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短編

保護対象の恋。

作者: 天羽つゆり

短編書いてしまった…けど連載じゃないもんね!


この国は先代の時代に残された遺物が多く残っている。

たとえば多く抱えていた魔術師たちが残した召喚陣だ。

それの誤作動により一か月前に日本とかいうところから一人の黒髪の少女が召喚された。


もう戻るすべがないと泣き暮らす彼女に王家や周囲の者たちは同情し、彼女に保護対象Aを与えた。


それが私にとっての地獄の始まりだった。


彼女を同情する奴らのせいで彼女の護衛が騎士団長、カイエン様が抜擢されたのだ。


これはゆゆしき事態と言っていい。


保護対象Aであれば王城の一室を与えられ、恩恵を与えられ続ける上にいつも護衛であるカイエン様が付いているのだ。

この数日あるルートから手に入れた話によるとやはり彼女はカイエン様に恋に落ちたとある。

優しいカイエン様といればわからないでもないが、彼女にとられてなるものか!


元の世界に帰れない?

家族や友達に会えない?

それがどうしたというのだ。


この世界にそんな人はたくさんいる。

知らずに強くかみしめていた唇から血の味がした。


侍女があわてて私の唇にハンカチを当てるが窓から見える庭でほほを赤らめながらカイエン様と散歩している彼女を見ると苛立ち感が募ってくる。


私にとってカイエン様は特別な方だ。

私なんかを妹のように思われているカイエン様が、ちょくちょくと私の部屋に会いに来てくれることもここ最近彼女のせいで減った。


カイエン様が訪れないこの部屋はとても色あせてしまう。


彼女のせいだとわかっていても私では、彼女を害することなどできはしない。

だからもっと簡単な方法に出ることにした。

自分を使えばいい。


私はおもむろに窓を開けるとその窓枠に足をかけた。

そう長くない鎖がジャラリと音を鳴らし、私の行動に気が付いた侍女があわてて走り寄ってくるがもう遅い。

少しだけ近くなったまぶしい空を見上げてから視線を下におろした。


「カイエンさま―――!」


大きく手を振りながらその名を呼ぶとこちらを見て、驚き目を見開いているカイエン様の姿が見えた。

ほらもうカイエン様の視線は私に向いている。

それだけで私の心は満たされるのだ。


カイエン様は必死に戻れと私に叫んでいる。

後ろでは侍女が金切り声で兵士を呼んでいるようだ。

この高揚感は久しぶりだ。

今ならほらあなたのところまで下りていけるような気がする。


どうせ帰れないし、自由もないのならどうかカイエン様くらいくれたっていいんじゃない?


先代の時代、乱獲された種族ハミュシェルのただ一人の生き残り。

空に愛され空に生きて死ぬハミュシェルは地上に落とされた。


隷属の印を押され豪奢な部屋から一歩出ればその命を落とすようにと自由を奪われ、呪われた。

保護対象特S、未だに外す術のない鎖につながられながらミレーネは今日も豪奢な牢獄の中でカイエンを想う。


カイエンside


小さい少女は必死に空に手を伸ばしている姿は見るに堪えなかった…


楽しそうに庭に散歩する少女の後ろをついている俺は、最近会いに行けていないミレーネのことを思った。

保護対象特Sのミレーネはすべての自由を奪われた少女だ。

空に生きるハミュシェルは乱獲された当初彼らは空から落とされたとき自害を選び死んでいった。


しかし、幼かったミレーネは自害する前に隷属の印を押され、死ぬことを許されなくなった。

それだけではない豪奢な部屋に住むことになった彼女はそこが一生の住処となったのだ。

空こそが唯一の生き場だというのに…


逃げることなどできないはずなのに魔術師たちに部屋から出ると命を落とし、そして部屋の中だけは自由に動けるように調節させた決して外れることのない鎖を足にはめられてしまったのだ。


先代はクーデターにより亡くなったがミレーネは残された。

今は騎士団長の位を戴いてはいるがあのころ一介の騎士としてミレーネのために何もできなかったことを悔いている俺は、時折彼女のもとに会いに行く。


空に帰れない彼女が悲しんでいないか?

自由も命も思う通りできない彼女が心を殺してしまわないように…


おいしいお菓子や面白い本、花。


そんなもの王家からももらっているだろうに、そんなありきたりの物でもいいから彼女に会いに行く機会が欲しかった。


なのに今、久方ぶりに見たミレーネは窓枠に足をかけ俺に手を振っている。

わかっている。

彼女の鎖では窓の外までは出れないことは…けどなぜだろう?


答えが出る前に俺は走り出していた。


晴れやかに笑う彼女は今にでも飛んでしまいそうで、怖くなった。

俺の頭にはもう異世界から来た少女のことなど片隅にもなかった。


まぁ、しょうがない保護対象特Sのミレーネの方が大事だ。


あの日空を恋うて泣く少女が帰れないことを知った日、俺の心は喜びにあふれた。

それは誰にも知られてない俺の秘密。


金切声の聞こえる部屋に近づきながら、俺は急いで窓ははめ込みにしないといけないと考えながらミレーネのもとに急いだ。


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