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幕末奇譚 『志士 狂桜の宴』  作者: 夏月左桜
奇譚二十一幕 鹿死誰手
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其之三 因果の理

 薩長が武力行使を断行し、幕府がそれに屈した形での政権返上は阻止したい。それが今の龍馬の考えだ。これが叶わなければ、大久保や桂が幕臣だけでなく、将軍徳川慶喜を政界から締め出すのは必至。そうなれば言わずとも不満が幕臣だけでなく、幕府に組した雄藩からも立ち上ってくるだろう。その結果、日本中で戦火が上がるのも予測がつく。幕府の決定で政権を返上した事実を作れば、如何に薩長芸と言えども無理強いはできず、穏便に新政府樹立を進め、新しい時代の政が行なえると堅く信じていた。

 問題は、要となるであろう大久保と桂をどう説得するかである。厄介な事に、桂の後ろには、長州側として政に関わっている武市の存在と、薩摩と芸州の間を走り、倒幕派の公家らとの折衝も重ねて来た中岡が居る。両者とも武力倒幕なくして、新政府を造り上げる事は出来ないと考えている。

 この四人を話し合いでもって、簡単に意見を覆せる相手ではない事は、龍馬も重々承知している。

「まっこと難題じゃき」

「なんだい、この世の終りみてぇな面して」

 軽快な声が背中に届くと、龍馬は後ろについた両手に身を預けて首だけを背後へ回した。

「頭が回り、頑固なもんを相手にするがは至難の業だと思おった」

「そりゃあそうだな」

 縁側に座りこんで居る龍馬の横へ腰を落とした勝は、手にしていた煙管を銜え、一口煙を吸い込んでから、白い煙を静かに吹き出した。

「自分が抱いた志を貫いて、この国を良くしようと頑張ってるんだ。おまえさんの頭で考える事よりも多くの事を考えていなさる相手なんだ。太刀打ちできねぇって事もあるさ」

「ほがな事は百も承知しちゅうが。やきとゆうて、わしはこのまま暢気に座っちゅう事はしたくないんぜよ」

「ありまえだ。匙を投げるってゆうんなら、おいらはてめぇを斬るだろうよ」

「先生に斬られるなら本望やけど、はいどうぞとは言えやーせんね」

 だったらもっともがいてみろと勝は笑う。

「あの男はどうするんだろうねぇ」

「あの男? ああ、修吾郎なが?」

 幕臣の伊庭八郎に預けられ、そのまま新撰組に戻ったと聞いた龍馬は、薩摩藩邸を出てからの経緯(いきさつ)を聞いて驚いたものだ。

「隻腕となってまで、戻りたいと思える場所とは思えなかったが、それがあの男の信念と言うならおいらに止める義理はねぇさ」

 龍馬の顔に影が落ちる。

「みな、それぞれ志ってもんを持ってる。それを簡単に覆す様じゃ、男は言えねぇ」

「けんど・・・」

 幕府が政権を返上すれば、西国諸藩と朝廷が中心となる新しい政権の土台が出来上がるだろう。これまで倒幕派を捕縛し、幕府の敵と刀を振るってきた新撰組が、その新しい時代の中に生き残る道を見出せるとは考えられない。それは勝も十分承知しているはずなのに、戻る許可を与えた真意が龍馬には判らなかった。

「ちょいと会わせてぇ方が居るんだが、おいらにつきあってくれねぇかい?」

「断わる道理はないがでよ。で、誰に会わせてくれるんなが」

「なに、着いてくりゃ判る」

 勝に促され、大きな吐息をついてから重い腰を上げ、龍馬は前を行く小さな背中を追いかけた。



 七月七日。西郷から、薩土盟約の事情を記した書簡を持ち山口を訪れていた中岡は、長州に戻っていた品川弥二郎と世良修蔵を伴って京へと戻って来ていた。

 世良は、第二次長州征伐では大島口にて武勲を挙げた大野修蔵である。十七歳で明倫館に入った世良は、庄屋中司家の出身で周防国阿月領主、浦靱負が開いた私塾、克己堂の兵学等の講師として仕え士分を得る。その浦家から世良を賜り、名を改名している。

