~蒼遼伝2~
涼州に来てから六年の月日が経とうとしていた。蒼遼は武芸を馬超から、兵法などの知識を涼州の名士で韓遂の武将・成公英から学んでいた。
また、李恢という学友ができた。李恢は字を徳昂と言い益州の出身であるが、今は涼州の成公英に学びに来ていた。
蒼遼は今日もいつもと変わらず、成公英の邸に住み込みで李恢と共に勉学に励んでいた。その時、部屋の外から蒼遼を呼ぶ声が聴こえた。蒼遼が振り返ると、そこにはこの邸の主・成公英が立っていた。
「先生、なにか御用でしょうか?」
「先ほど龐悳殿が来た。馬騰様が士叡を呼んでいると。」
「馬騰様が私を?わかりました、すぐに向かうことにします。」
「うむ、それが良かろう。」
そう言うと、成公英は自らの部屋に戻って行った。
「遂に、士叡にもお声が掛かったか。」
一連の話を聞いていた李恢が口を開いた。
蒼遼は身の回りの整理や準備をしながら言った。
「馬超殿の側仕えとして羌族との戦いに従軍はしていたが、馬騰様直々は初めてだ。」
「これが、士叡にとって転気になるかもしれない。心した方が良いぞ。」
「そうだな。徳昂の助言、胸に刻んでおこう。では、行ってくる。」
蒼遼は、自らの馬に騎乗すると馬騰の居城向かって駆けて行った。
蒼遼が居城に着くと、そこには馬超がいた。
「来たか、士叡。父上が待っている、早速行こう。」
二人が中に入ると、すでに馬超の従弟の馬岱や武将の龐悳の姿があった。馬騰は部屋の奥の椅子に座っていた。
馬騰は二人が来たのを確認すると、椅子から立ち上がった。
「来たか。曹操殿からの援軍要請だ。」
そういうと、一本の竹簡を馬超に手渡した。
「お前たちはこれから幷州に向かい、壺関にいる高幹を討伐しに行ってもらう。孟起、お前には中央から司州の督軍従事の任命書も届いている。馬岱と龐徳も共に従軍させる故、涼州武人として恥じぬ武功を立てて来い。」
「はっ、ご期待に添えるよう奮闘して参ります。」
馬超は軽く会釈をした。
馬騰は次に蒼遼の方を見た。
「蒼遼、お前の事は孟起や韓遂殿から聞いている。羌族との戦いでは、相手を知略によって翻弄したらしいな。お前のような武将は涼州では得難い存在だ。」
「はっ、お褒めいただき光栄にございます。」
蒼遼は深く頭を下げた。
「その知略、中原の奴らにも通じるものかお前自身で試してこい。存分に見せつけてやるがよい。」
「承知いたしました。必ずや勝利に導いて見せます。」
馬騰は頷くと、四人全員を見た。
「馬超・馬岱・龐悳・蒼遼、お前たち四人の武運を祈る。」
「はっ!」
四人はそれぞれ、馬騰の居城を出た。
馬超のところで次の戦の編成などを聞いたあと館に戻ると、成公英が待っていたかのように出てきた。
「おぉ、士叡。韓遂様から話を聞いたぞ。馬超殿らと共に援軍として派遣されると。」
「はい、またとない機会をいただきました。」
「そのことで、韓遂様がお呼びだ。お前に用があると言っていた。」
「わかりました、すぐに向かいます。」
韓遂の館の入り口にたどり着くと、蒼遼は中に向かって声をかけた。
「韓遂様、お待たせいたしました。」
しばらくすると、中から韓遂が出てきた。後ろには一人の女性の姿もあった。
「待っていたぞ、蒼遼。お前に一つ、頼みがある。わしの娘をお主の部隊に従軍させてほしい。」
蒼遼は驚いた。
「韓遂殿の御息女を、ですか。」
「そうだ、わしの娘は武芸に長じているのだが、お陰で戦場に出たいと言って聞かぬ。そこで今回、お前の側仕えとして生の戦場を経験させようと思ってな。おい玲、挨拶をせよ。」
すると、韓遂の後ろにいた女性が進み出た。
「お初にお目にかかります、韓玲と申します。この度は、蒼遼様の下で一緒に従軍させていただきます。よろしくお願いします。」
韓玲は蒼遼に向かって礼をした。
「しかし、よろしいのですか?大切な御息女を…。それに側仕えとして従軍させるなら私より馬超殿たちの様な歴戦の将の方が安全なのでは…。」
蒼遼が不安そうな顔で尋ねた。
「何、馬超からお前の話を聞いたうえで判断しているからな、心配はしておらぬ。この頼み受けてくれるか?」
蒼遼はしばらく思案したあと答えた。
「わかりました、仰せに従いましょう。」
「うむ、すまぬな。馬超に話を通しておく故、よろしく頼むぞ。」
蒼遼は一礼すると、館を後にした。
翌日、蒼遼は白馬を曳いて成公英邸の門前に向かっていた。その出で立ちは、青色の軽鎧の上に白い戦鉋を身にまとい、背中には槍を携えていた。門前には学問の師である成公英がいた。
「士叡、今まで学んできたことを実践で試す良い機会だ。存分にその知勇を振ってこい。」
「はっ、必ず武勲を立てて参ります。」
成公英の言葉に対し蒼遼は供手して答えると、馬を前に進ませた。
暫く進むと途中の道に李恢がいた。李恢は蒼遼の姿を一通り見た。
「士叡、お前の武者姿は初めて見るが、様になってるじゃないか。」
「嬉しいことを言ってくれるな。徳昂、俺は必ず戦功を立て、無事に戻ってくる。」
「あぁ行ってこい、士叡。吉報を待ってるぞ。」
李恢は蒼遼に向かって手を挙げた。蒼遼もそれに応えて手を挙げ、馬腹を蹴って駆けだした。
李恢はその姿を見えなくなるまで見送っていた。
2話目を更新しました。
この回から、登場人物が大幅に増えます(^^;)
オリジナル人物以外は、多少の脚色があれど実在の人物なので、気になった人がいれば調べていただければと思います。