ユカリの書 第2話 オバケ屋敷でのユカリ ― 7 ―
「……昔はいた。今は……もう……」
「え? どうしちゃったのその人……、死んじゃったの」
私の表情を察したのだろう。別れただけと思わずにずばりな事を当てられた。
「……兄さんが中学1年生の時に亡くなった。その彼女も兄さんとは小学校からの付き合いだった。その彼女はある女の先生の秘密を目撃した。それをきっかけに先生に狙われ、そして彼女は暗殺された……」
「そんな……っ!」
「聴いた事あるわね。それって空雲中学?」
「そこだな。それで兄さんは殺される原因となる証拠動画を、彼女から死ぬ直前にメールで送信されていた。彼女が死んだと知ると、兄さんは復讐の為にその先生を半殺しになるまでナイフで至るところを切り刻んだ。それで兄さんは児童福祉施設行き。後の経路は知っているはず」
「そう……、それで涼さんが入ったのね」
「好きな女性を聴いた話だったのに。変な話を持ち込んだ。でも言うなら、今でも兄さんはその彼女の事を思っているくらいに一途な人だ。あの人以外に彼女を造った事はない。2度と造らないとも言っている……。だからお姉様。難しいとは思うけれど、兄さんを変えられるなら変えてほしい」
「ユカリちゃん?」
「私だって兄さんが辛い思いをずっと背負っているのを見ているのは嫌だ。あの日を境に暴力は振わない優しかった兄さんが、今じゃあんな悪人には殺人ですらためらわない無茶苦茶な兄さんになってしまった。年齢的に兄さんとお姉様はアレだけれど、お姉様が兄さんを変えてくれると言うなら、私はお姉様に協力したい」
兄さんはいつか元に戻ってくれると思っていた。
けれどいつまでも事実を引きずっているし、そしてまさか兄さんが国際指名手配犯になるくらいに暴れる人になるとは、当時は思っていなかった。
もう止められないと思っていた。
「……わかったよ! なら私はますます涼さんの為に尽くしたいよっ! 私、ガンバるからねっ! 今度は私が涼さんを助け出してあげるんだからっ!」
そう言ってお姉様が立ち上がって、うっしゃーっと気合を入れている。
私には無理と思っていた事を、お姉様になら兄さんを救えるかもしれない。
私を救ってくれたお姉様。今度は兄さんをお願いします。
ポーンッ♪
その時、持っていたビビリ度感知センサーカウンターからアナウンスが流れる。
『制限時間になりました。出入り口案内表を参考に、出口まで移動してください』
「あっ、終わっちゃった」
「そうね。私も一緒に入ったし、すぐに鳴りそうね」
「えっとー……。ビビらせたのは4ポイント。うー、後1回だったのに。あ、やったっ! ビビったのは4ポイントだよ! こっちは景品貰えるよぉっ♪」
「やったね、お姉様。私は……、アレ? ビビらせたポイントは5ポイントだ。いつ最後の1ポイントが?」
「おぉっ! それだと2つ景品も貰えるねっ♪ やったじゃんっ!」
本当に最後はドコでそんな事があったんだろう?
