表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/106

ユウの書 第3話 ドリームペンシル ― 6 ―

「うわーーーんっ! もうサイテーーーよっ!!」


 控室に戻ってきた李奈が、泣きながら(わめ)いている。


「だから虫って嫌いっ! 何アレ気持ち悪いっ! とっておきに使ったミックスジュース無駄に使ったぁーっ!」


 ご愁傷様(しゅうしょうさま)です……。


 しかし僕自身も戦ったりするのは、少し嫌な気持ちにはなる。

 だって、クモが人間サイズに大きくなった物と言って良い。ビジュアル的に凄く嫌だ。


 李奈は虫が大の苦手だった。触る事はもちろん、見る事すら嫌っている。


 見るのが嫌なクモでも頑張って戦ってはみたが、やはり攻撃するたびに逃げ出した。

 それに付け込んで相手はネバネバしたクモの糸をしかけて、それに引っ掛かって身動きが取れなくなった李奈に対して、口から吐き出した酸液を掛けられた。

 その攻撃にパニックを起こして正気を失った李奈を見て、審判が李奈を敗北として終わった。


「試合には絶対にタイプ分けして決めるべきよっ! 動物部門とか昆虫部門に分けてっ!」


 文句を(まく)し立てる李奈をどうどうと僕は落ち着かせる。


「しっかし、あんなに嫌がるなんてなぁ」

「そうですわね。何か虫に対して昔に嫌な事でもありましたか? そうでなくてはアレほどはなりませんわね……」

「昔っ……、ドラム缶に……、イッ、イ……」


 あっ……。小田桐さんの言葉に、李奈のトラウマスイッチが入った。


「イヤアアアアアアァァァァァァッ!!!!」


 叫び声を上げながら体中を手でさすって、その場にうずくまってしまう。


「あぁっ! 李奈っ! 大丈夫だから! 何もいないよっ! ねっ!」

「ホンマに大丈夫かいなっ!」

「あ、触っちゃダメっ!」


 アンジェお姉さんが李奈の背中を優しく()でた。解放してあげようとしたんだろう。


「キャアアアアァァァァァァッ!!!!」


 撫でられた瞬間、飛び跳ねて全速力で駆けだした。


 ゴチンッ!