「中岡くんはこれからどうする?」

 二人を三条にある旅籠屋の一つに案内した中岡は、品川に陸援隊の仕事が山積みで、そちらも片付けなければならないからと、疲れた顔に笑顔を浮かべて答えた。

「屯所を白河に構える予定なんです。隊士の宿所やらなんやらと、雑務が多くて」

「そんなもん、他の奴に任せとけばええやないか」

 酒をあおり始めていた世良が、ぐい飲みを中岡へと突き出しながらそう言った。

「そうは行きません。屯所となると色々と手続きもありますし、手抜きなんかしたら、乾さんにどんな意地悪をされるか判ったもんじゃないんですから」

「その乾殿は、土佐藩のお偉いさんだったな。信用はできるのか?」

 品川は、目を細めた真剣な眼差しで中岡に顔を突き出す。

「できなきゃ、あの大久保さんが会うもんですか」

 ふむ、と腕を組む。

「とにかく、お二方の入京は薩摩へ伝えてきます」

「頼む」

「向こうから連絡があると思うんで、それまでは出歩かないようお願いします。長州贔屓が多い京とは言っても、現実には朝敵のままなんですから」

「心得ている」

 旅籠屋を出た中岡は、のんびりとした町の風景に頬を緩ませた。

 目まぐるしく動き始めた事態に、振り回されているような、落ち着かない気分が続いている。それを苦とは思わないが、居心地のいいものではない。

「お佳代さん、元気かなあ」

 藩主山内容堂が上洛前、お佳代は奉公の期限を終えて実家に戻っていた。どこの屋敷なのかは、乾から聞いて知ってはいたが、会いに行こうとした事は一度もなかった。

「いかんいかん」

 すべてが済むまでは。と、中岡は思う。全てが終ったからと言っても、何かしらの約束を交わしたわけではない。お佳代が嫁がず、家に居るという保証はないのだが、それでもその時までは会いに行くまいと心に決めていた。会いに行けた時、お佳代がまだ嫁がずに居たのなら言う言葉は決めている。

「それまでの我慢我慢」

 歩みの遅くなった足を急いで進め、薩摩藩邸へと急いだ。



 四六時中、武市の監視下に置かれ、大久保からも度々呼び出されては、茶の相手をさせられる毎日に辟易しながらも、和奈は自分の置かれた状況を改めて思い起こす時間を得れた事で、退屈を感じて外へ出ようという気が殺がれていた。

 が、しかし、

「息が詰まる・・・」

 本音がポロリと口を付いて出てしまい、の慌てて口を押さえても後の祭りだ。背後に座る武市の耳にもちゃんと届いてたらしく、背中に突き刺さる武市の視線を感じ、ちらりと顔を動かす。

「身から出た錆と思え」

「うっ・・・」

 否定する言葉など思いつかず、そそくさと眼を庭へと泳がす。

「桂木さん」

 思いついたように和奈の体が武市へ向けられた。

「外出はさせてやれんぞ」

「違いますよ・・・長州へ、戻った方が良くないですか?」

 心ここに在らずといった表情の和奈を見据え、武市は手にしていた本を閉じた。

「里心でもついたか?」

「いえ・・・その、桂さんが、心配で・・・その」

 四夷国艦隊との戦争後、長州へ初めては行った日に出迎えてくれた桂の顔を、今でも鮮明に思い出せる。愚痴は、クセになっている様だが、辛いとは一言も口にしない。駄目だと匙を投げる事もない。独りになり、頼る者がいなくなってしまった桂を、だから高杉は心配したのだ。

「高杉さんから、桂さんを頼むと言われたんです。なのに、私は力になるどころか、心配の種ばかり作ってる」

「それが判っているなら、もっと自重しろと言いたいところだが、今更か」

 藩邸の一室に軟禁状態になっている和奈は、吉田稔麿かと思う言動もここ数日は一切出ておらず、出会った頃となんら変わりはないように見えるが、武市の中にできた不安は消える事なくずっと心の隅で燻ぶり続けている。