ちなみにビビったポイントは……18ポイントだった。……ははっ。
「お札の方は2枚かぁ。残念だね」
「そうねぇ。私も持ってるので2枚よ。あげていいのなら渡すけど、後1枚足りないわね」
「お札ってそうそう見つからないと書いてあったし、仕方がない」
私たちは休憩所の居間から出て、点灯している出入り口案内表の明かりを頼りに進んで行く。
「ん? おー、お姉ちゃんっ! 終わっちゃったな」
道行く途中で健と出会った。
「健、そっちはどうだった?」
「へへっ。ぼくのビビらせたポイントは12ポイントだぜっ! どうだっ!」
「ちょっ、どれだけ驚かせてる……」
健はとてもノリノリだったからな……。
「うわぁー、すごいよっ! 私たちは4ポイントと5ポイントだったよぉ」
「じゃぁ、景品は1個貰えるじゃん。よかったな。あー、でもぼくはお札の景品は貰えそうにないぜ。結局4枚しか見つからなかったからな」
「後1枚じゃんっ! おしいね」
「お姉様っ! 健の合わせれば8枚になるっ!」
「あっ!」
「それ本当か? ならお姉ちゃんにやるよ」
「うん、ありがとうっ! これで5枚以上だよっ!」
「いいのかしらね? 他の人のお札も貰って景品と交換するのは?」
「まぁ、聴いてみてダメだったら諦めるしかないな」
私たちは4人で出口へとたどり着いた。
お札の景品のルールを聴いてみると、参加者の仲間内で集めても、他の人から貰っても良いとの事だった。
なのでお札の景品も貰う事が出来た。
お札の景品は、このオバケ屋敷の記念メダルだ。ここの遊園地のマスコットキャラクター『ユートくん』と『ピアちゃん』がオバケの格好をしている絵が裏表で描かれている。
ビビリポイントの方は、どちらも沢山種類のあるおもちゃの景品の中から、好きな物を選んで貰える。
私とお姉様はユートくんとピアちゃんがオバケの格好をしたぬいぐるみを貰い、健はボイスチェンジのおもちゃで、自分の声を怖くするおもちゃを貰った。
出口にあるお土産売り場には、斎藤と昭次お父様が先についていた。
斎藤は狼女の姿をしていて、お父様はフランケンシュタインの格好だった。
2人はどの景品にも達する事ができなかったようで、誰でも貰える記念イラストはがきを貰って来ただけだった。
「いやぁ、難しいですね。相手を驚かすというのは……」
「ははっ、いやー面白かった。ビビらせるより、ビビった回数の方が多かったぞ」
「……この斎藤は本物だな?」
「ん? どうか致しましたか?」
「い、いや……、なんでもない……」
「……? あ、みんな集まったことですし、記念撮影に行きましょう」
ここでは自分たちの姿を記念撮影できる場所がある。
みんな集まって最後は撮ろうと言っていたので、私たちはその場所へ向かった。
「では、みなさん。レンズの方を向いてください」
撮影場所もやっぱりホラーな感じにおどろおどろしくセッティングされた舞台だった。
そこに6人並んで記念撮影をした。
私たちが写った写真には、このオバケ屋敷の外装がフレーム状になって入っている状態で渡される。
「楽しかったねぇ♪」
「ホント、有名になるだけあって面白かったぜっ!」
「人気が高いだけありますね。あのリアリティあるフィールドは中々体験できませんよ」
私も散々な目にあったが、まぁ……、よかった。
お姉様の兄さんに対しての気持ちの強さも判った。これから色々とあるだろうが、私が2人の仲の助けになろう。
それとお姉様を追いかけていた時、無我夢中になって恐怖を忘れていた。
私にも守りたい者の為に、恐怖に打ち勝つ勇気を奮い立たせる事が出来る。
それが分かっただけでも、これから何かあろうとくじけずにやっていけそうだ。
みんなはメタモルフォーゼの効果時間切れになる前に変身解除薬を飲んで元の姿に戻った。
そして出来あがった写真を受け取った。
「アレ? このユカリちゃんの肩に置かれている手って誰の?」
「えっ? お姉様じゃ……」
私は自分で買った写真を見る。
確かに私の肩に手がある。私は後ろにいるお姉様に掴まれていたとばかり思っていたヤツだ。
「えっと。私の手はこれとこれ。嵐はこれとこれ……」
そう言って私の近くに居る人の手のありかを確認していく。
お姉様の手は私の髪の毛を両方で掴んで、ツインテールにして遊んでいる状態だった。
斎藤は狼女だからか、がおーっと構えを両手でとっているし。
「これ、誰の手?」
ひぃいいいいいいーーーーーっ!!? 心霊写真かこれっ!?
「お、お払いしなきゃっ!? あぁ、塩っ! ここに清めの塩とか売ってないかっ! 私にふりまいてくれっ!」
「あははーっ! ユカリ姉ちゃん引っ掛かったぜっ! それ、ぼくの手だから。ゾンビだから体をぶっちぎっても問題ないんだぜ」
「また健かっ!」
「すぐバレると思ったけど成功したな」
「健……。私との修行をよりハードにする。覚悟しておけ」
「げっ!? い、いや、ご、ごめんなさいっ! お願いだから手加減してくださいっ!」
「許さない」
私はプイっと健にそっぽを向く。
「そろそろお昼を取りに行こうか。これくらいならゆっくり食べて居られるな」
お父様の声に、私たちは集まる。
そして私たちはレストランに行って食事を済まして、コンサート会場へ向かうのだった。