ユカリの書 第2話 オバケ屋敷でのユカリ ― 4 ―
「それじゃ、外に出ようか。月明かりで全体がちゃんと見えてたし」
っと言う事で外に出る為に、私たちはまず1階まで下りる事になった。
今居る場所は階段の標識で2階にいる事がわかった。
「あっ、ちょっと待って……」
「まままた、何か居たのっ!?」
お姉様は階段に転がっていたカルテを見つけた。
それを拾い上げて中身を見ると、お札が入っていた。
「やった♪ 2枚目だよぉ」
「よくそんなところにあると気が付くな……」
「えへへー、勘がいいんだよねぇ」
さて、お札があるとすれば、近くにオバケ役のスタッフが居るかもしれない。気を引き締めなければ。
「あ、階段の下に誰かいるね」
お姉様の勘のお陰でこちらがいち早く相手を察知できた。
相手はまだこちらに気が付いておらず、私たちの方へ登って来ている最中だった。
「ユカリちゃんっ! 私の事をちゃんと掴んでねっ!」
そう言うとお姉様が、階段下へ向かってジャンプして飛びこんだっ!
「えぇっ!? お姉様っ!?」
「ひゃーーーーひゃひゃひゃひゃひゃっ!!」
「きゃあーーーーっ!?」
長い髪の毛がぼさぁっと宙を舞う女が、上から振ってきたらそりゃ怖いだろうに。
このままではお姉様は落下して怪我をする。掴んでと言っていたのはつまりそれを防いでってことか。
なら、この髪長女の能力を使うって事だな。
私は髪をお姉様の方に急いで伸ばした。
漆黒の髪はお姉様の体にまとわりつく。私は力いっぱい踏ん張ってこちらに巻き戻していく。
「ひょーーーーーひょひょひょひょひょっ!!」
「な、なんですのっ!?」
お姉様は落下する事なく、無事に私の元に戻ってきた。
アドリブとはいえ、唐突な考えで飛びこんだものだ。
私がお姉様の考えを読む事が出来なければ、今頃お姉様は落下死してる。戦闘用と違って防御力が無いメタモルフォーゼなのだから、人間並みでしかないのだし。
お姉様は私を信じて飛んだのか、そうは思わず突然飛び込んだのかどっちやら……。
「やったねっ! ユカリちゃんっ!」
「もう……。危ない事はしないで」
「ユカリちゃんだったら、ちゃんと掴んでくれるって思ったもん」
信用してくれたってことか。お姉様の期待を裏切らないでよかった……。
「ア、アナタたちですか? はぁ……、また奇抜な方法をする方がいらしたものですね。やってくれましたわね」
私たちが驚かした相手が階段を上って、私たちの目の前にやってきた。
金髪の八重歯がとがったヴァンパイアの姿をした私と同じ歳くらいの女の子だった。
「ごめんね。怖かった?」
「そりゃもう驚かされましたわ。あんな迫り方されるとは、思っていませんでした。お見事でしたわ」
その女子がニッコリと笑う。
が、その瞬間。女子の両目が上下に分かれて向いて、ガクガクと体を狂わせ始めた。
「なっ!? なにっ!?」
「ぐるぶばえあっ!?」
その瞬間、女子の目や口、耳、体の至るところから植物のツルの様なものが勢いよく飛び出してきたっ!
「ひあぁぅああーーーーーっ!!?」
「うわっ! パラサイトプラントだっ!」
パ、パラサイトプラントッ!
あぁっ! ミックスジュースの中でも異質な物の1つで、相手の体内に入り込んで、その力を吸収して弱らせると言う奇怪なミックスジュースの1つだ。
「ぶげばっ!?」
全てを吐きだした女の子は、体の至るところから血を噴き出して倒れてしまう。
飛びだした植物のツルは人の形となって集まっていき、成人女性の姿となった。
「さぁ、次はぁだれが~、よりしろにぃされたい~? ふ、ふふふひひぃひぃひぃひぃっ!」
しゃべり方がおかしいっ!
「ちょっと、その女の子大丈夫なのっ!?」
「えぇ、まぁ……。少々きついですが、大丈夫ですわ」
倒れた女子は何事も無かったかのように立ち上がりそう言った。
背にしているマントを自分に被せて一瞬でマントを取ると、くり抜かれた目も体も元の状態に戻っていた。
「ヴァンパイア特殊能力、超再生能力ですわ」
「シアちゃん、大丈夫だった?」
「えぇ、大丈夫よ。けれどやはり少々ダメージがすごいですわねこれ。恐怖演出としてはバッチリなのだけれど」
女の子は自分が持っているカウンターを見た。
「ふふっ、2人分頂きましたわよ」
「え? あーっ! 私もビックリしちゃったかぁー。でもしかたないよ。名演技だったもん」
「ありがとうございます。昨日、努力して練習したかいがありましたわ。これでお相子ですわね。そちらの方も面白かったですわ。ありがとうございました」
「ありがとうございました」
「こちらこそっ! プロ顔負けの名演技だったよっ! ありがとうございましたぁ」
「あ、ありがとうございました……」
「それじゃ、もう1度入ってください。次の方も同じように驚かせますわよ」
「あんまり無理ぃしないでね。シアちゃん……」
そう言ってヴァンパイア女の子の中に、ツル状となってぎゅるぎゅると口から入っていくパラサイトプラントの女性。入っていくのを見るだけでもグロティスクなんだが……。
「うっぷっ……。それでは、失礼たしますね」
そう言ってヴァンパイア女の子は、顔を白く……、元々白いがそんな感じになって上階へ上がって行った。
「すごいねぇ。とても気合が入ってる一般客の人もいるんだね」
「正直、心臓が足りない……」
ここの自販機のミックスジュースを買ってそれで化ける事もできるのだが、自分で造ってきたり、外で買ってきた物を使っても構わないところだ。
なので本気の人たちは、すごい物を持ってきてる人がいる。
あのパラサイトプラントは自販機にはなかった。一般にも売られてる事も稀な物なので、造ってきた物だろう。ヴァンパイアは普通にここに売られていたが、アレだけの再生能力があると、オリジナルミックスジュースを造ってきたに違いない。
『きゃあああああーーーーーっ!?』
さっきの女の子の叫び声が上から響いてきた。
ホント、ドコで驚かされるかわかったものじゃないな……。
そしてその女の子はまたあの演技をするのだろう……。アレはビビる。
「んー、いい悲鳴上げてるねぇ。まさにオバケ屋敷だよぉ」
はぁ……。っと、私は持っているカウンターを確認する。
ビビらせた方は4ポイント。ビビった方は12ポイント。……もう、なんでもいいや。
「4ポイントになっている。さっき中に居たパラサイトプラントの人の分も含まれてるっぽい」
「そうなんだ。じゃぁ後1人驚かせれば景品ゲットだねっ! ガンバろうっ!」
もうここまで来たのなら、驚かせたいな。これだけガンバったのだから。




