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幕末奇譚 『志士 狂桜の宴』  作者: 夏月左桜
奇譚十八幕 遺憾千万
72/89

其之三 桜舞い散る夜

 おもしろき こともなき世に おもしろく

                      高杉晋作



 慶応三年三月二十五日。

 薩摩藩父島津久光は、陸軍一番小隊から六番小隊の精鋭と海軍を伴い、薩摩を出立した。



 六畳ほどの座敷に敷かれた布団の中で眠る高杉の枕元で、じっとその顔を見下ろしていた和奈は顔を上げた。

「その様に根を詰められていては、和太郎殿も倒れてしまいますよ?」

 入って来た望東尼は、手にした盆を和奈の横へと置いた。

「僕は大丈夫です。高杉さんは、いつ・・・目を覚ますんでしょうか」

「それは、私にも解りませぬ。しかし、口に入れた粥は飲まれておりますゆえ、そう案じなさいますな」

「赤井くんと道を違えた時、どちらかが死ぬことになる知れないと、そう覚悟しました」

 足を痛めた土方を休ませるためと、偶然見つけたこの草庵に足を向けただけで、高杉の命を狙ってやって来たのではない。それなのに、倒れている高杉の姿と赤井の手の血を見て、斬ったのだと誤解し刀を抜いてしまった。

「望東尼様にも、大久保さんにも言われたのに、自分を理解するどころか、我を忘れて・・・赤井くんの腕を斬って・・」

「和太郎殿が彼の者を斬った、それは事実にございます。たからとご自分を責めるものではありません」

「しかし!」

「先ほど、覚悟をされたと仰った。あなたのご友人も同じ想いでありましょう。刀を手にするということは、そういうことでございます。悔いるのならば、刀をお捨てになることです。ですが、和太郎殿が人を斬った事実は消えませぬ。それゆえ、あなたはその罪の重さを背負ってゆかねばなりません」

「罪の重さ」

「皆、この世を憂い、己が志を遂げるために辛苦に耐え生きております。それをお忘れなく」

「望東尼様・・・」

「知恵多き者でも、自分を知るのは難題にございます。ですが、諦めなさいますな。常に己と向き合って生きて行く、それが人の生にございます」

「高杉さんがあなたを慕っている理由が、よくわかる」

「和太郎殿?」

 高杉へと顔を戻した和奈が、口元で少し笑ったように見えた。



 油屋町にある大浦屋へ戻った龍馬は、来客の前に不機嫌極まりないと言う顔で座っていた。

「そんな顔をするな」

「そうゆわれてものぅ、こればあは嬉しい顔でお受けできやーせん」

 龍馬がふて腐れているのは、訪ねてきた後藤と福岡から、海援隊と陸援隊を、新設される土佐藩の翔天隊の両翼とすると告げられたからだ。

「おまえと中岡が脱藩赦免となったのを受け、士分も戻してある。よっておまえは藩士として土佐に仕えなければならんのだ。受けるもなにもないだろう」

「やき、中岡だけでええとゆうたぜよ」

「馬鹿を申すな。脱藩したままのおまえと藩の外で会っていると大殿様に知れてみろ、切腹を申しつけられるわ」

 福岡は真剣にそれを心配していたのだ。

「切腹は痛いき、ほりゃあいかん」

「おまえ・・・真剣に考える頭はあるのか?」

 福原は頭を押さえてしまった。

「大殿様が決定を下しておるのだ、違える事はできぬ。中岡にもちゃんとこの事を伝えろ、いいな」

 龍馬は肥前嬉野茶をすすりながら、はぁ、と曖昧な返事を返した。

「それと、慶喜公が朝廷に、兵庫開港をと上奏なさった」

「確かなんなが!?」

「ああ。朝廷は慶喜公の上奏に対し、意見具申せよと二十五藩に対し上洛の勅命を下した。それにより、薩摩藩からの要請を受けての上洛ではなく、勅命による上洛とあいなる」

「兵庫の開港について、先帝は最後まで勅許を下さなかったのだ。いくら慶喜公が上奏したと言っても、そう簡単に勅許は下りまい」

 京に近い兵庫が開港となれば、外国の軍艦や商船が入り、昼夜問わず停泊することになる。、朝廷もたまったものではないだろう。開港を許し、足元に居座られては、その次にどんな要求をされるかわかったものではない。