「政ともなれば、おまえはまた何かしら事を起こすかも知れん」

 もしそれが、この時代に来た理由だとしたら、自分は止めるべきなのか、止めずにおくべきなのかも悩みの種の一つとなってしまっている。

「戻してやりたくとも、まだ京から出れん。新撰組の警戒も日に日に厳しくなっていると、大久保さんからも聞いているのでな」

 新撰組。

 赤井の顔が浮かび上がり、自分の手でその腕を切り落とした光景に目を閉じる。

「赤井くん、どうしてるんだろう」

 ぼぅっとした横顔に、武市はため息を漏らした。

「新兵衛殿が調べてくれた。隻腕で四番隊組長の任を続けているそうだ」

「田中さんがわざわざ?」

「この大切な時期に新撰組などに感けている暇はないが、幕臣となった奴らは、市中警備に就く傍ら、会津などの佐幕雄藩との交流を深めているらしい。大久保さんにとって新撰組より、そちらの方が心配するところなのだろう」

 佐幕派雄藩も、幕府が政権を返上すれば、大半が薩長に着くことは予想できる。会津藩が抱える新撰組がどうなってしまうのか、歴史を知らない和奈でも、その立場が危険なものになる事くらい想像がついた。

「新撰組は、どうなるんですか?」

 その問いに答えようとした武市は、気配に気付いて姿勢を正し、手にしていた本を脇に置いた。

「騒がしい男が来たようだ。この話しはこれまでに」

 廊下から気配を感じた和奈も、文机に背を向け障子へと体を動かした。

「失礼致します」

 障子を開けて顔を覗かせたのは中岡だった。

「騒がしいって・・・龍馬さんかと思いましたよ」

「えっ? 俺、騒がしい?」

「龍馬もおまえも似たり寄ったりだろう」

「そんなぁ・・・」

「で、何用だ?」

 しゅん、と肩を落としたまま、中岡は品川と世良の入京を伝えた。

「大久保さんにもその旨ご報告致します」

「で、土佐藩の動きは?」

 武市が今一番知りたいのは、容堂の動きだ。薩長芸と足並みを揃えたいと考えて居るのは家臣のみで、肝心の親玉の意向は入っていない。

「後藤さんが掛け合っています。薩摩との密約についても、大殿のご理解を頂けるよう尽力致すと、乾さんからの言伝です」

「龍馬は?」

「その・・・それが厄介なことに」

 武市ににじり寄った中岡は、耳元で小さく勝に会いに行ったと囁いた。

「あの阿呆が!」

 ピリピリしているのは何も自分たちだけではない。薩長より寧ろ芸州の方が緊張の度合いを深めている時期だ。そこに、建白を連盟でなしたいという土佐の者が、幕臣に謁見していると露見すれば、後藤や乾の努力が水の泡と化す危険性がある。

「なぜ首根っこを捕まえておかん!」

「長からもどったばかりなんですってば。龍馬さんときたら藩邸にも寄り付かず、旅籠屋を点々と回ってたみたいです。今は近江屋に居座ってるって話しだったんですが、行って見たら姿はどっこにもなく。女将に聞いたら、二本差しの侍が龍馬さんを迎えに来たって。風貌からすぐに勝殿と判りましたよ」

「勝殿は・・・我々の動向をすでに知っているのか」

「それは判りません。龍馬さんが喋らないとも言い切れませんから、大久保さんには伝えておくべきかと」

「・・・致し方あるまいな。品川くんらの来訪を報せるついでに話してこい」

「はっ」

 中岡が部屋を出て行った後、和奈が武市の側へと座り込んだ。

「なんだ」

 言葉に棘があるのを知りつつも、和奈は外出の許可を求めた。

「おまえが出てなんになる。余計な騒ぎを起こされては、ますますややこしくなる」

「自重します。でも、行かせて下さい。私、赤井くんに会っておかなくちゃいけないんです」

「・・・」

 許可できるものではない。和奈自身も、新撰組が捕縛する手配者の一人に加わってしまっているのだ。龍馬が京をうろつきまわって居るのは、すでに新撰組にも伝わっているだろう。人員増加と警戒が厳しくなった町に、のこのこ出してやる事は無い。