「ガフッ!?」


 そして思いっきり壁にぶつかった。

 前すら見えない程に、パニック状態になってしまったんだ。

 思いっきりぶつかった李奈は、その場に力なく倒れた。


「うわっ! ちょっ、ホンマ冗談やないでこれっ!」

「大丈夫ですかっ!? 門川さんっ!」


 倒れた李奈に周りに居た人たちも騒ぎを聞きつけて大丈夫かと近寄ってくる。


「う、うーん……」


 李奈は壁にぶつかった衝撃で、気を失ってしまったようだ。


「救急車呼んだほうがいいか?」

「頭思いっきりぶつけたわよ?」


 周りの人がザワザワと騒ぎ出す。


「待って下さい」


 小田桐さんがそう言うと、ポーチからミックスジュースを取りだした。

 それを一口飲むと、メタモルフォーゼをした。

 その姿は天使だった。純白の翼に、蒼と桃色の羽衣を(まと)った、とても美しい天使だった。


「今、治してあげるから」


 マジックリングから十字架の形をした弓を取り出して、それを振り始めた。


「傷を癒し、再び立つ力を与えるっ!」


 小田桐さんは光輝き、その光は李奈へと降り注いで行く。

 すると、李奈がぶつかった時に出来た額のこぶが治っていく。

 李奈を包んでいた光が消えると、小田桐さんも一息ついて安堵の顔をする。


「これで大丈夫です」

「ん……? んあ……、アレ? な、なにっ!? えっ?」


 周りで自分を見ている人だかりに驚いて、何があったのか困惑(こんわく)しているようだ。


「李奈。大丈夫か? またパニックを起こして壁に激突したんだよ」

「え? 本当に? えーっと……。パニックって……」

「思い出さなくていいよ。またなったら大変だから」

「う、うん。そうするわ。ごめんなさい。ご迷惑おかけしました」


 李奈は周りに居た人たちに謝った。


「小田桐さんが、李奈を癒してくれたんだよ」

「え? あっ、あの天使っ!」


 小田桐さんのメタモルフォーゼを見て、李奈が驚いた。


「あ、ありがとうございますっ! わざわざ変身までしてくれて……」

「いいですよ。それに、あんな状態にした原因はワタクシの言葉にあるようでしたし……」

「小田桐さんの言葉?」

「それも思い出さなくていいっ!」


 李奈が考えないように僕は肩を掴んで、必死にグワングワン揺らした。


「あぁあぁあぁっ!? ユ、ユウ! わかったわっ! もう何も考えないわっ!」

「はぁ、とりあえず李奈は、杏子ちゃんのところに行った方が良いよ。ここに居たら、何かの反動で思い出しかねないし」

「え、えぇ。わかったわ。それじゃ……。お世話お掛けしました。失礼します……」


 そう言って李奈が控室を出て行った。


「はぁ……。虫タイプと戦った後って、いつもこうなる……」

「あれ、一体何があったんや?」

「えっと、本人が知られるのを嫌がってるから、あんまり他の人には言えません」

「せやか。そんなら仕方ないわ」


 李奈がトラウマになるあの事件は酷かった。

 僕でも本人だったら絶対にトラウマになってる。


 あれは幼稚園の時だった。

 李奈は同じクラスのイジメられていた子を助けたのが切っ掛けだった。

 それ以来、イジメをする子に目を付けられ、何かに付けて李奈へイタズラをしかけるようになった。


 しかし李奈は大人な態度でそれを()なして、平然として相手を無視し続けた。

 それが余計に相手の復讐心に火を付けたのか、ついにはイタズラの一線を越えた事をしだしたのだ。


 李奈が守ったイジメられていた子がさらわれて、人質にされたのだ。

 そして李奈だけをこっそり、廃止工場へと呼び出した。

 イジメる子が下した命令は、あらゆる虫が生きた状態で引きつめられたドラム缶の中に入れと言う命令だ。

 命令に従わなければ、人質にされた子を入れると脅された。


 李奈は人質を助けようと抵抗するも、敵は多数いて捕まり、無理やりそのドラム缶の中へと入れられて閉じ込められた。


 解放された人質は僕に電話してきて、事態を知った僕とその場に居た両親は、先生や李奈の親に連絡してその場に駆けつけた。

 そして見つけた時の李奈は放心状態で、ドラム缶の中で虫に(まみ)れながら丸まっていた。


 あんなの僕だって嫌だ……。絶対に李奈の様にトラウマになる。


 アレ以来、李奈は虫を見たりするのが嫌いになり、触った時にはパニック状態になる。

 李奈もそんな事があっただなんて、他の人に知られたくないと言っている。


「アレだけパニックになるのなら、過去に余程の酷い事があったのでしょうね」

「あぁ、そうなんだよ……。だから、あんまり李奈に対して虫は遠ざけてほしい」

「わかったでっ! ……え? あー……、そないになるとアレやなぁ」

「どうしたのさ?」

「いやー、アタイの使う1番得意なミックスジュースってな。(はち)なんよ」

「うわっ……。NGですよそれ」

「で、でも、ヒューマン型になるでっ! それでも、ダメなんか?」

「ヒューマン型になった虫タイプに戦った時もダメでした」

「そ、そんなぁ……。コイツとの本気の戦いをするんに、うちの女王蜂が使えへんって……」

「門川さんに、戦いを見せなければいいだけでは?」

「おぉっ! そうや! それやっ! ごめん祐定くんっ! 李奈ちゃんを会場からだしたって! 李奈ちゃんには申し訳ないんやけど、コイツとは本気で戦わなきゃならん。1回戦いを見ていて手加減で勝てる相手やないとわかってるんや」


「そうかぁ。じゃぁ、李奈にそう説明してくる」

「あ、まってやっ! アタイが虫タイプ使うとる知られたら、李奈ちゃんに避けられてまうっ! そんなの嫌やでっ! それも秘密にしながらでお願いするで」

「そんな事はないけど……わかったよ。じゃぁ、何かしら理由を考えて、どっか連れて行くから。まだ1人にするのは心配ですし」

「えぇっ? 祐定くんも行ってまうのか? んー、しゃーないかぁ……」

「しょうがないですね……。門川さんにお大事にとお伝えください」

「うん、わかったよ。それじゃ2人とも、頑張ってくださいっ!」


 そう言って控室を出た。李奈と杏子ちゃんがいる観客席へ向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