着地するとすぐさま、トロールの足を掴んで振りまわし始めた。
「うわあああぁぁぁーーーーっ!?」
「田中っ!」
魔法を使おうとしていたヤツが、振りまわされる仲間を心配そうに見ている。
今魔法を私に使えば仲間を巻きこむ。使えはしない。
ソイツに向かって、振りまわしていたトロールを投げつけた。
「わぁっ!? ちょっとま――っ!?」
ズシーンっとその巨体に押しつぶされる魔法使い。
「この野郎っ!」
ゴリラが私に向かって突進してくる。
その太く筋肉質な腕を振りかぶって、私へ目がけて拳を放った。
バシンッ!
「なんだとっ!?」
そのパンチを受け止めた私。
私の細い腕が、ゴリラの腕力を受け止め、あの大きなトロールを振りまわす。
小柄ながら怪力な私は今、格闘家としての能力を持っている。
見た目で騙されていたら、痛い目を見る。
「そいやぁっ!」
受け止めた腕を引っ張り、私は一本背負いでゴリラを投げ飛ばした。
「うわあぁーっ!?」
地面に叩きつけられたゴリラ。
すかさずその首に腕を巻いて締め上げた。
「ぐっ!? ごほっ!? ぐごごっ!?」
ゴリラは苦しみ悶えている。
一気に力を入れて、首を思いっきり曲げた。
ゴキッ!
その鈍い音と共に、ゴリラの抵抗が一気にガクッとなくなり、動かなくなった。
しばらくするとそのゴリラは光だし、その体が12歳のガキの姿へと戻った。
ミックスジュース。
それを飲めば誰でも自分の好きな物に変身できる魔法の飲み物。
ミックスジュースに入れる材料を変えるだけで、あらゆる種類の物に変われる、この世界に古来より伝わる技術。
それは竜にもなり、ロボットにもなり、人間の姿のままでも限界を超えた格闘家や超能力者にもなれる。
この技術は社会の発展に密接な関係となり、工業現場、移動手段、スポーツなんかにも多く用いられる一般的な物となっている。
そしてさっき行われた闘い。
それはメタモルバトルと言われる、その変身した能力で競い合う格闘スポーツだ。
変身した姿を一般的メタモルフォーゼと言う。そこから名の由来がある。
勝利条件は結果は、相手が降参するか、相手の変身が解けた時。それと反則をした時だな。
変身が解ければ、変身前の元の姿へと戻る。例え首をへし折ろうが切断しようが、元に戻る事が出来る。安心して相手を痛めつけられる。
今回の闘いは1対3の勝負で、私は傷一つ負う事なく勝った。
「威勢だけの雑魚……」
つまらない闘いだったな。
私は左足首に青色のガラスの様なアクセサリー、『マジックリング』から変身を強制的に解除させる薬を取り出して、それを飲んだ。
すると私の体が光り出し、その姿は元の私へと戻る。
まぁ格闘家になっていたので、体付きは全く変わっていない。
服装が道着から私服へと変わっただけだ。
着ていた道着や今の私服はマジックリングに収納してある。
入れてある物を自分の思った近くへと転送してくれる魔法の腕輪だ。
服装も一瞬で変えられるし、武器を取り出したりと便利なアイテムだ。
ただ、入れられる許容範囲が少ないのが欠点ではある。
強い武器や防具を沢山入れておいて使うことはできない。
「ち、ちきしょうっ! なんて強さだ……。本当に1年生なのかよ……」
「ウザい……」
ゲシッ!
その倒れているガキの腹へ蹴りを入れた。
「うぐっ!? わ、わかったから! もう止めてくれっ!」
そう言ったガキは起き上がって土下座する。
その頭を私は踏んだ。
「いいか。オマエらのクラスも私の支配下になった。これからは私の命令を聴け」
「……くっ」
「返事……しろっ!」
その踏んでいた頭にさらに力を入れて地面に顔をなすり付けさせる。
「わ、わかりましたっ!? ユカリ様に従いますっ!」
「……ちっ。さっさとそう言えばいい」
ドカッ!
「ぐふぁっ!?」
最後にわき腹に蹴りを入れて、私はその場を後にした。
それを見ていた周りのギャラリーが、私の進む道を開ける。
この学校に入学して早5日目。
私の支配するクラスはこれで10個目となった。
今手にしたクラスは6年4組。これで6年のクラスは全て私の支配下となった。
何が上級生だ。雑魚ばかりであくびが出る。
私は今年入学した1年生。6歳でありながら、大人さえブッ飛ばせる力を持っている。
誰よりも小柄な私の体を、そのナメた目で見たヤツは全て私の前にひざまずかせてきた。
櫻井 縁。
この私の名は、桜咲小学校に瞬く間に広まり、そして平和だった学校をどん底に陥れた。
愉快だ。
オマエら平和ボケした中に、こうして私が悪魔となり恐怖を植え付ける事が、何より楽しい。
めちゃくちゃにしてやる。
この学校もオマエらの生活も、全て最低最悪の物にしてやるっ!