「ばれない手段がありますから、大丈夫です」

「おまえ・・・」

 それでも許可など出せるはずもない。赤井に会けば、近藤勇と会う可能性は否定できない。大政奉還にと動く薩長芸が京に集っているこの時期に、余計な火種を作るわけには行かなかった。

 許可を貰えなかった和奈は、それ以上の無理強いを止めた。赤井に会いたいのは私事だ。歴史を知らなくても、大久保や桂と言った人物の周りに居れば、おのずと事態が飲み込めてくる。

「すみません」

 一番に困らせている相手は武市だ。これまで幾度となく迷惑を掛けてきた。それでも武市は自分の側を離れず、今もこうして座っていてくれる。

「俺としては、一刻も早く長州へ戻り、おまえの花嫁衣裳を見たいのだがな」

「えっ・・・と・・・」

 武市に求婚されていたのをすっかり忘れていた和奈は、熱くなった顔を見られまいと、真っ直ぐに向けられる目を避けるように顔を背けた。

「さあ、夜も更けてきた。そろそろ寝るといい」

 立ち上がり、左手の襖に手を掛けた武市は、振り返ると、

「くれぐれも抜け出そうなどとは考えてくれるな」

 そう念を押してから、静かに襖を閉めた。

 素直に布団を広げ寝着を被った和奈の意識は、すぐ現実から夢の中へと堕ちて行った。


 白くぼんやりとした空間が目の前に浮んでいる。

 以前、どこがて見た光景だ。

(ああ・・・縁側にお父さんが座ってる)

 だがすぐに、それが父の影ではないと気付く。

(誰だろう)

 すごく懐かしい気配だ。自分はその人を良く知っている。

 影が動き、顔が和奈の方へと向けられる。

「先生!」

 明るい太陽の日差しを受け、縁側で書を読んでいる人物こそ、吉田松陰その人だった。

 部屋の一室、二畳ほどばかりの部屋が、自宅禁固を申し付けられた松陰の座敷牢となっている。

「皆も来ている。さあ、君もこちらへ来なさい」

 松陰が庭に顔を戻したので、和奈もその後を追うように顔を動かす。そこには山縣狂介と入江九一が立っていた。

「この絵はどう言う意味があるんじゃろか?」

 山縣が手にしていた紙をばっと広げ、和奈に突き出した。

「ああ、それか」

 くすくすと笑い漏らし、山縣の手から紙を奪い取ると、松陰の座る縁側に広げて置いた。

「裃を付けて端然と座っている坊主は久坂じゃ。久坂は医者の倅じゃけど、廟堂に座らせておくと堂々たる政治家じゃ。鼻ぐりのない暴れ牛はなあ、高杉じゃ。高杉は中々駕御できん人物じゃろう? ほいでこの木刀は入江のことじゃ。入江は偉いが、まだ刀までとはいかない木刀なんじゃ」

「ほおぅ。じゃ、この隅の棒きれは誰なんじゃ?」

 だが和奈はすぐに答えなかった。

「なんで黙るんじゃろか」

「これは、お前のことじゃ」

「わしが棒っきれ・・・」

「どうじゃろー、先生!」

 そう振り返った先に、松陰の姿は無かった。

「先生!?」

 慌てて後ろを見るが、入江も山縣の姿も消えていた。

「どうして・・・わしだけ、いつもわしだけ独りなんじゃ」

 安政五年。松陰に下獄の命が下され、稔麿は家族や親族を守るために師である松陰の元を一旦離れることにした。井伊直弼が大老に就任し、時は公武合体へと流れ始めていた頃である。幕府の取締りが厳しくなり、萩に居る松陰にまでその魔の手が伸びてきた。