「ともかく、海援隊と陸援隊を翔天隊の両翼として据える。異存は申すなよ」

「我らはこのまま土佐へ戻り、上洛の準備をする」

 暗い顔で二人を見送った龍馬は、晴れ晴れとした青空を暗い顔で見上げた。



 萩から桂がやって来たのは、高杉が意識を取り戻した夕刻の事だった。

「大量の吐血をしたと聞いた時は、心臓が止まるかと思った」

 心配する言葉とは裏腹に、桂の顔には怒りが混じっている。

「井上は威されて仕方なく運んだんだ。お説教は短くしてやってくれ」

 ニッと笑う高杉に、今回ばかりはそうもいかないと桂は言う。

「浅はかにも程がある。おまえばかりでなく、和太郎の件もある。付け加えるなら、土方くん達の件も、だ」

「皆が、良かれと思い動いた結果だ」

 疲れた様子でため息をつく高杉に、困った奴だと桂は笑った。

「その結果、二人の人間の心に消せないものを植えつけたんだ。わかっているのか?」

「ああ、もう。見舞いに来たのか、小言を言いに来たのかどっちなんだ?」

 声の勢いばかりか、顔に浮かべる表情までもが弱々しくなっていると、友を見る目を伏せた。

「桜が咲いたな」

「ああ、まだ七分咲きだけどね」

「花見だ、小五郎」

「・・・うん。そう、花見だな。おまえの体調が良い時を選んで帰ろう」

「今からでもいいぞ」

「俺は着いたばかりなんだ、少しは休ませろ」

「ふん・・・小五郎くんらしくないな」

 コツッと額を小突いた桂は、和奈と話してくると、席を立った。

 閉めた襖の前で、桂は肩を震わせた。

(もう・・・時間がないと知っているのか)

