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薄暗い部屋。
夏の熱気が渦巻く。
多忙を恃みに掃除はおざなりで、通販の見慣れた段ボールが部屋の片隅に幾つもの塔を形成している。
静寂。
静止。
或いは、無。
ぼくがこの部屋に居ない時、その空間は積極的な意味を持たない。
ただ、ぼくの残骸もしくは残滓が沈殿しているだけの無機的な場所だ。
その空間に、意味をもたらすキーワード。
この空間が、確かにぼくにとって意味があると再認識するための儀式。
ぼくは、暗闇に向かって、言葉を置く。
「──ただいま。」
返答は無い。
当然だ。
誰も居ない筈の部屋で暗がりの向こうから応答があれば、それはもう充分なホラーか愚にもつかない事件だ。
けれど、ぼくは、今日も唱える。
今は、暗闇に空虚に溶けて行くだけだけれども。
いつの日か、その言葉に、意味を載せられる時の為に。
待つ人に、笑顔をあげられるように。
──だからぼくは、「ただいま」を言う練習をする。
「お帰り」って笑ってくれる人が、現れてくれた時のために。
「・・・阿部さん全力でキモいです。」
「台無しか!!」