「なんで先生の側におらんかった」

 懐かしい声には、どこか非難めいた色が伺える。

「居たかったさ。江戸や京に出て、久坂たちと共に動きたかったさ。じゃけど、わしにはできんかった。母上を泣かせることはできんかった」

「先生は言われた。実甫(久坂)の才は縦横無尽なり。暢夫(高杉)は陽頑、無逸(吉田)は陰頑にして皆人の駕馭を受けざる高等の人物なり常にこの三人を推すべし、と。そのおまえが、なぜ先生を見捨てた」

「見捨ててなんかおらん! そう言うおまえも、野山獄におる先生から遠ざかったじゃないか!」

「阿呆が。周布さんも、俺も久坂も、小五郎もみんな先生の身を案じたんだ。井伊が尊攘派の弾圧に動き出し、先生も目をつけられていた。そんな時に動かれてみろ。むざむざ先生を幕府の手に渡すようなものだろうが」

「だが、先生は!」

 雨の降る中、松陰は江戸に護送されて行った。その前日に、こっそりと自分を訪ねて来た松陰。それが今生の別れとなった悔しさは今でもはっきりとこの胸に痛みとして残っている。

「高杉、俺は-」

「先生と同じく、この長州を、この国を憂い、自己を殺して政に身を投じる小五郎を頼むと託したのは、稔麿、おまえじゃない」

「っ!」

「なんの因果だなんて、俺には解らん。だが、おまえは俺たちの前に現れた。これはあいつが言うように必然なんだろう。必然なら、成すべき事をしろ。先生の仇討ちは、すべてをぶっ壊せば果たせる」

「無茶苦茶な道理だな」

「そうか? 俺はいつも、どんな時でも先生の言葉を胸に走ってきた。先生の教えを無駄にするな。もし、したら、地獄でこの俺が一発殴ってやるから覚えとけ」

 生きていた頃、同じ言葉を高杉は口にした。

「殴られるのは勘弁してほしいです」

「俺も殴られるんだったな」

 いつの間にか辺りは暗くなっていて、松陰の座っていた縁側も闇の中に溶け込んでしまっている。

「私は、吉田松陰さんの生まれ変わりなんかじゃないんですね」

「ああ」

「いつ気付いたんですか?」

「おまえが見た先生の最後を聞いた時かな。死んだ人間に、自分の死は見れん」

 高杉は、松陰の教えを口にする和奈に、稔麿の影を見たと告げた。

「そうか・・・初めて長州藩邸を落ち着くと思ったのは、稔麿さんも過したからですか?」

「松陰先生は、藩邸よりも学者仲間の家に泊まり込む方が多かった。懐かしいと感じる道理はない」

「松陰先生の仇討ちのためでもなければ、どうして・・・この時代に来たんでしょう」

「そんなもん俺に判るか!」

「ですよね・・・」

「あーーーっもう! いいか、うじうじ考えてるより、自分が思った通りに行動しろ! いいか、絶対に後ろを振り返るな。前だけを見つけて、その時その時に最善の道を選んで行けばいい」

「すごい難しい事をさらっと言ってくれますよね」

「難しいか?」

「さすが高杉さん。私では百年たっても敵いませんよ」


 朝の日差しが障子越しに部屋を明るく染めていた。

「心配かけちゃったんだな」

 見た夢が、自分の弱い心が作り出した幻想なのか、本当に高杉があの世から現れたのかは和奈には判断できない。ただ、自分の魂に在るのが稔麿であることだけは確かと思えた。それで近藤勇に斬りかかった事にも合点が行く。

「稔麿さんができなかったことを、私がしなくちゃ」

 稔麿が最期まで信じ続けた師の教えを志に、これからの長州を背負っていく桂を見守って行かなくてはならない。

【うじうじ考えてるより、自分が思った通りに行動しろ】

 高杉の言葉がまだ耳に残っている。

「武市さんが聞いたら、きっと目を吊り上げて怒るだろうなぁ」

 その武市にも見た夢を話しておく必要があると、和奈は床を抜け出し、隣の武市の部屋を訪ねて行った。

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