 医者からは、春を迎えるのは無理だと言われていた。正直、よくここまで持ったものだと思う。

 辛さや苦しさを見せず、自分の信じた道を生きて来た男だ。だから、自分から生を手放して欲しくなかった。

 生きたいと願う心が、命を繋げているのだと桂は思いたかった。

「小五郎さん」

 小さな声のした方を見ると、廊下の奥の柱の影から和奈が顔を出している。

 側へと歩いて行くと、和奈は不安そうな表情を浮かべた。

「晋作が、花見をしたいと言っていた」

 叱られるものと覚悟していた和奈は、返す言葉がすぐに出て来なかった。

「約束したんだろう? 花見をすると」

「あ、はい」

「体調も良さそうだし、明日にでも長府へ連れて戻ろうと思う」

「動かしてもいいんですか?」

 今ならば、と、桂は心で答えた。

「詳しい話しは、向こうへ着いてからゆっくり聞かせてもらうよ」


 翌朝早く、桂は医者の手配をした。

 高杉の体に負担がかからないようにと、三田尻から荷物を運ぶために作られた水路を使い、和奈達は夜中近くになって桜山へと着いた。

「これなら、駕籠のがましだ」

 酔ったじゃないかと、桜山の麓の草庵着くなりそう文句を言った。

「おのうは?」

「薬を取りに、白石殿の所へ行っている」

「そうか」

「怒らないのか?」

「薬なら、仕方ない」

「うん、そう言ってもらえると助かるよ」

 抱えていた体を布団の上へ降ろし、体を冷やさぬようにとその上に夜着を被せた。

「今夜は僕が添寝する」

「げっ」

「げっ、とはなんだ、げっ、とは」

「隣で寝てくれ、隣で」

「たまにはいいじゃないか。男が嫌だと言うなら、女装してやってもいいぞ?」

「わがまま言うな」

「参ったね。わがまま小僧からわがままと言われるとは」

「頼むから」

「・・・解ったよ」

「時々様子を見に来るから、大人しく寝ていろ」

「ああ」

 言葉数が日を追うごとに少なくなってきている。

「明日、晴れたら花見をしよう」

「うん」

「・・・お休み」

 移動で疲れてたのか、桂が一度振り返った時には、すでに寝息を立て始めていた。


 薩摩の島津が発った報せは、桂の耳にも届いていた。

 加え、伊集院直右衛門が見せた他の三公も足並みを揃えている。

 だが、と桂は顔を曇らせる。

(四公の足並みが揃わなければ、この会議は無駄に終る)

 土佐山内容堂と前越松平春嶽の二人と、島津久光と交流のある宇和島伊達宗城の二人が利害なくして意見を一致させるとは考えられない。

 雄藩が京に雁首を揃え、徳川慶喜をやり込められるかどうかは、周旋した大久保も気掛かりとしている所だろう。

「島津斉彬殿がご存命であれば、懸念も少しは和らぐというものだが」

 その懸念があるからこそ、大久保は久光の懐へ入り智策を重ねて来たのだ。

「用意、できましたよ」

「ああ、今行く」

 湯呑みの乗ったお盆を抱えて歩くその後ろに立った桂は、ちょっと待てと和奈からお盆を取り上げた。

「これは僕が持っていく。おまえはちょっとここで待っていなさい」

「はぁ」

 桂が廊下を曲がって行って少し経ってから、松子がやって来た。

「こちらへ」

「あ、でも小五郎さんが待てって」

「ええ、旦那さまから頼まれました」


 招魂場の桜はほぼ満開となっていた。

 茣蓙が敷かれた端に、布団が敷かれ、夜着を肩から着せられた高杉が横になっている。

「家からも桜は見えるだろう」

 武市の言葉に、高杉は花見だからなと答えた。

「おのうさんも大変だな」

「旦那さまが喜ばれるなら、仕方ありません」

「おやおや」

「まあ、良いではありませんか。この様に見事な桜を見逃す手はございません」

「望東尼殿は高杉くんに甘い」

「左様。望東尼様はいつでも俺の味方だ」

「困ったやんちゃ坊主にございますが、それはそれで高杉様の良い所と思うておりますゆえ」

 うっ、と言葉に詰まる姿は、歳相応の青年だと武市の眼には映った。

「待たせてすまない」

 桂は茣蓙の真ん中へ、手にしていた団子と酒瓶を置いた。

「酒だ、酒」

「待てよ晋作。ものには順序と言うものが-」

「花見に順序なんぞない」

「まったく、趣を感じずして何が花見なんだ」

「酒を飲まずして何が花見だ」

 そこまでにと、割って入った武市は、桂の後ろから出て来た和奈を見て表情を固まらせてしまった。

「おまえも早く座りなさい」

「おっ」

 高杉の顔が輝く。

「今日は花見だからね。愛でるものは大いに越したことないだろ?」

「粋ってもんが解ってるな」

「失礼な。おまえよりは粋を知っているに決まっているだろう」

 和奈は、長州藩邸で初めて武市達と会った時の様に、落ち着かない様子で松子の横にちょこんと腰を下した。

「晋作の相手をさせてすまなかったね。支度にと、時間がかかってしまった」

「いや・・・」

 袴を脱ぎ、淡い緑色の着物を纏って座る和奈を武市は呆けた顔で見ている。

「おい、酒だ」

「解ったから、そう急かさないでくれるか?」

 高杉の側へと立った桂は、松子が差し出した幅の広い板を茣蓙の縁に突き刺した。

「もっと深くがいいが」

「あ、手伝います」

 立ち上がろうとした和奈を、待てと桂が制する。

「武市くんが手伝うから、おまえは座っていなさい」

「えっと、でも」

「言われた通り、座っていろ。ここは男の出番だ」

 板を二人がかりで土へと押し込む。

「男の出番ね」

 小さく笑う桂。

「他意は-」

「無いとは言わせないよ」

「ほんとに、あなたには敵わん」

 少し斜めに差した板の根元に、倒れてしまわないようつっかえ棒を差し、布団ごと高杉の上半身を板へと引き上げる。

「夜着は被っていろ」

 背中が冷えないよう夜着の端を織り込む。

「よし、これでいいだろう。おのうさん、この阿呆に酒を注いでやってくれるかな?」

「はい」

「阿呆は余計だろうが」

 風も遠慮しているのか、いつもほど強くは吹いていない。

「ん、旨い」

 久々に酒を喉に流し込んだ高杉は、嬉しそうな笑顔を見せた。

「植物はすごいもんだ。冷たい風に負ける事なく冬を耐えしのぎ、実をつけるために花を咲かせる」

「ああ、そうだな」

「次の花をさかせるために、実はやがて地へと落ちる。人生もこれと同じだ」

「うん」

「おい、和太郎。俺に酒を注げ」

「は、はい」

「晋作、和太郎では変じゃないか?」

「むっ」

「い、いいですいいです、和太郎でいいです」

「いいことない。よし、やり直す。和奈、酒を注げ」

「うっ・・・言い直さなくてもいいですってば」

 震える手の中の猪口へゆっくり流し入れられた酒を、クイッと一気に飲み干す。

「格別に旨い」

「同じお酒です」

「くくくっ。あいかわらずおまえと言う子は」

 振り返ると武市も苦笑を浮かべて居る。

「都々逸がわからん奴だからな」

「また、都々逸ですか」

「ほら、武市さんにも注いで来い」

 しっしっと追い払われた和奈は、口を尖らせ武市の横へと戻って行く。

「旨い酒と、いい花が見れた」

「・・・ああ」

 おのうが三味線を手に取り曲を奏で出すと、松子がそれに合わせて舞いを始めた。

 一節を踊り終えた松子は、座って居る和奈の手を取り舞に加える。

「ほう」

「舞いを覚えさせたのが正解だった」

 覚束ない手足を間違えないようにと動かす姿は、お世辞にも上手いとは言い難い。

「まだまだ練習がいるようだけどね」

「なに。三匹の蝶が花に舞っているんだ、艶やかには違いない」

「一匹は、羽ばたき始めたばかりで心許ないが」

 猪口を手に、居場所を見つけられなくなった武市が二人の側へと寄ってきた。

「そばで舞を楽しめばいいものを。何をそんなにうろたえているのやら」

「あなたが余計な事をしでかしてくれるからだ」

「あははっ。君だけでなく、晋作も見たいだろうと思ってね」

「おう。武市さんに渡したのはおしい気がする」

「あとでおのうさんに告げ口しておく」

 一人増えた所で、おのうの他にも見受けした女がいるから心配いらん、と高杉が笑う。

「僕は一人だけどね」

「ぬっ。おまえ、ほんとに嫌な奴だな」

 三味線の音色が桜に乗って響き、優しい風に吹かれて桜の花びらが宙に舞う。

「すまん、小五郎」

「ん?」

「後は頼んだ」

「・・・・・引き受けた」

 武市は無言のまま、視線を二人から和奈達へと移した。


 二日後の朝、萩から両親と正妻のお雅が駆けつけて来たため、桂の頼みで望東尼はおのうを伴い白石邸へと移った。

 その夜、高杉の容態が急変した。

「少しはお休みになって下さい」

 桂は再び吐血して倒れてから、高杉の側でずっと座っている。

「いえ。構いませんから、どうかこのまま」

 高杉の主治医になっていた李家文厚(りのいえ ぶんこう)は、その後姿にそれ以上声をかけることも出来ず、そっと部屋から出で行った。


 身内でない和奈と武市は見舞うこともできず、李家の話しを聞くことしかできなかった。

 大丈夫ですよね。

 その言葉を和奈は口にしなかった。武市にそう聞いても、大丈夫だと言われると解っている。

「花見、できて良かったな」

「ああ」

 高杉は約束を守ってくれた。ならば、それに答える努力をしなくてはならない。

 辛いのは自分ではなく、家族や桂なのだ。

「そろそろ寝るといい」

 武市に布団を指差され、和奈は素直に布団へと潜り込んだ。



 満天の星を従え夜空に浮ぶ大きな月の下で、普賢象桜が枝一杯に花を咲かせている。

「呆けた顔でなにやってるんだ、和太郎」

 横を向くと、腰に手をあて、口で笑っている高杉が立っていた。

「起きて、大丈夫なんですか?」

「俺の心配より、自分の心配でもしてろ」

「そっくりそのまま返します」

「・・・一つ聞いていいか?」

「ん?」

 横へと座った高杉の横顔を見る。

「あんたは何が目的で、そこに居るんだ?」

「・・・・・」

 ふん、と高杉が鼻を鳴らす。

「俺はてっきり、自分の願いが叶った、そう思ていた」

 高杉から視線を外した和奈は、庭の普賢象桜へと向けた。

「先生はこの世の行く末を見ずして生を終えられた。俺も、久坂も、長州のためこの国のためと志を一つに走ってきた。撒かれた種はやがて芽を出し、花を咲かせまた種をつける。その理から外れて、あんたは何をしようって言うんだ?」

「この者の魂に、懐かしい想いがあると感じたのは、生を終えようとしていた時だった」

「・・・・・」

「誓った志を遂げられるのであれば、神でもなんにでもすがってやる、そう思い願った」

「阿呆が」

「高杉」

「言い訳はいらん」

「この世の理とは、摩訶不思議と思わんか? 消えるはずの魂はこうして生きている。おまえになんと言われようと、俺は最後まで見届ける」

「それはあんたの勝手だ。他人を巻き込んでいい道理はない」

「巻き込んではいない。受け入れられた、それだけだ」

「ったく、人の理を無視して、なんでもかんでも背負っちまう奴だな」

 くくっと和奈が笑う。

「そういうおまえも、人の理から外れているじゃないか」

 ふん、と顔を背ける。

「もう、その手で人を殺めるな」

「それを決めるのは、この者の心だ」

 高杉の顔が悲痛に歪む。

「この心が不要となった時には、おまえと盃を交わしたいものだな」

 和奈の手が、クイッと酒をあおるように動く。

「できたらな」

「人の思いは種となり人の心に再び芽吹く。この世に四季があるように、想いもまた巡り移り変わっていく。それは魂が幾度巡ろうとも、変わるものではない」

 儚げな笑顔を浮かべた高杉は、風に散る桜へと手を伸ばした。


 飛び起きた和奈は、鼓動が早鐘を打ち続けているのをそのままに、布団から抜け出て障子を開ける。

 月の光りに照らし出された桜が風にそよぎ、花びらが空へと舞い上がって行った。


 虚ろな眼差しで、動かすのも辛いだろう顔を障子へと動かす。

「面白いのう」

「晋作?」

 布団から微かに出た手が障子を指差した後、静かに落ちた。

「・・・・・桜を・・・見たいのか?」

 滲む視界をそのままに立ちあがった桂は、そっと障子を開けた。

「月が沈むまで・・・・・ゆっくり・・・見てるといい」

 月の浮ぶ夜空を仰いだ桂の頬に、一筋の光りが伝って落ちた。



 慶応三年四月十四日未明、桜山の草庵に於いて、高杉晋作は慷慨忠直、剛毅果敢なその人生の幕を閉じた。享年二十九歳。

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